艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第91話 ~飛行機の旅~

「こ、これが空港か………。何ていうか、凄く広い所だな………。」

「羽田はもっと広いから、覚悟しておいた方がいいわよ?」

 

単冠湾泊地を南下し、本土………北海道に上陸した磯風達は、提督である陽炎を出迎えに来た車や、艤装等を運搬するトラックと合流する事になった。

そして、近くの空港へと走っていき、夕方前には着く事になる。

当然ながら、磯風や春風は、空港に来るのは初めてだ。

だから、その大きさには思わず面食らう事になってしまった。

 

「か、陽炎は乗った事があるのか?」

「提督は、たまに東京で会議に参加しないといけないの。だから、何度か乗っているわ。」「そう言えば………五月雨さんを、連れて行った事もありましたよね。」

「うん、だから私も飛行機は初めてじゃないよ?」

 

空港のロビーを堂々と進んでいく陽炎や五月雨を追いかける形になった磯風達は、思わず周りの視線が気になった。

市民達が、自分達を艦娘だと分かっているのかは謎だが、順番を無視して、フリーパスで訳の分からないゲート等を潜り抜けて行く姿を見たら、それは違和感を覚えるだろう。

とりあえず、先頭の2人にならって、失礼しますと、挨拶をして飛行機へと乗る。

席に座ってシートベルトのような物を付けた上で、周りに関係者以外いない事を確認した磯風は、静かな声で陽炎に問う。

 

「艤装は?」

「荷物として別の場所に運ばれて行くわ。それと、今回の攻勢作戦に付いての簡単な概要を話すわね。」

 

陽炎が、佐世保での簡単な艦娘達の役割を説明する。

気軽そうに振る舞いながらも、真剣な言葉を受けて、磯風と春風は身構える。

 

「今回、敵艦が、大量の攻撃機を飛ばせる関係で、呉と舞鶴からは、ほとんど戦力を派遣出来ないわ。防衛に必要な艦娘を確保しておきたいもの。」

「確かに………しかし、厳しいな。」

「その代わり、佐世保に飛龍さんがいる関係で、呉から蒼龍さんが十九駆逐隊を護衛にしながら来てくれるそうよ。二航戦が揃うのは有り難いわね。」

 

赤城と加賀の一航戦や、翔鶴と瑞鶴の五航戦と同じように、有名なコンビが飛龍と蒼龍の二航戦だ。

気心の知れた空母2人がいるのは、防衛や索敵、攻撃面等、様々な面で有り難かった。

また、磯風や春風にしてみれば、佐伯湾泊地で共に戦った、敷波や綾波のいる十九駆逐隊が来てくれるのも、嬉しい情報であった。

陽炎の説明は、まだ続く。

 

「その分、横須賀から、対空砲火に優れる摩耶さんと、相棒の鳥海さんが派遣される。後は、駆逐隊が複数参加する事になってるわ。」

「全員対空砲火を重視した防衛用か?駆逐艦ばかりなのは、正直………。」

「以前、鹿屋基地付近で戦った、深海如月との戦いを教訓にした結果よ。佐世保には、高速戦艦の金剛型や、重巡の妙高型が揃っているけれど、その速力でも駆逐艦の深海棲艦には付いていけなかったでしょ?」

「確かに………。」

 

如月の力を取り込んだ深海如月との戦いでは、夜戦だった事もあって、1隻に翻弄されてしまった。

その反省を活かす為に、横須賀からの援軍は、思い切って機動力を重視したらしい。

 

「とりあえず、昼は金剛さん達や妙高さん達に任せて、夜は駆逐艦を中心に揃えて行くってわけ。電話だと川内さんが、腕が鳴るって言ってたらしいわ。」

 

軽巡であり、佐世保の水雷戦隊のボスである川内にしてみれば、腕の見せ所だろう。

実際、陽炎にとっても、ベテランの軽巡である川内は、有り難い存在であった。

 

「他に、質問はある?」

「………作戦参加メンバーに、大潮や電はいるのか?」

「いるわ。第八駆逐隊や第六駆逐隊もね。他に、吹雪や漣、叢雲もいるから、初期艦は全員揃うわね。」

「そうか………。」

 

初期艦を名乗った敵艦の内の1隻であり、攻撃機を飛ばしている大潮に瓜二つの深海棲艦。

睦月や時雨を模した敵艦と同じく、電に復讐する事を目的としていた。

その舞台に、役者と思われる艦娘は、全員連れて行くらしい。

 

