「サア、行キナサイ!」
深海如月の号令で、装甲空母姫や随伴艦が、一斉に砲撃を始める。
前回と違い、今回の深海如月は、自分から積極的に前線には飛び出そうとはしなかった。
金色のオーラを放つ軽巡ツ級2隻を対空迎撃用に眼前に配置。
更に、鋭い眼光を光らせながら、不気味な赤黒いオーラを放つ重巡ネ級改3隻を壁にしていた。
「あら?前みたいに積極的に出てはこないのね?残念だわ。」
「挑発ニ乗ルトデモ?大体、睦月型バカリノ艦隊デ………!」
「何だ?睦月型の如月をトレースした割には、睦月型その物の恐ろしさを何も分かってはいないのだな。」
完全に睦月型を格下に見ている相手の様子を理解した後、少し考えた長月が、旗艦である磯風や川内に具申する。
「磯風、川内さん。………深海如月とその随伴艦は、私達睦月型に、少しの間任せてくれませんか?」
「長月、何か考えがあるのか?」
「何故、提督が今回、初春型や改白露型を前線に入れず、私達を投入したのか、あの敵艦に教えてやろうと思ってな。」
「成程………分かった。その間に私達は装甲空母姫に痛い目を見せてやろう!」
「こっちもOKだよ。………水雷戦隊の矜持、見せてやってね!」
「ありがとうございます。では………!艦列変更!」
相手の一斉砲撃を躱した隙を使い、3つの艦列に更に分かれる。
磯風、春風、天津風、時津風、巻波。
川内、白露、時雨。
そして、長月、文月、菊月、三日月、卯月、如月。
磯風と川内の艦隊が左右から囲い込むように装甲空母姫を狙いに行くのに対し、長月の艦隊が、正面から深海如月の艦隊に迫る。
「さて………睦月型を理解していないお前に、特別に教えてやろうか。」
マウントしてあった単装砲を取り出し、両手に二丁構えながら、長月はわざとらしく呆れたように、深海如月に対して肩を竦めてみせる。
そして、豪胆な笑みを浮かべて言い放った。
「睦月型は、世界一の船だという事を………な!」
「何ヲ言ウカト思エバ………!寝言ハ寝テ言イナサイ!………纏メテ空爆シロ!」
「オホホ………!」
命令を受けた装甲空母姫が、羽虫のような攻撃機をどんどん発艦させる。
装甲の脆い、長月達の睦月型を集中的に爆撃する算段なのだ。
しかし、それに対して、彼女達の中で動いたのは………文月1人だけ。
「さーて、今まで睦月ちゃんや如月ちゃん達含め、みんなをコケにした分………やっちゃうよ~?」
彼女は左手の連装砲と両腰の三連装機銃と左足の対空電探を駆使すると、夜空へ嵐のように砲撃を放っていく。
その派手さは対空砲火に特化した磯風と同等かそれ以上であり、一気に敵攻撃機が墜落していく。
「ナ、何ナノ!?対空砲火ガ尋常ジャナイ!?」
「まず文月。彼女は改二になった事で、対空迎撃能力に特化している。故に、世界一の「対空番長」になりたいそうだ。」
「アノ小娘ヲ、集中砲火ダ!」
ネ級改3隻が文月を一斉に狙うが、小柄ですばしっこい彼女は、滑るように回避行動を取る為、中々砲撃が当たらない。
それどころか、その隙を狙って逆に長月が二丁の単装砲を、集中的に1隻のネ級改に叩き込みながら、説明を続ける。
「ついでに言えば、回避にも優れていてな。世界一の「回避盾」にもなりたいそうだ。」
「ド、ドウナッテイルノヨ!?」
「おっと。まだ、世界一である睦月型の紹介は終わってないぞ?文月、如月、三日月!」
『了解!』
長月の号令で、文月と如月が、艤装から小型の船を出す。
それは、大発動艇と呼ばれる物で、今回は戦車を積んでいた。
