仮面ライダーダブル ~Eを求めて~   作:松浦

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プロローグ & 一章 第一話

 

 

プロローグ

 

かもめビリヤードと、書いてある古ぼけた看板がかかったビリヤード店の入り口を入り、細くてうす暗い階段を上がった二階、そこに目的の人たちがいる。上ると階段がギシギシと音を立てる。本当にこんなところにいるのか。いささか信じがたいがここまで来た手前、戻るわけにはいかない。木製のドアにかかっている手作り感満載の看板を頼りに俺はドアを押した。

中を覗いてみると……

パカン

「あイテェ!」

丁度、女がスリッパの底で男の頭を叩いているところだった。叩かれた男の方は顔をしかめながらその叩いてきた女に怒鳴っている。どうやら間違えて入ってしまったらしい。俺の目的の人はここにはいないようだ。ここに優秀な探偵がいるとの事だったが、やはり人の噂など信じるものではない。そう思い、気付かれないようにそっとドアを閉めようとするが、目ざとく女の方に見つかってしまった。

「あ、お客さん」

少しアホっぽい笑みを浮かべながらも女は俺の腕だけはがっしりと掴んで逃げないようにしてから、こう言う。

「ようこそ、鳴海探偵事務所へ!」

 

 

 

第一章

 

Pastを求めて

 

 風が吹いて止まない町、風都。俺はこの町で探偵をやらせてもらっている左翔太郎という者だ。又の名を、仮面ライダーダブル。の、左側。とも言う。

おやじさんの座っていたはずの椅子に座り始めてから、かれこれ一年になった。一年たっても尚、あの人みたいなハードボイルドにはなれていない。

 

 今日は、依頼がないので久しぶりの優雅な朝食がとれそうだ。俺の仕事は沢山ある時と無い時の差が激しい。たまにはこういう時だってあっても良いだろう。新聞に目を通しつつ亜樹子の淹れたうっすいコーヒーを口に含む。

 ああ、不味い。

 そうしていると、突然右の方から危険信号が鳴っているような気がした。身構えた途端、

パカン

「あイテェ!おい亜樹子ォ!」

 いつものあのスリッパを手にした、してやったりとでも言いそうな小憎らしい笑みを浮かべたここの大家、鳴海亜樹子だ。

「翔太郎くん!依頼がないんだったら自分で探しに行く!早くご飯食べちゃって!」

「おまっ、それぐらい叩かなくても言えるだろ。もう少し平和的に言う方法は無いのか」

「無い」

「即答するなよ。だいいち、自分から依頼を探しに行くってハードボイルドじゃないだろ」

「あ、お客さん。ようこそ、鳴海探偵事務所へ!」

 

 依頼人が来てしまったのではぐらかされてしまった。いつか今までの叩かれた分を清算してもらいたいとは思うが、なんだかんだでやり返すことにためらいを覚える自分がいる。

 そんなことをぼんやりと思いつつ、亜樹子が勧めた来客用の椅子に座った今回の依頼人の正面に座り、向かう。

依頼人の名は、大道克己。鷹のように眼光が鋭く、一見しただけで只者ではないのがひしひしと伝わってくる。米軍の秘密部隊に所属していたと言われても違和感を持たないほど異様な空気を醸し出している。決して鷹揚な態度を取っているわけではないが存在するだけで圧迫感を与える男。それが、あいつの第一印象だった。

彼が持ってきた依頼は…

「俺の過去を見つけてほしい」

「過去…ですか」

「そうだ。俺の過去だ。報酬は望む額だけ出す。」

「どうしてそんな…?」

「俺は事情があって、過去の記憶を失くした。そして徐々に今も失っていっている。それが大事なものかも分からない。だが思い出さなくてはいけない、そう本能が呼びかけてきたから風都一、優秀と巷で噂となっているここに来たという訳だ。」

 風都一優秀と聞き、にんまりとした顔を浮かべている亜樹子は無視する。

「その事情というのは、どのようなものですか?支障がなければ教えて頂きたいのですが」

「それは出来ない。だが、勿論手がかりが全く無い訳ではない。」

 そう言うと、彼は懐に手を差し込み一つのものを取り出すとぶっきらぼうに、そうでありながらも大事そうに机に置いた。

「ハーモニカ?」

 机の上には懐かしの音色を奏でる銀色の小さな楽器が置いてあった。

そして手の中に包み込むようにして優しく持ちなおし、口元に近づける。

 次の瞬間、事務所は和やかなメロディーに包まれた。心に寄り添ってくるような、不思議な曲。特別元気になる訳でもないし、意味もなく悲しくなるような訳でもないが普通に生活しているだけでは体験しないような感覚。こころもちか、さっきまでとは大道の雰囲気も柔らかくなっているように見える。

 そして、結局その曲が終わるまで誰も、一言も話せなかった。さっきとは違った、話してはいけないオーラを感じたせいもあるが、なにより自分の声でその演奏を中断させるのが惜しかったからだ。それほどの『力』をその曲は持っていた。

