「対空戦闘って………何処でやるんですか!?」
「浦波ちゃん、助手席側の扉開くよ!みんな、上に登って来て!」
「トラックの荷台の上で、やるつもりですか!?」
艤装を装着した青葉達は、引っ掛からないように荷台から運転席側へと、慎重に身を乗り出す。
そして、助手席の扉を開き、上へと伝って行く。
当然ながら、幾ら艤装で身体が頑丈になっているとはいえ、道路に落下したら危ういので、4人共、細心の注意を払う。
そして、風圧で身体が飛んでいかないように、重心を低くし、トラックの荷台に片手の指を食い込ませる。
何とかトラックの凸凹に指を引っかけながら、磯波が青葉に聞いた。
「青葉さん、敵攻撃機は何処を爆撃するつもりなのでしょうか!?」
「分からない。無差別だったら危ないからね。綾波ちゃん、照明弾!こっちに挑発して!」
「はい!」
綾波が、荷台の中から持ってきた照明弾を、低空飛行で迫る一つ目の鬼火の攻撃機の群れの中心へと投げつける。
昼故に、そこまでの効果は無かったが、派手な花火は敵機の注意を引き付けるには十分だった。
鬼火の攻撃機が、トラックを狙おうと集中していく。
「浦波ちゃん、加速!」
「分かりました!振り落とされないでください!」
運転手である浦波がアクセルを踏み、スピードを上げていく。
これにより、鬼火の攻撃機が斜め後ろから追いかける形になる。
「三式弾を使うよ!………取りこぼしお願い!」
青葉の艤装は、右肩に背負って構えて、4門の主砲をロケットランチャーのように放つタイプだ。
彼女は、三式弾を装填すると角度を調整して撃ち出す。
放たれた拡散弾は、複数の鬼火を一気に爆破していく。
しかし、走る車の後ろから斜め後ろに撃つと、どうしても砲弾の軌道が変に曲がり、初弾では当たらない場所が出来てしまう。
ここは、何度も調整しながら撃っていくしかないのだが、重巡の砲撃は連射出来ない。
「十九駆!砲撃開始!」
そこに敷波の指示で、駆逐艦3人の連装砲等が放たれる。
只、綾波と敷波はあまり対空迎撃が得意でない上に、片手で身体を固定しているので、片方の連装砲しか使えない。
その為、頼りになるのは磯波だ。
彼女は左腕に固定されている高射装置を使い、取りこぼしを丁寧に迎撃していく。
その間に青葉が三式弾を再装填して、再び放つ。
「何とかこの繰り返しで、数は減らせそうだけど………。」
「待って、青葉さん!敵攻撃機の一部の動きがおかしい!?」
敷波の言う通り、攻撃機の一部が青葉達を無視して別の方へと向かっている。
深海棲艦が本土を爆撃する時は、民衆の恐怖心を煽る為、一番効果的な「的」を選ぶ傾向がある。
この場合、最も被害が甚大になりそうな物を狙っていると思えた。
「一体何を………?」
「青葉さん、後方から電車が来ます!」
「ええ!?」
運転席からバックミラーで確認をした浦波の言葉に、磯波が思わず驚く。
見れば、確かに背後から電車が来ていた。
スピードはかなり上がっており、敵攻撃機を振り切ろうとしているのが分かった。
「不味い………!電車を爆破して、人的に甚大な被害をもたらす気だ!」
当然、電車の中には乗客が沢山いるだろう。
その客を纏めて爆撃に巻き込み、電車を破壊する事で、深海棲艦側の恐怖を植え付ける気なのだ。
「よりにもよって電車を爆破しようとするなんて………!許せない!!」
「磯波姉さん、変な私情が出てますよ!?………でも、放っておいたら!」
「浦波ちゃん!トラックを電車の先頭部分に近づけられる!?」
「やってみます!」
浦波は少しだけブレーキをかけると、電車の左隣に付けようとする。
電車は何度も加速しようとしている為、トラックの速度を合わせるのは難しい。
「もうちょっとだけ寄れる!?」
「これが限界ですよ!?………って、まさか飛び移る気ですか!?」
「そのまさか!」
青葉はトラックの上でクラウチングスタートを切るような体勢になり、身体を固定する。
見た所、電車は4両編成であった。
中の乗客はそれなりに多く、やはりパニックになっているようであった。
「浦波ちゃん………何人残った方がいい?」
「………1人で大丈夫ですよ。最悪、艤装を付けて、トラックを捨てて逃げます。」
「じゃあ、青葉達全員が飛び移ったら、スピードを思いっきり上げて振り切って!健闘を祈るよ!」
「それはこちらの台詞です!」
「じゃ………行きますか!」
覚悟を決めた青葉は、艤装で強化された脚力を活かし、思い切って、電車の屋根へと飛ぶ。
慣性が働き、左に流れた彼女は、先頭車両に何とかしがみつこうとするが失敗。
「うわわ!?」
そのまま転がっていくが、1両目と2両目の連結部の窪みに何とか身体が収まり、固定される。