2人で2隻ずつ取り出した大発は、三日月の所へと集まる。
彼女は、自身が取り出した大発と合わせて6隻並べると、更に左腕の装甲板の裏に固定してある2隻と、自身の左手の単装砲を合わせてネ級改に向ける。
「此間のようにはいかない。今から、この全てを………私がコントロールするわ!」
「ハァ!?」
「1人時間差砲撃よ!」
単装砲しか無かった三日月の武装が、一気に計9門の砲塔へと増える。
彼女は勝気な笑みを浮かべながら、ネ級改に向けてタイミングをずらしつつ、集中砲火を喰らわせ始めた。
「ソ、ソンナノ有リ!?」
「有りだ。三日月は大発動艇の扱いに長けていてな。世界一の「大発屋」になりたいと宣言した。」
「常識ガナッテ無イワヨ!?」
「誉め言葉だな。………だが、まだまだ残っているぞ!」
砲撃戦を繰り広げる長月の言葉に呼応して、菊月が突撃をする。
彼女は、今回の海戦に挑むにあたって、身の丈以上もある巨大な大剣を携えてきていた。
「コノ!」
「おっと。」
嫌な予感がした深海如月は、菊月に向けて砲撃を放つが、その砲弾は何と彼女が振り払った大剣に弾かれてしまう。
「夜戦ノ駆逐艦ノ砲弾ガ!?」
「この刀………実は、軽巡の天龍さんから貰った物で、切れ味がとても鋭いんだ。」
そのまま菊月は、長月達の攻撃に苦戦していたネ級改1隻に対して振り下ろす。
咄嗟にネ級改は両手で白羽取りをして防ぐ。
そのまま左右に曲げてへし折ろうとするが、力を入れてもヒビすら入らない。
「特注品だ。そう易々と折れはしない。………三日月!」
「全砲門………開いて!………てーーーっ!」
菊月が敵の気を引いている隙に、まるで戦艦のように、一度に大発の戦車と合わせて放った三日月の砲火が、ネ級改の1隻を火だるまにしてしまう。
敵艦は悲鳴を上げながらのたうち回り、倒れて沈んでいった。
「ウ、嘘デショ!?睦月型ナンカニ………!?」
「菊月が目指すのは、世界一の「剛剣使い」だ。さて………世界一の「模範」を目指す私も、そろそろ本気を出さねばな!卯月、頼む!」
長月はそう言うと、卯月を見る。
彼女は器用に、両手でタワーのように爆雷を山積みにしながら、お手玉のように振るっていた。
「ぷっくぷく~。うーちゃんは、世界一の「爆雷マスター」を目指すぴょん!それ~!」
卯月が一度に爆雷を複数、長月達と深海如月達との間に放り投げる。
海中に落下した爆雷は一気に起爆し、海面を膨れ上がらせる。
「キャア!?」
「さあ、飛び越えるぞ!」
長月、菊月、そして三日月の3人が、その膨れ上がった海面の山を、主機を加速させて身軽に飛び上がる。
ネ級改とツ級が慌てて狙おうとするが、バランスを崩してしまい上手くいかない。
「睦月型は………経験も豊富なんでな!」
一方で高々と飛び上がった長月は、空中で二丁の砲門を2隻目のネ級改の顔面に向けて同時に放ち命中させる。
更に、着水と同時に痛みに悶える敵艦に肉薄し、遠慮なくその心臓をぶち抜いた。
「私も続くぞ、姉貴!」
一方で菊月は、ジャンプの勢いを利用しながら自身の体ごと縦回転をし、大剣を大上段から3体目のネ級改に振り下ろす。
そのまま着地と同時に横に斬り裂いた事で、3隻目の重巡も、十文字に真っ黒い血を噴き出しながら、仰向けになって海底に沈んでいく。
「何ヲヤッテイルノ!?砲撃ヲ!雷撃ヲ!」
「遅いわ!」
更に、慌てて魚雷を放とうとした2隻のツ級の巨大な手が爆発を起こす。
三日月と共に飛び上がった大発が、空中でバランスを取り砲撃を喰らわせたのだ。
