艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第89話 ~雪が降る中で~

晩秋を過ぎた本土は、枯葉が落ち、やがて厳しい冬がやって来る。

美しい黄色や橙色の景色は、やがて地方によっては、降りしきる雪によって白化粧に包まれた。

そんな中、北方の単冠湾泊地では、近海の深海棲艦の討伐任務が行われていた。

 

「浜風ちゃん!重巡リ級が行ったよ!」

「……………。」

 

五月雨の無線が響く中、浜風は雪の中を進んでいた。

目の前には腕を振りかざし、砲撃を仕掛けてくる深海棲艦の姿。

一瞬、目の前の景色が、霧の海の中で嘲笑う姫クラスと重なった。

だが………。

 

「参ります!」

 

首を振った浜風は、加速を止めなかった。

身を低くし、砲撃の下を疾走すると、両手の主砲と機銃を敵艦に放つ。

リ級は、慌てて硬質の腕で防御をするが、そこに隙が生まれた。

すかさず浜風は、太ももの魚雷を放ち、リ級に炸裂させて火柱に包み込む。

敵艦は、悲鳴を上げながら撃沈していった。

 

「敵艦を沈めました………。残存艦は………?」

「無いよ。お疲れ様、浜風ちゃん!」

 

前から、他の敵艦を片付けた五月雨が笑顔でやってくる。

一方、浜風の後ろからは、浜波に連れられて、択捉と松輪がゆっくりとやって来ていた。

その海戦の様子を見ていた松輪は、思わず憧れの声を上げる。

 

「ふぇぇ………凄い………。浜風さん、見違えるように強くなってます………!」

「ま、松輪ちゃん………せ、正確には、アレが浜風さんの本当の力………。」

「そ、そうなんですか………!?艦娘って………あんなに勇ましいんだ………。」

 

浜波の指摘を受けて、松輪は、ますます目を輝かせる。

その視線を受けて、浜風は苦笑した。

 

「まだまだですよ。今は五月雨に単艦にして貰っているから、対処出来るだけです。それに、相手が鬼クラスや姫クラスだったら、私はまだ怯んでしまうでしょう。」

「それでも………PTSDを克服していっているのは、凄いです!」

 

択捉の言葉を受けて、松輪がコクコクと頷く。

浜風は、深海棲艦に侵食されていた頃の如月の力によって、沖波の残留思念を感じ取ってから、少しずつではあるが、PTSDを乗り越えていっていた。

最初は駆逐艦から一段ずつステップアップしていって………。

焦る事無く、リハビリを続けて、艦娘としての本来の力と姿を少しずつ取り戻していた。

 

「上手くいったみたいだな。」

 

そんな浜風の元に、もう1人艦娘がやって来る。

第二十五駆逐隊の嚮導艦である磯風であった。

 

「私も、この短期間にこれだけ力を取り戻せたことは、誇っていいと思うぞ。」

「岸波が送ってくれた、艤装のお陰です。磯風の表現を借りるわけではありませんが、生き生きとしていますね。」

 

今の浜風の艤装は、呉で工作艦としての修業をしている岸波が送ってくれた物だ。

磯風の時と同じく、基礎性能が上がっている他、缶とタービンも強化されていた。

この背中を後押ししてくれる艤装の存在が、浜風にとって力になっている事は確かであった。

 

「それにしても、驚きました。この時期に、磯風がまたこの泊地にやって来るなんて。嚮導の仕事はいいのですか?」

「秋は、春風の件から如月達の件、そして初雪の件と、ほぼ休み無しで動いていたからな。たまにはのんびりした方がいいと思って、纏まった休暇を申請したんだ。だから、ここに来ているのは、私と春風だけだ。」

 

思えば、秋は北から南まで、色々な所に行った。

この単冠湾泊地に始まり、幌筵泊地、佐世保鎮守府、鹿屋基地、そして佐伯湾泊地。

仕方ない事情があったとはいえ、働き過ぎたと言ってもいい。

だから、自身も含め、5人全員好きな所に休暇を取りに行っていいと告げたのだ。

 

「春風は今頃、姉妹達と団らんをしているだろう。如月と巻波は佐世保に戻って、睦月とかに挨拶をしているだろうな。初雪は………横須賀で墓参りがしたいと言っていた。」

 

どうせならば、この休暇で思いっきり羽を伸ばして欲しいと思ったので、制限は無しにしている。

磯風も折角ならば、第十七駆逐隊の面々と久々に過ごしたいと考えたのだが………。

 

「こんな時に、浦風と谷風が居ないとはな。何処に行ったんだ?」

「呉ですね。岸波の所です。」

「何?」

「私のこの強化された艤装を見て、直談判をしに行くと言っていましたよ。」

 

