「正直、その大本営とかに騙されて、艦娘になったと思っていたが………。一応の説明は受けていたのだな。」
「うん………みんな、今の暮らしを変えたかった。その先に待っている物は、流石に分からなかったけど………それだけの暮らしをしていたから………。」
初雪の話を聞いて、磯風はカレーを食べながら考える。
初期の艦娘の現状がとても酷かったのは、漣から既に聞いていた。
人として扱われない、モルモットのような生活。
轟沈率も高いと言われた艦娘の世界に………その4人の初代艦娘達は飛び込まざるを得なかったのだろう。
明日すら保障されなかったのは、何処でも同じだったのだから。
「続き………話すね。」
初雪は更におかわりのカレーをすくいながら言った。
――――――――――――――――――――
「こんな………生活………聞いてない………。」
これは、艦娘になった当初の、「初雪」の名前を与えられた根暗そうな少女の口癖であった。
晴れて艦娘になった彼女達は、早速、鎮守府………後に「横須賀鎮守府」として定義される場所で、艦娘としての訓練を受ける事になった。
だが、その内容は過酷であり、しかも、ひたすら主砲と呼ばれる連装砲を的に当てる訓練と、主機と呼ばれる足に付ける水面を滑走する為の装備を操る訓練ばかりであった。
厳しい内容の訓練をこなす羽目になった初雪は、その辛さを前にして、思わず愚痴る事が多くなった。
そんなある日の夕食の機会に、食事のトレーいっぱいの皿に、ご飯もおかずも装った初雪と食事を取りながら、深雪は笑顔で言う。
「まあまあ、いいじゃねえか。こうして腹いっぱいメシが食えるんだからよ!それに、鍛えれば、深海棲艦ってヤツをぶっ叩けるんだろう?」
「そうだね。お父さんとお母さんの仇をいよいよ討てるようになるんだ………。」
「磯波………お前、そればっかりだな。………優しい親だったのか?」
「うん………。でも、深海棲艦の爆撃で、目の前で………。」
「そっか………。」
隣で箸を握る手を震わせる磯波を見て、深雪は嘆息する。
捨て子と言っても千差万別だ。
文字通り、家庭の理由により、両親に捨てられた者。
深海棲艦の攻撃によって、奪われた者。
深雪は前者であったが、磯波のように後者の者も少なくは無かった。
「敵討ちが出来れば最高だと思うけれど、まだ段階を踏まないといけないわ。ここの提督は、急ピッチで進めているようだけれど、一朝一夕で叶う物でないもの。」
「いっちょういっせき?」
「一日で成し遂げられる事じゃない………でいいかしら?」
「白雪………お前のように頭のいいヤツが、何で艦娘なんて道を選んだんだ?他に行く当てなんて幾らでも………。」
「博識でも捨て子という時点で、人々は私達を蔑むわ。だから、根本から変えるだけの博打を踏まないといけなかったのよ。」
深雪の前………初雪の隣で食事を取る白雪は、人間観察や分析力に長けていた。
しかし、それも捨て子という身分に落ちれば活かされる物では無い。
だから、彼女は艦娘という道を客観的に見て選び取ったのだ。
「何か………みんな、信念?みたいなのがあっていい………。私と違って………。」
「初雪ちゃんだって、華やかな暮らしがしたいからって言っていたじゃない。だから、艦娘にもなれたんだから、自分を卑下しないで。」
「う、うん………ありがと。」
思わずネガティブになる初雪に対し、白雪が的確にフォローを入れる。
何だかんだ言ってこの4人は、相性が良かった。
初雪にとっては、深雪、磯波、白雪の3人は姉のような存在であったのだ。
もしかしたら、運命の神は、そこも見てくれたのかもしれない。
「さてと………メシ食ったら、夜間訓練ってヤツだ。何か………えーっと………。」
「初期艦。」
「そうそう、その初期艦の1人と一緒に、海に出るそうだぜ。いよいよ深海棲艦とご対面ってわけだ!」
白雪のフォローを受けて、腕まくりをした深雪が勝気な笑みを浮かべる。
その姿を見た磯波が、質問してくる。
「どんな名前の人だったっけ………?」
「ん?確かふ………ふぶ………。」
「吹雪だよ。」
「そうそう………って、アレ?」
深雪は声の掛かった方を見て、驚く。
