冬の夜の佐世保の沖合は肌寒く、南方であるにも関わらず、雪がちらついていた。
この調子だと、北方は降雪量が今年は多いだろう。
その中を注意深く航行しながら、初雪達は会話をして役割を確認する。
ちなみに、敵に傍受される可能性があるので、電探は使っていない。
「対空砲火は………皐月が得意だから、最悪の場合は私達を中心とした輪形陣で。………と言っても、本土で涼月や文月、磯風が待機してくれているから………そこまで気にする必要は無いけど………。」
「こっちは撮影があるから、探照灯役の綾波、カメラ役の磯波と浦波はあまり突撃させられないかな?」
「磯波はともかく、浦波も自前のカメラを持ってるのね?」
「一応あるにはあるんですが、そこまで高価な物じゃないので、青葉さんに借りたんです。………だから、壊したら雷が落ちるので、なるべく無茶は勘弁して下さい。」
「あ、ごめんなさい。とりあえず、今の内にご飯食べる?江風達と、おにぎり握って来たの。」
海風の提案で、海上で艦娘達は食事を取る。
初雪はツナのおにぎりを頬張りながら、ソナーを働かせて、更に空を見上げる。
今の所、水母棲姫の時のように、潜水艦が近くにいる気配は無い。
敵の偵察機や攻撃機が、空を飛ぶ気配も無かった。
完全に敵の本隊は、身を潜めている状態であった。
「下手に自分の居所をばらす真似はしない………か。」
「そう言えば………初雪は、電と、大潮達を模しているとされる深海棲艦達の過去を知っているんですよね?」
質問は、大潮から来た。
その言葉を受け、関係者である睦月と時雨も興味を示す。
初雪は振り返らずに、正直に答えた。
「端的には知ってる………。只、私の口から言えるような物じゃないよ………。」
「うーん、正直、睦月達にしてみれば、引っ掛かるものが多いのです。」
「僕も。あの電が、喋れなくなる位に衝撃を受ける出来事なのも、引っ掛かるし………。」
「朝潮、電………まだ、喋れなくなったままなの?」
時雨の言葉を受けて、初雪が質問で返す。
出撃前は、第六駆逐隊や第八駆逐隊の面々が様子を見てくれていた。
だから朝潮に、初雪は確認を取るが、帰って来た答えは、あまり良い答えでは無かった。
「今は………寝込んでしまっているわ。事情を知っている第六駆逐隊の面々も、その様子を見て非常に辛そうだった。」
「そっか………。」
電が本調子ではない以上、今は、出撃の強要は出来ないだろう。
只、向き合わなければならない時が近いのは、事実であった。
「それにしても、静かね。夜の海って感じだわ。」
「そうだね………静かすぎる程にね。」
「……………。」
先頭の3人は、呑気そうに言葉を発しながら………後ろに目を向ける。
艦娘の直感と言えばいいだろうか………誰もが、静かに武装の状態を確認し、電探を起動させた。
最初に気付いたのは、左翼の艦隊にいた江風であった。
「姉貴!後期型フラッグシップナ級Ⅱ2隻!軽巡フラッグシップト級2隻!重巡フラッグシップリ級改2隻!複縦陣だ!」
「向こうも速力重視の夜戦特化型!?各艦隊、取舵!」
「江風………!そのままソナーと電探を欠かさないで………!戦力の逐一投入をしてくるとは思えない!まだいる………!」
そう初雪が更なる警戒を呼び掛けた時であった。
敵艦隊の更なる遠方から、強力な砲撃が幾つも飛んで来る。
「当たりだ!エリート級戦艦レ級4隻!フラッグシップ級戦艦タ級2隻!フラッグシップ級ネ級4隻!浮遊要塞5機!それぞれ、単縦陣3つで………アンノウンが率いている!」
「ちょっと、アンノウンって何!?例の3隻!?」
「もっと、近寄らねえと分かンねえ!」
満潮の苦情に江風が回答をしながら、武装を水中に向ける。
後期型ナ級Ⅱは、先制雷撃を使ってくる。
一応、レ級も先制雷撃は使えるのだが、味方に当てる真似は流石にしないので、今は控えている状態だ。
「突破するしか無いですねぇ………。まずは、魚雷を撃ち落としましょうか!」
「初雪、海風!まず、アタシ達が前に出るよ!」
敷波率いる臨時第二艦隊が砲火の中を前に出る。
レ級達の砲撃は脅威だったが、遠くにいる分、まだそこまでの正確性は無く、回避する余裕があった。
後期型ナ級Ⅱ2隻が、面舵で横を向き、背部に備え付けられた4連装の魚雷を一斉に撃ち出してくる。
