艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第81話 ~熟練の技~

探照灯は敵艦を把握しやすくする代わりに、自身の位置をさらけ出すという諸刃の剣だ。

巻波を庇った事で中破状態になった初雪が、夜戦での潜水艦をどうやって倒すのかは、全員疑問であった。

そもそも、彼女は磯風達の為に急行してくれたのか、魚雷も爆雷も持ってきていない。

これでは、万全の状態でも倒せるはずが無いのだ。

だが………。

 

「手順1………。突っ込む。」

「ンな!?」

 

思わず江風が叫ぶ。

初雪は探照灯で敵艦を発見すると、光らせた状態で一直線に主機を加速させたのだ。

当然ながら、敵潜水艦は魚雷を初雪に当てようとしてくる。

放たれた魚雷の束は、扇状になって初雪に迫る。

 

「死ぬ気!?」

「手順2………。飛び込む。」

「え………?」

 

次に初雪の取った行動は、流石に敷波達も面食らった。

魚雷がぶつかる直前に、両舷一杯まで速度を上げた初雪は、水面を思いっきり跳んだのだ。

基本、水面を跳躍するのはかなり難しい。

足に付けている主機が、そのような用途の為に作られていないからだ。

だが、駆逐艦位の軽さと加速力ならば、ギリギリ多少跳ねる事は出来る。

それでも、高速で接近する魚雷を飛び越えるのは、相当タイミングがシビアだ。

加えて体勢を前かがみにして、頭から飛び込むようにしないと、体の何処かが魚雷に触れてしまう。

 

「危険よ!?海面に頭をぶつけて、隙が出来る!?」

「手順3………。そのまま潜る。」

「嘘!?」

 

海風達は、見た。

魚雷を飛び越えた初雪は、空中で前傾姿勢になり、左手を伸ばし、右手で連装砲を抱え、脳を駆使して主機を弄った。

そして、何と、その浮力を切って頭から潜水したのだ。

敵潜水艦であるフラッグシップ級のカ級も、驚愕したであろう。

魚雷で爆散するはずの駆逐艦娘が、それを飛び越えて、海中にいる自分の眼前に迫っていたのだから。

そのまま、初雪は伸ばした左手で敵艦の首を思いっきり掴むと、器用に体勢を整え、両足を下に動かす。

そして、浮力を再び発生させると一気に敵艦を掴んで、水面に浮上する。

 

「ま、まさか………?」

「手順4………。ぶち抜く。」

 

ドゴンッ!

 

離れようともがいていたカ級が、力なく腕をだらんと垂らす。

初雪は、綾波達が見ている前で、連装砲で敵艦の顔を撃ちぬいたのだ。

夜の水中ではほぼ無敵の潜水艦も、海面に連れ出されてしまえば、駆逐艦の夜戦火力の方に分がある。

初雪は、その性質を利用したのだ。

とはいえ、熟練の技としか言いようが無い事を、涼しい顔でやってのけた駆逐艦娘を見て、水母棲姫を含む全員が絶句する。

何とか敷波が、言葉を紡いでくる。

 

「初雪………アンタ、何者なの?」

「………初代。」

「初代?」

「初期艦が出来た直後に………、追加招集された孤児の1人。その生き残りで………「初代初雪」と言われている。」

「初代初雪………。」

「………ア、アイツヲ、沈メロ!」

 

息絶えた潜水艦を海に捨てながら冷静に答えた初雪に対し、水母棲姫が思わず叫ぶ。

途端に、恐怖心を煽られた敵潜水艦達が、一斉に初雪を狙い始める。

 

「初雪!?」

「コツは2つ………。1つ目は、水中に飛び込む事を恐れない事………。魚雷発射直後ならば、敵艦の水深は意外と浅い………。」

「わ、私達が、即興で真似出来る物なの!?」

「2つ目は、敵艦を掴んだら………慌てず水中でちゃんとバランスを整えてから、浮上する事………。焦ったらダメ。」

 

初雪に魚雷が集中する中、彼女は主機を動かし回避に専念する。

そして、彼女は敷波と海風を見ると、少しだけ………ほんの少しだけ優しい顔で言った。

 

「大丈夫………魚雷さえ何とかして貰えば、難しく無い。」

『……………。』

 

敷波と海風、それに綾波と江風は顔を見合わせた。

そして、4人は頷き合うと、敵潜水艦2隻に狙いを定め、単横陣になって主機を加速させる。

潜水艦は、新たな敵を前に、魚雷を放ってくる。

 

「行きますよ、敷波!」

「姉貴、準備はいいな!」

 

