艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第82話 ~初雪の回想・勧誘~

「はぁ………。」

 

帰投した翌日の日中に、工廠(こうしょう)の中で磯風は嘆息していた。

隣では、夕張が難しい顔をしながら、半壊した彼女の艤装を急ピッチで修復していっている。

 

「直りますか?」

「幸い、缶が無事だから直るわよ。只、磯風ちゃんの艤装って独特なのよね。」

「すみません………。」

 

艤装が独特な陽炎型の中でも、磯風の物は更に面倒な形をしている。

しかも、ここは佐伯湾泊地。

横須賀や呉から離れてしまっているので、予備が無い為、破損部分はほぼ一から作り直しだ。

それが、夕張に余計な苦労を掛けてしまっており、磯風としては申し訳ない気持ちになっている。

また、すぐには艤装が復活しないので、本日の警戒任務には赴けなかった。

第二十五駆逐隊の旗艦は、現在如月に代理を任せて対処して貰っている。

 

「体がなまってしまうな………。」

「だったら、帰って来る艦娘達の為に、料理を作ったら?」

「炭しか作れないんです。陽炎からは、深海棲艦の魚雷で焼いて貰った方が美味いと言われました。」

「……………。」

 

冗談ではない磯風の言葉を受けて、夕張は無言になる。

そして、少し時間を置いて話題を変えた。

 

「そう言えば、初雪ちゃん。提督と色々と事務作業しているみたいよ?流石に敵が知人である事と、姫クラスが増えた事で、グータラは許されなくなったみたい。」

「アレから何か変化があるといいですが………。ここにいても役に立ちませんし、様子を見て来ます。」

「ありがとう。」

「………ちなみに夕飯は?」

「カレーがいいかな?巻波ちゃんが得意なはずよ?」

「言っておきます。」

 

磯風はそう言うと、庁舎へと向かって歩いていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

初雪は秘書艦室にいた。

過去の事例を調べているのか、資料を漁っており、部屋に置かれたコタツには潜っていない。

テレビは敢えて情報収集の為に付けているのか、報道番組が相変わらず流れている。

ノックはしたとはいえ、その部屋に入った磯風はタイミングが悪かったか?と思い、聞く。

 

「すまない、初雪。邪魔だったか?」

「ん………?別にいいよ………。進展は、あまり無いし………。」

 

相変わらず磯風の方は見ずに、初雪は資料を色々と調べていく。

恐らく、鬼クラスや姫クラスの深海棲艦の戦闘詳報等を見ているのだろうが、良いデータは見つからないらしい。

 

「秘書艦は、大変そうだな。」

「経験無いの………?」

「まだ無いんだ。その………提督への食事の準備がダメ過ぎるからな。」

「そう………。」

 

磯風に対し、特に興味を持つわけもなく、淡々と調べて行っている初雪の姿を見て、磯風は少しだけ近づいて告げる。

 

「ここに来たのは、様子を見に来たからでもあるが、1つ大切な事を話していなかったからだ。初雪………昨日は、助けてくれてありがとう。お陰で轟沈しなくて済んだ。」

「……………。」

「それじゃあ、私も司令に掛け合って、何か手伝えないか聞いてみる。」

 

そう磯風が去ろうとした時であった。

初雪が、初めてこちらを見て問う。

 

「………聞かないんだね、あの3人の事。」

「昨日出会った深海棲艦達の事か?………無理に人の過去を聞こうとは思わんさ。」

「変なの………。誰も聞こうとしないし………。」

「話したがらない雰囲気を、出しているからでは無いのか?」

 

遠慮しているのは、自分だけでは無いのだな………と思った磯風は、初雪に向き直って言う。

 

「私も、それなりには人に言えないような過去を経験しているつもりだ。トラウマ、PTSD、轟沈………様々な罪に繋がる浅はかな行為をした。」

 

