「岸波!?一体、何を………!?」
「大体の状況は読めているわ!まずは、そこで大人しくしてて!初霜、薄雲、朧、対空迎撃!山風と舞風は、あの3隻の深海棲艦を攪乱して!」
「相変わらず………あたし達の嚮導は脳筋………!」
愚痴を言いながらも、山風は、砲撃を深海初代白雪に当てに行く。
だが、狙いはガトリング砲や噴進砲ではない。
彼女は身を低くして、駆逐艦としてはあり得ない加速をすると、時計回りに周り込みながら、その右足のホバーを撃ちぬく。
「シマッ!?」
「再生能力………備えてない?舞風、そっちの魚雷発射管………容赦なく撃ちぬいていって。」
「任された!」
バランスを崩され、深海初代白雪がもたついている隙に、2人は深海初代深雪へと向かう。
敵艦は、大量の魚雷を放ってくるが、2人の機動力が速すぎて狙いを絞れていない。
逆に高角砲や連装砲で、背中や腰の魚雷発射管を破壊していく。
「アチッ!?ド、ドウナッテルンダヨ!?」
「ふふーん!私達自慢の嚮導艦のお手製の、「新型高温高圧缶」によって、第二十六駆逐隊はパワーアップしてるの!タービンも強化しているし、そう簡単に捉えられないよ!」
焦る深海初代深雪を庇うように、深海初代磯波が、固定砲台の乗った大発や浮遊要塞を飛ばしてくるが、2人の駆逐艦は、その合間を縫うようにしながら、至近距離で急所を撃ちぬいて、容赦なく沈めていく。
「朧ちゃん!12cm30連装噴進砲の扱い、大丈夫だよね!?」
「任せて、薄雲ちゃん、ダブルで行っちゃうよ!!」
一方、薄雲と朧は、対空迎撃用の「12cm30連装噴進砲」を撃ち出し、水母棲姫や深海初代磯波の攻撃機を片っ端から破壊していく。
特に朧は、いつの間に薄雲から習ったのか、鍛えられた怪力を活かし、両腕に噴進砲を括りつけて、60発ものロケットランチャーを装備している。
偶然にも、初代深海白雪と似たような恰好になっているのは、皮肉か。
とにかく、初霜の両手に備えた高角砲と合わせると、その破壊量は半端なく、あっという間に空が綺麗になっていく。
「ナ、何ガ起コッテイル!?コンナ奴ラ聞イテ無イ!?」
「トニカク、攻撃機ヲ飛バシテ!援軍ガ着クヨ!?」
「ソノ援軍ガ来テイルジャナイノ!?」
只、攻撃機を飛ばしながら戦況を見守っていた水母棲姫も、この状況は予想外だった為に、思わず深海初代磯波ともめてしまう。
たった1つの駆逐隊で、パワーバランスを変え始めている第二十六駆逐隊の奮戦ぶりを見て、磯風は思わず唖然としてしまった。
「はは………完全に活躍の場を取られたな。」
「アレだけカッコつけたのだから、まだ働いて貰うわよ。望月、そっち持って!」
「りょーかいっと。」
「何………?って、わ!?」
磯風は驚く。
小柄とはいえ艦娘としての怪力を持つ望月が、正面から彼女の体を持ち上げたのだ。
その間に、後ろから岸波がボロボロになった磯風の艤装を外し、近くにいた初雪に強引に渡す。
そして、荷物として担いでいた重そうなバッグのチャックを開くと、出て来たのは………。
「っ!?磯風の艤装!?」
「水母棲姫の北上を阻止する役目もあったけれど、呉から、これを運んで来ていたのよ。装備させるわよ!」
多分、明石の元で習ったのだろう。
岸波は決してバランスの良い物とは言えない重武装の艤装を取り出すと、器用に磯風に装着していく。
その瞬間、磯風自身に、今までにない力がみなぎるのを感じた。
「こ、これは………!?」
「ついでだから、新型高温高圧缶と改良型艦本式タービンも、セットで付けておいたわ。」
「見違えるようだ………。いや、その2つの装備を除いても、艤装その物が生き生きとしているぞ!?」
僅かではあるが、性能が強化されているようにも感じた。
思わず感嘆としている磯風の元に、初霜がやってくる。
「手紙で第十七駆逐隊の話を知った岸波さんが、自分の手で、みんなの艤装を強化したいと、明石さんに頼み込んだんです。その為に、霞さんや私の艤装で色々と実験を行っていましたが………上手くいったのならば、何よりです!」
「最初は逆に性能がダウンしてしまって、霞や初霜には迷惑を掛けたけれど………、ぶっつけ本番でうまくいった?」
「バッチリだ!むしろ、今すぐこの力を試したくなるくらいには!!」
主機も交換された後、望月によって海面に降ろされ、岸波から手持ち用の武装を受け取った磯風は、ニヤリと笑みを浮かべると、初霜を見る。
「そうだな………初霜も艤装を強化して貰ったのだろう?だったら、勝負しないか?」
「勝負ですか?………いいですよ?負けませんから!」
初霜も珍しくいたずらっ子のような笑みを浮かべると、2人は背中合わせになり、自身の高角砲や機銃等を全て上に向ける。
