艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第78話 ~面倒な秘書艦~

巻波を加えた第二十五駆逐隊を始めとした一行は、その日の夜、佐伯湾基地へと到着した。

単冠湾泊地と同じく、比較的最近、新設されたばかりの基地というだけあって、施設は綺麗な建物ばかりであった。

その入り口のゲートを、江風が運転しているトラックが入っていく。

施設内の駐車場に止めた所で、3人の艦娘が迎えにやって来た。

先頭でやって来たのは、赤みがかった茶髪で、太い三つ編みを左右に作っているおさげが特徴の、真面目そうな艦娘。

2人目は、長い茶髪をポニーテールに纏め、前髪左を赤い髪飾りで耳後に留めた、タレ目気味の瞳を持つ大人しそうな艦娘。

そして、3人目は、前髪はぱっつんと言える形に切りそろえている一方、後ろ髪を肩あたりから膝くらいまで長い三つ編みにしてまとめている、若干気弱そうな艦娘であった。

 

「君………いえ、貴女方は?」

「横須賀出身の軽巡能代よ。改阿賀野型2番艦。宜しくね、第二十五駆逐隊嚮導艦磯風。」

「雲龍型正規空母2番艦、天城です。どうぞよろしくお願いします。」

「本船は、給油艦山汐丸です………。宜しく………であります!」

「失礼しました!」

 

軽巡が含まれていた事で、磯風達は慌てて敬礼をする。

周りを見れば、他の駆逐艦娘達も、緊張した面持ちでこめかみに手を当てている。

軽い調子でいるのは、同じ軽巡の夕張くらいだ。

その様子を見て、能代は少しだけ笑いかける。

 

「そんな畏まる必要は無いわ。………でも、この状況下だと、緊張感は持った方がいいわね。」

「能代さんが、秘書艦なのですか?」

「違うわ。」

「え?違うンですか?」

 

海風と江風が驚きを見せる中、矢矧達は少し困った表情をする。

秘書艦が出迎えに来ないのは、何か問題があるのだろうか?

そんな彼女達に向けて、山汐丸が前に出て来る。

 

「能代殿と天城殿は、警戒任務があります。本船が執務室まで案内するので、付いて来て下さい。」

「分かりました。」

 

磯風達は、2人と別れ、山汐丸に連れられ庁舎の中に入り、執務室へと案内されていく。

そして、ノックをして入ってみると………。

 

「不幸だわ………。」

 

30代位であろうか?

女性の提督が、まるで横須賀の扶桑姉妹のように薄幸ぶりを嘆きながら、書類の山に埋もれていた。

その両隣では、2人の艦娘が必死に手伝っていた。

片方は、銀色の髪のショートボブの髪を持ち、大人っぽい雰囲気を持った駆逐艦娘。

もう片方は、緑青色の髪を持ち、横髪の一部と、後ろに回した前髪を後頭部でまとめた駆逐艦娘。

両者とも、制服は夕雲型であった。

 

「玉波!涼波!」

「巻波さん、お久しぶりです!手紙を読みましたが、お元気そうで安心しました。」

「よっ!巻波!スズ達は見ての通り、爆撃の後処理で大変さ。………提督、磯風達が来ましたよ?」

「あら………ごめんなさい。よく、来てくれたわね。」

「はい、磯風以下7名着任しました。………司令、状況はどうなっていますか?」

 

早速状況を確認しようと、磯風が問う。

提督は溜息を付くと、彼女達に呟くように言う。

 

「呉から………衣笠・古鷹・加古の艦隊がやって来たわ。後、無事だった第十九駆逐隊の綾波と敷波が合流したの。」

「そう………ですか。」

 

爆撃から人々を守って昏倒しているのは、青葉・磯波・浦波。

故に、青葉型2番艦の衣笠や、綾波と敷波にとっては、かなり長時間の間、辛い時間を過ごしている事だろう。

 

「………敵の正体は分かりましたか?」

「生憎、まだ不明よ。何か確認できる物があればいいんだけれど………。」

「分かってはいましたが………中々、進展が無いですね………。」

 

磯風は思わずため息を付いてしまう。

その空気を取り除こうとしたのか、巻波が別の質問をする。

 

「秘書艦は、玉波と巻波のどっちなの?」

「私でも涼でも無いわ。秘書艦はもっとベテランの艦娘よ。」

「え?能代さんよりも?」

「そうだねぇ………。経歴だけならば、トップクラスじゃないかな?只………。」

 

涼波が腕を組んで、何かを言おうとした時であった。

 

「ふっざけんなよっ!!」

「敷波!お願い、落ち着いて!!」

『!?』

 

隣の部屋であろうか?

