艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第92話 ~陽炎推参~

「こ、これは………!?」

 

庁舎の前まで来た磯風は、その雰囲気に思わず呑まれそうになる。

そこには、佐世保の艦娘達や、呉から来た第十九駆逐隊が、皆、真剣な顔で、代理提督である陽炎を待っていた。

彼女達の前には、ひな壇が設けられており、その上に、マイクが堂々と立てられていた。

 

「舞台としては、十分かしらねぇ。」

 

呑気にそう言いながら、五月雨と磯風に頼んで、マイクの高さ等を調整して貰った陽炎は、ひな壇の上に立ち、こちらを真剣に見つめる艦娘達を見渡した。

皆、艤装を装着しており、いつでも抜錨できる体勢だ。

これだけの艦娘達が陽炎に期待している………そう考えると、磯風は思わずネームシップの名前を持つとはいえ、姉艦が心配になってしまった。

だが、そうしている内に、横須賀から来た駆逐艦娘達も並び終わったので、演説が始まる。

 

「あー、マイク、テステス。………初めての人は初めまして!ほとんどのみんなは、久しぶりかな!」

 

そんな軽い挨拶をして手を振った陽炎は、敢えて鎮守府の外………不安な市民や、興味を持っているマスコミを相手に会話をする。

 

「まずは、この場に集まった市民の皆様、マスコミの皆様、夜間遅くに申し訳ありません。この度、到着が遅れた事を謝罪させて下さい。」

 

一応、外に頭を下げる事で、礼をする陽炎。

如月達との会話で分かった事だが、実は、今回の演説は、事前連絡をして磯波達、第十九駆逐隊に、カメラやビデオを回して貰い、市民やマスコミの要求を叶える事で、とりあえずの不満を抑える役目を果たして貰っているらしい。

今頃、門の外では、マスコミ達は映像の編集の為に、大忙しであろう。

 

「さて、皆様。艦娘が提督という重要な職を担う事になって、不安を抱いている方も多いとは思います。でも、ご安心下さい。この陽炎、泊地にてしっかりと提督としての経験を積んでいます!」

 

少しずつ語気を強めていく陽炎の姿を見て、磯風は思わず熱い物を感じる。

ここまでしっかりとした姿を見て、陽炎型ネームシップの名は、伊達では無いと感じた。

陽炎の大仰な演説は続く。

 

「更に、私は横須賀、呉、そしてこの佐世保と秘書艦の経験も務めた経験があります!その為、その重要な役職の重大さは噛みしめています!勿論、私達を支援して下さる佐世保の人々の優しさも身に染みる程、感じています!」

 

明らかに対外的な演説になりつつあったが、もしかしたら、それが陽炎の狙いなのかもしれないと磯風は思った。

同時に、この姉艦は強いのだな………と痛感した。

これが提督としての経験を積んだ者だけが得られる、信念なのかもしれないと。

 

「我々艦娘にとって、佐世保の皆様は家族同然です!故に!何があっても、深海棲艦の毒牙から、皆様を守り抜く事をこの場で誓います!この陽炎………絶対に逃げ出しはしません!どれだけ傷ついても!大切な地である佐世保は………やらせはしません!!」

 

門の外から、歓声が響くのが分かった。

陽炎の力強い言葉は、確実に市民達に勇気を与えている。

演説の効果は、絶大であった。

陽炎は、最後にこう言った。

 

「故に、皆様!どうか、この私に………いえ、私達に協力して下さい!食料等、何でも構いません!艦娘に戦う為の力を!鼓舞する力を!皆様の勇気を、ほんの僅かでもいいから、分けて下さい!宜しくお願いします!!」

 

更に大きな歓声が沸いた。

爆撃の影響で、食料の供給が上手くいっていないのは事実なので、陽炎はこう言う事で、市民からの協力も得たのだ。

上手い演説だと磯風は、本当に感心させられた。

しかし、陽炎がマイクを降ろし、再び外に礼をした所で、磯波達がカメラやビデオを止める。

同時に、陽炎が何か手で艦娘達にサインを出した。

それは、よく艦娘達の間で使われる、彼女達だけに通じる電探のチャンネルを開いて欲しいというサインであった。

 

(艦娘だけに言いたい事がある………?)