今度声を掛けたのは、白雪じゃなかった。
ショートヘアの同年代の艦娘が笑顔で立っていたのだ。
「まさか、あんたが吹雪?」
「そう、みんな宜しくね!あ、無理に敬語使わなくていいから!」
「じゃあ、吹雪………宜しく………。」
初雪がペコリと挨拶をする中、笑顔の吹雪は食事のトレーを持ってきて、座っていいか聞く。
先に食事を終えた磯波が立って席を譲り、吹雪がそこで説明を始めた。
今回の訓練は、横須賀鎮守府近海を周って、遭遇した深海棲艦を討伐していくものだと。
敵の規模は不明だが、やる事は簡単である。
主機を操り、敵の砲撃を避けて近づいて、主砲で撃ちぬく………それだけである。
「あの………何で夜に出るの?昼の方が、見通しが良さそうだけれど………。」
「何故か夜の方が、私達の攻撃が通用するんだよね。闇に紛れて接近しやすいから………って言われてるよ。」
「おお、カッコいいじゃん!じゃあ、あたし達もそれを披露する時が来たって事か!なあなあ、カッコいい必殺技はあるか!?」
「開発中だって。」
「な、何だよそれ………。」
「あ、でも敵は必殺技を持っているよ。「魚雷」っていう、当たると火柱に包まれて危ない物。」
「こちらは使えないの?」
「だから、開発中なんだよ。私達が攻撃に使えるのは、主砲のみ。」
「なんか………ずるい………。」
「そうだね、でも………やるしか無いんだよ。みんなを守る為にね!」
吹雪が力強く言った事で、説明は終わる。
4人は食事を終えた彼女に続いて、艤装を装備しに行く。
そして、5人で抜錨していく事になった。
初雪達にとって、初めての実戦に………。
――――――――――――――――――――
「そうか、吹雪も初期艦だから顔見知りなのか。しかし、海戦中に言っていた、「昔は、魚雷も爆雷も機銃も無かった」というのが、ここで早速難題になるとはな………。」
「ついでに言えば、陣形も無かったから………みんな自由行動だよ。ピクニックに行くような感覚で………敵地に向かって行ったな………。」
磯風の言葉を受けて、カレーを食べながら初雪は答えていく。
駆逐艦としての夜戦火力のみを頼りに、深海棲艦に挑んでいくのは、今じゃ予想が出来ない。
しかし、それをやり遂げるしかなかった当時の状況を思うと、いたたまれなくなる。
轟沈率が高いのも、何となくだが納得が出来た。
「初めての実戦は………どんな感じだったのですか?」
「そうだね………今聞いたら、信じられない物だと思うよ?」
春風の質問に、初雪は暗くなってきた空を見上げながら、答え始めた。
――――――――――――――――――――
「見つけたよ!アレが、深海棲艦!」
鎮守府近海を周っていた吹雪が、深海棲艦の群れを指さす。
この頃は、まだ電探すら開発されていなかったので、口で叫んで伝える事になっていた。
初雪達は、その異様とも言える姿を見て、思わず固まる。
怪物のような物から、人に近い物まで、様々だったからだ。
「ラッキーだね!今日は、爆撃を仕掛けるヌ級はいないみたい!」
「………って、事は砲撃と魚雷に気を付ければいいってわけだな!」
「そう!まず、相手は魚雷を撃ってくるから、それを避けて!その上で一気に近づいて撃ちぬくの!」
「分かった!やってみるぜ!行くぞ、白雪、磯波、初雪!」
「はい!」
「い、行きます!」
「うん………!」
最後尾で突っ込んでいく形になった初雪は、敵艦の群れを確認する。
座学で習った事が確かならば、駆逐艦イ級が2隻、軽巡洋艦ホ級が2隻、そして、重巡洋艦リ級が1隻だった。
1人で1隻ずつ対処すれば、丁度良い。
………と、ここで、迎撃態勢に入った敵艦がこちらに横1列に並んで口や手から黒い棒………魚雷を放ってくる。
実は、この陣形、T字不利と呼ばれる物で、非常に危険であるのだが、当時の初雪達には、まだそこまでの知識は無かった。
「アレに当たったら………!?」
「死にたくなかったら、主機を動かして躱して!」
「は、はい!」
吹雪の叫びを受けて、磯波を始め、初雪達4人は主機を必死に弄り、敵の魚雷のコースから自分の体を移動させる。
幸運にも、味方同士で激突する事は無かった。
