艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第95話 ~電の回想・8人の………~

磯波や浦波によって現像された写真を見ながら、磯風達は夜の桟橋に集まっていた。

その深海棲艦の正体を映したものは、電達にも配られており、陽炎によって確認作業が行われていた。

そして、全ての合点がいった所で、電は1人、立ちながら説明を始める。

近くには、同じ初期艦仲間の吹雪、叢雲、漣、五月雨が集まっていた。

 

「まず………あの3隻が何者かについて説明しないといけませんね。もう知っているとは思いますが、3隻の深海棲艦は、生前の出来事から、電に憎悪を抱いています。」

「何故………電ともあろう艦娘が、そこまでの憎しみを………?」

「その説明に入る前に、簡単にですが、電達5人との関係に付いて話さないといけません。」

 

電は静かに目を伏せると、ゆっくりと言葉を絞り出すように言った。

 

「磯風ちゃんや春風ちゃんは聞いた事があるとは思いますが、初期艦は、初期の頃はもっと沢山いました。でも、戦術が確立されておらず、武装も劣っていた中で轟沈を防ぐのは、難しかったのです。」

 

これは、春風が姉妹達を救う為に、半ば強引に横須賀にやって来た時の事だ。

漣から、彼女達は初期艦に付いての過去を聞かされた。

人間様を救う為に集められ、逃げる事も許されず、モルモットのような生活を過ごしていたという、初期の頃の艦娘。

常に轟沈と隣り合わせで過ごし、生きた心地がしなかったという地獄のような日々。

確か、漣はメイドの姿をして高官………恐らくは大本営に取り入り、電は誰かが轟沈する度に、お墓を作っていたと聞く。

 

「初雪ちゃんのように、追加の艦娘を招集する程、艦隊の消耗率が激しい中、ふるいに掛けられた初期艦は………8人いました。」

「8人?吹雪に、叢雲に、漣に、五月雨に、電に………まさか………。」

「はい。残りの3人の名前が、睦月、時雨、大潮。………そう、あの3隻は元々………電達の仲間だったのです。そして………電達8人には、特別な任務が課せられていました。」

 

電は深海棲艦化した友がいるであろう、雪が舞う海の向こう側を見つめて、静かに呟いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

約10年前の夜、横須賀沖にて、電は抜錨していた。

暁型と呼ばれる彼女の装備は変わっており、主砲は手持ちタイプでは無く、右肩に固定されるタイプの物だ。

その分、両手には色々と物を持つ事が出来る為、今回はある任務の為に、マスト状の長槍を携えていた。

これは、とある仲間のスペアの装備である。

電のいる海域では、戦闘が繰り広げられており、彼女の他には3人の艦娘達が、縦横無尽に海を駆けながら、敵艦に何度も砲撃を浴びせて撃沈していた。

1人は、睦月型の艤装を持ちながら、身軽さを活かし、挑発と回避に徹する睦月。

1人は、両手で構える連装砲による、強力な砲撃と神がかった身体センスを見せる時雨。

1人は、アームガードを兼ねた連装砲による、攻防一体の攻めを見せる大潮。

彼女達は、初期艦と呼ばれる存在であり、電と同じく厳しい海戦の中を、何とか勝ち残って来た強者だ。

 

(今日のターゲットは………重巡リ級………!)

 

そんな中で電は、事前の作戦の内容を何度も思い出す。

今回の作戦は、只、敵を全て倒すだけではダメであった。

「ある条件」を満たさないといけなかったのだ。

 

「電!ターゲットが、そっちに行ったよ!」

 

電探はまだ開発されて無かったので、時雨の叫びが聞こえてくる。

巨大で硬い腕を持つ重巡リ級が、電に向かって近づいて来ていた。

既に他の仲間は時雨達によって沈められており、もはや道連れ覚悟であった。

 

「迎撃するのです………!」

 

右肩の連装砲を連射する電。

だが、いつも持っていない武装を携えている分、狙いが付けにくく、初弾が外れてしまう。

 

「カバーに入るにゃ!」

 

すかさず、睦月がスピードを活かし、敵艦の後ろに回り込みながら、単装砲による砲撃を喰らわせていく。

敵艦は右腕を後ろに向けると、睦月に対して魚雷を放とうとするが、彼女の身軽さの前に外れて隙が出来る。

 

「チャンスです!電、突撃しましょう!」

 

電の前に回り込んだ大潮が、両舷一杯で敵艦に近づく。

リ級は左腕で大潮の砲撃を防ごうとするが、彼女は右手のアームガードで、盾のような腕を弾くと、そのまま懐に潜り込み、顎を叩きあげた。

 

「決めて、電!」

「分かったのです!」

 