岸波やリンガの艦娘達は、かなり長い間、苦しめる事になった。

浜風は、海戦で重傷を負った事から、深海棲艦と戦う事自体に苦労している。

そして沖波は………、愛する「家族」達の為に、捨て艦という道を選ばせてしまった。

磯風の独白は、続く。

 

「それでも、みんな前を向いて生きている。その姿を見て、いつまでも自分が閉じこもっているのはいけないと思って、自分なりに足掻いている。そんな私の「戦友」になってくれる艦娘がいる時点で、幸せ者だよ。………だから、余計に沈むわけにはいかない。」

 

死んで、償える罪では無い。

嚮導艦として慕ってくれる艦娘がいる時点で、生きないといけない。

いや………純粋に磯風は生きたいと願うようになっている。

 

「磯風は………人間に絶望してないんだね。」

「したくはないな。艦娘でまだありたいのだから。只、この考えを強要するつもりは無い。」

「……………。」

「それでも、私や巻波を助けに来てくれた初雪には、感謝しかないさ。………だから、改めてありがとう。」

 

笑みを見せる磯風を直視出来なかったのだろうか?

初雪は、顔を背けると静かに告げた。

 

「夕飯の時に話すよ………。」

「何?」

「私と3人の過去………。知らないと………みんな、混乱するだろうし。」

「そうか………。帰投したみんなに伝えておくよ。」

 

初雪は、それで事務仕事に没頭していく。

磯風は、秘書艦室を後にした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その日の夕闇が迫る中、提督と艦娘達は海岸で、巻波が作った夕飯のカレーを楽しんでいた。

何でも、憧れの金剛直伝のレシピであるらしく、色々と調味料等にコツがあるらしい。

磯風が聞いても、チンプンカンプンであったが………。

とにかく、天城の偵察機が警戒を行う中で、カレーを皆で食べていた。

 

「カレーならば、私に任せといて!1日3食カレーでも大丈夫だから!」

「いや、それはそれで問題だと思うが………。」

 

海風や江風曰く、意外と偏食である傾向がある巻波には注意が必要と言われたので、磯風は今後、春風や如月に食事を頼んだ方がいいな………と密かに思った。

そんな中、初雪は静かにカレーを頬張っていた。

意外と食欲旺盛なのか、おかわりもしている。

 

「よく食べるなぁ………。」

「栄養は取らないと………何も出来ない………。」

 

敷波の言葉に、そう返した初雪であったが、一通り食事を堪能すると、少しだけ暗い顔をして言う。

 

「それに………私、昔は食事も満足に食べられなかったから………。」

『……………。』

 

それが、あの3隻の深海棲艦との過去を話すタイミングなのだと分かった磯風達は、静かに黙る。

初雪は、顔を上げると、ゆっくりと語り始めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

今から10年位前であろうか。

深海棲艦が出現して間もない頃、人々は対抗手段を持たずに危機に瀕していた。

海からは、敵の爆撃が降り注ぎ、特に沿岸部の街では自由に暮らせない生活が続いていた。

只、そんな街でも暮らそうとする者達はいた。

街に思い入れのある者達、深海棲艦と何とか戦おうとする軍人達、そして………他に行く当てが無い者達。

爆撃の影響で、瓦礫も所々転がっている街中で、根暗そうな少女が歩いていた。

 

「今日は………無いなぁ………。」

 

少女が探しているのは、爆撃の影響であの世に行った人々の亡骸であった。

同じく深海棲艦によって親を失った彼女は、食べる当てが無く、亡骸から財布を頂くのを日課としていた。

たまに携帯食料品を持っていたら、かなりの幸運だ。

そんなストリートチルドレンの日々を送る程、少女の置かれた環境は、治安が悪かった。

 

「無理………か………。」

 

結局、目的の物が見つからなかった少女は、仲間達の元へ戻る。

そこには根暗な少女と、同年代か少しだけ年上の少女達が、瓦礫の山に集まっていた。

山の一番上で胡坐をかいている、リーダー格のやんちゃそうな少女が聞く。

 

