艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第85話 ~初雪の回想・絶望~

初雪は吹雪に連れられて、何とか横須賀の港へと戻って来た。

3人の友を失い………失意に包まれて………だが………。

 

「あ………れ………?」

 

初雪は信じられない物を見た。

戻って来た鎮守府は、所々、炎に包まれていた。

鎮守府だけでない、横須賀の町も。

そして、混乱する鎮守府には、人が………市民がなだれ込んでいた。

 

「どういう………?」

 

そこで、初雪は思い出す。

あのヲ級達が、鎮守府に向けて、攻撃機を飛ばしていた事を。

 

「アレは………爆撃の跡………?じゃあ、あの市民達は………?」

「それは………。」

 

「いたぞ!役立たずの艦娘だ!」

 

言いよどむ吹雪に対し、罵声は、桟橋に集結してきた市民達から聞こえて来た。

彼らは初雪達を見つけると、石等を投げつけて来る。

艤装を付けているから痛くは無いが、同時に言葉の暴力が飛んで来る。

 

「お前たちのせいで、家族が!」

「何で、守ってくれなかったんだよ!?」

「何が艦娘だ!?グズ鉄が!」

 

「ちょ、止めて下さい!?痛っ!?」

「……………。」

 

慌てて初雪を庇おうとする吹雪であったが、誰が投げたのか、金属の板を額に受けて転倒する。

初雪は、只、棒立ちになって、黙って信じられない物を見ていた。

だが、何故、この状況が起こったのかを、理解してくる。

出撃前に、磯波が、市民の不満が爆発しそうになっていると言っていた。

その不満が、今回の爆撃を受けた影響で、遂に鎮守府を襲う暴徒を作り出してしまったのだ。

 

「……………。」

 

初雪は、飛来する物を避けなかった。

避ける元気も、無かった。

彼女には、まだ幸運な事が2つあった。

1つは、海上でもう叫び疲れていて、必要以上に市民を刺激する事が無かったという事。

もう1つは………暴徒鎮圧のために、銃声が響き渡ってきたこと。

たちまち、我に返った市民達は、逃げ惑うように散っていく。

その様子を見た吹雪が、額の血を拭きながら、話しかけて来る。

 

「大丈夫………初雪ちゃん?」

「醜い………。」

「え?」

 

初雪の顔は冷めていた。

只、全てに絶望した顔で、呪詛の声を呟いていた。

アレが、自分達が命懸けで守ろうとしていた人間なのだと。

あの人間達の為に、3人の友は散ったのだと………。

 

「醜い………醜い………醜い………。」

「初雪ちゃん………。」

 

吹雪はその呟きをたしなめる事は出来なかった。

人間という存在に絶望した初雪の姿に………ほんの僅かでも共感してしまっていたからだ。

艦娘は身勝手な人間という人種を守る為の使い捨てのモルモット。

その傷は初雪の中に深く刻まれ、この時からずっと冷めた目を持つ事になった。

そう、それは10年程経った今も………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『……………。』

 

夜も更けた海岸で、カレーの片づけをしていた磯風達は、語り終わった初雪を見た。

彼女は、目に光を持たず、適当な石に座り込んで俯いてしまっている。

 

「それが………君と彼女達の過去だったんだな。」

「うん………。」

 

海上で出会った深海棲艦となった初代艦娘3人を思い起こし、その場に集っていた全員がやり切れない想いを抱く。

初雪は友を失っただけでなく、海底で人間への復讐心に染まってしまった彼女達と、対峙する事を強いられているのだ。

どうしようもなく辛いのは、確かだろう。

 

「ねえ………初雪ちゃん、1つ聞いていい?」

「何………?」

 

そこに………如月が静かに質問をしてくる。

初雪はゆっくりと顔を上げると、彼女を見た。

 

「貴女は人間に絶望したって言ったわよね?だから、人間の為に戦うのを拒んでいた。でも………幼い艦娘じゃ無かった頃の巻波ちゃんを助けたのは、何故?」

「気まぐれ。………本当にそうなんだ。何故かは………分からない。只………。」

「只………?」

 

初雪はそこで、巻波の方を見て静かに呟く。

 

「あの時………艦娘が陸地にいたのは………敷波達の時と同じで………海では、爆撃の迎撃が間に合わなかったからなんだ………。その時に偶然、親を目の前で失った………幼い子供を見て………磯波を………私の友達だった方の磯波を、思い出したんだ………。」

 

両親の仇を討ちたいと散々言っていた、初代磯波。

最期の最期で、自分でなく初雪を生かす選択肢を取った艦娘。

その姿が重なった瞬間………初雪は無意識の内に、使命感に囚われたのだ。

 

「どんな手段を取っても………この子を生かさないといけない………。ちっぽけな善意なんて意味が無いって………もう、分かっているのに………それでも、身体が勝手に動いていた………。」