電は槍を構えると、大潮と入れ替わりで一直線にリ級へと突っ込む。

リ級は砲撃をしようとするが、大潮の顎への一撃により、力が入らない。

そのまま電は、槍を敵艦に突き刺した。

顔でも、喉でも、心臓でも無く………右腕に。

 

「ごめんなさい………なのです!」

 

急所に槍を刺さなかった電は、そのままドス黒い返り血を浴びながらも、手を抜かない。

すかさず左腕にも突き刺し敵の攻撃能力を封じると、両脚にも丁寧に突き刺していく。

四肢を封じられた敵艦は、巨大な盾を支えられず、海面に仰向けに倒れた。

静かに、その倒れた敵艦を見つめていた電の元に、3人の初期艦が集まって来る。

 

「……………。」

「終わった………みたいだね。」

「睦月達の勝利にゃ!」

「じゃあ、信号弾を撃ち上げます。」

 

大潮が左手で信号弾を撃ち上げると共に、遠くから軍用のタンカーが近づいてくる。

その艦橋に立っていた恰幅のいい男………大本営から派遣されてきた将校が、マイクを使って、4人の艦娘に大仰に話しかける。

 

「ご苦労であった!この深海棲艦の研究を進める事で、更なる武装の開発が進むであろう!回収をする間、しばらく護衛を引き続きお願いしたい!」

 

そう………電達が行っていたのは、深海棲艦の「鹵獲」であった。

海兵達が、縄や鎖を持ちながら、動けなくなったリ級の元へとやって来る。

時雨達が、敵艦が何かをしないか警戒をする中で、海兵達は電を見て、ビクリと恐怖する。

それはそうだろう………電は敵艦の黒い返り血で、染まっていたのだから。

しかし、電本人は、それを気にする事無く(というより気付く余裕もなく)、これから実験に使われるだろう深海棲艦の顔を見る。

その顔にあったのは、恐怖。

深海棲艦も恐怖するのだな………と何となくであるが、電は思い、心を痛めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

リ級を回収した軍のタンカーが撤退した後で、別の4人の艦隊が、合流して来た。

電と同じ槍を携えた叢雲を筆頭に、吹雪、漣、五月雨という艦娘達だ。

 

「やあ、叢雲達の方も上手くいったかい?」

「お陰様で雷巡チ級を鹵獲できたわ。これで、新しい武装は開発出来るんじゃないかしら?」

「やったにゃ!武装が増えれば、睦月達はもっとパワーアップ出来るよ!」

「そうだといいよね。………って、電ちゃん!?身体汚れてるよ!?」

 

驚いたような吹雪の言葉を受けて、電はその時になって、ようやく自分の姿を認識する。

 

「………気付かなかったのです。」

「あの大本営のご主人様方………タオルくらい、用意してくれないんかね?」

「とりあえず、私、持っているから拭くね。」

 

五月雨がタオルを取り出すと、電の返り血を拭き取ってあげた。

只、電の頭には、先程恐怖に包まれていたリ級の顔が印象深く残っており、ボーっとそれを考えていた。

 

「深海棲艦に………心はあるのでしょうか?」

「どうしたの、電ちゃん?」

 

血を拭き取った五月雨は、海水で濡らして完全に落とした上で聞く。

電は、ポツポツと静かにしゃべり出した。

 

「あのリ級は………これからの自分の運命に絶望して、恐怖の感情を抱いていました。深海棲艦に心があるのならば………。」

「電ちゃん、それは危険な考えだよ?」

 

意外にも、厳しい言葉で制したのは、吹雪であった。

彼女は続けてこう言う。

 

「私たちの仲間は、その敵艦に沈められていった。罪の無い人間達も、沢山死んだ。その敵艦に同情していたら………やられるのは私達だから。」

「………ごめんなさい。」

 

正論を告げる吹雪に、電は余計な事は考えない方がいいと感じた。

そんな彼女の肩を叩きながら、漣は告げる。

 

「ま、何にせよ、新人教育に加えてこんな事やってたら、気がおかしくなるわな。」

「むかつくけど、あの大本営様の言う通り、鹵獲して生態調べて、有効な武装を開発しないとどうしようも無いのがねぇ………。」

「とりあえず、戻ろうよ。このままもたついてたら、提督にも迷惑を掛けちゃうし。」

 

五月雨の言葉に、皆が頷き、協力しながら夜の横須賀に帰投する。

8人の初期艦、全員で………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「電達が………深海棲艦の鹵獲を………していたのか?」

「はい。」

 

驚きを抱いた磯風の言葉に、電は視線を逸らさず答える。

流石に何とか口に出す事を避ける事は出来たが、磯風や春風は、単冠湾泊地の地下牢で、鹵獲された深海棲艦の群れを見た。

あの鹵獲行為を元々行っていたのは、電達初期艦だったというのだ。

だが………。

 