そして、凄まじいとしか言いようの無い砲火を空中に撃ち上げ、空に飛んでいた攻撃機の群れを1つ残らず撃ち落としていく。
「攻撃機ガ!?モット、飛バシテ!」
「ム、無茶言ウナ!?」
固定砲台や浮遊要塞も操る関係で、攻撃機ばかりに構っていられない深海初代磯波が、水母棲姫に命令をするが、姫クラスも余裕が無くなってきている。
何故ならば、水母棲姫の視点からは、もう見えてきているからだ。
こちらに近づいてきている能代率いる艦隊と、衣笠率いる艦隊。
そして、如月に旗艦代理を任せている第二十五駆逐隊。
第二十六駆逐隊や磯風が、発艦した攻撃機の群れを、その場で粉砕したお陰で、前線が繰り上がってきていた。
「磯風さん………あの方が、貴女と同じ業を背負う………、岸波さんなのですか?」
「そうだ………。過去の罪とトラウマを乗り越え、「家族」と共に歩む、力強い艦娘だ!」
目視でも確認できるようになったからか、春風が磯風に聞いてくる。
岸波は、流石に缶の入った艤装を、海に投棄するのはいけないと思ったのだろう。
初雪に持たせていた、古い磯風の艤装をバッグにしまった彼女は、望月と共に煙幕や照明弾を撒き散らしながら、仲間達の援護をしていた。
バッグの分、重量がかさばっているが、強化された缶とタービンのお陰で、動きに問題は無かった。
練度も、呉でしっかりと上げてきていた。
「そして………磯風にとって、大切な………「戦友」の1人だ!」
磯風は、戦友を自慢するように、第二十五駆逐隊の面々に紹介した。
――――――――――――――――――――
(ああ………何て、眩しいんだろう………。)
初雪は、静かに海戦を眺めていた。
3人の友であった深海棲艦は、加勢に入った欠番の駆逐隊の前に、全ての計画を狂わされた。
初雪を、深海棲艦に引き込む事も。
人間に、復讐をする事も。
その艦娘達の力強さは、何故か眩しく感じた。
(私は………何で………動けないんだろう………。)
初雪は、思わず俯いてしまう。
あんな姿になっても、友を討つ事なんて出来ない。
本当に幸せな道は、彼女達を安らかに眠らせる事だって分かっているのに。
(もう………私の知る3人は………いないんだろうな………。)
磯風の言う通り、初雪を沈めたい時点で、それはもう自分の知る友の姿では無い。
本当の友は、もう戻ってはこないのだ。
そう思った時点で、涙が出そうになった。
(これから………私、どうしたらいいのか………。)
「初雪さん!避けてっ!避けてーーーっ!!」
「え………?」
巻波の悲鳴を受けて、初雪は目の前に、水母棲姫の多数の雷撃が迫ってきている事に気付く。
そして、そこで思い出す。
急いで抜錨してきた自分は、魚雷も爆雷も持ってきていない事に。
そして肝心の主砲は………さっき、磯風に奪われて破壊されてしまった事に。
――――――――――――――――――――
「しまった!初霜!」
「迎撃します!」
初雪に、攻撃手段が無い事を今更ながら思い出した磯風は、心の中で己のミスに気付く。
今まで彼女が狙われて無かったのは、恐らく深海棲艦となった初代3人の艦娘達の言葉があったからだろう。
しかし、焦りが水母棲姫に生じた事で、もうそんな事に構っていられなくなったのだ。
「主砲も魚雷も全部使え!!1本も当てるな!!」
今、初雪の近くにいたのは、初代3人と丁度対峙をしていた磯風と初霜のみ。
2人が、装填された魚雷を全部放ち、両手の主砲や機銃も、全部海面に放つ。
派手な水柱が幾つも上がるが、その中から新たな雷撃が複数、初雪へと迫っていく。
「次発装填は………って、磯風さん!?」
慌てて初霜が右膝に備えていた予備の魚雷を装填しようとするが、全弾魚雷を撃ち尽くした磯風は、別の行動に出ていた。
何と、魚雷が迫る初雪の元に全力で駆け付けると、爆雷を投棄し、その身体を抱きしめ、庇ったのだ。
「磯風………!?」
「絶対に沈めるものかぁっ!!」
直後に磯風の背後から包まれる、爆発の衝撃と熱波。
交換したばかりの艤装なのに、岸波には悪い事をしたと思った磯風であったが………奇妙な感覚に包まれる。
自身が轟沈していく感覚が、全然無いのだ。
「………奇跡が2度も起きるのか?」
「なん………で………。」
「え?」
目を見開いていた初雪が見えたので、背後を振り返った磯風は、呆然とする。
そこには、炎に包まれながらも、互いに肩を組んで雷撃から2人を守っていた、3人の人影があったからだ。
それは、見間違えるはずもない。
深海初代深雪、深海初代白雪、深海初代磯波であった。
「な………んで………また………。」
「い、磯風は関係無いだろ!?何故わざわざ………!?」
「ツイデダ………。後、身体ガ勝手ニ動イテイタ。」
