「臨時第一艦隊、出るわよ!」
「臨時第二艦隊、夜戦だ!」
「臨時第三艦隊、出撃する!」
その夜、雪がしんしんと降る中で、駆逐艦中心の水雷戦隊が佐世保を抜錨していく。
中心を疾走する臨時第一艦隊は、暁、ヴェールヌイ、雷、電、初春、子日、若葉。
右翼を担う臨時第二艦隊は、川内、長月、文月、水無月、三日月、菊月、卯月。
左翼を担う臨時第三艦隊は、磯風、叢雲、吹雪、深雪、曙、漣、五月雨。
昨日の艦隊とは、総替えした上に、それぞれ7人で組んだ遊撃部隊から構成されている。
それぞれ、深海初代時雨、深海初代睦月、深海初代大潮の艦隊と交戦する手筈であった。
3つの艦隊は、単縦陣で進みながら、敵陣へと向かっていく。
「……………。」
「なんじゃ?頭や艤装に雪が降り積もっておるぞ?取り払わんのか?」
「あ、ああ………すまない。」
無言で何かを考えていた磯風は、横に来た初春の言葉を受けて、慌てて艤装の雪を払おうとする。
だが、艤装が大型化されている磯風は、そう簡単に手で雪を払う事が出来ない。
「旗艦がそれで、どうするんじゃ………。仕方ないのう、わらわの扇子のスペアをくれてやろう。意外と痒い所に手が届くから、便利じゃぞ?持っておけ。」
「あ、ああ………ありがとう。」
初春の特徴的な扇子を貰った磯風は、雪を取り払う。
そんな中、彼女は小声で磯風に言った。
「………深海初代大潮の事は、あくまで可能性じゃ。もしも牙を剥いてきたら負けるから、油断はするな。」
「分かっているさ。只………、電の心理状態と合わせて考えるとな………。」
前を進んでいる電の様子を見た磯風は、考える。
彼女は、自分の手でケリを付けるとハッキリと言った。
だが………言葉と実際の行動は必ずしも一致はしない。
それが、磯風にとってとても心配であった。
「ま、出来る限りサポートするから任せておけ。さて………そろそろかのう?」
「海域的には、近づいて来てる。………速力の高い面々を集めると、夜偵を飛ばせないのが辛い。」
夜戦に特化した川内や、索敵に優れる暁がいるが、後手に回るのは辛かった。
当たり前だが、敵艦もバカでは無い為、無駄に夜偵を飛ばしたり、電探による会話をしたりはしない。
ここは、前述の2人が頼りだった。
と、ここで………。
「………各艦、戦闘準備をして。」
「お、夜戦の気配かな~?」
「来た………のですか?」
暁の索敵能力の高さに感心した磯風は、自身の艦隊に武装を構えるように言う。
川内もウキウキしていそうで………その顔は真剣になっていた。
「正面、深海初代時雨とフラッグシップネ級らしき艦が、砲撃体勢!各艦、回避行動!」
暁の叫びと共に、艦隊全体が増速。
同時に正面から砲撃音が響き渡り、後ろに超長射程の砲弾が落ちる。
磯風は、深海初代睦月の艦隊が突撃を開始し、深海初代大潮の艦隊が攻撃機を飛ばすのが見えた。
それと同時に、深海から響き渡るような声が聞こえてくる。
「来タ………!電ガ来タ!僕ラヲ沈メタ憎キ電ガ!!」
深海初代時雨が砲撃を繰り返しながら、呪詛の声を叫ぶ。
「吹雪、五月雨、漣、叢雲モ居マスネ………。初期艦勢揃イデスカ。」
深海初代大潮は、冷静に小鬼や浮遊要塞達を呼び出して隊列を作っていく。
「沈メルニャ!ミンナ、沈メテ地獄ヲ見セテヤルニャ!!」
深海初代睦月が、狂気の笑みを浮かべながら怨嗟の声を上げて迫って来る。
「時雨ちゃん、大潮ちゃん、睦月ちゃん………みんな、おかしくなっちゃったんだね。」
「気持ちを考えれば仕方ないよね。でも………!」
「これ以上、佐世保のみんなや電を苦しめるのなら!」
「覚悟は出来ているんでしょうね!」
吹雪、五月雨、漣、叢雲の4人が苦々しい顔を浮かべながらもそれぞれの武装を手に取る。
更に電が3人を見据えながら右肩の連装砲を向けた。
「3人は………電が決着を付けるのです!」
彼女の叫びと共に、各艦隊は攻撃行動に入った。
――――――――――――――――――――
「深海棲艦化した艦娘が、復讐の狂気に染まらず正気を保っている………ね。これ、有り得るとしたら、相当な精神力を持っているって事になるわよ?」