浜風が笑顔で自分の艤装を指さしながら、磯風に告げる。

磯風は、何を頼みに行ったのだろうか?と首を傾げた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「根本的な強化………ね。」

「そうだ。どうにかならんか?」

 

呉の工廠(こうしょう)では、岸波に対し、浦風と谷風が、自分達の艤装を見せていた。

周りには、岸波の師匠の明石の他、第二十六駆逐隊の面々が集まっている。

単冠湾泊地の2人は長期休暇を貰うと、この機にと、岸波の元に今までの事を謝りに来た。

事前連絡が無かったので、岸波本人にしては青天の霹靂とも言える出来事だったが、更に彼女達は、続けてこう頼み込んだのだ。

艤装を「根本的に」強化して欲しいと。

 

「無茶言ってるのは、分かってんだ。でもねぇ、谷風さん達にしてみれば、偉そうかもしれないけれど、只、「強化」するだけじゃ満足いかないのよ。」

「つまり、艤装に何かしらの「装備」を追加して欲しいって事よね………。」

「そうそう。粋な改装を、期待したいんだよねぇ。」

「……………。」

 

谷風の言葉を受け、岸波は無言になる。

搭載可能な装備を追加するというのは、艤装を強化する事よりも数倍は難しい。

何せ艤装その物に、装備追加用の空間やネジ穴等を追加しないといけないし、総合的なバランスも見直さないといけない。

更に言えば、第十七駆逐隊の艤装は、全員がバラバラの作りをしている為、ほとんど応用が効かない。

根本的に強化をする事は、根本的に艤装を作り直す事に匹敵する事だと、岸波はこれまでの修行の中で思っていた。

 

「浦風、谷風………悪いけれど、これは私の手に負える物では無いわ。頼むならば師匠に………。」

「時間が掛かってもええ。うち達は、岸波に改装を頼みたいんじゃ。」

「でも………。」

「沖波の件………うち達は、自分達の不甲斐なさを岸波達のせいにしとった。」

 

浦風は僅かに俯きながら、悔しそうに呟く。

谷風も頭をかくと、肩を落とす。

 

「情けないねぇ………。あの時、海戦での判断能力すら鈍ってたのに………。」

「それは貴女達のせいでは無いわ。沖姉に命令したのは………。」

「そうさせたのは、5人全員の実力不足だからだよ。」

「……………。」

 

岸波、磯風、浜風、浦風、谷風。

沖波を捨て艦にした責任は、あの場にいた5人全てにある。

そう谷風達は、言いたかったのだ。

 

「もう繰り返しとうないなぁ、うち達も同じだ。じゃけぇ、岸波………われに頼みたいんじゃ。」

「谷風さん達と同じ想いを持っている岸波だからこそ、頼みたい………。いや、岸波じゃなきゃ、ダメなんだ。」

「浦風………谷風………。」

『頼む!』

 

頭を思いっきり下げた2人の家族を見て、岸波は感じる。

守る為の力が欲しいのは、誰だって変わらないのだと。

その2人の熱意を改めて受け取った岸波は、明石を見る。

 

「師匠………やってみてもいいでしょうか?」

「多分、最初は失敗ばかりだと思うわよ?それでもいいなら………ね。」

「構わん!何百回だって付き合うさ!」

「沖波や浜風の辛さに比べれば、余裕よ!」

「じゃあ………やってごらんなさい。」

「ありがとうございます!」

 

優しく語り掛けた明石の言葉を受けて、岸波は改めて2人の艤装を見てみる。

元々バランスの悪い重武装であるのが、第十七駆逐隊の艤装の特徴だ。

逆に言えば元々の体積が大きい分、拡張性はあるとも言えた。

岸波はじっと、その艤装を見つめ………そして、おもむろに山風と初霜を呼び寄せて、何か相談をする。

そして………。

 

「難しい改装だけれど………こういうのはどうかしら?」

 

その話を聞いた、浦風と谷風の目が見開かれる。

彼女達は、たちまち笑顔になった。

 

「そがいな事が可能なのか!?岸波、天才じゃ!?」

「勿論、最初は文字通り、何百回も失敗すると思うけれど………。」

「構わないさ!谷風さん達もとことん付き合うから、思う存分、やってくれい!」

「分かったわ。じゃあ………早速始めるわよ!」

 

握り拳を作って喜んだ2人と、固く握手をした岸波は、腕まくりをして艤装に必要なパーツのリストを作っていく。

浦風と谷風にとって、大きな一歩を踏み出す為の、改装が始まった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「雪………か………。」

 

横須賀では、共同墓地で初雪が、空から降る白い結晶を眺めていた。

彼女は、自分の友の3人の墓に献花をしていた。

更に、普段は磯風が代わりにやっているという、第二十六駆逐隊関連の墓への献花も同時に行っていく。

「第2代宿毛湾泊地提督」、「初代薄雲」、そして「初代沖波」………。

これまでに、磯風から、岸波達の軌跡を聞いていた初雪は、感慨深い物を覚えながら、手を合わせて行く。

 