 

磯風を始め、艦娘達はすぐさま電探のチャンネルを合わせていく。

全員と通信が取れるようになった所で、陽炎は、再び彼女達だけに聞こえる声量で言う。

 

「あー、マイク、テステス。………どう?私の一世一代の大根役者っぷりは?」

「建前はよく分かったわ。………で、本音は?」

「ぶっちゃけると、吐きそう。」

「一言目がそれ………?」

 

曙のツッコみを受けて、陽炎は本当に軽く肩を落として言う。

だが、冷静に考えれば、沢山の守るべき市民達の前で、失敗が許されないような発言を、堂々と言ってのけたのだ。

磯風は、単冠湾泊地で陽炎が、震えていたのを思い出す。

無茶をして、精神的に参らない艦娘がいないわけが無いのだ。

 

「外にいるみんなの為に、あんな大仰な事言ったけど、今からみんなだけに正直に言うわね。私のやって来た事なんて、細々と泊地を管理する事だけよ。」

「まあ………艦娘が提督代理をして大規模攻勢を行うなんて、前代未聞よねぇ。」

「秘書艦経験のある叢雲も、やった事は無いんでしょ?」

「ええ。………大丈夫なわけ無いわよね。」

 

最後だけ、少し心配するような叢雲の言葉に、陽炎は素直に頷く。

正直、ぶっつけ本番で上手くいくとは思えなかった。

だが、やらなければ佐世保が火の海になるのだから、やらなければならない。

理不尽かもしれないが、それが陽炎に与えられた使命なのだから。

 

「提督を替われ!って駄々をこねるつもりは無いわ。でも、私1人じゃ力不足なのは、事実よ。だから、みんなにお願いがあるの。」

「ボク達にお願い?」

「そう………助けて欲しいの、こんな情けない提督を。」

「具体的にはどんな形で?」

「まず、料理の上手な人は、栄養のある食事を作って欲しい。頭が回る人は、参謀に立候補して欲しい。励まし上手の人は、私をおだてて欲しい。子守歌が上手な人は、ぐっすり眠れるように枕元で歌って欲しい。踊りの得意な人は、執務室で元気の出るダンスを………。」

「何か滅茶苦茶じゃない?」

 

皐月が思わずやれやれといった仕草を見せる中で、陽炎は、まあね………と答えながらも、ハッキリと言う。

 

「とにかく、どんな形でもいいから、私に勇気を分けて欲しいの。その代わり、私はみんなを沈めないように、善処するわ。」

「成程………皆で、陽炎を支えるという事か。」

「多分、佐世保の提督がいない事で、みんな不安だと思うし、怖いと思う。その代理を私が務められるとは、到底思っていない。でも………。」

「信じて欲しい。………そう言いたいんだろ?」

「そう。すぐには納得出来ないだろうけれど………。」

 

長月の言葉に、陽炎は少し寂しい笑みを浮かべる。

代理提督の為に命を賭けられるかと言われれば、すぐには無理だろう。

だからこそ、一瞬、皆が静まり返った。

しかし………。

 

「………陽炎提督、万歳!」

「え、金剛さん………?」

 

そこで、高速戦艦である金剛が右手を突き上げながら、敢えて周りに聞こえるように、大声で音頭を取り始めた。

彼女は後ろを見渡す。

その意図を感じたのか、比叡、榛名、霧島の3人も笑みを浮かべ、同じように音頭を取る。

 

『陽炎提督、万歳!』

「……………。」

『陽炎提督、万歳!』

 

更に音頭は妙高型重巡洋艦の4人にも広まり、軽巡の川内や夕張や、軽空母の瑞鳳にも広まっていった。

自分よりも大人である艦娘達が積極的に音頭を取る姿を見て、駆逐艦達も勇気を貰ったかのように、右手を突き上げ、大声で音頭を取り始める。

 

『陽炎提督、万歳!』

『万歳!』

『万歳っ!!』

「ええっと、あの………。」

「最高ですヨ、陽炎。貴女は貴女の思っている以上ニ。」

「金剛さん………。」

 

音頭が何度も響き渡る中、笑顔になりながら、電探で金剛が話しかけてきてくれた。

もしかすれば、佐世保の決戦兵器となっている彼女は、提督の立場を背負う陽炎と、似たような視点を持ち合わせてくれているのかもしれない。

 

「困ったら、私達を遠慮なく頼って下さい!その為の仲間デス!」

「………はい!」

 

陽炎はそう言うと、同じく右手を突き上げて叫んだ。

 

「全艦!この佐世保を、絶対に守り抜くわよ!!」

『おーーーっ!!』

 

艦娘提督の攻勢作戦が、この時より、本格的に始まる事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「敵艦の攻勢は、夜の可能性が高い?」

「あくまで、可能性だけれどね。レ級は、夜でも攻撃機を飛ばせるでしょ?」

「深海初代大潮………と言えばいいか?その敵艦も夜に攻撃機を飛ばせると思うのか?」

「その3隻が、鬼クラスや姫クラスの性能を備えているのならば、可能な気がするのよ。」

 

次の日の昼、執務室にて、陽炎は今までの資料を参考にしつつ、磯風を始めとした第二十五駆逐隊に伝えていた。

確かに、鬼クラスや姫クラスの空母系は、夜間も攻撃機を平然と飛ばしてくる艦種が多い。

そこまで予想をした上で、相手の旗艦が駆逐艦だという事を考えると、夜戦を仕掛けて来る可能性が高いと踏んだのだ。

 