「痛たた………。時間がない!ここで受け止めるから、順番に飛んできて!」
電探で指示した事で、まず磯波が飛んだ。
青葉と同じように先頭車両の屋根を後方に転がるが、連結部に身体を固定した彼女に受け止められる。
続いて綾波………最後に敷波が同じように飛んできた。
「浦波ちゃん、無事でいてね………!」
全員が飛び移った事で、浦波がトラックのスピードを上げて逃げていく。
3機程、鬼火の攻撃機が追って行ったのが気がかりだが、こればかりは無事を願うしかない。
「さてと、迎撃!………の前に、磯波ちゃん。この電車の乗客を満タンに詰め込んだら、何両位に収まりそう?」
「そうですね………。荷物を捨てれば2両位………って、青葉さん!?」
「背に腹は代えられないって事!敷波ちゃん!」
「了解です!後ろでしばらく迎撃、宜しく!」
後方へと這いながら移動する3人と別れ、敷波は1人、先頭車両の屋根を前方へと向かっていく。
そして、運転席を右から逆さまに覗き込むと、軽く挨拶。
「どーも。」
『うわあ!?深海棲艦!?』
運転席では、右側に車掌が、左側に運転手が並んでいて、両者がシンクロして驚きのポーズを見せる。
深海棲艦に間違われたのは、正直ムッと来たが………状況を考えれば仕方ないと思ったので、敷波は右手の連装砲を見せながら、改めて言う。
「文字通り、空から降って来た系の艦娘だよ。死にたくなかったら、今から言う事を聞いて。」
「は、はい!?」
敷波の指示を聞いた車掌が、電車内にアナウンスを送る。
「じょ、乗客の皆さま!艦娘が助けに来てくれました!ですので、今から言う事をよく聞いてください!」
突然の出来事に、混乱していた車内全体が更にざわつくが、次の言葉に皆が驚かされる。
「荷物を捨てて、すぐに2両目より前に詰めて来て下さい!後方より車両を順次切り離します!!」
『!?』
別の意味で、車内が慌ただしくなった。
――――――――――――――――――――
「は~い、慌てないで下さいね~。あ、荷物は置いていって下さい~、下手したらみんな死にますよ~?」
3両目から4両目の連結部付近では、綾波が敷波と同じように顔を覗かせながら、我先にと前に移動する乗客に、指示を送っていた。
のんびりと安心させるようで、殺伐とした言葉を投げかけるのは、流石ソロモンの鬼神と言ったところか。
その後ろでは、青葉と磯波が屋根に這いつくばりながら、三式弾と高射装置で迫り来る鬼火の攻撃機を次々と撃ち落としていた。
やがて、車掌が綾波に、敬礼をしながら言う。
「4両目、避難完了しました!」
「青葉さん!磯波!」
青葉が三式弾を放って牽制した瞬間に、身を低くしながら2人は、3両目へと渡る。
それを確認した綾波は、ちょっとはしたないけど………と言いながら、足を広げる。
そして、3両目と4両目に片足をそれぞれ付けると、連装砲を両手で構えて下の連結部に何度も砲撃をした。
砲撃は連結部とその下の連結器を破壊して、車両を切り離す。
「そ~れ!」
綾波は3両目の青葉の手に捕まりながら、切り離した4両目を思いっきり両脚で押した。
車両はみるみる内に遠くなり………そこに敵攻撃機が群がり、次々と爆撃をしていく。
「あー………貴重な電車が………。」
「それは言わない約束!これで少しは爆撃機も収まって………くれないか。」
基本、爆弾を落とした攻撃機は攻撃手段が無くなる為、母艦へと帰投する。
その性質を利用して、磯波には悪いが、切り離した電車をデコイとして使わせて貰ったのだ。
だが、鬼火の攻撃機はまだまだこちらに向かってくる。
「綾波ちゃん、3両目からの移動を急がせて!磯波ちゃん!」
「分かりました!徹底的にやってやります!!」
撮り鉄故の性か、珍しく闘争心を露わにした磯波と共に、青葉は再び、追って来る攻撃機を撃ち落とす作業に入る。
だが、そこで急にブレーキが掛かり、バランスを崩しそうになる。
電探で、先頭で運転手とやり取りをする敷波の声が、聞こえて来た。
「青葉さん、この先カーブが多いです!難易度上がるけど、何とかして!」
「無茶言うなぁ………!」
速度が落ちる上に左右に振られては、砲撃の正確性は段違いに下がる。
危険だが、出来るだけ引き付けてから青葉は三式弾を放ち、磯波は高射装置を撃ちまくる。
ギリギリの所で撃ち落とすが、いつ3両目も爆撃に巻き込まれるか分からない。
思わず青葉は叫んだ。
「綾波ちゃん、早くして!」
「乗客が多い分詰めるのが………あ、完了しました!」
「行くよ、磯波ちゃ………!」
「この先、トンネルっ!」
『!?』
敷波の叫ぶような指示で、3人は慌てて屋根に伏せる。
トンネルが迫って来て、そのまま電車は侵入し、暗い穴を潜り抜けていく。
