艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第86話 ~もう繰り返すのは御免だ~

(あそこに………いるはず………!)

 

最低限の主機の動きと、主砲の迎撃だけで爆撃から逃れていた初雪は、いよいよ水母棲姫の元へと辿り着いた。

そして、彼女の思っていた通り、そこにはあの3人の………3隻の深海棲艦がいた。

 

「深雪………白雪………磯波………。」

 

深海初代深雪は、雷巡の如く魚雷を太ももや腰、背中に沢山装填していた。

その姿はチ級よりも、昔、大規模攻勢で出会った事のある北上や大井、木曾といった重雷装巡洋艦娘に似ている。

深海初代白雪は、両腕に大型の噴進砲を巻き付けて、両手にはガトリング砲を思わせるような大型の機銃を装備していた。

その姿は、軽巡ツ級を思わせるような、威力よりも手数を優先した、迎撃優先にしたサポート型であり、重量を補う為に、足の魚雷発射管は巨大なホバー装置に置き換わっていた。

深海初代磯波は、特に自身の強化はされていないが、周りに船………大発動艇に乗った、砲台小鬼と呼ばれる砲撃支援のトーチカや浮遊要塞、そして、一つ目の鬼火の攻撃機を従えていた。

その姿は、敢えて例えるならば、航空戦艦レ級になるのだろうか。

とにかく、深海初代深雪と深海初代白雪に守られるようにして、深海初代磯波が、水母棲姫と共に、攻撃機を陸地に向けて飛ばしていた。

 

「何………やってるの………?」

「何ッテ………人間ヘノ復讐。初雪チャンモ、参加スル?」

 

両舷一杯でやってきた為か、息を切らす初雪に対し、深海初代磯波は、赤く輝く純真そうな眼を彼女に向ける。

初雪は、僅かに俯いて告げた。

 

「止めようよ………。磯波のような子供………増えるよ?」

「私ノ両親ハ、モウ居ナイヨ?ソレニ、コンナ環境ニ追イ込ンダ人間ニ復讐シテ、何ガイケナイノ?」

「私は………!磯波自身が、磯波のような子を作り出すのを………見たく無いの!」

 

会話をしている間にも、次々と水中から、水母棲姫と同じような鬼火の攻撃機を取り出して、陸へと飛ばしていく深海初代磯波を見て、思わず初雪は叫ぶ。

その初雪に対し、深海初代深雪と深海初代白雪も話しかけて来る。

 

「初雪………オ前、人間嫌イナンダロ?邪魔シタイノカ?」

「私達ハ………初雪チャントハ、戦イタク無イワ。」

「じゃあ何………!?前に言った「力づく」って、こういう事………!?私が深海棲艦にならない限り………陸地への爆撃を続けるの………!?」

 

初雪は、思わず地団駄を踏んだ。

だとしたら、自身はとんだ疫病神だ。

人間は嫌いだが、全員を殺したいとは流石に思っていない。

そう………初雪は、あの幼い巻波のような子供を見たいとは、思っていなかった。

 

(何だよ………この面倒な感情は………!)

 

それまで抱いていた憎しみや諦めと相反する感情を持っている事を、こんな形で否が応でも自覚させられた事に、彼女は苛立った。

どうすれば、この感情を収められるのか?

どうすれば、この爆撃を止められるのか?

どうすれば、この悲劇を無くす事が出来るのか?

頭の中で考えを巡らせた時、こんな言葉が深海初代磯波から聞こえた。

 

「ジャア………爆撃ヲ止メレバ、初雪チャンハ仲間ニ、ナッテクレルノ?」

「え………。」

 

初雪は見た。

深海初代磯波が………いや、深海初代深雪と深海しょぢ白雪も、彼女に対して期待の眼差しを向けているのを。

 

(ああ………そうか………。)

 

初雪は納得する。

3人は、深海棲艦としての負の感情………人間への復讐心に囚われながらも、それよりも、初雪に対する仲間意識が強いのだと。

自分自身が、彼女達の友情を捨てきれないのと同じように。

だから、初雪は静かに右手を伸ばした。

 

「約束………して。ここにいる艦娘達は強いから………。私は………、3人が沈むのを見たくない………。4人一緒に………静かな所で暮らそう………。」

『初雪(チャン)!』

 