8本の雷撃が、初雪達の艦隊へと近づいて来た。
「来るよ!綾波!磯波!浦波!」
「では………、「ソロモンの鬼神」の力、見せましょう!」
各自が真剣な顔をする中、綾波だけは何と、迫りくる魚雷を前に不敵な笑みを浮かべていた。
そして、彼女は水中に両手の連装砲を1回ずつ砲撃すると、一気に2本の魚雷を起爆させる。
「よく、そんな正確な砲撃が出来るよ………ね!」
「敷波ちゃん、そういうのは後で!」
「叩き落とします!」
敷波は両手の連装砲を連射して、何とか2本の魚雷を起爆させる。
磯波は高射装置を水中に連射する事で、更に2本。
浦波が主砲で1本。
その間に、綾波は最後の1本も起爆させた。
「白露、僕たちは突撃しよう!」
「了解!いっちばーんに、撃沈しちゃうよ!」
時雨と白露は蛇行しながら、後期型ナ級Ⅱに一気に近づいていく。
ト級とリ級改がそれぞれ魚雷を放つが、今度は回避運動を取りながらなので避けられた。
そのまま離脱を図ろうとするナ級の後ろに迫り、2人は魚雷を1本ずつ放ち、しっかりと命中させて爆散させる。
「臨時第三艦隊、ト級とリ級改を狙います!」
海風と江風が、ト級の1隻に対して、砲撃を放つ。
ト級は海風に砲撃をばらつかせるが、その分、江風が肉薄する隙が出来た。
「沈ンじゃえよ!」
そのまま連装砲をぶっ放して、ト級を貫く。
更に、もう1隻のト級に対しては、第八駆逐隊の4人が、スピードを活かし、包囲して四方八方から砲撃を放つ。
「あらあら~、背中が丸見えよ!」
最後は大潮を狙おうとした所で、荒潮の魚雷を背中から受けて爆発した。
そして、そのままリ級改も狙おうとする一行であったが………。
「ストップ!レ級の魚雷が来るわよ!」
注意深く奥に控える敵艦の様子を見ていた満潮の警告で、臨時第三艦隊の3人が一斉に下がる。
見れば、レ級達が扇状に時間差で魚雷の束を放っており、艦娘達を狙っていた。
素早く単縦陣に戻った一同の判断で、回避には成功するが、リ級改達は、その隙に離れて砲撃と魚雷を更に放って来る。
「臨時第一艦隊………突撃!」
ここで、今度は臨時第三艦隊と入れ替わりで、初雪達が前に出る。
皐月が「25mm三連装機銃 集中配備」の高威力の機銃装備を水中に向けて、魚雷を一気に破壊していく。
「今の内に!やっちゃってよ!」
「りょうかーい!初雪さん!私は如月と右側を!」
「では、わたくしは初雪さんと左側のリ級改を!」
艦隊が生きているように分かれ、第二十五駆逐隊で鍛えた4人が突っ込んでいく。
その後ろから、睦月が夾叉弾を連続で放ち、2隻のリ級改の動きを封じる。
「便利な時代になったよね………ホント!」
ヤケクソになった敵艦の砲撃の嵐が降り注ぐ中、初雪がまず1体のリ級改に突っ込み、連装砲を顔面に叩きつける。
砲撃は腕でガードされるが、初雪の斜め後ろから、日傘を開いてバランスを取り、背面を向けた春風が4連装の魚雷を動きの止まったリ級改に叩き込んで燃え上がらせた。
「まずは1隻!」
「続いていくわよ!」
もう1隻のリ級改は、如月が両腕の主砲を連射して顔や心臓を集中的に狙っていく。
防戦一方になった敵艦に対し、素早く横に回り込んだ巻波が、8発ある魚雷の内の4発を放ち、沈めていく。
これで、前線に出ている艦隊は全滅させた。
「じゃ、敵大将の顔を拝みに行こうかね!」
「気を付けて!敵の砲撃範囲には入っているから!」
「フラッグシップ級ネ級改は、魚雷を使わない………。その分、レ級とアンノウンに注意して………!」
再び単縦陣になった18人の艦娘達が、一斉に奥の3つの艦隊へと迫る。
そして、綾波が探照灯で、先頭にいる深海棲艦達の顔を照射した。
『!?』
初春達の報告で事前に告げられていたとはいえ、事前に戦っていた皐月以外は、全員驚く事になった。
そこにいたのは、2本の角と赤い目と白い髪を持つ姫クラスであったが、佐伯湾で出会ったような深海初代艦娘とそっくりの外見であったからだ。
「僕達ヲ見タネ………。デモ電ハ、イナイミタイダ。」
1隻は、セミロングの髪を後ろで一つ三つ編みにし、先っぽを赤いリボンで括っている深海棲艦。
「電チャンハ、佐世保カナ?ジャア、爆撃スルシカ無イカニャ?」
1隻は、ショートヘアーに、憎悪に染まってなければクリっとした瞳が綺麗な深海棲艦。
