艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第8話 ~深海棲艦と艦娘~

横須賀に帰投した岸波達は、予め長距離通信で報告していたのもあって、桟橋で艦隊や提督、秘書艦の大淀と出会う形になる。

艦隊は横須賀への防衛ライン形成の為に、迎撃を即座に行う為に作られた艦娘達であって、

長い黒髪の赤い胴着の赤城、同じく長い黒髪に青い胴着の加賀といった空母に、火力と速力が自慢の重巡の愛宕、それにお団子ヘアが特徴的な横須賀での軽巡の親玉的な存在の那珂が入っていた。

更には機動力も考慮したのかショートボブの黒髪が特徴的な素朴な少女と、長い黒髪を先端で縛ってある青い鉢巻を巻いた駆逐艦の少女が組み込まれている。

 

「よう、吹雪!初霜!出撃か?那珂さん達を困らせるんじゃねぇぞ?」

「深雪ちゃん、そんな呑気な事言っている場合じゃ無いって!」

「そうですよ。敵旗艦の容姿を早く現像してきて。」

「任せろって!磯波のお古を貰ったかいがあったぜ!………司令官、悪いが即行で頼む!」

「分かった。大淀、すまんが………。」

「はい。」

 

どうやらその2人は、吹雪型1番艦である吹雪と初春型4番艦である初霜であるらしい。

片方は初期艦、もう片方は経験豊富なベテラン艦だと岸波は記憶していた。

深雪が大淀と共に写真を加工している間に、岸波に捕まって帰投した曙は、野分と舞風に気絶した嵐を連れて部屋に戻るように指示する。

2人は何か言いたそうであったが、海戦中の深雪の怒声と眼光も頭に入っていたのか、素直に従った。

 

「簡単な説明だけは聞いたけれど、敵旗艦は………。」

「第四駆逐隊全員が認識できる程、萩風の容姿に近かったらしいですね。」

「それだけじゃなくて、敵艦の方も彼女達を認識していたとか………。」

「うーん、これはほぼ敵旗艦=萩風っていうのは当たってるんじゃないんでしょうか?」

 

赤城、加賀、愛宕、那珂が冷静に会話をするのを聞いていた岸波は、曙を見る。

掠った程度とはいえ、魚雷で中破状態までいってしまったのだ。

早く船渠(ドック)入りをして、高速修復材(バケツ)の使用許可を貰った方がいいかもしれない。

 

「ぼの先輩………。」

「大丈夫よ、こういうのは何てこと無いわ。それより提督、仮にアレが萩風だとして………重要な判断を迫られると思いますが。」

「沈めろ。」

「即決ですね。」

 

冷酷に言ってのけた提督の言葉に、曙は嘆息する。

だが、それが当然の決断なのだ。

発見された敵旗艦はもう横須賀のすぐ近くまで来ている。

このまま進軍されたら、港はおろか、一般市民の居住区すら砲の射程に入ってしまう。

 

「何かあってからでは遅い。人類の危機に際して誰かが業を背負わなければならないのならば、それは提督である俺だろう。出撃する艦隊には汚れ役を任せる事になるが………。」

「………せめて、私達の手でトドメを刺して、魂が安らかに眠れるといいですね。」

「あの………ちょっと宜しいでしょうか?」

 

祈りの言葉を呟く初霜に対して、岸波が問いかける。

皆の視線が集まった中で彼女は話し始める。

 

「曙先輩から萩風が轟沈した事は聞いています。ですが………沈んだ艦娘が深海棲艦になるのは、根も葉もない噂話ではないのですか?」

「岸波さんでしたね。実は、古参からいる艦娘の中には、沈んだ後に怨念のような深海棲艦の姿で出現する者も存在します。」

「い、言い切りましたね………。」

「貴女が知らないのも当然です。私達も最近知ったばかりですから。」

「でも、何で艦娘が深海棲艦に………?」

「そこは実は誰にも解決されてないんだよね。だから、今は沈めるしかない………っていうのが唯一の策になってしまってるんだけれど………。」

「……………。」

 

言葉を受け継いだ吹雪の説明に、岸波は黙り込んでしまう。

艦娘と深海棲艦の間にそんな関係があるなんて考えてもいなかった。

いや、もしかしたら頭の片隅で何か考えていたのかもしれないが、無意識の内に取り払っていたのかもしれない。

 

(沈んだ艦娘が深海棲艦になるかもしれないのならば………沖姉は………。)

 

思わず墓地での出来事や過去のトラウマを思い出した岸波は被りを振る。

そうしている内に写真を加工した深雪と大淀が走ってくる。

彼女達の手にはこちらを睨み付けるような深海棲艦の写真と、その姿に瓜二つの萩風の顔写真が握られていた。

 