3人の友が、喜びと共に、初雪に手を伸ばしてくる。

その手を取れば、もう戻れないだろう。

だが………どうせ、自分も彼女達も似たような感情を持っているのだ。

自分1人が深海棲艦になる事で、全てが丸く収まるのならば………。

 

「エ………何?」

 

その時だった。

手を掴みかけた深海初代磯波が、空を見上げる。

見れば、空を覆う鬼火の攻撃機の群れの一部が、一気に吹き飛んでいくでは無いか。

その爆発の軌跡はやがて、どんどん近くなり………。

 

「避ケロ!?」

 

深海初代深雪の言葉に、3隻の深海棲艦が一度に下がる。

その直後、まるで初雪を守るように、彼女の周囲に砲弾の雨が降り注いできた。

振り返った初雪は、見る。

限界までスピードを上げながら、こちらに迫る磯風の姿を。

 

「い、磯風………!?何………をごぉっ!?」

 

言いかけた初雪は思いっきり吹き飛ぶ。

そのトップスピードのまま、磯風は初雪の腹に、思いっきり膝蹴りを仕掛けてきたのだから。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「な、何する………ぶへぇっ!?」

 

海面を転がった初雪は、更に素っ頓狂な悲鳴を上げる。

磯風は、手持ちの武装を背中の艤装にマウントすると、初雪の胸倉を左手で掴み、更にその顔面を右の拳で思いっきり殴りつけた。

トドメと言わんばかりに頭突きまで喰らわせてきたので、初雪は一瞬、目の前に星が飛ぶ事になった。

 

「ほ、本当に………。」

「これだけ殴れば………目が覚めるか?」

「殴るって………深海棲艦になろうとした事!?じゃあ、どうやって解決を………!?」

「まだ目が覚めて無いみたいだな!?アレがお前の友だと、本当に思っているのか!?」

 

磯風は胸倉を掴んだまま、初雪を凝視して叫ぶ。

その気迫と言葉に、彼女は思わず目を見開く。

 

「初代深雪はどんな艦娘だった!?自分が囮になってでも、お前を逃がそうとした艦娘だぞ!?初代白雪はどんな艦娘だった!?自分を犠牲にしてでも、お前に生きる道を示してくれた艦娘だぞ!?そして、初代磯波はどんな艦娘だった!?自分が沈む選択を選んででも、お前の轟沈を防いでくれた艦娘だぞ!?」

「それは………深海棲艦になって人間への復讐心に染まっているからで………。」

「その憎しみに染まる前の3人の想いを、無駄にする気か!?って磯風は言っているんだ!!」

「ぁ………。」

 

一気に言いたい事を怒声で言ってのけた磯風に対し、初雪は押し黙ってしまう。

自身の轟沈と引き換えに、初雪を生かしてくれた艦娘達。

しかし今は、彼女達は、初雪を沈めようとする深海棲艦だ。

 

「私は………初雪ほど、艦娘はやってはいない。だが………それでも、君達4人が、こんなバカバカしい生涯で終わるのを、黙って見ていたくはない!」

「それは、磯風の勝手な見方じゃないか………!?」

「そうだな!だから、私は勝手にやらせて貰う!下がってろ!!」

 

磯風は初雪をドンと後ろに突き飛ばすと、艤装にマウントした手持ち用の長10cm砲と機銃を取り出し、水母棲姫と3隻の深海棲艦へと向ける。

 

「邪魔ヲシナイデクレナイ………?」

 

深海初代磯波の周りに、大発に乗った砲台小鬼と浮遊要塞、更には鬼火の攻撃機が集う。

 

「オ前ニ遠慮ハシナイゼ?」

 

深海初代深雪は、大量の魚雷が装填された各部の魚雷発射管を動かす。

 

「初雪チャンヲ、渡シテ貰ウワ。」

 

深海初代白雪は、両腕を持ち上げ、ガトリング砲と噴進砲を構えた。

そして、僅かな沈黙の後、大量の砲撃や雷撃が、磯風に襲い掛かって来た。

 

「舐めるな!」

 

磯風は主機を動かし攻撃を躱していく。

そして、魚雷を1本、攻撃機を飛ばしている深海初代磯波に向けて放ち、更に砲撃も一斉に放つ。

しかし………。

 

「サセルカヨ!」

「主砲デ、弾幕ヲ張リマス!」

 

魚雷は深海初代深雪の放った大量の雷撃で相殺されてしまい、主砲の弾丸は、深海初代白雪のガトリング砲の雨の前に、叩き落とされてしまう。

 

「何て物量だ………!?くっ………!」

 

磯風はその隙を狙い、動きながら更にもう1本魚雷を撃つ。

だが、今度は深海初代磯波の操る浮遊要塞が盾となり、届かない。

よくよく見れば、浮遊要塞の数はまだ4機残っていた。

 

(全部突破しなければ、水母棲姫の動きは止められない………!?)

