艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第84話 ~初雪の回想・敗戦~

もう暗くなってきた海岸でカレーを食べつくしていた磯風達は、初雪を含む、初代艦娘達の武勇伝を聞いて、不思議な気持ちになっていた。

武装も陣形も不十分な中で、ほとんど個人プレーだけで、どうにかしようとする艦娘達は、今とは全く違う戦術を見つけていた。

もしかしたら、初雪の対夜間の潜水艦との戦い方も、そうした経験の中で見つけざるを得なかったのかもしれない。

 

「初雪さん………昔はそんな大変な状況だったんだね………。」

「ん?まあ、生きようと思えば生きられたよ。只………私達は、実際はそこまでは恵まれて無かったのかな………。」

 

巻波の言葉を受けて、初雪自嘲気味に語りながら、過去を振り返る。

少しずつ彼女の瞳から、光が消え失せてきていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「どうだ!このカッコいい装備は!」

 

ある日の事、装備品保管庫で新装備を受理された深雪は、カッコよくクルクルと回りながら、初雪・白雪・磯波の3人に見せびらかしていた。

彼女達4人が手に入れる事が出来たのは、「魚雷」。

深海棲艦が使っていた兵器を参考に、新しく作られたのだ。

 

「これが有れば、今まで以上に活躍できる事、間違いなしだな!」

「う、うん………でも、他の艦隊の話を聞いていると、轟沈だっけ………。やられて沈む艦娘も多いって聞くよ?」

「何だよ、怖気づいたのか?弱肉強食………だっけ?白雪が言っていた言葉。あたし達は、強いから生き残ってるんだ!弱気になったら自分が沈むぜ!」

「そうだけど………。」

 

磯波が不安そうにしながら言うが、深雪は聞く耳を持たない。

実際、深雪自身の言う事は尤もなのだが、磯波の言う通り、艦隊の轟沈率に付いて、少しは考えるべきであったのかもしれない。

しかし、次の言葉には、流石に深雪も驚くことになる。

何故ならば………。

 

「私、聞いたんだ………。何か市民の艦娘に対する不満が、最近、爆発しそうになっているって。」

「ん?何でだ?艦娘のお陰で深海棲艦を潰せているんだろ?むしろ、感謝されて当然なんじゃないのか?………白雪、何か分かるか?」

 

すっかり艦隊の補佐………というより、頭脳として気を配る事になった白雪に、深雪は問う。

彼女は、珍しく腕を組みながら答えていく。

 

「艦娘がいるから………だと思う。今までは、対抗手段が無かったから、政府とかに八つ当たりをするしかなかったわ。でも、艦娘という対応できる存在が生まれた事によって、どんな敵からも、彼女達が守ってくれると考えるようになったのかも。」

「つまり………艦娘は市民を守って………当然って事………?」

「そうなるわね。」

 

初雪の言葉に、白雪は頷く。

その2人の様子を見た深雪は、納得がいかないように地面を蹴る。

 

「何だよ!だったら、自分達も艦娘になればいいだろ!?自分勝手だな!」

「み、深雪ちゃん………市民の半分は男の人だから………。」

 

思わず磯波が諫めようとするが、彼女自身も納得はいって無かった。

勿論、初雪や白雪も。

思わず下を向いた3人を見て、深雪は溜息を付きながら、腰に腕を当てて言う。

 

「まあいいや。とにかくその文句も、あたし達が活躍すれば収まるんだろ?今夜の抜錨もやってやろうぜ!」

「そうだね………まだ、足りない物!」

「単純だけど、深雪のいい所だわ。」

「私も………ついていく………。」

 

リーダーシップに優れる深雪を筆頭に、新しい武装の感覚を確かめながら、4人は抜錨していく。

彼女達は、危険な状態だった。

もはや自分達にとって、深海棲艦は怖くない。

少なからず、全員そう考えていたのだから………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………よーし、敵影発見!全員付いて来い!」

 

抜錨して早速、敵艦の群れを発見した深雪の号令で、4人は主砲と同時に魚雷が動くかを確認する。

基本、魚雷も確実に当てるには接近しないといけない。

だから、1人計6本ある魚雷を上手く駆使しようと試みていた。

ところが………。

 

「ん?何だ?」

 

深雪は違和感に気付く。

敵影は5隻であったが、いつもと違っていた。

重巡リ級が2隻、空母ヲ級が3隻。

それだけでもかなり強力なのだが、5隻とも、その身体が黄色く光っていたのだ。

 

「おかしいわ。あんな個体見た事無い。」

「どうなって………え!?」

 

白雪と磯波が会話をしていた所で、皆が驚かされる。

こちらに気付いたヲ級が見た事も無い、黒い攻撃機を飛ばして来たのだ。

更に、その数がいつもの倍くらいあるのだ。

 

「主砲で弾幕を張って!?」

 

白雪の言葉は滅茶苦茶のように思えたが、機銃が無い以上、主砲に頼るしかない。

しかし、元々の数に加え、後にフラッグシップ級と呼ばれる強化されたヲ級の力の前には、1人1機落とすのがやっとだ。

更に厄介な事に、攻撃機は初雪達を狙っていなかった。

一斉に鎮守府方面に………横須賀への爆撃を行おうとしていたのだ。

 