「決定的だな。これより敵旗艦を「駆逐水鬼」と命名。赤城、加賀、愛宕、那珂、吹雪、初霜。………頼む。」

『はい。』

 

帽子のつばをおろした提督の言葉で、迎撃艦隊である6人の艦娘達が抜錨していく。

その後ろ姿を静かに見送りながら、岸波はいたたまれない想いを抱えた。

 

「高速修復材(バケツ)の使用許可を出す。曙は船渠(ドック)入りを済ませておけ。深雪と岸波は補給を済ませたら執務室に来てくれ。場合によっては敵艦の攻撃手段を知っている者として再出撃も念頭に入れる。」

「了解、行くぜ岸波。」

「分かりました………。」

 

大淀と共に去って行く提督の姿を見送った岸波は、深雪と共に曙を連れてまずは船渠(ドック)へと向かった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

帰投してから数時間が経ち、夕刻を執務室で過ごしながら、迎撃艦隊からの報告を待っていた岸波・曙・深雪の3人は、駆逐水鬼の事情もあって落ち着きが無かった。

それは提督も同じであったらしく、彼は椅子に腰かけながらも足をトントンと鳴らしていた。

 

「遅いな………。もしもの為の艦隊の再編成はどうなっている?」

「扶桑や山城、摩耶や鳥海等、別の任務に出た艦娘達には既にこの状況を伝えてあります。只………。」

「そう簡単に帰投できれば苦労しないか。今、鎮守府にいる艦娘で何とかするしかないな。」

 

提督は色々とプランを練っていたが、そこで無線を通じて連絡が届く。

声の主は那珂であった。

 

「………どうだった?」

「見つかりません。」

「何?」

「岸波ちゃん達が遭遇したポイントを中心に探してみたのですが、駆逐水鬼はおろか、随伴艦すら見つかりません。」

「念の為に聞くが、場所を間違えた可能性は?」

「それも違うと思います。遭遇ポイントの海上で、深雪ちゃんが撃沈したと思われるツ級の残骸を見つけました。」

「つまり敵艦は岸波達が遭遇した後、横須賀に向かったわけではないという事か………?」

「どうします?一応、蛇行しながら横須賀近くまで戻ってきましたけれど、霧が濃くなってきました。夜偵は積んでないので、夜になったら赤城さんと加賀さんが無防備になります。」

「分かった。一旦帰投してくれ。」

 

那珂との無線連絡を終わらせた提督はふうと溜息を付く。

どうやらすぐに横須賀が狙われる事態は避けられそうである。

時間さえ稼ぐ事が出来れば、艦隊の再編成が出来る。

 

「お互いに命拾いをした………という事か。」

「その割には顔色が優れませんね。」

「1つ懸念があってな。岸波、電探に残された駆逐水鬼と艦娘達の音声を再生してくれないか?」

「はい………。」

 

提督の言葉に、部屋の壁に立っていた岸波は、持ち込みを許された艤装の電探を起動させて通信履歴をチェックする。

 

「「萩………なのか?」」

「「え?」」

「「萩なんだろ!?その姿、その髪留めのリボン!?」」

「「何言って………。」」

「「ヤット会エタ………。嵐、野分、舞風………。」」

 

「そこじゃない。もっと後だ。」

 

提督の指示を受け、岸波は電探をいじっていく。

そして………。

 

「「やっぱり………!やっぱり萩は生きてたんだ!良かった、帰ろう萩!横須賀へ!さあ!!」」

「「ソウネ………オ前達ヲ沈メタ上デナァッ!!」」

 

「っ!?まさか、これって………!?」

 

提督の懸念に気付いた岸波は、思わず動揺してしまう。

駆逐水鬼………萩風は、嵐・野分・舞風の第四駆逐隊を沈めた上で横須賀を攻撃すると宣言している。

逆に言えば、それ以外の艦娘が来た時は身を隠してやり過ごすつもりなのだ。

 

「深海棲艦が破壊本能に満ちているというのは良く聞く話だが………、まさか自分を沈めた原因を作った者達への憎悪による復讐本能の方が強いとはな。」

「この事、嵐達には………。」

「伝えるべきじゃないわ。というか、あの様子じゃしばらく出撃禁止よ。部屋に軟禁しておいた方がいいわ。」

 

曙の言葉に、岸波は今更ながらに疲れを感じた。

艦娘と深海棲艦という謎の関係性故に、親しい者から復讐の念を向けられてしまっているのだ。

そう考えるといたたまれない。

 

(でも仕方がないわよね………。)

 

彼女達が出撃したら、高確率で沈められてしまうのだ。

ここは我慢して貰って………。

 

「す、すみません………提督!」

 

だが、その執務室の扉がノックもせずに急に開かれて薄雲が飛び込んでくる。

本来ならば許されない行為だが、ただ事ではないと感じた提督は発言を促す。

 