「よう!何かあったか?」

「ごめん………無かった………。そっちは?」

「へへっ!見てみろよ!」

 

やんちゃそうな少女が取り出したのは、札束の入った財布。

そのとんでもない戦利品を見た、根暗そうな少女の目が見開かれる。

 

「ど、何処にそんな………?」

「街を太ったおっさんが歩いていたから、盗んできた!」

「え………?生きてる人から盗んだの………?」

「ポケットから半分財布を出していたんだから、仕方ねぇだろ?」

 

見つかったらどうなるか分からないのでは?と思った根暗そうな少女であったが、やんちゃそうな少女は、どこ吹く風で口笛を吹きながら、財布の中身を確認している。

一方、その傍では、気弱そうな少女が、何かの機械を修理していた。

 

「出来た………。」

「お、やるじゃん!ラジオ、早速聞かせてくれよ。」

「うん、待ってて。」

 

気弱そうな少女がチャンネルを弄ると、こんな声が聞こえて来た。

 

「もう………深海棲艦に怯える日々は終わった!我々は………「艦娘」という救世主を作り出した!艦娘がいれば………深海棲艦と戦える!奴らに………復讐を………!」

 

「「かんむす」………?どういう意味だ?」

「多分、「かん」が戦艦の「艦」で、「むす」が………「娘」だと思う。」

 

首を捻るやんちゃそうな少女に対して答えたのは、いつの間にか、根暗そうな少女の隣に戻って来ていた、真面目そうな少女。

彼女は、続けてこう言った。

 

「港で式典を開いていたわ。そしたら、変な機械を背負った女の子達が並んでいて、その子達をみんなで称えていたの。」

「えっと………「しんかいせいかん」っていうのが、私達の親を奪った敵だよね?艦娘になれば、その敵に復讐できるって事?」

 

気弱そうな少女が、珍しく言葉に力を入れた。

このような荒んだ生活の原因を作った敵を、艦娘になれば倒せるというのだろうか?

一方、やんちゃそうな少女は、ポンと手を叩き立ち上がる。

 

「それだけチヤホヤされるって事は、メシも保障されてるってわけだよな!生きていくのに不自由しないって事じゃないのか!?」

 

仲間達からは、おお!って感嘆の言葉が響き渡る。

しかし、そこで根暗そうな少女は問いかける。

 

「じゃあ………艦娘になるには………どうすればいいの?」

『……………。』

 

どうすればいいか分からない少女達は、全員黙り込む。

自分達は、艦娘の事を全然理解していないのだ。

まず、誰に掛け合えば、いいのだろうか?

そもそも、自分達のような身分で受け入れて貰えるのだろうか?

 

「やはり………艦娘に興味があるか。」

「ゲッ!?」

 

皆で悩んでいた所に、男の声が響き渡る。

やんちゃそうな少女が思わず嫌そうな顔をして見た先には、恰幅の良い中年男性が、多数の銃を持った兵士を引き連れながらやって来ていた。

 

「も、もしかして………。」

「な、何の事かな~?」

 

気弱そうな少女が、思わずやんちゃそうな少女を見る。

間違いない………この男から、財布を盗んだのだ。

 

「ああ、財布の件はいい。何せ、「わざと盗ませた」からな。」

「あ?………どういう事だ?」

「この横須賀で、提督に指示を出しながら、艦娘の管理をしている者だと言えばいいだろうか。「大本営」と呼ぶ者もいるが………まあ、好きに呼んでくれて構わない。」

「じゃあ、おっさん。」

「ハハハ!流石、いい根性をしている。」

 

思いっきり笑う中年男性であったが、やんちゃそうな少女は油断なく睨みつけていた。

その視線に満足したのか、中年男性は銃を構えようとする後ろの兵士達を抑えると、手を広げて言う。

 

「では、私も建前を捨てて、本音をズケズケと言わせて貰おう!君達は、社会の底辺で暮らしている現状に満足しているか?満足していないだろう?」

「………何が言いたい?」

「君達は、深海棲艦に復讐したいと思っている。しかし、出来るのは死体荒らしをして財布をくすねるだけの無様な暮らしだ!その暮らしを変えたいとは思わないか!」

「まさか、おっさん………。」

 