秘書艦室と思われる場所から、凄まじい怒号が響き渡って来たのだ。

 

「こ、この声は敷波か!?………って、あんなに大声出すヤツだったか!?」

 

どちらかといえば、ぶっきらぼうな性格である敷波の物とは思えないような声に、磯風達は、提督を見る。

彼女は、頭に手を抱えながら呻くように呟いた。

 

「やっぱりこうなるわよね………アレ見たら………。」

 

玉波と涼波も同じように深く溜息を付いている所を見て、何事かと思った磯風達は、隣の部屋………秘書艦室へと向かう。

そして、部屋の中に入って………絶句した。

 

「何だ………これは?」

 

最初に目に入ったのは、顔を真っ赤にして、今にも部屋の住人に殴り掛かろうとしていた敷波と、それを背後から必死に押さえ込んでいた綾波である。

普段の両者の性格を考えると、立場が完全に逆転してしまっている。

そして、何より驚かされたのは、その部屋の住人の様子だ。

まず、部屋の真ん中に置かれていたのは、時期尚早のコタツ。

次に、娯楽番組が流れているテレビ。

最後に、横に肘を付いてコタツの中に寝っ転がりながら、テレビを見てせんべいをポリポリと食べている艦娘………だ。

前髪がぱっつんであるロングヘアと、眠たげな表情が特徴的で、服装は吹雪型。

彼女は………吹雪型3番艦の初雪は、敷波の方を見ずに面倒そうに呟いた。

 

「さっきから言ってるじゃん………。不相応の事するから、面倒な事になるって………。」

「初雪!その言葉!青葉さん達の前でも言えるのかっ!?」

「言わなくても………不相応な事した結果、眠ってるんでしょ………?自業自得………。」

「何だと!?もう一度言ってみろぉっ!!」

「落ち着け、敷波!」

 

もはや完全に堪忍袋の緒がぶち切れている敷波の前に立って、手で制した磯風は、初雪に声を掛ける。

 

「初雪………だったか?君が、秘書艦か?端的に言葉を聞く限りだと、人々を救う為に身を犠牲にした艦娘達に対して、あまりにも無礼では無いか?」

「じゃあ、聞くけど………。その守った人々っていうのは、艦娘に感謝したの………?」

「何?」

「違うでしょ………?人間は………艦娘に責任、全部押し付けて………、身勝手に石を投げてくる存在だって………。ニュースでみたよ………あの酷い惨状。」

「……………。」

 

恐らく、情報統制がされる前の、巻波が石を投げつけられた時の映像を見たのだろう。

一通り話を聞いた磯風は、この全てに興味を持たない艦娘に、心当たりがあった。

岸波や望月のような、怠惰艦だ。

だが、岸波は心を抉られるようなトラウマがあったし、望月はやる時はやるような艦娘であった。

彼女の態度を見る限り、どちらのタイプなのか、それとも根本的に違う理由があるのかは分からない。

只、確かなのは、艦娘が守るべき、市民という存在に否定的であるという事だ。

駆逐艦娘として………いや、艦娘として必要な要素が欠けている。

しかし、そこで後ろから声が掛かった。

 

「初雪さん………だよね?」

「ん………?」

「私だよ………巻波だよ!初雪さんが昔、助けてくれた巻波だよ!」

「あー………、大変だったね………石投げつけられて。」

 

知人なのか?と気になった磯風達を他所に、初雪の態度は、巻波相手でも変わらない。

その様子を見た巻波は、泣きそうな顔になって言う。

 

「どうしたのさ!?初雪さん、いつからそんな性格になっちゃったの!?」

「いつからって………昔からだし………。」

「違う!初雪さんは、「あの時」、私を助けてくれた!必死になってくれた初雪さんは………私の恩人は………そんな人じゃないはずだよ!?」

「それは巻波の勝手な夢想じゃん………。私は、元々こんなのだし………。いいから、ひきこもらせて………。」

 

そう言いながら突き放して、コタツに潜りこもうとする初雪。

巻波は、信じられない物を見る瞳で叫んだ。

 

「初雪さんの………バカーーーっ!!」

「巻波ちゃん!?」

 

秘書艦室の扉を開けて、走って庁舎の外に飛び出して行く巻波を、咄嗟に如月が追っていく。

迷子になったら困るのか、遅れて山汐丸も慌てて追いかける。

磯風も思わず追いかけたくなったが、春風に止められた。

 

