艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第97話 ~電の回想・返り血~

「あ………ああ………あ………!」

 

自身のやらかした事と、それによって招いた結果に、電は混乱する。

睦月の言う通り、電の行った事は仲間殺しだ。

明確な理由があったとはいえ、電は大潮に、大怪我を負わせてしまったのだから。

そして、自分の手で自分が欲していた友情を、粉々に破壊してしまったという事実に、彼女は耐えきれるほど、まだ強くは無かった。

電の顔は蒼白になり、歯をガチガチと鳴らす。

そんな彼女の顔に、右手で睦月の単装砲が突きつけられる。

 

「答えて!どうして大潮ちゃんを撃ったの!?どうして、そんな真似したの!?」

「ひ………いい………!?」

 

怒りに燃えた睦月の目を受けて、電は正常な判断が出来なくなる。

只、目の前の存在に、死の恐怖を突き付けられていると考えてしまう。

 

「だ、駄目です、睦月!?今の電を、刺激してはいけません!落ち着いて下さい!」

 

遠目でも、今の電の精神状態を理解できたのだろう。

被弾して血をダラダラと垂らす大潮が、必死に睦月を止めようとする。

 

「大潮は………大丈夫です!まだ、死んでいません!とにかく睦月は離れて!頼みますから!!」

 

今の状態ならば、まだ関係の修復は出来る。

大潮は、そう思ったのだろう。

だが、派手に血を流す大潮自身の状態が、皮肉にも、時雨からも、睦月からも、何より電からも、真面な思考を奪っていってしまう。

 

(電は………死ぬ!?)

 

自身の死生観に対して達観出来る程、電はまだ長くは生きていなかった。

凶器を突き付けられて、平然としていられるほど、彼女はやはり強くは無かった。

 

(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!?)

 

混乱していた電の思考は、もう睦月を友として見ることが出来なかった。

同じく、激昂していた睦月の思考も、もう電を友として見ることが出来なかった。

だから………。

 

「電ちゃんが今やった事は………!?」

「っ!?睦月!離れてっ!!」

「え………?」

 

ドゴンッ!

 

大潮の警告と共に、派手な砲撃音が響き渡る。

電は最初、何が起こったのか分からなかった。

只、睦月がビクリと震えると、派手に何かの液体が彼女に掛かった。

続いて、睦月は電の顔に向けていた単装砲を取り落とす。

 

(……………。)

 

只、歯を震わせながら、電は自分の右肩を見た。

そうであっては欲しく無いと、必死に願った。

だが………次の瞬間、絶望する。

右肩の連装砲は、また煙を発していた。

今度は………睦月の胸を貫く形で。

 

「睦月………死ぬの………?い………やだ………よ………。」

 

最後に電が耳にしたのは、睦月の弱々しい声。

彼女の吐血は電の頬を濡らし、そして………仰向けに倒れていく。

反射的に、電は手を伸ばした。

だが、届かなかった。

睦月はそのまま海面に音を立てて、沈んでいく。

轟沈。

いや………違う。

電が撃沈したのだ。

電が………殺してしまったのだ。

 

「う………ぁ………ああああ………。」

「む、睦月………うわああああああああ!?」

「時雨!?」

 

この決定的な事実が、電の人格を壊し、時雨の人格も壊す。

大潮は、まだ正常な判断を保っていたが、左腕を痛めていた故に、自身を庇うように立っていた時雨を、もう止める事が出来ない。

 

「睦月ぃーーーっ!!」

「止めろ、時雨ーーー!?」

 

大潮が懸命にしがみつこうとする事で、反射的に電に向かって放たれた魚雷は、逸れていく。

だが、その雷撃は、電に更なる恐怖を植え付けるには十分であり、彼女は錯乱したまま魚雷を時雨に向かって放ってしまう。

 

「あああああああああああ!?」

「電!?」

「くっ!?」

 

大潮は、咄嗟に時雨を突き飛ばした。

それによって、彼女は海面を転がり直撃コースから免れるが、大潮はどうしようもない。

彼女は、そのまま魚雷の火に包まれて、海に消えていく。

また1人、電は撃沈してしまった。

 

「睦月………!?大潮………!?何で!?何でこうなるんだよ!?」

 

錯乱した時雨は、電に向けて、背中の連装砲を取り出し、砲撃をしていく。

 

「ひ………い………い!」

 

