艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第79話 ~変わり果てた恩人~

「これは………。」

 

コタツの転がる秘書艦室で、写真を現像した磯風達は、皆注目した。

おぼろげだが、浦波が撮った東の海の写真には、巨大な深海棲艦のシルエットが映っていた。

ヌ級やヲ級といった既存の空母系では無い所を見ると、姫クラスであろうか?

 

「もう少し姿が浮き出れば、艦種が絞れそうですけれど………。」

「水母棲姫………。」

「え?」

 

顔をしかめた春風に対し、初雪は艦種を特定出来たらしく、戸棚から資料集らしき書類を幾つか取り出す。

そして、それを数枚めくると、一枚の紙を磯風に渡した。

 

「これが、その水母棲姫なのか?」

 

磯風や春風はまだ、実物を見た事が無かった。

資料に描かれていたのは、長い黒髪と胸の下で結ばれた大きなリボンが特徴の女である。

異質なのはその下半身で、上半身の人型の腕とは別に大型の怪物のような腕を持っていた。

そして、巨大な下顎からは舌が伸びており、人外の存在である事を示している。

トドメに、背部からは、巨大な鎖が伸びていて、鞭のように自在に操っていた。

 

「……………。」

「艦種は………水上機母艦。あの鎖で、水中から大量の攻撃機を吊り上げて、発艦させてくる………。他にも、水中から魚雷の束を取り出して雷撃をしてきたり、口の中から砲撃をしたりする。」

「攻撃のバランスがいいって事か。」

「後、速力は低いけれど………、砲撃は対空砲火に長けているから、空母は攻めにくい。」

「詳しいんだな?」

「別に………何度か出会った事があるだけ………。一説では、過去に沈んだ水上機母艦の怨念が形になったとも、言われてる………。」

 

初雪は気怠そうに持っている知識を話すと、磯風から資料と写真を取って歩いていく。

 

「司令官に、伝えておく………。玉波と涼波に寝る場所、案内して貰うから、適当に部屋割りして………寝て。」

「済まない、手間を掛ける。」

 

磯風の感謝の言葉を受けて………しかし、彼女の顔を見ずに、初雪は呟くように言う。

 

「………同一個体かは分からないけど、巻波にとっては因縁の敵だから。」

「何?」

「詳しくは本人に聞いて………。じゃ………。」

 

初雪はそれだけを言うと、執務室へと歩いていく。

磯風達は、とりあえず入れ替わりで出て来た玉波達に、巻波の所に案内して貰う事にした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

巻波は、庁舎の壁にもたれかかって泣いていた。

如月が隣で座り込み、彼女を必死に慰めている。

山汐丸は、どうすればいいのか分からず、手持無沙汰な様子だった。

 

「巻波、大丈夫か?」

「あ………磯風………ゴメン………。」

「気にするな。それよりも、思わぬ所から敵の正体が分かったんだが………。」

 

磯風は巻波に、初雪の言っていた話を説明する。

本土に爆撃を仕掛けようとした敵艦が、水母棲姫である事。

そして、彼女が言うには、巻波と因縁のある艦種であるという事。

 

「そっか………。参ったなぁ………。」

「ねえ、巻波ちゃん。初雪ちゃんが恩人って、どういう事なの?」

「……………。」

 

横に座る如月の質問を受け、しばらくの間、黙り込んだ巻波は、皆を見渡すと呟き始める。

 

「私………ストリートチルドレンって言ったじゃん。両親はね………水母棲姫の爆撃で、命を落としたんだ。」

 

巻波は説明する。

艦娘の質も量も見劣りして、今よりも本土への爆撃が活発であった頃、彼女の一家は、避難所に逃げていた。

だが、そこに水母棲姫の爆撃が降り注ぎ、両親は火だるまになってしまったらしい。

 

「幼かった私も………ああなって死ぬのかな?って思って絶望したんだ。だけど………その時、初雪さんがやって来てくれて、私を抱えて逃げてくれたの。」

 

巻波が言うには、その時の初雪は、本当に必死な様子であったとの事だ。

死の恐怖に混乱する自分を、絶対に守って見せると何度も励ましてくれた。

 

「信じられないと思うかもしれないけれど………、初雪さんは、生きていく手段を失った私を、しばらくの間、養ってくれたんだ。自分の給料を私の口座に振り込んでくれて………ね。」

「へー、イイ所有るンじゃねえか。」

「もしかして、巻波が艦娘になろうと思ったのは………。」

 