雷撃戦を得意とする綾波と江風が魚雷を1本放ち、対潜水艦を得意とする敷波と海風の前に迫る魚雷と相殺させて、派手な水柱を巻き起こす。

 

「思い切って………!」

「飛び込む!」

 

水柱に突っ込む勢いで、敷波と海風は思いっきり跳躍した。

そのまま前傾姿勢で、主機を操作して水の中にダイブ。

幸い、フラッグシップ級である為、敵艦は水中でも輝いていた。

2人は、そのまま敵艦の首を無理やり掴む。

抵抗はされたが、初雪の言う通りに、落ち着いてバランスを整えて主機の浮力を復活させる。

艦娘の怪力もあったからか、思った以上に、簡単に敵艦を掴み上げる事が出来た。

 

「水面にさえ出てしまえば………!」

「思いっきり、撃ちぬける!」

 

ドゴンッ!!

 

夜の海に、敷波と海風の主砲の音が響き渡る。

顔面を撃ちぬいた事で、カ級は絶命する。

 

「チィッ!」

 

その様子を見ていた水母棲姫は、空母を発艦させようとするが、そこに砲撃が降り注ぐ。

 

「何ィッ!?」

「随分、衣笠さん達に好き勝手してくれたけれど………!」

「やられる覚悟は出来てるんだろうな!?」

「今回ばかりは、磯風ちゃん達の分も返させて貰うよ!」

「纏めて持って行きなさい!」

 

姫クラスは驚く。

いつの間にか、衣笠・加古・古鷹・夕張が迫って来ていた。

敵潜水艦が少なくなって来た事で、接近する余裕が出来たのだ。

 

「邪魔ヲスルナ!」

「それはこっちの台詞!みんな、残り3隻も沈めちゃって!」

 

衣笠の激励を受けて、今度は初雪も合わせて5人で単横陣を作る。

3隻の潜水艦達は慌てて魚雷を撃ち出すが、綾波と江風が、初雪達3人の進路を作り出す。

そして、飛び込んで素潜りをした3人は、残りの敵潜水艦を海面に引きずり出し、トドメを刺す。

夜戦でほぼ無敵と言われていた潜水艦6隻が、たった1人の駆逐艦の機転で、全滅させられてしまった。

 

「まさか………1発で成功するなんてね………。意外と才能あるんだ………。」

「………じゃあ、アタシ達が失敗したらどうするつもりだったのさ?」

「私が1人で………何とかした………。」

「可愛くないヤツ!………で、でも………ありがと。」

「ふふ、私からもお礼を言わせて、ありがとう。」

 

潜水をした事で、海水でびしょぬれになっていたが、初雪と敷波と海風が、それを気にする様子も無く会話を繰り広げる。

特に敷波と海風にとっては、こちらを侮った深海棲艦達に一泡吹かせられた事で、達成感もあった。

 

「それよりも………水母棲姫。巻波、磯風………戦える?」

「え?あ、もっちろん!」

「はは………対空砲火は生きているから、大丈夫だ。」

 

艦隊を救ってくれた初雪の存在に、心の中で感謝しながら、巻波は如月に、磯風は春風に支えられながら合流する。

一方で、随伴艦を失った水母棲姫は、歯ぎしりをしながら抵抗するが………。

 

「ココハ、一旦引コウゼ?今ノママナラバ、マダ、痛ミ分ケダ。」

『!?』

 

攻撃をしていた全員が、驚かされる。

水母棲姫の背後から声が響いて来たかと思ったら、後ろから3隻の深海棲艦が新たに出現したからだ。

だが………その衣服を見た瞬間、意識が朦朧としていた磯風すら、覚醒させられる。

深海棲艦独特のアレンジがあるが、その衣服は………吹雪型であったからだ。

更に、驚くべきなのは、その顔だ。

1人は、やんちゃそうな顔で、外はねのショートボブの白髪の娘。

1人は、やや気弱そうな顔で、長い2本の三つ編みを垂らした白髪の娘。

1人は、真面目そうな顔で、セミロングの髪を後ろで2つ括りにした白髪の娘。

頭に2本の角を付けて目が赤く染まっているが、その顔は………。

 

「深雪………?磯波………?白雪………?」

 

若干大人っぽい容姿である事と髪色等が違う事を除けば、彼女達に近い姿であった。

一瞬、磯風の頭に、深海棲艦が艦娘の能力を奪う、憑依(ポセッション)という能力が浮かんだ。

しかし、深雪は横須賀で働いているはずだし、白雪はリンガで元気にしているはずだ。

磯波に至っては、佐伯湾泊地で未だに眠っている。

 

「どういう事だ………?何故、3人が?」

「そっか………。3人共、そうなってしまったんだね………。」

「何?」

 