「そう言えばこの墓地………「あの3人」の墓もあるのかな………?」

 

思い出したように初雪は、共同墓地の中を歩いていく。

彼女の思い描いた3人は、友の事では無い。

墓の中を進んでいった彼女は………その墓と、献花をしている艦娘に出会った。

 

「電………。」

「あ………初雪ちゃんも、お墓参りなのですか?」

 

小柄な………しかし、「初期艦」の称号を持った熟練の駆逐艦娘は、少しだけ笑みを浮かべて、初雪を見た。

初雪にしてみれば、電は、吹雪と同じく顔見知りの関係だ。

しかし………その「特殊な経歴」故に、古参の艦娘ほど、彼女には近寄りがたい雰囲気を持っていた。

同期に近い艦娘で普通に接する事が出来るのは、第六駆逐隊の仲間や、叢雲や漣と言った………同じ「初期艦」の称号を持つ者くらいであろうか?

だからこそ………敢えて初雪は、踏み込んでみた。

 

「電………3人の事、忘れられないの?」

「………忘れられるわけ無いのです。」

「そうだよね………電にとっても仲間だから………。」

「違うのです。」

 

電の絞り出すような言葉を受けて、初雪は彼女の目を見る。

その目からは、光が無くなっていた。

彼女は、悲しそうに笑みを見せながら呟いた。

 

「電は………忘れるわけにはいかないのです。だって………恨まれているのですから。」

「電………。」

「失礼するのです。」

 

会話を打ち切り、電は去って行ってしまう。

その普段の姿からは想像できないような寂しさを見て、初雪は白い息を吐きながら、3つの墓を見上げて、静かに手を合わせる。

その墓標にはこう書いてあった。

「初代睦月」、「初代時雨」、「初代大潮」と。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「雪………か………。この佐世保では珍しいのう。」

 

佐世保鎮守府近海では、初春が白い息を吐き、風流だと思いながら、空を見上げていた。

今年は寒い冬が訪れるのかと思った中、電探ではしゃぐ声が聞こえてくる。

 

「わーい、雪だー!」

「ふにゃー!雪だー!」

 

後ろを見れば、子日と文月が揃って騒いでいた。

陣形が乱れているので、思わずその後ろの若葉が注意を促す。

 

「はしゃぎ過ぎだ、陣形を戻せ。」

「まあ………たまにはいいじゃないか。子日はともかく、文月は久々に第二十二駆逐隊が揃ったからテンションが上がっているんだろうし。」

 

そう声を掛けるのは、若葉の後ろにいる長月だ。

彼女の後ろには、青色のショートカットを右側のもみあげ付近のみを長く伸ばしたアシンメトリーな髪型の艦娘と、膝まである長く癖っぽい金髪の艦娘が並んで笑っている。

彼女達が、南へ出張していた水無月と皐月だ。

 

「さっちんと、この季節に戻れてラッキーかな?水無月、南だと雪は見られないもの。」

「ボクも!………でも、幌筵を思い出してちょっと嫌かなー………。」

 

それぞれが、感想を漏らす中………先頭にいた初春が空を見上げて眉を潜める。

 

「何じゃ………アレは………?」

「え?」

 

初春が空に、大量の点を発見する。

子日がすかさず、双眼望遠鏡(メガネ)を掛けて空を見上げる。

そしてギョッとした。

大量の羽虫と鬼火の攻撃機が、迫ってきているのだ。

 

「複数種類の敵機だよ!?狙いは佐世保鎮守府だよね!?」

「すぐに、涼月を始めとした防衛組に伝えるんじゃ!わらわ達も、輪形陣で少しでも撃ち落とすぞ!」

「よーし!ボクが、世界一の「懐刀」としての力、見せてあげる!」

「水無月はえーっと………まだ、世界一の要素見付けて無い!?」

「言うとる場合か!?はよ、輪形陣に………!?」

「待て!?海からも、何か近づいてくるぞ!?」

 

長月の言葉で、初春達は反応する。

雪の中を敵艦が近づいて来ていたのだ。

そして………。

 

「アレは………!?」

 

その姿を見た7人は、思わず驚愕した。




章と章の間を挟む、間章とも言える今回の話になりました。
色々と、今後に向けての伏線を撒き散らしています。
特に、浦風と谷風に関しては、年末の強化がヒントになっています。
只、磯風と浜風の強化に比べると、方向性がかなり違うと思ったので、今回の流れです。
そして、電が献花をしていた墓の3人の名前。
艦これに詳しい方ならば、ピンとくるかもしれませんね。
次回から、新章突入です。
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