 

磯風の目的は、水母棲姫を何とか止める事にあった。

姫クラスの攻撃機さえ抑える事が出来れば、今頃、後ろで踏ん張っている能代達や衣笠達、そして第二十五駆逐隊の仲間達が、援軍に駆け付けてくれるはずだ。

しかし、その思惑を読み取られているのか、水母棲姫はこちらを無視して、ひたすら攻撃機を飛ばしている。

 

「このままだと………!?」

「ぴーーーっ!?」

「なっ!?」

 

磯風の顔に、焦りが出て来た所で、突如艤装から悲鳴が聞こえる。

見れば、大発に乗った砲台小鬼の砲撃が右舷の艤装を抉り、埋め込まれていた長10cm砲が、悲鳴と共に吹き飛んだのだ。

途端に艤装の動力が落ち、主機が鈍くなる。

 

「逃サナイワ!」

「喰ラエ!」

「行ッテ!」

「不味い!?」

 

正面から深海初代白雪の噴進砲、左から深海初代深雪の魚雷、右から深海初代磯波の一斉砲撃。

それぞれが、一度に飛んで来る。

磯風は咄嗟に右舷の残りの魚雷を破棄して爆発を防ぎ、左舷アーム部分の代用品だった金属板で魚雷を受け止め、手持ち武装を交差させる事で、ロケットランチャーから急所を守る。

奇跡的に中破で済んだが、右舷の艤装はボロボロになって缶が壊れ、左舷アーム部分の金属板は吹き飛んでバランスが崩れ、手持ちの長10cm砲と機銃は手からすっぽ抜けていった。

 

「くそ………!」

「い、磯風………!?」

「初雪、主砲借りるぞ!」

 

煙を吹きながらも後退した磯風は、初雪から主砲を奪い取ると、深海初代深雪へと放つ。

だが………。

 

「無駄ダ。近ヅカナイデ陽炎型ガ、吹雪型ノ武装ヲ急ニ当テラレルカヨ。癖、強インダゼ?」

 

敵艦の言う通り、砲撃はあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。

尚も、磯風は砲撃を放つが、狙いが定まらない。

 

「い、電はどうやって、春風の単装砲をあんな簡単に扱ったんだ!?」

 

改めてあの決闘の時の初期艦の技量の高さを思い知った磯風は、尚も諦めずに砲撃を放つ。

だが、やがて呆れたように溜息を付いた深海初代白雪のガトリング砲が炸裂し、初雪の主砲も破壊されてしまう。

これで、磯風には、攻撃手段が完全に無くなってしまった。

 

(どうする………?深海初代深雪から魚雷を奪い取って、ぶん投げてみるか?)

 

客観的に見れば絶望的な状況なのだが、思わず磯風から笑みが漏れる。

彼女はまだ、諦めて無かった。

いや、正確に言えば、諦めるわけにはいかなかった。

 

「何でだよ………。」

 

そんな磯風の後ろから、声が聞こえて来る。

初雪のものだった。

彼女は俯きながら、磯風に言う。

 

「何で………私なんかの為に………そんなバカバカしい戦い………出来るんだよ?」

「………ハッキリ、言っておけば良かったな。私が昔にやらかしてしまった最も愚かしい事は、信頼する戦友に、その姉と言える存在を「捨て艦」にする命令をさせてしまった事だ。」

 

今でも、あの霧の中での南方棲戦姫との遭遇戦の事は、思い出してしまう。

自身の不注意な具申が切っ掛けとなって、艦隊は崩壊。

結果的に、その時旗艦であった岸波に、一番練度の高かった沖波を「捨て艦」として戦う命令をさせてしまった。

沖波は、文句を言わなかった。

只、岸波や磯風を含む家族達を守る為に、文字通り死闘を繰り広げて沈んでいった。

 