その頃、陽炎は執務室で、海戦の様子を電探で確認しながら、綾波から夕食時の会話の事を聞いていた。
綾波自身は、佐伯湾泊地での海戦で、初雪の友であった深海棲艦化した艦娘の最期に立ち会っている。
あの時も、最初こそ彼女達は人類への復讐に囚われていたが、初雪の轟沈の危機を前に、身を挺して庇うという、自己犠牲精神の行動を取っていた。
その事実を把握しているからこそ、彼女は他の艦娘よりも、深海初代大潮の心理状態に敏感になっていたのだ。
「深海棲艦だから、みんな狂っている………というのは、おかしい気がするんです。陽炎も提督ならば、その情報を入手しているとは思いますが………。」
「そりゃ、ちゃんと知っているけれどさ………だったら、猶更難しい事があるのよね。」
「難しい事というと?」
「………何が目的で、深海初代大潮は敵対しているか………って事よ。むざむざ沈められる為?それとも………。」
「そうですよね………。」
少なくとも、深海初代時雨と深海初代睦月とつるんでいる時点で、彼女達の意志は、ある程度は尊重しているだろう。
つまり、完全にこちらの味方として行動しているわけでは無いのだ。
もしかしたら、暴走する2隻を抑える役目を担っているのかもしれないが、爆撃等を行っている時点で、彼女も破壊本能が消失しているとは思えなかった。
「行動が読めないっていうのはね………一番厄介よ?ある意味、一番の不確定要素だもの。………とりあえずその事は、電は知らないのよね?」
「はい。知っているのは、一部のネームシップと磯風だけです。」
「磯風か………。何も無いといいのだけれどね………。」
陽炎は、何となく妹艦の事が心配になった。
――――――――――――――――――――
「グガアアアアッ!!」
「よーし!タ級1隻撃沈!再生能力があると言っても、昼間に金剛さん達がかなり削ってくれたみたいだね!集中砲火なら数は減らせるよ!」
その頃、深海初代艦娘達との海戦では、丁度、川内が両腕の単装砲の雨を至近距離から喰らわせて、深海初代睦月艦隊のタ級を沈めていた。
勿論、無理に接近した分、彼女も中破位までは追い込まれていたが、それに対する見返りを獲得する所は、流石水雷戦隊の親玉だ。
それに、この朗報は、無敵とも思えた深海棲艦達にも弱点がある事を明確化した為、艦娘達のモチベーションを上げるのに役に立った。
「やりますね、川内さん!コツは!?」
「とにかく急所に集中砲火かな!只、欲張りすぎて、この海戦での全滅を狙わない方がいいよ!いつでも、撤退出来る用意はして!」
「分かりました!文月!聞こえたな!」
「OKだよ~!」
電探で、川内から的確な指示を受けた臨時第三艦隊旗艦の磯風は、深海初代大潮の飛ばす攻撃機を、とにかく撃ち落としていく。
1人では輪形陣を使わない対空砲撃は大変な作業だが、臨時第二艦隊にいる文月と協力すれば、ある程度の爆撃を防ぐ事は出来る。
勿論、その間にPT小鬼の騎馬に乗った砲台小鬼に狙われる危険性があったが、そこは叢雲達が対処してくれていた。
「大潮、忘れたの?私は槍を持ってるのよ!」
言葉と共に、砲撃の雨を潜り抜けながら、叢雲がマスト型の槍で小鬼達の騎馬を薙ぎ払うように迎撃していく。
この小鬼達も再生能力を持っていたが、タ級やネ級、レ級達に比べれば微細な物だ。
騎馬を崩してのたうち回っている間に、主砲や機銃の集中砲火を食らわせれば、思った以上に簡単に撃沈できる。
場合によっては、自分の抱える魚雷が爆発して自滅するPT小鬼や、騎馬に助けて貰えず沈んでいく砲台小鬼もいた。
「深雪ちゃん!魚雷を使うよ!」
「了解!深雪スペシャルってな!」
そして、深海初代大潮への道が開いた所で、吹雪と深雪が雷撃を試みる。
只、ここは再生能力を持った浮遊要塞が立ちはだかった事で、直接攻撃は失敗に終わる。
「あー、失敗か!」
「諦めるんじゃないわよ!浮遊要塞だって、無敵じゃないんだから!漣と五月雨も隙を見て雷撃を叩き込むわよ!」
「合点承知!」
「分かったよ!」
深雪が悔しがるが、曙の激が飛んできた事で、戦意を保つ。