海風の質問を受けて、巻波はコクリと頷いた。

 

「あの人を見たから、私は将来艦娘になろうって決意をした。最高の駆逐艦………とまではいかなくても、みんなを守れる駆逐艦になろうって………。」

「その………左腕を失った経緯は………?」

「実は、遠征先で出会ったのも、水母棲姫だったんだ。だから、両親達の仇を討とうとして………返り討ち。」

「そうだったのですか………。」

 

春風の問いにも答えた巻波は、再び悲しい顔をする。

片腕を失っても、機械の腕を付ける事になっても、艦娘を続けようと思ったのは、きっと初雪という先輩の存在があったからなのだろう。

だが、その初雪はどういう経緯があったのかは分からないが、変わり果ててしまっていた。

艦娘としての誇りすら失っている彼女の姿を見たら、佐世保で如月を支え続けるだけの強さを持っていた巻波でも、落ち込むのは当然だと思えた。

 

「山汐丸さん………ああなった、経緯は分からないのですか?玉波と涼波も………。」

「ご、ごめんなさい………。本船が来た時には既に………。」

「私も、巻波さんが描いているような初雪さんの姿は、初耳です。」

「スズもかな。………というか、巻波を養っていたなんて、初めて聞いたよ。」

 

どうも初雪には、何か秘密がありそうであった。

とはいえ、今の問題はそこでは無いだろう。

 

「巻波………辛いとは思うが、今は本土への空爆を防ぎつつ、水母棲姫を撃沈する事が最優先だ。それに備えて………今は休もう。」

「そうだね………うん!休養は大事だからね!」

 

空元気であるのは誰にも分かったが、今は触れないでおこうと彼女達は決めた。

そして、寮で部屋割りを決めて、ゆっくりと休む事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

第二十五駆逐隊は、磯風と春風、如月と巻波で別れて、部屋の中の2段ベッドを使う事になった。

思えば、装甲空母姫と深海如月を討伐してから、磯風達は満足な休息を取っていなかった為、いつ襲撃をされてもいいように、万全な状態にしなければならなかった。

 

(巻波の事は気になるが、自分もペースを乱されたらいけないからな………。)

 

磯風はさっさとベッドを登り、布団に潜りこむと眠りに付こうとする。

しかし、そこで下から春風の声が掛かって来た。

 

「………巻波さんは、あのような性格の艦娘に心当たりはありますか?」

「初雪か?私が、トラウマを植え付けて怠惰艦にしてしまった艦娘ならば、よく知っている。」

「あ………ご、ごめんなさい。」

「いいんだ。岸波は、皆の支えのお陰で、過去の楔から解き放たれたんだからな。」

 

今頃は、呉で信頼できる「家族」と言える艦娘達と警戒任務に当たっているであろう、岸波の姿を思い浮かべながら、磯風は考える。

岸波も、横須賀に来る前は、皆と壁を作って信頼関係を作ろうとしなかった。

初雪と出会った時にも考えたが、彼女は何か市民に不満を持つだけの何かを抱えていたのではないか?と思ったのだ。

とはいえ………。

 

「本人が話したがらない以上、今は仕方ない。悲しいが、やる気の無い艦娘に、期待はしたらいけないだろう。」

「そうですね………。わたくしの愚痴に付き合ってくださって、ありがとうございます。お休みなさいませ。」

「お休み、春風。」

 

軽く挨拶をした事で、電気が消される。

磯風達は、すぐに寝息を立てた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その次の日、しっかり休みを取った磯風達は、提督と、水母棲姫が出て来た時の対策を考えた。

更に、海上で訓練を行い、陣形練習なども集中的に行った。

速力をなるべく合わせる為に、艦隊を2つに再編して、輪形陣や警戒陣といった特殊な形もこなしていく。

磯風の艦隊は、春風・如月・巻波・海風・江風。

衣笠の艦隊は、古鷹・加古・綾波・敷波・夕張。

速力を重視した艦隊と、火力を重視した艦隊に分かれて、連携を深めていく。

その中で巻波は、何度か庁舎の方を見ていたが、初雪が出て来る事は一度も無かった。

更に、その後は、磯風達は抜錨して警戒任務を。

衣笠達は、佐伯湾泊地の工廠(こうしょう)で夕張を筆頭に、何かあった時の為に破壊された青葉達の艤装の修理を、急ピッチで行っていく。

近いうちに来る次の襲撃に向けて、少なくとも磯風達は、確実に準備を進めていった。

 