「どうした?」

「嵐さん達が………!第四駆逐隊の人達が部屋にいないんです!」

「何ですって!?」

 

驚く曙に対し、薄雲は続けて言う。

 

「ここに来る時、訓練を終えた漣ちゃんと出会ったんですが、桟橋から堂々と抜錨していったって聞いて!?」

「嘘でしょ!?出撃するには………!」

「曙!アイツら、帰投した際に艤装を返して無かったんじゃないのか!?」

「あー………っ!しまった、あたしのミスかっ!!」

 

中破していたとはいえ、最後まで確認しておくべきだったと………頭を抱えた曙はすぐさま艤装を装着する。

続けて深雪が装着するのを見て、岸波も装着を始める。

 

「うぐっ!?」

「え………?」

 

ところが、そこで執務室に飛び込んできていた薄雲が急に自分の胸を押さえる。

その様子を見た曙の目が見開かれ、咄嗟に飛び掛かる。

しかし………。

 

「う………あああああああああああああっ!?」

 

普段の彼女からは想像できない位の絶叫を上げたと思いきや、何と艤装を付けた曙を、拳を振り上げ弾き飛ばす。

その目は急に濁り提督を睨みつけて襲い掛かろうとするが、そこに艤装を装備し終わった深雪が咄嗟に横合いから飛び掛かり押さえ込む。

更に体勢を立て直した曙が別の角度から飛び掛かり、暴れる薄雲を2人掛かりで止めに入る。

 

「な、何が………?」

「岸波!今すぐ提督を連れて執務室を出て!あたし達は薄雲をまずどうにかするから、とにかくアンタが先に追いかけて頂戴!」

「わ、分かりました!いつか説明してください!………提督!」

「大淀、速吸を呼んで来てくれ。まだ訓練中だったはずだ。」

「はい。」

 

艤装を装備した岸波は、薄雲の様子に疑問を抱きながらも、提督と大淀を連れて執務室を飛び出した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

執務室を出た岸波と提督は桟橋へと向かう。

丁度、駆逐水鬼の迎撃艦隊が帰って来た所であり、彼女達は岸波達の様子からただ事では無い事を察知する。

岸波は簡潔に嵐達の事と薄雲の事を説明した。

 

「もう、これはお仕置きが必要だねー。鎮守府10週位は走らないといけないかも。」

「那珂、すまないが今はそういう場合ではない。駆逐水鬼に夜戦を挑むのは今の第四駆逐隊では危険すぎる。海戦は行って無いな?」

「海戦は行っていませんが、燃料の消費はしちゃいましたよ?」

「今、どうにかする。………と来たみたいだな。」

 

見れば、訓練海域から大淀に連れられ、黒い短髪のジャージ姿の艦娘が必死に走ってくる。

彼女が改風早型1番艦の速吸であった。

 

「て、提督さん!お待たせしました!」

「早速だが愛宕と那珂と吹雪と初霜の給油をしてくれ。」

「よ、4人分ですか!?えーっと………。」

 

速吸は自分の給油用の重油タンクのメモリと各艦娘の艤装を見比べながら言う。

 

「ゴメンなさい………。給油の訓練もしていたので今は満タンじゃないんです。」

「何人分給油できる?」

「最大人数ならば3人。重巡の愛宕さんを除けばギリギリ割り振れます。」

「嵐達が抜錨してから時間が経つ………。補給の時間が惜しい。このまま那珂・吹雪・初霜・岸波の4人編成で行く。那珂………それでいいか?」

「いいですけれど、この場合旗艦を岸波ちゃんにして下さい。一番この中では駆逐水鬼の事を知っているんで。」

「………だそうだ。行けるか、岸波?」

 

提督と那珂の視線を受け、岸波は思わず背筋が伸びる。

一時的とはいえ、まさか軽巡洋艦を自分の駆逐隊に入れる事になるとは思わなかったのだ。

だが、そんな事で臆している場合でも無い。

 

「分かりました。海戦中は呼び捨てになりますが………。」

「構わないよ。吹雪ちゃんと初霜ちゃんもそれでいいね?」

「任せて下さい!」

「皆さんを守ってみせます!」

 

会話をしている間にも速吸から補給を受けた3人の艦娘は岸波の後ろに並ぶ。

4人いる為、輪形陣以外の基本的な陣形は取る事が出来た。

 

「単縦陣!岸波・吹雪・初霜・那珂で!」

『了解!』

 

(嵐、野分、舞風………勝手に沈まないで。沈まれたら寝覚めが悪いわ!)

 

岸波は唇を噛むと息を吸って号令を発する。

 

「第二十六駆逐隊………抜錨!!」

 

大音量で響いた声と共に、4人の艦娘は再び夜の海へと抜錨していった。

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