「ここは如月さん達に任せましょう。わたくし達は、まず青葉さん達の様子を!」

「そうだな………。敷波、悪いが船渠(ドック)へと案内してくれないか?」

「分かった………。」

 

巻波と初雪の対応を見た敷波は、悔しさを滲ませながら秘書艦室を出ていく。

磯風はもう一度、初雪を見る。

彼女は、一度もこちらを見ようとはしなかった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

佐伯湾泊地の船渠(ドック)へと案内して貰った磯風達は、ベッドに死んだように眠っている3人の艦娘を見る。

順番に青葉、磯波、浦波だ。

そして、青葉のベッドの近くの椅子に、薄紫の髪を下ろして左側に小さくサイドテールを結った艦娘が、疲れた顔で座っていた。

彼女が衣笠だ。

その近くには、心配そうに見つめる古鷹と、腕を組んでいる加古もいた。

 

「衣笠さん、古鷹さん、加古さん………3人の様子はどうですか?」

「あ、磯風………。ゴメンね、何か佐世保で大変だったのに、急にこっちに来る事になって。」

「いえ………。」

 

申し訳なさそうに手を合わせる衣笠に対し、磯風は俯く。

改めて間近で昏倒している3人を見せつけられると、辛い物を感じる。

間近で重傷を負う瞬間を、見ている事しか出来なかった敷波達にとっては、猶更だろう。

だからこそ、初雪の発言にぶち切れる気持ちも、分かる気がした。

実際、敷波はずっと歯を食いしばっており、綾波が彼女を心配そうに気遣っている。

そこに………。

 

「あ………う………。」

「浦波!?」

 

反対側のベッドで眠っていた浦波が………僅かだが、目を開いたのだ。

そして、ぼやけた視界の中に、敷波と綾波を認識すると、彼女はゆっくりと聞いてきた。

 

「綾波………敷波………乗客………は………磯………波姉さん………達は………?」

「………ゴメン、浦波。乗客は守れた。でもその過程で………磯波と青葉さんが重傷を負って………本当にゴメン!」

「……………。」

 

限界が来てしまったのか、涙を流しながら頭を下げる敷波の姿を見た浦波は、すぐに頭で理解が出来て無いのか、しばらくボーっとした後で、また呟き始める。

 

「カ………メラ………。」

「え?」

「カメ………ラ………姉さんの………大切………な………。」

「あ、それなら!」

 

綾波がベッドの近くのテーブルに置かれていたカメラを取って見せる。

首を傾げる磯風達に、そっと古鷹が耳打ちをして教えてくれる。

浦波は、艤装を背負って爆撃されるトラックから逃げる際に、この磯波の大切なカメラだけは、必死に抱えて脱出したのだと。

それだけ、浦波にとって磯波は大切な存在なのだろう。

彼女のカメラを確認した浦波は、安心したような顔で呟く。

 

「良か………った………。姉さん………カメ………ラ………海………仇………を………。」

「浦波!?」

 

再び力無く目を閉じた浦波の姿を見て、綾波は慌てて脈を確認する。

幸い、再び眠りに付いただけであるらしく、彼女はホッとした表情で、周りを見渡す。

 

「磯波………カメラを大切にしていたから………。だから、これだけは守ろうって………。浦波………。」

「それだけじゃ………ない。」

 

声は、敷波達の背後から聞こえて来た。

気怠そうな顔で、船渠(ドック)に入って来た初雪が、面倒くさそうに………しかし、鋭い表情で呟く。

 

「どういう事?何でアンタが………?」

「司令官に………蹴り起された。面倒だけど………仕方ない………。それより、浦波は、カメラで海を撮影したんじゃないの………?」

「海?………まさか!?」

「姉さんの仇………そのカメラの中に、爆撃を仕掛けた深海棲艦の姿を、収めてる可能性がある………。付いて来て………現像するから。」

 

初雪はそう言うと、敷波達や磯風達を引き連れて、船渠(ドック)の外へと案内をした。




登場時から、一癖も二癖もありそうな艦娘である初雪。
むしろそれよりは、過去最高にブチ切れる敷波の方が、印象的だったでしょうか?
磯風編では意識して、なるべく多くの駆逐艦娘との絆を描くようにしています。
初雪や敷波を始め、今回から登場した艦娘達との関係も、その内の1つです。
磯風にとっては皆戦友………になるのでしょうか?
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