「おい、行ってしまったぞ!?どうするんだ!?」

「どうしようも………!」

「白雪ちゃん!避けて!?」

「え………!?」

 

珍しく言いよどむ白雪に、磯波の警告の悲鳴が響き渡る。

何処から敵が来たのかと思ったら………その手は水中から伸びて来た。

後にカ級と呼ばれる新しい敵………潜水艦が、その爪で、彼女の腹部を斬り裂いたのだ。

 

「が………っ!?」

「白雪………!?」

 

深く斬り裂かれた事で、白雪が口から血を吐き出し倒れる。

慌てて初雪が、彼女を曳航しようと起こすが、その顔は真っ青に染まっていた。

斬り裂かれた腹部からは、血が大量に滴り落ちており、危ない状態だ。

 

「深雪………!白雪が………!?」

「くそっ!?新手かよ!?あんなの見た事も聞いた事も無いぞ!?磯波、魚雷だ!」

「この………当たって!」

 

磯波が魚雷発射管を操作し、カ級に向けて6発一斉に放つ。

だが、潜水したカ級に魚雷は届かず、逆に相手が大量の魚雷を放ってくる。

 

「駄目だよ………!このままじゃ………!」

「くっ………逃げろ………磯波、初雪!」

「え!?」

「あたしが何とかする!先に逃げろ!!白雪を早く鎮守府へ!」

 

深雪が、磯波と初雪に叫びながら、主砲を乱射しまくる。

重巡リ級2隻と潜水艦カ級が迫ってくる中、深雪は敢えて突撃していった。

 

「白雪を頼むぞ!早………うわあああああああ!?」

 

初代深雪の最期はあっけなかった。

接近しすぎた故に、リ級とカ級の魚雷を避けられず、自分の魚雷の引火と合わせて、派手に火柱に包まれて、絶叫と共に轟沈したのだ。

その凄まじい最期を見た初雪は、固まる。

 

「み、深雪………。」

「逃げよう、初雪ちゃん!!」

 

しかし、そこに磯波が駆け付けると、反対側から初雪と一緒に瀕死の白雪を曳航していく。

リ級が砲撃を仕掛けてくる中、とにかく磯波は初雪ごと白雪を引っ張っていく。

 

「に、逃げるって………深雪が………!?」

「逃げないと………!逃げないと深雪ちゃんの死が無駄になるよ!!魚雷を捨てて!白雪ちゃんを庇って!!」

 

いつもの気弱な姿がウソのような剣幕で、初雪に命令をする。

そして、元々機械に強い能力を活かし、白雪の魚雷発射管も解体して海に捨てる。

 

「死………深雪が………。」

「ボーっとしないで!早………ぐっ!?」

「磯波………!?」

 

磯波が痛みに呻く。

リ級の砲撃が、足の主機を掠めて血が出たのだ。

それを見た初雪は、我に返り、無我夢中で進みだす。

だが、砲撃は彼女にも襲い掛かる。

背中の艤装に砲弾が当たったと思ったら、嫌な音と共に、煙が噴き出す。

 

「か、艤装の缶が………く………!」

 

磯波と初雪は、それでも白雪を曳航しながら進んでいく。

敵艦はもう、砲撃も雷撃もしなかった。

目的は達成していたし、それに………どの道、3人に待つのは死しか無かったのだから。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

夜の海を、必死に鎮守府に向けて進んでいた磯波・初雪・白雪の3人は、どんどんスピードダウンしていた。

速く鎮守府に付かないと白雪が危ないのに、どうしようもない。

磯波は主機がダメになってきているし、初雪は艤装その物がダメになって来ているのだ。

 

「あ………。」

 

やがて、初雪が海面にうつ伏せで倒れる。

艤装に限界が来て、力を失い始めていたのだ。

このままでは、やがて彼女も沈むだろう。

 

「もう………駄目だ………ごめん、磯波………白雪を………。」

「………私も、もうダメみたい。」

 

磯波の方を見たら、彼女の脚が沈み始めていた。

曳航している白雪の主機が無事だったので、彼女にしがみ付く形で持っているが、もう進む事は出来ない。

彼女もまた、暗い海の上で最期を迎えようとしていた。

 

「じゃあ………このままじゃ………3人共………。」

「深雪ちゃんと同じ運命だね………はは………。」

「磯波………?」

 

少しずつ沈んでいっているのに、磯波は笑っていた。

笑うしか無かった………とも言えたのかもしれない。

 

「何か………もう悲しさや悔しさを通り越して、自分が馬鹿みたいだよ。お父さんとお母さんの仇、討ちたかったのに………出来た事なんて、深海棲艦をちょっと沈めただけ。」

「そう………だね。華やかな生活………待っているなんて………甘い考えだった………。」

「どこで道を間違えたのかな?艦娘になろうとした事?違うよね………深海棲艦さえ出なければ………私達はもっと………!」

 

呪詛の言葉を吐く事しか出来ない磯波であったが、その行為すらも、人生の敗者である事を痛感させてしまう。

初雪に至っては、もうどうでも良くなっていた。

只、艦娘になる前からのこれまでの人生全てに、疲れてしまっていた。

このまま目を閉じたら、安らかに眠れるのだろうか?