深海初代大潮の攻撃機は磯風と文月に任せれば、いずれ相手の方が再生能力を失うはずであった。
敵艦もそれを把握したのだろう。
だからこそ、他の仲間に援護要請をする。
「コチラ、大潮。押サレテイマス。援護ヲ。」
「無理ニャ!何カ、大発ヲ沢山撃ッテ来テイル艦娘ガ居ルニャ!?」
「あら………?世界一の「大発屋」を目指す私の事、褒めてくれて嬉しいわ!」
焦るのは、三日月の戦車の乗った大発動艇による砲撃が、どんどん飛んできている深海初代睦月。
三日月は、大発を操る自身の能力を活かし、計7台の大発を操って、1人で敵旗艦を狙っていた。
勿論、速力に優れる深海初代睦月には、そう簡単には当たらないが、反撃の隙が中々出来ない。
その間に、天龍譲りの剛剣を振りかざした菊月を中心に、レ級やネ級に襲い掛かっていた。
「菊月だ!フラッグシップネ級1隻を叩き斬った!残りのネ級とレ級が焦り出している!姉貴!」
「長月、了解!水無月、卯月!とにかくレ級にダメージを与えるぞ!」
「うん、任せて!」
「うーちゃんの本気を見せてやるぴょん!」
決して無傷では無かったが、長月や水無月、卯月も、仲間達の奮戦を見て、闘志を燃やしていた。
時間差で砲撃を受けている深海初代睦月は、混乱する艦隊を立て直す事が出来ていない。
削るならば、今であった。
「時雨チャン!助ケテーーー!」
「シバラク、粘ッテ!電ヲ仕留メル、チャンスナンダ!」
一方、深海初代時雨は、目をギラギラさせながら、電に砲撃を集中させていた。
しかし、電にしてみれば、必ず自分に砲撃が飛んで来ると分かっている為、回避行動に専念していればいい。
その間に、暁等の艦隊の仲間達が勝手にダメージを与えてくれる。
実際、深海初代時雨はともかく、艦隊のタ級、ネ級、レ級は砲撃の雨を受けていた。
タ級に至っては、それまでのダメージが積み重なっていたのか、再生能力を失って煙を吹いている。
「時雨!頭ニ血ガ上ッテマスヨ!一旦下ガッテ!」
「僕ハ、仇ヲ討ツンダ!睦月ト大潮ノ!!」
深海初代大潮が、冷静になるように指示を出すが、深海初代時雨の怒りは収まらない。
ひたすら電に照準を定めて背中の2門の大型単装砲を向ける。
だが、どうしても当たらない為、敵艦は焦ったのだろうか。
その狙いが、明後日の方向に飛んでいく。
「シマッタ!?」
「ケリを………付けましょう!」
その隙を見逃すほど、今の電の練度は低くはない。
一気に増速すると、深海初代時雨の懐にまで接近する。
「ナ………!?」
「終わり………なのです!」
そのまま電は、深海初代時雨の顔面に右肩の連装砲を撃ちまくる。
「グァアアアアアアアアア!?」
飛び散る黒い血を受けながら、電はひたすら急所に撃ちまくる。
だが………そこで、返り血を浴びる彼女の脳裏に、過去の記憶が蘇って来た。
死にたくないと願った睦月。
自分を止めようと必死だった大潮。
そして………元々は自分達の待遇改善の為に動こうとした時雨。
(電………は………。)
「電!?何してるの!?」
「!?」
雷の悲鳴に近い叫びに気付いた時には、電は首を掴まれ、海面に倒されていた。
目の前には、憤怒の顔でこちらを見つめる深海初代時雨。
電の砲撃は止まっていた。
自身の意志がダイレクトに反映される、暁型の艤装の主砲が………。
(ああ………電は………やっぱり………。)
首を絞められた電は、嘗ての仲間を討てなかった。
倒すべき深海棲艦を、艦娘として倒せなかった。
事情があったとはいえ、自分が一度は殺してしまった艦娘達を手に掛ける事なんて………。
(ごめんなさい………。)
「シズメ………電!!」
目を閉じた電に向けて、深海初代時雨の右の大型単装砲が向けられた。
口にした言葉と、心の底に秘めている想いは別物。
思考がダイレクトに反映される武装を持つならば、猶更ですよね。
私の艤装設定だと、暁型の艤装はかなり厄介な物だと思っています。
手で扱う主砲武装と違い、トリガーを引けば弾が出るわけじゃないですからね。
撃つんだ!って念じないと撃ち出されないのは、諸刃の剣に感じました。
逆に言えば、その武装を扱う第六駆逐隊の精神力は、凄まじいのかもしれません。