「陽炎、もう1つ聞いてもいいか?あの初期艦を名乗る3隻は、何者なのだ?何故、電を恨んでいる?提督なのだから、知っているのだろう?」

「そうね………でも、悪いけど言えないわ。」

「五月雨は………知っているのか?」

「私を含めた初期艦のみんなや、初雪ちゃんくらいまで古参の艦娘は、初期艦睦月、初期艦大潮、初期艦時雨を、知っているよ。でも………ごめんね、私からも言えない。」

 

深く考え込む仕草を見せる陽炎や、少し悲しそうに笑みを浮かべる五月雨を見て、磯風達は思考を巡らせる。

言えない理由があるとすれば、それは………。

 

「電の口から、直接言わなければならないという事か………。」

「それもあるけれど………、本当に3人が、私達の思い描いた存在なのか、確認が取れていないから。」

「……………。」

 

磯風達は悟る。

どうやら、今回の件に関しては、内容を話すには、かなり慎重にならないといけない事柄であるらしい。

こうなっては仕方ないので、磯風は、一生に何回乗れるか分からない飛行機の乗り心地を体験しておこうと決める。

春風も同じように、静かに佇もうとする………が。

 

「ああ、そうそう。そろそろ飛ぶけれど………離陸時と着陸時は、慣れないと辛い場合があるから気を付けてね。」

「何………?」

「はい………?」

 

その直後、2人は初めて、飛行機の乗り心地を体験する事になる。

海を駆ける時とは違う、身体が不気味に浮き上がるような感覚は………しばらくトラウマになった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「つ、着いたか………。何だ?あの飛行機という乗り物は………?」

「まだ半分よ。今から横須賀のみんなと合流するから、しっかりしなさい。」

「は、はい………気を付け………ます………。」

 

夜も暗くなる頃、羽田へと到着した4人は、その広すぎるロビーを歩いていた。

磯風と春風は、飛行機の洗礼を浴びる事になり、しばらく空が怖くなりそうであった。

敵も味方も、航空機目線だと、あんな感じなのだろうか?と考えると、恐ろしくなってしまう。

 

「ほら、見えて来た!おーい、みんな元気にしてたー!」

「何が元気よ………。こっちは大変だったんだから………。」

 

敢えて明るく手を振る陽炎であったが、飛行機に乗る前から疲れ果てた様子で応える曙を見て、何かあったのだと察する。

そのまま挨拶もそこそこに、艦娘達の目線の先を見て驚愕する。

電が、暁と雷に、両肩を支えられた状態でゆっくりと歩いて来ていたからだ。

その姿には、いつもの優しさも初期艦としての力強さも全く見えない。

 

「電………大丈夫?」

「……………。」

「アンタ、まさか………。」

「……………。」

「声、出なくなったの………?」

『!?』

 

陽炎の言葉に、五月雨、磯風、春風は驚く。

電という艦娘の強さは、秋に嫌という程実感している。

1対4のハンデマッチを余裕で勝利に近い戦績を収め、幌筵での激戦区でも圧倒的な力量を見せつけた艦娘だ。

その電が、嘗ての磯風と同じように、トラウマから声が出なくなっている。

磯風にしてみれば、その時の恩人であっただけに、ショックが大きかった。

 

「何が………あったんだ………?」

「司令官から佐世保の現状を聞いた後、こうなっちゃったの。」

「こうなったって………あの電がだぞ!?」

「それだけ………抱えている物が大きすぎるのよ。」

「大きすぎるって………こんなに力強さが失せてしまう位にか!?」

「ええ。」

 

暁のハッキリとした物言いに、本当に過去に何があったのか、磯風は今すぐ確認を取りたくなった。

だが、初期艦の面々は、頑なに口を閉じていた。

仕方なく、初雪に聞く。

 

「初雪………電は、一体………?」

「提督は………確認を取る事が先決だって………。本当に、電の過去に関係しているかどうか………。」

「そんな………。」

「磯風………。今すぐ知りたい気持ちは分かるけど、今は電を………落ち着かせてあげよう………。」

「分かった………。」

 

一方、陽炎は摩耶と鳥海に改めて挨拶を終えた後、大潮の所に行っていた。

彼女に対して、一応確認を取っておきたかったらしい。

 

「大潮、何かモヤモヤした物を抱えさせてゴメンね。電を除けば、アンタが一番、悩んでるでしょ?」

「大丈夫です。大潮自身が「一代目の大潮」じゃない可能性は、十分に考えられる事ですから。只………やはり、電の様子は気になります。」

「仮に相手が自分に瓜二つの存在だったとして、討てる?」

「そこは大丈夫だと思いますが………。」

 