寂しそうな声は、初雪から聞こえて来た。

彼女は、悲しそうな瞳で3隻の深海棲艦を見ていた。

一方で深海棲艦達も、初雪を見ているようであった。

 

「初雪………あの敵艦は一体………?」

「安心して………。磯波達とは関係無いから………。あの3人は………昔、沈んだ「初代深雪」、「初代磯波」、「初代白雪」………。」

「初代だと………!?」

 

確か、さっき初雪も自身が初代だと言っていた。

艦娘は、轟沈したり退役したりする度に、次の適合者に艤装が譲られていく。

一見、普通に存在する艦娘でも、2代目、3代目である可能性も十分あり得るのだ。

基本は上や提督が口外しない為、誰が何代目なのかは分からない。

磯風自身も、自分が初代であるとは限らないのだ。

更に、初雪は驚くべきことを告げた。

 

「あの3人は、私の同期………いや、艦娘になる前に私とつるんでいた捨て子仲間。昔の海戦で………みんな沈んだ。でも………。」

「ソウ………私達ハ、水底デ素晴ラシイ力ヲ手ニ入レタ。傲慢ナ人類ニ復讐出来ル力ヲ。」

 

深海初代磯波………と呼べばいいだろうか?

敵艦の1人が、呟くように初雪に告げる。

 

「熱クテ、痛クテ、辛カッタ想イ………コノ力ガアレバ、全部返ス事ガ出来ルンダゼ?」

 

深海初代深雪が、続いて初雪に手を広げて語り掛ける。

まるで、彼女を歓迎しようとするように。

 

「オ願イ、初雪チャン。私達ノ仲間ニナッテ。アナタダッテ人間ハ嫌イデショ?ダカラ………。」

 

深海初代白雪が、願うように初雪に言った時であった。

突如、砲弾の雨が3隻の中に降り注いだ。

磯風達は驚く。

初雪が、無言で………とても悲しい顔をしながら、連装砲を向けて砲撃したのだ。

そして、砲門を向けながら、静かに呟く。

 

「ごめん………。私が出来るのは、3人を楽にする事だけだから………。」

「ソウカ………ジャア次ハ、力ヅクデ、仲間ニスルカラナ。」

 

深海初代深雪もまた、悲しそうに言いながら、スピードを活かして去って行く。

深海初代磯波と深海初代白雪も、続いていく。

そして、水母棲姫も、3隻を追って消えていった。

その姿を眺める初雪に、敷波が聞く。

 

「追わなくていいの?」

「追える状態じゃないから………。磯風を、船渠(ドック)入りさせないと………。」

「そうですね。………衣笠さん。綾波、撤退する事を具申します。」

「分かったわ。とりあえず、佐伯湾泊地に戻りましょ。」

 

綾波の言葉を受け入れた衣笠は、磯風や巻波といった負傷者を協力して運んでいく。

中破状態の初雪は、敷波と海風が両側から肩を担いで、曳航していった。

泊地に戻るまで、彼女はずっと無言であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「そう………初雪の同期がいたのね。」

 

一方、泊地近くにて、無線で初雪達の状況を知った提督は、先に帰投した能代達の前で、溜息を付いていた。

今回、初雪に発破を掛けた事で、磯風達や衣笠達は無事であったが、彼女には、辛い現実に直面させてしまった。

その責任を感じてしまっているのだろう。

 

「あの3隻の深海棲艦化した初代駆逐艦達は、何者なのですか?」

「聞いた通りよ。初雪の言った通り。」

 

能代の質問を受けた提督は、首を振りながら答えていく。

 

「何だかんだ言って、初期艦に近い経歴を持つのが初雪だもの。私達なんかよりも、よっぽど深い過去を持っているわ。それがあんな怠惰な姿に繋がっているんだけれどね………。」

 

提督は立ち上がると、玉波と涼波に指示を出す。

 

「とりあえず、高速修復材(バケツ)用意して。次の襲撃までに、磯風達の傷と艤装を治すわよ!」

 

艦娘達の帰投に合わせて、佐伯湾泊地が慌ただしくなっていった。




初雪の秘められた実力が、思う存分に発揮された回。
夜の潜水艦をどうやって倒すか考えた所、思い浮かんだのがこの素潜りです。
主機の浮力を切った事によるギミックは、実は第1部の第3話以来になります。
潜水艦が水面の艦娘に魚雷で狙える時は、浮上して来ているのでは?
そう考えた結果、だったら潜って首掴んでやればいいんじゃない?と思いました。
こういうスペックに囚われない技を表現するのも、個人的には好きですね。
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