「初雪さん………。」

「私に憧れて艦娘になって………、吹き飛んだ腕を艤装化してでも………戦おうとしたのは、予想外だったけれどね………。」

 

初雪は巻波を見て、力なく笑った。

それを近くで見ていた磯風は、思う。

初雪にとって、本当に3人の友が大事だったのだと。

だからこそ、聞いた。

 

「初雪………これから君はどうしたい?」

「………選択肢は無いんじゃないの?相手は深海棲艦だよ?」

「君自身には、選択肢がある。出撃するかしないか。その手で、討つか討たないか。目の前で再び沈むのを、見るか見ないか。」

「私は………。」

 

初雪は再び目を落とす。

明らかに迷っているのは、誰にでも分かった。

あの時は、初雪は自分の手で楽にするとは言ったが、やはりどんな姿になっても、友は友なのだ。

その手で簡単に討つなんて、普通は、出来はしない。

だから、初雪は初めてこの台詞を使った。

 

「ごめん………。」

「………いいさ。迷わない艦娘なんて、いないのだから。」

 

磯風は初雪の所まで行くと、肩を叩いた。

それで、夕食を終えた艦娘達は、解散となった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その夜、警戒任務を衣笠達に任せた磯風は、佐伯湾泊地の提督にお願いして、電話を借りた。

掛ける場所は、呉。

と言っても、提督に用があるわけでは無い。

彼に、ある艦娘を呼び出して貰っていたのだ。

 

「………珍しいわね。磯風が電話を使ってでも、私と話したいなんて。」

「どうしても、君に相談がしたかった。今から言う事は、なるべく内密にしてくれると助かる。」

 

磯風は、その艦娘に初雪関連の事情を、一通り説明する。

しばらく、電話の先が………静かになった。

 

「………貴女は、こう言いたいわけね。初雪先輩とその深海棲艦達は、私と沖姉の………有り得た可能性だって。」

「そうだ。だから、君に相談したかった………岸波。」

 

磯風は、電話の先で静かに答える艦娘………岸波の反応を待つ。

今は、磯風と同じく欠番の、第二十六駆逐隊の嚮導艦であり、呉の明石の元で工作艦としての修行をしている岸波。

磯風と同じく、やむを得ぬ事情があったとはいえ、姉として親しんでいた沖波を、捨て艦として使ってしまった為に、ずっと怠惰艦として振る舞っていた艦娘。

そんな彼女だからこそ、磯風は、初雪の今の気持ちに寄り添える気がしたのだ。

 

「過去をぶり返して悪いが、沖波が深海棲艦として復讐しに来たら、どうしたんだ?」

「黙って、討たれたわ。」

「即答だな………。」

「今だから、ハッキリと言える事だもの。私に沖姉は討てなかった。」

 

岸波の言葉に、磯風は考え込む。

家族を大切にする岸波だからこそ、家族の死を招いた罪は、償おうと考えていたのだろう。

例え、それが救われない道で終わるとしても………。

 

「でもね、今ならば、また言える事があるの。」

「何だ?」

「私の新しい家族達は………第二十六駆逐隊のみんなは、全員こう言ってくれたわ。私が沈む位ならば、自分が泥を被るって。何百回殴られても、未来永劫恨まれても、自分達の嚮導は沈ませないって。」

「……………。」

 

岸波には、大切な仲間………家族がいる。

舞風、望月、山風、薄雲、朧、初霜。

彼女達は、この立派な嚮導に少なからず恩義がある。

だから、何かあったら自分達が汚名を背負ってでも、守ろうと誓っているのだ。

 

「いい家族だな。」

「ええ。だから、私は貴女に聞くわ、磯風。貴女はどうしたいの?」

「そうか………そういう事か。」

 

磯風は、納得する。

岸波と磯風は同じ罪を犯している。

だからこそ、岸波には磯風の事が分かる。

目の前で苦しむ艦娘を実際に見ている磯風が、心の底で何をしたいのか。

それは………。

 

「ありがとう、岸波。私の心の中の霧が、晴れた気分だ。」

「初雪先輩から、目を離さないでね。」

 

それで、岸波との電話は切れる。

磯風は決意を新たに、自分の胸に手を当てた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

翌日の昼は、能代や天城達が、警戒任務を行っていた。

とはいえ、磯風達、第二十五駆逐隊は休息を取っているわけでは無い。

夕張が、急ピッチで修繕した艤装を、磯風自身が、仲間達に見守られながら、桟橋で装着していたのだ。

とはいえ………。

 

「感想は?」

「正直に言います。………不格好です。」

「そうよねぇ………。」

 