「勿論、初春達の時の事を考えると、昼に仕掛けて来る可能性も否定できないわ。でも、相手だって、今度は金剛型や妙高型といった重火力と重装甲が来る事は分かってるんだから、最大限の力を発揮できる夜を選ぶ可能性が高い。」

 

どうせ戦うのならば、自分達の出来る限り有利な場で戦いたいというのは、艦娘も深海棲艦も同じである。

この経験は、以前、鹿屋基地付近に、深海如月が襲って来た時の事も生きてきていた。

基本、駆逐艦は夜戦が好きなのだと。

 

「ではなんだ?磯風達は、夜に備えればいいという事か?」

「あ、ゴメン。悪いけど、艦隊の負傷具合によって、昼と夜、どっちに回すかは違ってくるから、上手く睡眠を取って欲しいの。」

「大規模攻勢作戦の宿命とはいえ………仕方ないか。」

 

四六時中敵が襲ってくる可能性がある為、艦娘達は常に出撃に備えなければならない。

場合によっては寝間着に着替えずに、制服のまま寝床に入る艦娘もいる程だ。

それだけ、緊迫した状況であったのだ。

 

「鎮守府の防衛は、昼は摩耶さん、夜は涼月や文月を筆頭にメンバーを選んで貰うから、磯風は、とりあえずは、どちらでも加勢出来るようにして欲しいわね。」

「つまり………しばらくの間、磯風は第二十五駆逐隊の旗艦を外れて貰うと………。」

「これも、大規模攻勢作戦の宿命よ。………アンタの対空能力は、摩耶さんも褒めているんだから。」

 

乙改の改装をした磯風の対空迎撃能力は、今までの戦いでも切り札になって来た。

だからこそ、陽炎は彼女を今の所は、鎮守府に残しておきたかったのだ。

 

「とにかく、情報が少ないわ。まずは、敵の寝床が何処にあるのか探さないと。それまでは、川内さんも待機して貰う予定。」

「夜間に、駆逐艦だけで探すわけか。」

「そう。艦隊を3つ作ってね。………で、その内の1つの旗艦をお願いしたいんだけど。」

 

陽炎の視線が、とある艦娘に向く。

それに合わせて、磯風達の視線も集中した。

………最後尾に控えていた、初雪に。

 

「え………?冗談だよね………?」

「大丈夫!残り2つの旗艦は、敷波と海風だから!ガチンコで殴り合った者同士、連携は取りやすいでしょ!」

「………この提督、鬼だ。」

 

一応、初雪は経歴から、第二十五駆逐隊の補佐に磯風から指名されていた。

だが………だからと言って、いきなり旗艦代理を任される羽目になるなんて、思っていなかった。

 

「嫌ならば無理強いはしないけど………。」

「はぁ………いいよ、どうせ行くのは変わらないんだし。」

「本当!ありがと、初雪!」

 

笑顔で手を握って来る陽炎を見て、初雪は、陽炎型はこんな艦娘が多いのかな?と疑問に思った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その日の夜、桟橋に並んだ18人の艦娘を、陽炎と磯風は送り出す事になる。

中央の臨時第一艦隊が、初雪、春風、如月、巻波、睦月、皐月。

右翼の臨時第二艦隊が、敷波、綾波、磯波、浦波、白露、時雨。

左翼の臨時第三艦隊が、海風、江風、親潮、大潮、荒潮、満潮。

この3つの艦隊で、敵の出所を探る事になっていた。

見つけ次第、綾波の探照灯と、磯波と浦波のカメラで敵艦の姿を撮る事になっている。

 

「また、こういう形で………肩を並べるなんて思わなかった………。」

「それはアタシの台詞だって!陽炎、何か恨みでもある!?」

「ふふっ、これも何かの因果なのかもしれないわね。」

 

旗艦3人が、三者三様の感想をもたらす中、陽炎と磯風が注意を促す。

 

「いい、あくまで偵察だって事、忘れないでね。」

「不味くなったら、迷わず撤退してくれ。」

「分かってる………。とにかく、何とかやってみる………よ。」

 

そう答えた初雪を筆頭に、駆逐艦娘達は抜錨していく。

 

「臨時第一艦隊………抜錨!」

「臨時第二艦隊、出るよ!」

「臨時第三艦隊も、行きます!」

 

初雪、敷波、海風の号令と共に、駆逐艦達は、夜の沖合に抜錨をしていった。




岸波編で、彼女の憧れの存在として語られていた陽炎。
その名前が92話に来て、ようやくサブタイトルになりました。
冷静に考えれば、艦娘が鎮守府の提督代理になるなんて、前代未聞の出来事です。
しかし、ネームシップである彼女ならば、やってのけると思ったのでこの配役でした。
今回留守番になった磯風は、対空砲火にとても優れるステータスです。
なので、鎮守府防衛戦になった場合は、これが正しい運用方法かもしれません。
思えば、今までもその対空迎撃能力で、皆を救ってきましたからね。
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