入口では幾つかの攻撃機がぶつかり、爆発を起こすのが見えた。
青葉達はというと、艤装もあって、狭い中を動けず、移動を封じられてしまう。
特に、磯波は3両目から2両目にまだ飛び移れていなかった。
「とりあえず、出口まではこのまま我慢で………!」
「………3両目、切り離して下さい!」
「え!?」
驚いた青葉は振り向き、事態を悟る。
トンネルに上手く入り込めた攻撃機が、赤黒く輝いていた。
爆弾をその身に仕舞い、突貫覚悟で突っ込んで来ているのだ。
「そんな事をしたら、磯波まで!?」
「追突されたら、爆発の勢いで脱線して、全員命を落とします!………大丈夫、私は艤装を背負っているから死にません!綾波ちゃん、早く!」
「………っ!」
屋根に這いつくばりながらも、敢えて笑みを見せる磯波を視界に入れた綾波は、歯ぎしりをする。
そして、覚悟を決めて2両目から身を乗り出し、連装砲を連射した。
連結部と連結器が破壊された車両を、身体を反転させて蹴り飛ばす。
「後は………任せます!」
珍しく強気の笑顔を見せた磯波を乗せた車両は、そのまま暗闇の中に消えていき………次の瞬間、大爆発を起こして紅蓮の炎に包まれた。
その黒煙を浴びながら、電車はトンネルを抜ける。
「磯波………っ!」
「………まずは目の前の事を片付けて………って、まだ!?」
悔やむ綾波と慰めようとした青葉は、驚愕する。
トンネルの中から、攻撃機がまだ出て来たのだ。
その数、残り7機。
全機、赤黒く輝いており、真後ろから突貫する気だ。
「だから、多いんだってば!!」
そろそろ本気で苛立って来た青葉は、三式弾を撃ち込もうとするが、撃ち出されない。
「弾切れ!?」
ずっと撃ちまくっていた影響が、ここに来て出てしまった事に、思わず舌打ちをした彼女は弾丸を切り替え、慌てて右肩の4門の主砲から砲弾を撃ち出す。
しかし、撃ち落とせたのは2機。
綾波も狙うが、高射装置を持つ磯波のようにはいかず、1機だけ。
状況を悟り、運転席側から慌てて駆け込んできた敷波も砲撃するが、落とせたのは1機。
残り3機の攻撃機は、こちらに突貫してくる。
「敷波ちゃん、連装砲借りる!」
『青葉さん!?』
ここで電車を爆破されたら、浦波や磯波に顔向けできない。
そう思った青葉は、敷波がベルトに掛けていた連装砲を力ずくでぶんどると、何と………電車から後ろに飛んだ。
「1機目………!」
先頭の1機は主機を付けた足で思いっきり線路に蹴り落とし、そのまま足場にしてさらに宙に飛び上がる。
「2機………目!!」
続いて迫って来た1機は、敷波から拝借した左手の連装砲を撃ち込み爆破。
「3機目は………!!」
使い慣れてない連装砲は、砲身を向ける余裕が無い。
自身の主砲は、装填が間に合わない。
だから、青葉は最後に「自分自身」を使った。
咄嗟に右肩の艤装を向けて盾代わりにするが、爆発に巻き込まれたら、ほとんど意味が無いだろう。
それでも迷わず、青葉は体当たりするという道を選んだ。
(海じゃなくて陸地で爆沈する艦娘………笑い話にもならないなぁ………。)
呑気にそんな事を考えながら、青葉の艤装と特攻する最後の敵攻撃機がぶつかる。
その瞬間、派手な爆発が巻き起こった。
『青葉さーーーんっ!?』
綾波と敷波の叫びが空しく聞こえる中、電車は空爆範囲から、ようやく逃れる事が出来た。
――――――――――――――――――――
「何だ………これは?」
佐世保にて、テレビの臨時ニュースを見ていた磯風は、思わず呟く。
映っているのは、破壊されたトラック、燃え広がる電車の車両の一部、崩れたトンネルの入り口。
テレビ内では、鎮守府や泊地の警備の怠慢………等と専門家達が話し合っているが、そんなのはもう、耳に入ってこなかった。
彼女達は、見てしまったのだ。
救急隊員に運ばれて行く、艦娘達の姿を。
浦波、磯波、そして青葉………。
いずれも意識が無く、大怪我をして担架で運ばれていく様子が分かった。
そう、鹿屋泊地近海での攻防戦で、避難所を守ってくれていた大事な呉の仲間達が………。
「何なんだ!?これはーーーっ!?」
磯風は、床に拳を叩きつけて絶叫した。
それは、この場にいた全ての艦娘達の代弁でもあった。
サブタイトル通りの、青葉と第十九駆逐隊による決死の攻防戦。
艦娘が陸上戦闘どころか、ハリウッド顔負けのアクロバティックな戦闘を繰り広げます。
こういう奇想天外な戦闘シーンも、1回描いてみたかったので筆が動きました。
ちなみに気付いた方もいるかもしれませんが、青葉の艤装は劇場版仕様。
つまり、設定画でしか公開されていない、改二仕様になっています。
こういう細かい設定も、活かしていきたいですね。