そして、彼女自身が着水をすると、無防備であるツ級に肉薄し、その顎に大発を固定した左腕の装甲板を突き付け、零距離砲撃をして撃沈。
トドメに空いている右手をパチンと鳴らし、残りの6隻の大発で、もう1隻のツ級に砲撃の雨を当てて炎に包む。
「ア………アア………。」
前回よりも強力な布陣で来たにも関わらず、深海如月の随伴艦は、ほとんど何も出来ないまま沈められてしまった。
睦月型達の、恐ろしく個性的な、艤装や武装を駆使した特技の前に。
「侮り過ぎたな。悪いが………これが、睦月型の本気ってものだ!」
「ク………。」
空爆………と装甲空母姫に指示を出そうと背後を振り向いたところで、深海如月は固まる。
長月達、睦月型が奮戦している間に、装甲空母姫は炎に包まれて混乱していた。
まだ再生能力が残っているので撃沈はしないでいるが、その巨体故に、磯風達や川内達の、砲撃や雷撃を、まともに受けてしまっている。
5機の浮遊要塞も、全て庇って力尽きたのか、もはや残っていなかった。
「何ヲヤッテイルノ!?」
「基本、爆撃は自分自身以外のものを気にする必要が無いのでな。大分楽になった。」
「!?」
磯風が魚雷を4本放って、装甲空母姫の鬼女に、更なる炎をくべながら言う。
本土への爆撃は、後方の瑞鳳達に任せておけばいい。
更に、睦月型への爆撃は、文月が全て落としてくれていた。
これが、磯風達の行動をスムーズにしてくれていたのだ。
勿論、磯風も、春風も、天津風も、時津風も、巻波も、川内も、白露も、時雨も、この外道達に遠慮をする気は、全く無かった。
「……………。」
「長月の言う通り、睦月型を侮り過ぎた結果だな。このまま、貴様も沈む運命だ。受け入れろ!」
「………フッザケルナーーーッ!!」
自身の想像していた展開とは全く異なる状況を前に、深海如月はキレた。
いや………もっと言えば、内に秘めていた本性を現したと言った方がいいだろうか。
「随分、乱暴な姿を見せるのね………。私を模倣しておいて、嫌になっちゃうわ。」
「ガァアアアアアアアッ!!」
如月が落胆の声を上げるが、怒りに包まれた深海如月の耳にはもう届かない。
敵艦は獣の如く咆哮をすると、主機を限界まで加速させる。
深海棲艦独特の生物的な物とは言え、オーバーヒートをする可能性はあったが、そんなのもうお構いなしだ。
深海如月は、その爆発的な加速力で肉薄しようとしていた長月に接近すると、彼女の右手の単装砲を左手の鬼の手で掴み、強引にへし折る。
「やっと本気を出したか!そうでないと困る。でないと………。」
しかし、長月は焦らなかった。
咄嗟に右手を離した彼女は、左手の単装砲を、遠慮なく同胞の偽物の顔にぶち込んだ。
「アガァアアアアアアアアッ!?」
「如月達の受けた苦しみを………貴様に存分に返す事が出来ないからな!」
そのまま、連射をする長月は怯んだ隙を見逃さず、魚雷を一気に6本撃ち込む。
酸素魚雷は、寸分違わず深海如月に吸い込まれて行き、爆炎を上げる。
深海如月は傷を再生させるが、もはや様々な意味で、如月の持つ美しさは無くなっていた。
「ヨクモォオオオオオオッ!!」
醜さを全開にした敵艦は、攻勢に移ろうとする。
下がった長月に代わり、三日月が大発を駆使した砲撃を放つが、敵艦は再生能力に任せてそのダメージを無視する。
「強引に行こうっていうの?そんなので………。」
だが、ここで彼女達はミスに気付く。
深海如月は、如月をコピーした駆逐艦だ。