素直な磯風の言葉に、夕張も溜息を付く。

磯風の艤装の吹き飛んだ左舷のアーム部分は、応急処置用の鉄板を数枚括りつけて、バランスを取れるようにしているだけで、爆雷や魚雷と言った武装が戻ったわけでは無い。

ついでに言えば、元の重武装の艤装のバランスの悪さもあって、完全に平衡感覚が取り戻せているわけでも無かった。

試しに海に出て、少し旋回とかをしてみるが、やはり実用面でもうまくいって無かった。

 

「佐伯湾じゃ、どうしてもパーツが足りないのよね………。一応、呉から艤装を丸々、取り替えられないか聞いているけれど………。」

「右舷の本体にある長10cm砲と手に持っている機銃が無事だから、対空砲火には困らないですが、魚雷が半分しかない所を見ると、海戦能力はお世辞にも………。」

「これじゃあ、泊地の前で、迎撃要員でいるのが精一杯よね………。」

「うーむ………ん?」

 

腕を組んで頭を悩ませていた磯風は、ふと沖合の東側の空を見る。

何か豆粒のような物が多数大きくなってきているように思えたのだ。

 

「まさか………!?」

 

仲間達も、次々と気付く。

各々が双眼望遠鏡(メガネ)で確認を取った結果、理解した。

それは、一つ目の鬼火の深海棲艦の攻撃機………水母棲姫の攻撃機であると。

 

「て、敵襲です!爆撃が来ました!」

 

電探を通じて、警戒任務に赴いている山汐丸の声が聞こえてくる。

同時に前方で対空砲火や攻撃機が飛び上がって、派手な空中戦が繰り広げられるのが分かった。

能代・玉波・涼波が対空砲火を放ち、天城が攻撃機を飛ばしているのだ。

だが………。

 

「お、おかしいです!?前と数が違います!?」

 

混乱している山汐丸の言葉の通り、攻撃機の数が半端じゃない。

明らかに水母棲姫以外にも、攻撃機を発艦させている存在がいるのは、明らかだった。

 

「ヌ級やヲ級を連れて来たのでしょうか!?」

「それだったら、最初の襲撃の時に出し惜しみをしていないはずよ!?」

「え、じゃあ………アレはどの艦が!?」

 

後ろで春風達が抜錨してきながら、機銃や主砲を上に向ける。

新しく攻撃機を発艦している敵艦に思い当たる節があるとすれば………。

 

「「あの3人」の………誰かなのか!?」

 

初代深海深雪、初代深海磯波、初代深海白雪。

この3隻に、空母としての能力があるとしか思えなかった。

だが、今は………。

 

「とにかく迎撃だ!衣笠さん達にも起きて貰って支援を………!?」

「磯風っ!初雪さんが!?」

「!?」

 

巻波の指さす方を見て、磯風は驚く。

艤装を背負った初雪が抜錨していって、沖合へと向かっているのだ。

爆撃は彼女にも降り注ぐが、最低限の主機の動きだけで躱していた。

 

「一体、何を………!?」

 

そこで、磯風の頭に、昨晩の岸波との電話が思い起こされる。

もしも、想像している通りならば、彼女は………。

 

「追いかける!」

「追いかけるって、この爆撃の雨の中をどうやって!?」

「磯風の対空砲火は、伊達じゃない!………すまないが、如月!臨時でまた、旗艦を頼む!」

「ちょっと待って!磯風ちゃん1人でも………!?」

「街に被害を出したら、元も子もない!衣笠さん達の準備が整うまで、ここで耐えてくれ!」

 

磯風は言うや否や、沖合へと両舷一杯で加速していく。

爆撃を行おうとする攻撃機は、自分が観測できる範囲の物は、1つ残らず破壊していった。

 

(初雪………早まるな!)

 

途中で驚いた顔の能代達と出会ったが、軽く電探で事情を話すと、対空迎撃を続けて欲しいと頼んで、一気に駆け抜ける。

そして、更に進んでいくと、巨大な影………水母棲姫の影が見える。

あそこに、初雪はいるはずだ。

 

(お前のその行動は………悲劇の繰り返しだ!)

 

嘗ての自分を………霧の中での不甲斐ない自分を思い出した磯風は、歯を食いしばりながら、不完全な艤装を背負い、ひたすら突き進んでいった。




ここに来て、第1部主人公である、岸波の再登場です。
第1部でも、磯風が出る場面があったので、逆も有りかと思って登場させました。
磯風と岸波は、同じ罪を持つ者同士、語らなくても通じ合う部分があるように感じます。
そんな2人の欠番の嚮導達が危惧した、初雪の行動の真意は次回を待ってください。
余談ですが、開幕で多数の攻撃機の群れが飛んで来るのは、艦これのお約束ですよね。
対空カットインの有難みが、ヒシヒシと伝わってきそうです。
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