「ソノ前ニ、コノ艦娘達ニ思イ知ラセテヤリマショウカ?」
1隻は、髪をツーサイドアップで纏めている。薄萌黄の髪留めのリボンで纏めている深海棲艦。
………間違いない。
「初期艦」を名乗っていた彼女達は、「深海初代時雨」、「深海初代睦月」、「深海初代大潮」と呼んでも差し支えない存在であった。
「僕達に瓜二つ………って言ってもいいね………。」
「でも、睦月達よりも少し年上かもにゃ。」
「微妙に装飾品も違っています………。」
只、睦月や大潮の言う通り、微妙に違う姿はしていた。
まず、全体的に大人っぽい姿であり、艤装は深海棲艦独特の顔で出来ていた。
深海初代時雨は、髪飾りが無かったし………深海初代睦月は、艤装に花が付いてなかったし………深海初代大潮は、古い煙突帽子を被っていた。
彼女達との交戦経験がある皐月が、初雪に聞いてくる。
「………どう、初雪?ボク達の見た3人は、電の………。」
「うん………当たりだよ。」
初雪は静かに答える。
「あの3隻は………電が最も出会いたくなかった3人だ。」
そう言う初雪の額には、いつの間にか冷や汗が滲んでいた。
――――――――――――――――――――
「……………。」
佐世保鎮守府の駆逐艦寮で眠っていた電は、夜中であるにも関わらず目が覚めて、起き上がる。
そして、自分の額に置かれているおしぼりを取ると、かなり嫌な汗をかいていた事を悟る。
(横須賀を立ってから………ずっとこんな調子なのです。)
敵艦が、自分の封印していた過去にまつわる艦娘が関係していると勘づいた瞬間、極度の精神不調と体調不良に陥ってしまい、声すら出なくなった。
そのまま佐世保に来たものの、陽炎の演説にもまともに参加できず、こうして寝込んでしまっている。
(このままではダメなのです。確かめないと………。)
意を決した電は立ち上がると、部屋を出ようとして………丁度部屋に入って来ようとした、同部屋の雷と激突する。
「うわ!?電………大丈夫なの?」
声が出なかったので、頭を下げて謝罪をしながら、電は身振り手振りで桟橋に向かいたいと伝えた。
その意図が伝わった雷は、静かに肩を抑えながら言う。
「じゃあ、まずは服を脱いで身体をしっかり拭いて、悪い汗を拭って。暁じゃないけれど、レディの嗜みよ?その後で、一緒に艤装を取りに行きましょう。」
電は少し悩んだが頷き、言われた通りに行動する。
新しい制服に着替えた彼女は、部屋の入り口で待っていてくれた雷と共に、洗濯物を、風呂場にある洗濯機に入れて、工廠(こうしょう)へと向かう。
そこでは、夕張を始めとした艦娘や技師達に心配されるが、雷が事情を説明すると艤装を渡して貰えた。
「桟橋にいる涼月達が、出撃していった駆逐隊と話をしているはずよ!」
雷から現在の状況を聞いた電は、桟橋へと走っていく。
そして………そこで、電探で状況を確認する、佐世保の防衛艦隊を見る。
涼月に文月、飛龍に蒼龍、磯風に陽炎まで居る。
「ねえ、どんな状況!?」
「雷!電………!」
磯風が2人に気付く。
走って来た電の姿に、一瞬だけ笑顔を見せて………しかし、すぐに気難しい顔をする。
その姿を見た雷が、思わず問う。
「何か………あったの?」
「初雪から………通信が来た。」
その言葉だけで、雷も電も悟ってしまう。
事態は、彼女達が最も想定したく無い方向に動いたと。
磯風は、なるべく感情を表に出さないように告げた。
「初雪、敷波、海風率いる駆逐隊が………「深海初代時雨」、「深海初代睦月」、「深海初代大潮」と交戦を開始した。」
自分に復讐する時点で、予測はしていた。
自分に復讐する時点で、予測しなければならなかった。
それでも………すぐには、全てを受け止めきれなかった。
3隻の深海棲艦は、電に対する「破壊者(デストロイヤー)」なのだと。
駆逐艦は、英語でデストロイヤーと言いますが、同時に破壊者という意味も含みます。
今回は、その二重の意味を込めて、サブタイトルを設定してみました。
深海初代艦娘達は、駆逐艦でありながら、大切な物の破壊者である。
深海棲艦である以上、当たり前ですが、駆逐艦を舐めてはいけないって事ですね。
そして、それは艦娘にも当てはまるわけで………ここが今後のポイントになります。
詳しい意味合いは、次回以降をお待ちください。