つまり、敵艦は砲撃と雷撃以外にもできる遠距離攻撃がある。
………駆逐艦十八番の、爆雷だ。
そして、深海如月はもはや見境が無くなっていた。
その為、敵艦は爆雷を数個掴むと、放り投げた。
長月達の方では無く、装甲空母姫と対峙していた左翼の磯風達の艦列に向けて。
「磯風さん達の方に爆雷です!伏せて!」
「何!?」
警告は、僅かに遅れた。
装甲空母姫に集中していた磯風達は、投げつけられた複数の爆雷の視認が遅れた。
そして、深海如月は、その投げ込まれた爆雷に向けて、両腕の連装砲を乱射して信管を作動させて起爆させる。
「う、うわー!?」
「時津風!?」
その爆発を背中からもろに受けてしまったのは、時津風。
無防備だった彼女は、爆発の勢いで前に吹き飛び、海面に倒れ込む。
「時津風、大丈夫!?」
「だ、大丈………アレ?」
幸い、魚雷発射管は無事だ。
だが………起き上がった時津風は、自身の動きが鈍い事に気付く。
「缶が………やられたー………。」
「捕まって!」
缶に傷がついたらしく、主機の出力が落ちた時津風を天津風が抱える。
だがそこに、睦月型全員の猛攻を振り切った深海如月が、突っ込んでくる。
「何!?睦月型に敵わないからって、あたし達を狙いに来たわけ!?」
慌てて新型缶をフル稼働させて、その突進を回避する天津風は思わず愚痴を言う。
そこに、長月達から通信が来る。
「すまない、時津風、天津風!今援護を………!」
「いや、長月達は今の内に、装甲空母姫を狙ってくれ!川内さん!」
「艦隊再編成!元に戻すよ!白露、時雨!付いて来て!卯月と如月は元に!」
「はい!」
「分かったよ!」
「了解ぴょん!」
「今、行きます!」
川内が号令を出し、水雷戦隊を再編成して装甲空母姫に挑む。
その中で深海如月は、鬼の爪を振りかざし、次に春風を狙ってくる。
「しつこい方は、嫌われますよ!」
春風はマウントしていた防弾性の傘を取り出すと、その爪を敢えて食い込ませる事で、動きを止める。
「残っている魚雷を当てて下さい!」
春風が作った隙を見逃さず、磯風と天津風と如月と卯月が、残っていた魚雷を、全て深海如月に四方八方から炸裂させていく。
「アアアアアアアアアアッ!?」
春風が手放した傘ごと業火に包まれた敵艦は、もだえ苦しむ。
しかし、まだ再生能力で傷を回復していく。
「本当にしつこい奴だ!いい加減に………!」
「ウァアアアアアアアアッ!!」
「!?」
磯風が思わず悪態をつくが、ここでまた深海如月が予想外の行動に出る。
敵艦はなりふり構わず、飛びかかったのだ。
同じ姿の如月に。
「如月!?」
巻波が、思わず連装砲と残っていた魚雷で狙おうとするが、動きが止まる。
もみくちゃになって乱闘を繰り広げる2人は密着しており、容姿も相まって区別が付かない。
幾ら、如月の美しさが消えているとはいえ、偽物の顔は如月そっくりである事に変わりはないのだ。
「ど、どうし………。」
「気にしないで、巻波ちゃん!!」
如月の叫びが聞こえる。
彼女は、覚悟を持って叫んだ。
「私ごと、撃って!!」
その言葉に、巻波達は戦慄した。
如月の姿を真似た深海棲艦………深海如月との第2ラウンド。
敢えて、総合性能の劣る睦月型を、前線部隊に組み入れた理由が判明する回です。
各艦の特技はアーケードのモーションや、季節台詞、更に装備特性から決めました。
尚、第1部のメインを張った望月は、世界一の「頭脳」を一応目指しています。
こうやって個性的な特技を付加できるのが、小説の楽しい所ですね。