何処か満足したような顔で、空を見上げる深海初代深雪と、互いに頷く、深海初代白雪と深海初代磯波。
その姿を凝視していた初雪は、思わず叫ぶ。
「何で………!?だから何で………!?私だけを生かすんだよ………!?磯波は………みんなは………なんでっ!?」
信じられないような初雪に対して、3人は笑顔で………不思議な事に、その時だけ深海から轟く声ではなく、人としての声で語り掛けた。
「妹のような初雪には、前を向いて歩いてほしいからだ。」
「妹のような初雪ちゃんには、前を向いて歩いてほしいもの。」
「妹のような初雪ちゃんには、前を向いて歩いてほしいから………。」
それだけ言った途端、炎が燃え盛り、3人の姿が見えなくなる。
炎が収まった時には、3隻の深海棲艦は………いや、3人の艦娘は、轟沈していた。
「ぁ………ああ………。」
「………くっそおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
愕然と両膝を付いて手を伸ばす初雪に対し、磯風は凄まじい怒号と共に、主砲も機銃も艤装の高角砲も、全て水母棲姫に喰らわせていく。
あんなに繰り返さないと豪語していたのに………結局は、目の前で悲劇を作り出してしまった。
その自身への怒りと情けなさを抱えながら、磯風は敵艦に突撃していく。
「ウオオオオオオオオオ!!」
水母棲姫ももはや、ヤケクソになり、砲撃や雷撃を繰り出してくるが、能代達や衣笠達が合流した事により、再生能力を持ってしても、沈むのは時間の問題であった。
だが、それでも………この悲しみを消す事等、出来はしなかった。
――――――――――――――――――――
「初雪………。」
水母棲姫を撃沈して海戦を終えた後、磯風は、未だに海面に座り込み俯く初雪に、語り掛けようとする。
だが、どう話せばいいのか分からない。
しかし………。
「う………。」
「初雪?」
「うああああああああああああああ!!」
「ぐあっ!?」
初雪は突如、怒号と共に磯風を殴り飛ばし、馬乗りになって何度もその顔を殴ってくる。
彼女は、泣いていた。
只、間接的に友を沈める原因になってしまった磯風を、八つ当たりと言われようとも、許せなかったのかもしれない。
いや………もっと言えば、殴る対象は誰でも良かったのかもしれない。
感情のコントロールが、もう出来なくなっていたから。
それを近くで見ていた敷波が、綾波に自分の2つの連装砲を黙って渡す。
「敷波………?」
「ゴメン、それ持ってて。」
敷波は、そう言うと………磯風を殴っている初雪に対し、思いっきり横合いから殴り飛ばす。
海面を転がった初雪に対し、敷波は、静かに拳を握りながら言った。
「初雪………今の磯風に手を出すのは、卑怯だよ。だから………アンタの八つ当たり、アタシが付き合うよ。」
「う………あ………。」
「気に入らないけど………青葉さん達の想いをくみ取ってくれた恩義があるからねっ!!」
「ああああああああああああああっ!」
そう言うなり、2人で取っ組み合いのケンカを始める。
更に、その様子を見ていた海風が、江風に自分の連装砲を渡す。
「お、おい姉貴………それは、江風さんの役目じゃ………。」
「あの夜、初雪は、私と敷波を信じてくれたわ。だから………!」
江風の制止も聞かず、海風は勇ましく突撃をすると、敷波をぶっ飛ばした初雪に、強烈な回し蹴りを喰らわせる。
また何度も海面を転がった初雪を見て、海風は宣言する。
「私も付き合うわ、初雪。改白露型の長女として………、御礼も兼ねて、気が済むまで取っ組み合いをしてあげる!」
「敷波ぃ………!海風ぇ………!!」
言葉と共に、普段の礼儀正しさがウソのような猛攻を喰らわせて、彼女もまた、初雪とケンカを始める。
敷波も含めて、しばらく3人は、獣のように吠えながら殴り合った。
「うああああああああああああ!!」
「たああああああああああああ!!」
「はああああああああああああ!!」
駆逐艦にしか分からないような、取っ組み合いの大喧嘩を前にして、誰も何も言えなかった。
3人が疲れ果てるまで………誰も止める事は、出来なかった。
今回もまた、筆が勝手に動いたというパターンです。
初雪の友は、最期の最期に戻って来てくれて、答えも教えてくれました。
しかし、その代償は、彼女にとっては余りにも大きな物となりました。
本来ならば、久々に強化された第二十六駆逐隊が大活躍をする場面。
サブタイトルもそれに見合った物が良いかと思ったんですが、悩んだ末にこれです。
ちなみに、この話を書いたのは年明けなので、年末の能力修正を反映させてます。
磯風・初霜・霞がそれぞれ艤装を強化しているのは、その影響ですね。