「信じられないかもしれないが………その捨て艦として切り捨てた沖波の残留思念に、私達は出会ってな………。彼女は私達を、恨んでもいなかったし、むしろ前に進むために背中を押してくれた。」

「磯風は………私のやる事………捨て艦だって思ってるの?」

「正確には、君達4人のやろうとしている事だ。君がここで深海棲艦になれば、君の………君達の生きた証は、全て無駄になる。それこそ、捨て艦と言えるほどに。」

「……………。」

「私は、それを見たくないから、ちっぽけな使命感で動いているだけだ。………もう繰り返すのは御免なんだ。誰かが、誰かの犠牲になる為に轟沈したり、壊れたりするのは………。」

 

それは、磯風の弱さなのかもしれない。

だが、同時に彼女の培ってきた強さなのかもしれない。

岸波、沖波、朝霜、長波、浜風、浦風、谷風………。

様々な艦娘の運命を狂わせて来た代償に身に着けた確かなる想い。

だからこそ………。

 

「私は、君達4人の想いは無駄にはしたくない。エゴでもなんでも!………その為に、まだ死ぬわけにはいかないのでな!繰り返すが、死んで償える罪でも無い!だから、生きる!!」

 

磯風は、力強く叫ぶ。

だが、そんな彼女に無情にも、深海初代磯波の手が上がる。

多数の鬼火の攻撃機が舞い上がり、磯風に向けて爆撃を行おうとする。

 

「磯風………!駄目だぁ………!磯波………っ!!」

「これ位でぇーーー!!」

 

磯風は腕を交差させて顔を覆う。

焼けつくような熱波が吹き荒れるかと思いきや………。

突如、その攻撃機と爆弾に向けて、多数の砲撃が炸裂した。

だが………それは、如月達のいる、後ろの西側からでは無い。

左側………北側からだ。

 

「ん………?何か変だぞ………?」

「流石、新型高温高圧缶ですね!改良型艦本式タービンと合わせて、文字通り最速で駆け付けられました!」

「!?」

 

新たな声を受け、磯風は交差させた腕を解いて、前を見る。目の前に、自身よりも小柄な艦娘が立っていた。

長い黒髪に、蒼い鉢巻が印象的な………。

そう、磯風に匹敵する対空砲火能力を備えたその艦娘は………。

 

「初霜!?何で、君が!?」

「呉の提督からの伝言です!水母棲姫が北上する前に、足止めに行ってこいって!みんないますよ!」

「何!?」

 

初霜の言葉と共に、大発に乗った固定砲台のトーチカや浮遊要塞が、一気に複数吹き飛ぶ。

見れば、山風、舞風、薄雲、朧が砲撃と共に、猛スピードで殴り込んできたのだ。

 

「海風姉や江風に………久しぶりに会えると思ったら………大変だなぁ………。」

「まあまあ、いいじゃん!舞風、華麗に、踊りまーす!」

「援軍として、やってきたよ!磯風さん!」

「さあ、朧達も………思いっきり暴れちゃうから!ね、岸波ちゃん!」

 

朧が電探で確認するのを聞いた磯風は、左手を見る。

そこには望月と共に、巨大な荷物を背負ったダークオートミールのショートの髪を持つ艦娘………岸波が、僅かに遅れてやって来ていたのだ。

 

「岸波ぃー。戦力的に見て、あたしが、荷物持ちの理由は分かるけどさー。これ………かなり重く無い?」

「重武装だから仕方無いでしょ?………とにかく、みんなが奮戦している間に始めるわよ。」

 

磯風の元に向かいながら、第二十六駆逐隊嚮導艦である岸波は言う。

 

「岸波の………私達、第二十六駆逐隊の「新しい戦い方」をね!」

 

そう言うと、腰に掛けていた工具を取り出して、力強い笑みを浮かべた。




今回のサブタイトルは、初雪と磯風のそれぞれの想いを形にしてみました。
………と言っても、同じ言葉でも、意味合いは全く違いますけれどね。
過去のトラウマがあるからこそ、ある種の使命感を持つ。
それは、弱さと言うのか、強さと言うのか………多分、人それぞれだと思います。
確かなのは、積み重ねて来た物は無駄では無い………そう信じたいって事でしょうか。
そして、いよいよ第一部のメインである、第二十六駆逐隊が再登場です。
パワーアップした彼女達の強さにも、ご期待下さい。
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