結局の所は、電次第になる………というのが、大潮の意見なのだろう。

その上で、彼女は言った。

 

「横須賀の司令官は、この状態の電でも連れていけ………と言っていました。だとしたら、今回の件は、大潮よりも電にとって、乗り越えないといけない事柄なのかもしれません。」

「確かにね………本当にゴメンね、付き合わせちゃって。」

「いえ………。」

 

頭に引っかかる物を覚えながらも、戦う決意はしてくれている大潮に安堵を覚えながら、陽炎は提督として、場の纏め役を務める。

 

「それじゃあ、行きましょうか。飛行機の旅、存分に楽しんでね!」

 

こうして艦娘達を乗せて羽田から飛行機は飛び立つ。

佐世保方面に向かう便は、横須賀の初めての面々は勿論の事、磯風や春風にとっても、また地獄のフライトとなった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

夜遅くに、陽炎達は迎えの車に乗って佐世保に着いた。

門の前には、前回の爆撃で不安になった民衆や、何処から情報を聞きつけて来たのか、カメラを沢山持ったマスコミ達が控えていた。

その前を、堂々と通過した陽炎達は、とりあえず桟橋近くまで運んでもらい、状況を確認する。

桟橋には、秋月型である涼月と共に、橙色の着物と緑の袴姿のショートヘアの女性と、緑色の着物と暗緑色の袴の短いツインテールの女性が敬礼をして待っていた。

彼女達が二航戦の飛龍と蒼龍だ。

 

「お疲れ様、涼月。夜遅くに悪いわね。」

「いえ………わざわざ陽炎さん………提督の手を煩わせる事になってしまい、申し訳ないです。」

「やーねぇ、そんな畏まらなくてもいいわよ。飛龍さんと蒼龍さんも、夜偵による偵察ありがとうございます。」

「陽炎提督、私達より立場は上なんですから、遠慮なく命令してくださいよ!」

「そうそう!街と人々と鎮守府を守るのも役目ですが、提督を守るのも使命ですから!」

「もう………からかわないでください。でも、今回は頼りにさせて貰いますよ!」

 

そう言うと、陽炎はトラックに乗って来た横須賀の工廠(こうしょう)の関係者に指示を出し、艤装を降ろして貰う。

降ろされた艤装を、艦娘達は順番に装着していき、陽炎もまた同じように装備する。

磯風達もそれに習って艤装を付けていると、庁舎の方から秘書艦の菊月、如月、巻波が走って来た。

先頭の菊月を始め、3人が同じように敬礼をする。

 

「陽炎提督!待っていました!」

「ねー、みんな………。普通に私の事は、呼び捨てでいいって。こっちのペースが乱れるから。」

「分かった、じゃあ陽炎。佐世保の面々は全員、事前連絡通り、庁舎前に並べた。」

「ありがと。………アンタも大変だったでしょ?挨拶が終わったら、少し眠っていいから。」

「………すまない。だが、姉貴達が助けてくれたから、まだまだ大丈夫だ!」

「いい姉妹を持ったわね。流石、睦月型。」

 

陽炎はそう言うと、対空砲火に優れる摩耶と、相棒の鳥海を、その場に待機させて、庁舎へと向かう。

磯風は、如月と巻波と話をして、襲撃に関する情報を纏めながら、彼女に聞く。

 

「演説でもするのか?」

「まあ、まずは士気を高める為にね。………というか、相手側に先手を取られた以上、大根役者でも、それなりの振る舞いをしなければ、外の市民とマスコミが納得しないわ。」

「成程な………。」

 

今よりも戦況が悪い時であったが、初雪の昔話だと、市民が暴徒と化した事があった。

陽炎はそれを防ぐ為に、敢えて大仰な事を言ってのけるつもりなのだ。

但し、それは諸刃の剣になる。

失敗した時の反動は、凄まじく大きいだろう。

 

「陽炎………無茶はするなよ。」

「悪いけど、今回は無茶をするわ。だから、いざという時は宜しくね。」

 

陽炎は、隣に立って話しかけて来る磯風に、敢えて笑みを見せると、庁舎の前へと進んで行った。




今回の話は、海を駆ける艦娘が、空を飛ぶ飛行機に乗るという奇妙な構図になりました。
私個人の話ですが、あの独特の浮遊感は中々慣れない物です。
多分、初めて乗る方は感じる傾向が強いと思ったので、こんな話に………。
電のトラウマに関しては、しばらくお待ちください。
喋れなくなる位には、衝撃的な物を抱えている予定ですので………。
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