そう思った時であった。

 

「じゃあ………少しだけでも………運命に逆らって………みる………?」

「白雪ちゃん!?」

 

もう膝まで海水に浸かっていた磯波は、見た。

棒立ちになりながら、腹から血を流していた白雪が、血を吐きながらであったが、喋り出したのだ。

彼女は、ゆっくりとだが………話し出す。

 

「以前………資料で見たの………。吹雪型の………艤装は………吹雪型で………替えが効くって………。」

「それって………。」

「磯波ちゃん………機械直すの………得意でしょ………?私………もう助からないから………。だから、私の主機………磯波ちゃんに………渡せば………。」

「生きられるって事!?」

 

一瞬だが、磯波の顔に光が差した。

だが、すぐに彼女は考え込む。

そして、何かを白雪に耳打ちする。

彼女は………しばらく迷ったが、頷いた。

 

(何の話をしているんだろう………?)

 

艤装の力を失っている事で、意識が朦朧としていた初雪は、まどろみに包まれる。

いよいよ自分の最期が迫っているのだろうな………と思った。

 

「いいよ………「選択権」は………磯波ちゃんに………あるから………。」

 

それが、意識を失う前に、最後に初雪が聞こえた言葉であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………ちゃん!初雪ちゃん!」

「ん………?」

 

揺り起こされる感覚と共に、初雪は目を覚ます。

彼女は、夜の海上に突っ伏していた。

顔を上げれば、そこには吹雪が必死になって彼女を起こそうとしていた。

 

「吹雪………?」

「良かった!目を覚ましたんだね、初雪ちゃん!」

「何で吹雪が………?吹雪も沈んだの………?」

「え?何を………。」

 

首を傾げる吹雪を見て、初雪は起き上がって周りを見渡す。

そこには、初雪と吹雪の2人しかいなかった。

白雪も、磯波もいない。

 

「ねえ、初雪ちゃん。今鎮守府が大変な事になっていて………。何があったの?深雪ちゃんは?磯波ちゃんは?白雪ちゃんは?」

「えっと………。」

 

訳が分からなかった初雪は、吹雪に事情を話した。

一通りの説明を受けた吹雪は、しばらく黙り込んだ。

そして、初雪の両肩を掴むと説明を始める。

 

「初雪ちゃん………落ち着いて聞いて。多分、白雪ちゃんも磯波ちゃんも………もう、轟沈している。」

「え………?何で………?だって………磯波は、白雪の主機で………。」

 

呆然とした初雪の言葉に、吹雪は目を閉じて首を振って背中の艤装を指す。

 

「缶が直っている感覚があるよね?その缶は………多分、白雪ちゃんの物だよ。」

「どういう………。」

「磯波ちゃんは………白雪ちゃんの缶と、初雪ちゃんの壊れた缶を交換したんだよ………。」

「缶を………!?でも、だったら磯波だって………!?」

「沈んでいく磯波ちゃんに………2人分の艤装を交換している余裕は無かったんだよ………。」

「……………。」

 

選択権。

気絶する前に、そう白雪が言っていたのを初雪は思い出す。

仮に磯波が、自分の主機から交換しようとしたら、その間に白雪は海の底に沈んで、缶を取り出す事は出来なかっただろう。

そして、初雪の缶から交換した場合、壊れた缶を移された白雪も沈む運命なので、主機を交換している余裕なんて無い。

つまり磯波は、あの瞬間に天秤に掛けたのだ。

自分の主機を直して、自分が生き残るか。

或いは、初雪の缶を直して、初雪を生かすか。

彼女が選び取った道は………後者であった。

 

「何………で………。」

 

初雪の目から、涙が出て来る。

初代白雪と初代磯波は、初雪を生き永らえさせて、共に初代深雪の元に沈んでいった。

3人共、結果的に初雪だけは沈めまいとして、自ら犠牲になったのだ。

それを自覚した瞬間、初雪は顔を掻きむしる。

 

「うわあああああああああああ!!」

「は、初雪ちゃん!?」

 

制止しようとする吹雪の声も聞かず、初雪は海の上で暴れる。

そして、寡黙な彼女としては、信じられない位の大声で、叫んだ。

 

「深雪っ!白雪っ!磯波っ!………何で!!私を!!生き残らせたんだよおおおおおおっ!!」

 

その言葉に答えてくれる友は………もういなかった。




変に思うかもしれませんが、小説を書いていると筆が勝手にひとりでに動く事があります。
その結果、自分の想像以上の展開に、無意識に持ち込む事も有り得るんですよね。
今回の話は、最初から想定していた内容でしたが、あまりの話に自分で涙が出ました。
初雪にしてみれば、3人の初代艦娘達の犠牲の上で生きている事になります。
どうも自分は、生死を分かつ要素や、死生観を描く事が多いみたいですね。
過去話は、後ちょっとだけお付き合い下さい。
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