(冷静に考えれば、一番有り得た選択なのか………。)

 

磯風はむしろ、何故その考えに至らなかったのかと後悔する。

初期の時点で一番練度が高くなるのは、普通に考えれば最初に作られた初期艦だ。

叩きあげで強くなった彼女達に、深海棲艦の鹵獲を頼まなければ、艦娘の歴史はここまで続いていなかっただろう。

 

「大本営が電達初期艦に指示をして………、電達はそれをこなしていた………と。」

「そうです。」

「魚雷も爆雷も機銃も無い時代で………困難では無かったのか?」

「困難でした。」

「気が………狂わなかったのか?」

「多分、狂ってました。」

「……………。」

 

嘘偽りなく答えていく電に、磯風は閉口してしまう。

他の艦娘達も、深海棲艦の鹵獲というとんでもないパワーワードが出てしまった事で、若干ではあるが、ざわついていた。

電は、そんな艦娘達の様子を特に気にする事も無く、次の話題に入る。

 

「そんな電達には、まだ安らぎの場がありました。当時の司令官さんと………秘書艦を担当していた、初の空母クラスである鳳翔さんです。」

 

そう言うと、電は再び、雲に包まれ始めた夜空を見上げた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「あー、やっぱり熱燗だよねー!生き返るわー!」

「漣………いつものメイド口調はどうしたのですか?」

「んあー?いいのいいの、大潮!どうせ見ているのは、初期艦の仲間と鳳翔さんとご主人様だけなんだし!」

 

夜の更けた鎮守府の秘書艦室で、8人の艦娘達は熱燗を飲みながら、温まっていた。

その部屋には、寡黙な白い軍複に身を包んだ提督………後の初代横須賀鎮守府提督と呼ばれる男と、秘書艦を務める初の空母である鳳翔がいた。

熱燗は、鳳翔が用意してくれた物で、過酷な任務を強いられている8人に対する、せめてものご褒美であった。

 

「本当は、もっと色々な物を用意出来ればいいのだけれど………ごめんなさいね、他の艦娘達には内緒だから………。」

「気にしなくていいよ、鳳翔。僕達をこうして想ってくれている艦娘がいるだけで、満足だからさ。」

「時雨ちゃんの言う通りです。鳳翔さんが謝る事では、ありません。」

 

鳳翔が頭を下げる中で、時雨や五月雨が気を遣う。

そんな中、顔を紅潮させながら叢雲は提督に聞く。

 

「ねぇ、司令官。実際問題、新武装の開発っていうのは、上手くいってるの?まさか、このまま何も無いなんて事があったら、只じゃ済まないわよ!?」

「すまないな、みんな。上からの話だと、魚雷の開発が大至急で進んでいるらしい。特に駆逐艦にとっては、有り難い装備になるだろう。」

「にゃ~………敵艦が散々使って来た魚雷を、こっちで使えるのは強力なのです!これで、睦月達ももっとパワーアップですよ!」

 

かなり酔いが回っているのか、夢見心地の表情で、睦月がふらつきながら握り拳を作って高々と上げて見せる。

その姿に苦笑しながら、吹雪は電に言う。

 

「新しい装備が入れば、みんな喜ぶね。深雪ちゃんなんか、必殺技が欲しいって言ってたし!」

「吹雪ちゃんが教育している艦娘達は、活きがいいのです。電も早く、仲間が欲しいなぁ………。」

「大丈夫ですよ、電。電にもきっと、信頼出来る仲間が沢山見つかります。そうでなくても、大潮達がいるじゃないですか!」

 

大潮の言葉に、少しだけ俯いた電は、周りを見渡す。

皆、電を見て、十人十色の表情ではあったが、らしい笑みを浮かべていた。

 

「ありがとうなのです!」

 

その眩い笑顔を見て、電は微笑む。

今の鎮守府の生活は辛いけれど、それに見合った仲間は既にいた。

この仲間達とならば、どんな事があっても歩んでいけるだろう。

艦娘として、人々を救う道を歩んでいけるだろうと。

だから、電は考えなかった………その純粋な想い故に、運命によって歪められてしまう可能性を。




電の過去編その1です。
もう気付いている方は多いとは思いますが、敵艦3人の初期艦設定は艦これ改からです。
艦これ改は駆逐艦だと、睦月・時雨・大潮も初期艦として選べます。
色々と過去の謎が明らかになりながらも、その場の小さな幸せを噛みしめる電達。
只、この幸せが、逆に仇となる展開も有り得るというわけで………。
しばらくは、こうした初期艦達の純粋な想いが続きます。
ちなみにこの回想で出ている提督は、今の横須賀の提督とは別人で、若干寡黙な人物です。
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