「ねえ、夕張さん………ちょっといいですか?」

「ん?どうしたの、改まって?」

 

夕方になって、警戒任務を再び能代達に代わって貰った後に、磯風達が、工廠(こうしょう)に戻った時の事であった。

ふと艤装の修理の手伝いをしていた敷波が、夕張に問いかける。

彼女は、修理しなければならない山積みの艤装や武装………爆撃で焦げた物の中から、ある連装砲を取り出すと、夕張に見せる。

幾つもの艦娘の装備を修理してきた夕張は、即座にその武装を解析した。

 

「これは………吹雪型の武装じゃないわね。トリガーで発射するタイプの主砲だから、その気になれば誰でも扱えるけど………綾波型の物。まさか………。」

「アタシのなんです。」

「爆撃から身を庇ったの?」

「いいえ。」

 

敷波は説明する。

電車の屋根で砲撃戦を繰り広げた際に、最後の自爆覚悟の敵攻撃機の特攻を防ごうとして、青葉が勝手に拝借していったものなのだと。

この装備のお陰で特攻は防げたが、青葉を守る事は出来なかった。

彼女と一緒に爆発に巻き込まれて、このように焼け焦げてしまったのだ。

 

「初雪にはああやって文句言ったけど………本当はアタシも、青葉さんの事を過小評価してたんです。艦娘なのに、新聞記者の真似事をしていたから………。」

「敷波………。」

「ゴメンなさい、衣笠さん。重巡の事、馬鹿にしていたつもりじゃなかったけど………それでも、どんな形であれ、あの時の青葉さんは戦う艦娘でした。」

 

衣笠に深く頭を下げる敷波を見て、磯風も思わず彼女に倣いたくなる。

自分は、青葉の記者としての側面を、十分に把握してなかったのだから。

だが、それを見た衣笠は、少し考えると敷波の傍に行ってそっと頬を撫でる。

 

「………ねえ、敷波。もし、貴女が青葉の仇を討ちたいって考えているのならば、止めて欲しいのが衣笠さんの正直な想いよ。どんな形であれ、青葉は自分の意志で乗客を庇ったんだから。」

「衣笠さんは、初雪の言う通り、市民を庇ったのは自業自得だって言いたいんですか?」

「見方によっては、それも否定できないわ。只、青葉は………いえ、青葉達は、その覚悟も全て受け入れて、あの行動を起こした。」

「だったら、アタシも同じです。その青葉さん達の覚悟に応える為に………青葉さんが使ったこの連装砲で戦いたい。青葉さん達の想いと共に………戦いたいんです。」

 

感情論で戦うのは愚かかもしれない。

だが、敷波の言葉には、力があった。

 

(駆逐艦とは本来、こういう生き物だからな………。)

 

磯風は考える。

駆逐艦とは、ケンカし合いながらも、仲間との絆を大切にして戦う鉄砲玉。

それ故に子供っぽい所もあるかもしれないが、いざという時は共に協力し合えるのだ。

 

「衣笠さん………アタシは愚かでもいいです。それでも………青葉さん、磯波、浦波のように勇ましくありたい。バカでもいいから………敵討ちをさせて下さい!」

 

再び、衣笠に頭を下げる敷波。

呉の艦娘にとってみれば、ここまで真剣な彼女は、中々見られないだろう。

初雪に叫んでいた時といい、それだけ、内心に熱い物を宿しているのだ。

敷波も、立派な駆逐艦なのだから………。

 

「全く………ここで否定したら、この場にいる駆逐艦娘、全員否定しちゃうわね。」

「あ、いやそんな事は………。」

「夕張………衣笠さんからもお願いしていい?」

「任せて下さい。………貸して、敷波。急いで直すから!」

「ぁ………えっと、2人とも、ありがとうございます!」

 

思わず敬礼をした敷波に、ずっと見守っていた綾波も少し笑いかける。

磯風達も、笑みを見せて少しだけ和やかな雰囲気になった。

 

(後は、敵がどのタイミングで動くかだが………。)

 

磯風の懸念はそう遠くない内に当たる事になる。

その夜遅く………再び深海棲艦警報が、佐伯湾泊地の近くで鳴ったのだから。




巻波の更なる過去が明らかになる回。
同時に、初雪との関係も明らかになる回です。
個人的に、書いていて印象的だったのは、衣笠と敷波の会話ですね。
愚直でも貫きたい物があるのが駆逐艦娘………それも1つの考え方かもしれません。
余談ですが、私は初雪も敷波も好きなタイプではあります。
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