「まずは1隻!」
その隙を見計らって、吹雪が突撃をする。
主砲を構えると、一番近くにいたイ級をその主砲で撃ちぬく。
敵艦は思った以上にあっさりと絶命して沈んでいった。
「飛び込む時は敵の動きを良く見て!反撃を喰らわないように!」
「了解………うわ!?」
次にもう1隻のイ級に飛び込んでいった深雪は、敵艦が苦し紛れに噛みつこうと飛びかかって来るのに驚く。
慌てて主砲を撃った事で、撃沈に成功するが、危うく噛み砕かれる所であった。
「うああああああ!!」
その隣ではホ級に対して、磯波が叫びながら一直線に迫っていた。
敵艦は、主砲を撃ってくるが、幸いにも鬼気迫るその迫力を前に、砲撃コースが逸れた。
「お父さんと!お母さんの分!!」
至近距離まで接近した磯波は、そのままホ級に何発も主砲をぶち込んで撃沈させていく。
絶命してもまだ砲撃を止めない所は、素人丸出しであったが、それ以上に威圧感が違った。
更に白雪がもう1隻のホ級に迫るが、こちらは安全に敵の砲撃を1回冷静に躱していた。
そして、飛び込むと、主砲を数回放つ。
「これでいいはず!」
深雪や磯波と違って、安全に撃破した白雪の動きは、今後の参考になりそうであったが、本人は流石にそこまで余裕が無かった。
最後に初雪であるが、彼女は同じようにリ級に砲撃を仕掛けるが、ここで驚くべきことに気付かされる。
敵艦は魚雷発射管にもなっている腕で、防御をしたのだ。
「あの腕………硬い………。どうすれば………!?」
一旦離脱した初雪の後ろから、リ級はまた魚雷を放とうとするが、咄嗟に吹雪が後ろから撃ったので、敵艦は対処しきれず右往左往する。
「こじ開けて!私達で砲撃支援するから!」
吹雪の言葉で反転して戻って来た初雪は、ヒューマン型の重巡洋艦を見て、どうすればいいかを考える。
本来ならば、夾叉弾等を使えばいい場面であるのだが、残念ながらそこまでの戦術は、まだ確かな物になっていなかった。
だから、初雪は頭を使った。
吹雪に対し砲撃をするリ級に迫った彼女は、両腕で咄嗟に防御する敵艦を見て………至近距離で、思いっきりその股間を主機で蹴り上げた。
深海棲艦とは言え、人体の弱点は変わらないらしく、思わず崩れそうになるのを見た初雪は、その顔面に主砲を突き付ける。
そして………。
「沈め………!」
数発連装砲を連射。
これにより、最後に残っていた重巡リ級も倒れる事になった。
「はあ………はあ………。」
初めての海戦を終えた初雪達は、しばらくその海上で息を落ち着かせていた。
そして、ようやく磯波がぼそりとしゃべり出す。
「もしかして、私達………深海棲艦に勝った?」
自分達のやった事実を確認するように呟いた彼女の腕を、急に持ち上げて深雪が喜ぶ。
「勝ったんだよ!あたし達は、深海棲艦に勝てたんだ!どうだ、ざまーみろだぜ!!」
かなり興奮している深雪に、優しい笑みを向けながらも、白雪が諫める。
「吹雪ちゃんが支援してくれたからだよ。それを忘れたらダメだから。」
話題をふられた吹雪は、笑顔で4人を見渡す。
「私はちょっとだけ先輩だったから、少しだけサポートしただけだよ。今回勝てたのは、みんなのお陰。特に初雪ちゃん、上手く頭使ったね。」
話題を振られて、一番疲れていた初雪は、何とか呟く。
「お腹空いた………。夜ご飯を食べたい………。」
こうして、初雪達は初戦を勝利で飾る事が出来た。
しかし、危なっかしさがあった為に、結局訓練がより厳しくなるが………。
とにかく、こうして4人は翌日から積極的に海戦に出るようになって、戦果を稼ぐ事になる。
もしかしたら、力を手に入れた彼女達は、この時は忘れてしまっていたのかもしれない。
深海棲艦が牙を剥いたら、恐ろしいという事実を。
昔の艦娘の装備を考えた事はあるのですが、最初に開発された武器は、主砲だけかなって。
だから、魚雷等の武器は深海棲艦が使っているのを見て、開発が進んだのだと思いました。
敵の使用している武器を真似して、強化を図るのは良い事です。
でも、その為に出た犠牲を考えると、手放しには喜べませんよね。
危ういながらも、初戦を勝利で飾った初雪達の過去話は………まだ続きます。