大潮も沈んだ事で、この惨事を止められる者はもういなくなった。

電はしゃっくりを上げながら、時雨に向けて砲撃を放って行く。

艦娘同士による実弾を使った応酬。

だが、熟練の艦娘による訓練では無く、未熟な艦娘同士による生死を賭けた争いだ。

その砲撃戦は、時雨の方に分があった。

彼女の砲撃が、電の右肩の連装砲を破壊したのだ。

 

「あ………ああ!?」

「電………!沈めっ!!」

 

だが、時雨はここで止まる事が出来なかった。

大切な仲間を2人も殺した電を、もう友とは認められなかったから。

そして、悲しい事に、電もまだ止まれなかった。

彼女には、もう1つ武器があったから。

そう………叢雲から借りた、鹵獲用のマスト型の槍が。

 

「う………ああああああああああああ!!」

「!?」

 

電は槍を取り出すと、構えながら、一直線に時雨に向かって突進する。

もう、頭の中はグチャグチャで、只、生きたいとしか思っていなかった。

時雨は、連装砲を何度も放ち、電を沈めようとするが、彼女の両肩の装甲板が正常に作動する。

その板は、電への迎撃を止めてしまう。

 

「く、来るなぁ!?」

「いやああああああああああああ!?」

 

もはや悲鳴と雄たけびが入り混じったような声で、電は槍を思いっきり時雨の胸に突き刺す。

電は、また全身に、派手に返り血を浴びる事になった。

深海棲艦の黒ではなく、艦娘の赤い血を。

 

「電………。」

 

時雨は血を吐き出しながらも、槍を掴みながら、電を睨みつけた。

荒い息を吐く電は、もうその殺意を躱す気力も無い。

 

「君は………後悔する………よ。僕………達を殺………して………のうのうと………生き………られると、思う………な………。」

 

その怨嗟の声と共に力を失った電は、槍を離す。

時雨は仰向けに倒れて、海に沈んでいく。

電は生き残った。

3人の仲間を犠牲にして。

クーデターも阻止した。

3人の友との絆を………自ら破壊して。

 

「う………ああああああああああああああああああああああ!?」

 

自身のやった取り返しのつかない事を思い出した電は、目を押さえ涙を流し、とにかく叫んだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

流石に不自然に思ったのだろう。

軍のタンカーが、電の元にやって来た。

いつもその艦橋の上で大仰に艦娘に指示を出す、大本営から派遣された将校は、今は腰を抜かしていた。

何故ならば、電の全身は、真っ赤な返り血で染まっており、その瞳からは光が失われていたからだ。

海を彷徨う幽霊の類では無いか?と言われても、不思議ではない。

そんな将校に対し………電は笑いかけた。

 

「クーデターを………未然に防いだのです。褒めて………欲しいのです。」

「ひ、人殺しーーーっ!?」

 

その姿が凄惨に映ったのか、将校は素っ頓狂な声を上げて艦内へと逃げていく。

やがて、タンカーも反転し、電の元から去って行った。

 

「……………。」

 

虚ろな瞳で海の上に浮かんでいた電は、ふと横須賀の港を見る。

彼女は、静かに鎮守府へと帰って行った。

人殺しの汚名を受けながら………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

鎮守府の桟橋では、艦娘達がざわついていた。

真っ赤な返り血を浴びた電の姿は、艦娘達にとっても奇異な存在であり、とてもでは無いが、近寄れるものでは無かったからだ。

それは、吹雪、叢雲、漣、五月雨にも言える事で、彼女達にしてみれば、時雨達の姿が見当たらない事が、最悪の想像を掻き立てた。

電は桟橋に立った状態で、只々俯いている。

そんな彼女の元に………提督と鳳翔がやって来た。

 

「……………。」

「駆逐艦、電………。軍上層部へのクーデターを………未然に防いだのです。」

 

何とか敬礼しようとした電に対し、提督は鳳翔からタオルを受け取ると、自分の白い服が真っ赤に染まるのも構わず、彼女の全身の血を拭いていく。

もう力を半ば失っていた電は、呆然とした表情で提督を見上げると、笑いかけようとする。

 

「司令官さん………電は………市民の皆さんを守ったのです。だから………褒めて欲しいのです………。」

「すまなかった。」

 

だが、褒めて欲しいと願った電に対して、返って来た回答は謝罪。

事情を察した提督は、申し訳なさそうに彼女に告げたが、それが彼女の逆鱗に触った。

 