やんちゃそうな少女の中年男性を見る目が変わった。

少しだけ希望を見つけたような目。

そう、この男に付いていけば………。

 

「あたし達も艦娘になれるのか!?」

「この際だ、私も正直者になろう。なれるかもしれないし、なれないかもしれない。」

「は?何でそんな曖昧な………?」

「何故ならば、君達がなれるのは、艦娘適合試験の「実験体」だからだ。」

「実験体!?」

 

中年男性は、なるべく言葉を分かりやすくして説明していく。

艦娘の適合試験は、想像以上に困難な物だ。

港で祝福されていた「初期艦」が生み出される際にも、老若男女問わず、様々な人々が実験体に選ばれた。

だが、その適合者に選ばれたのは、ほんの僅かな人物だけ。

その適合試験に失敗した者は、最悪、廃人になるか死ぬかのどちらかであったのだ。

 

「なんだよ、それ………。」

「多大な犠牲を払った実験の結果、若い女性や少女ならば、適合する可能性があると分かった。だから、言い方は悪いが、君達のような社会から溢れた者を集めている。」

「つまりなんだ………?今の生活に満足しているか、命を賭けてより良い生活を堪能するか選べって事か!?」

「そういう事だ。只、艦娘になった暁には、その盗んだ財布以上の見返りがある事は、約束できるぞ。」

『……………。』

 

リーダー格のやんちゃな少女を含め、皆がまた黙り込む。

明らかに人間として扱われない実験に飛び込んでみるか、今の底辺での生活に満足しているか………。

 

「………上等だ。あたしは、やるぞ!」

 

最初に答えたのは、リーダー格のやんちゃそうな少女。

彼女は、瓦礫の山を飛び降りると中年男性の前に出る。

 

「どうせここにいても、いつ死ぬか分からないんだ。だったら、艦娘になってやる!」

「ま、待って!私も………!」

 

次に反応したのは、意外にもラジオを直した、やや気弱そうな少女であった。

彼女も瓦礫の山を下りると、やんちゃそうな少女の後ろに付く。

 

「お父さんとお母さんの仇………この手で討てるなら!」

「私も行きます。」

 

更に、港を見て来た、真面目そうな少女も歩いて、男の元に進んでいく。

彼女もまた、胸に手を当てて静かに告げる。

 

「ギャンブルはあまり好きではありませんが………するのならば、こういう時だと思います。実験体、引き受けます。」

「私も………やる。」

 

最後に進み出たのは、根暗そうな少女。

彼女は最後尾に並ぶと、ぼそりとだが、呟く。

 

「こんな生活する位ならば………華やかな暮らし………したい。」

「ハハハ!いい覚悟だ!………では、行こうでは無いか!」

 

踵を返す男に、4人の少女達は覚悟を決めた瞳で付いていく。

こうして、彼女達は実験体となり、艦娘の適合試験を受けていく。

意志が強かったのが幸いしたのか、恐ろしい事に、4人共艦娘としての道を歩める事になった。

やんちゃそうな少女は、「深雪」として。

やや気弱そうな少女は、「磯波」として。

真面目そうな少女は、「白雪」として。

そして、根暗そうな少女は、「初雪」として。

それぞれが、人間としての名前を捨て、艦娘として名前を与えられたのだった。




前回、「同期の深海棲艦」と出会った、初雪の過去の回想に入ります。
今まで提督の上の組織は、曖昧に答えていましたが、ここで「大本営」の名を使いました。
深海棲艦が現れた頃は、対抗手段が無く、荒んだ生活を送っていた人々。
そんな中で艦娘という存在は、希望の象徴であったと思います。
勿論、その裏には、相当な犠牲があったと考えますが………。
数話程度になりますが、「初代艦娘」に選ばれた4人の物語は続きます。
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