「だから、褒めてほしいのです。………褒めてよ!褒めてって!!何で………何で誰も褒めてくれないの!?電は………!電は!!」

「本当に、すまなかった………。」

 

電は思わず提督に叫んでしまう。

勿論、彼女のやった事を褒めてはいけない。

褒められる事では無いのだ。

どんな理由があるとはいえ、人を殺す事なんて。

しかし………もう電は壊れてしまっていた。

只、誰かに自分のした事を、認めて欲しかったのだ。

 

「嫌だよう………もう、艦娘なんて………電は………もう………!」

「ごめんなさいね………電ちゃん。」

 

代わりに、鳳翔が優しく抱き留めた。

その胸の温かさを受けて、電は赤子のように泣きじゃくる。

周りの艦娘達は、誰も何も言えなかった。

この日から、電は「味方殺し」という言葉を背負って生きていく事になる。

ずっとずっと………今もずっと………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『……………。』

「以上が………電とあの3隻の深海棲艦との過去なのです。」

 

雪化粧に染まりながら、淡々と告げた電の言葉に、いつしか磯風達は閉口していた。

頭や肩に降り積もった雪は、たまに五月雨が払ってあげるが、電の瞳からは光が完全に失われていた。

何か声を掛けてあげればいいのだろうが、事態が事態故に、何て言えばいいのか分からない。

互いの純粋な善意が狂わされ、殺し合いに発展したなんて、前代未聞だからだ。

只、だからこそ、その中で………、磯風は気になった事が出来たので、電に告げてみた。

 

「変な事を聞く。電は………あの3隻に沈められたいとは、思っていないだろうな?」

 

彼女がそう聞いたのは、前に初雪が、間違った道を選びかけたからだ。

嘗ての仲間である友と一緒に、深海棲艦の仲間になった方がいいという考えに。

しかし、電は静かに首を横に振った。

 

「思っていませんよ。電の罪は………そんな事で償える物では無いのですから。」

 

電の言葉を受けて、磯風は何とも言えない気持ちになる。

間違えた考えを抱いていないのは有り難いが、それが前向きな思考による物では無い事が、気に掛かった。

彼女は、贖罪の気持ちだけで、あの3隻と戦おうとしている。

それが気がかりであった。

しかし、そこに提督代理である陽炎が出て来て告げる。

 

「とりあえず、次からは電にも出て貰うわ。」

「まだ万全の状態とは思えんが………。」

「それでも、敵の気が電に向いている以上は、積極的に前に出て貰わないと困るのよ。敵も言っていたでしょ?電をおびき寄せる為ならば、爆撃もするって。」

 

確かに、初雪達が遭遇した時に、深海初代睦月と深海初代時雨が、そんな事を告げていた気がした。

佐世保を危険に晒すわけにはいかない以上、陽炎の判断は妥当だと言えた。

 

「電………覚悟はいい?」

「もう、大丈夫なのです。電の手で………決着を付けます。」

「………あんまり、気負い過ぎたら危ないわよ。とにかく、次の夜に向けて艦隊を組むからね。」

 

陽炎の言葉と共に、艦娘達は解散していく。

去ろうとした磯風に対して、初雪が耳打ちをしてきた。

 

「磯風………。」

「何だ、初雪?」

「電は………、あの後、積極的に前線に出る事が多かった………。前に見せた対潜水艦への素潜りも、元々は彼女が考えた術だよ………。」

「まさか………死に場所を求めているって言うんじゃ無いだろうな?」

「そこまでは分からないよ………。只、本当の電の気持ちは、電にも分からないんじゃないのかなって………。あの時の私みたいに………。」

「……………。」

 

磯風は振り返って、電の様子を見る。

彼女は、未だに陽炎と何か念入りに打ち合わせをしていた。

何かに没頭する事で、自身の迷いを振り払おうとするみたいに。




電の過去編その3。
互いを思いやっていたはずの善意は、最悪の結末を生み出す事に………。
電達が好きだからこそ、軍の待遇改善の為のクーデターを起こそうとした時雨達。
時雨達が好きだからこそ、小さな幸せでもいいから、一緒にいたかった電。
その4人の想いが、こんな形で狂ってしまうのは悲劇の一言で片づけていいのか?
只、初期の頃の、初期艦達の待遇を考えれば、こんな可能性もあった気がしました。
分かっていたとはいえ、書いてて辛いのは、事実ですよね。
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