 大道がそのハーモニカを机に置いた瞬間、俺たちはやっと正気に戻った。彼は、何事もなかったかのようにその手入れをしながら話す。

「この曲は、何の曲かも分からない。このハーモニカも同じだ。だが曲は体が覚えている、何らかの過去の記憶であることは間違いない。」

「記憶……」

 その瞬間、鋭いアラーム音が辺りに鳴り響く。ハッとした表情を浮かべる依頼人、大道克己。

「時間が来たようだ。俺は帰るが3日後にまた来る。その時までに引き受けるか聞かせろ」

「分かりました。」

「出来るだけ早いうちに頼む。」

 そう言うと、大道は俺が握手しようと差し出した手に対し手を伸ばしたが、触れるか触れないかの直前で電流に弾かれたような勢いで手を離し、少し焦った表情を浮かべそのまま何も言わずに事務所を出て、ドアをバタンと閉め何処かに行ってしまった。

( ? )

「……行っちゃった…ね。最後のは何だったんだろう。」

「そうだな。何か大事な事を思い出したのかもしれないな。

「大事なこと?例えば?」

「それが分からないから困ってんだよ」

 亜樹子と平行線を辿る結末しか見えないような会話をしていると、背中の方から心強い声が聞こえた。

「面白い。そして実に興味深い依頼人だね、翔太郎。君はどうやら、またまた面白い事件に巻き込まれたらしい。」

「フィリップくん!」

 地球で起こった全ての記憶を知ることのできる星の本棚にアクセスできる男、フィリップ。一つの事に熱中するとのめり込んでしまい、しばしば暴走しがちで実は強情なところもある、俺の大切な相棒。そして仮面ライダーダブルの右っ側でもある。

「おお、フィリップじゃねえか。起きてたのか。あんだけ夜遅くまで起きてるなって言ったのに午前五時まで起きてて、たこ焼きについて調べててよぉ。肝心な依頼人が来た時には眠っているし。」

「たこ焼きについてはすまない。いつもの悪い癖が出た。でももう大丈夫だ。美味しいたこ焼きの作り方について完全に理解した。今度君たちにも振舞ってあげよう。」

「いや、今はたこ焼きを置いといて肝心な話をしてくれ。」

「分かっているよ。大道克己と言ったっけ。今回の依頼人は。さっきのハーモニカの演奏で起きた。そこからの事は全部聞いている。」

「はぁー、その時から起きていたんだったらさっさと出てくればよかったものを……」

「いや、今はまだ大道克己と名乗る男に僕の存在を知らせない方が良いと思っての事さ」

 何かを含んだような物言いだが、いつもの事だ。俺はこいつを信じて動くだけ。

「それじゃあ、俺はちょっくら行ってくるから、お前は調べといてくれ。何か困った時にはすぐに連絡しろよな?」

「分かっているさ、翔太郎。僕にはファングが付いているから安心してくれ。君こそくれぐれも気を付けたまえ。今回の事件には何か、大きなものが隠れているような気がする。」

「ああ。それじゃあ行ってくるわ。」

パカン

「ッテェな。おい亜樹子ォ!」

 何となく想像はついていたが、やはりスリッパで叩かれた。

どうせ自分もついてくるとか言うのだろう。危ないって言っているのに来るのはどうなのかと思うが、彼女も彼女なりに責任を感じての行動だろう。今まで何回も危ない目に遭いながらも、絶対に欠かさず付いてきた。たとえ単なる邪魔だったとしても。たとえ目の前でドーパントを取り逃がしたとしても。

「所長の私が付いて行かなくてどうするのよ!フィリップくん、私も行ってくるね!」

「フッ、やっぱりね。行ってらっしゃい、アキちゃん。翔太郎に迷惑かけるんじゃないよ?」

「はぁーい」

 片手を上げて答える(自称)探偵事務所所長。そしてそのまま俺をぎゅうぎゅう押し出そうとしてくる。またいつもの流れだ。

「……あれ?」

亜樹子の手が止まった。

「ん?どうした亜樹子」

「これこれ」

 彼女の指し示す先には、大道の忘れていったハーモニカがあった。

「これは……大道のハーモニカじゃねぇか。忘れていったんだな。」

 手に取ってみる。見た目のわりにずっしりとした重みが指に伝わってくる。銀色の、シンプルなハーモニカだ。あまり高いものではなさそうだが、長い期間大事にされていた事が分かる。塗装は剥げているにもかかわらず、細部まで錆一つついていなくメンテナンスもきっちりとしていたみたいだ。あの顔でこんなまめな事を、と思うが人は見た目に寄らないことを俺たちは痛い程よく知っている。

「すげーこまめにメンテナンスしていたみたいだな。」

「なんでそんなものを忘れて行っちゃったんだろう……」

 一瞬の静寂。時計のカチカチ時を刻む音がゆっくりと聞こえる。そして、思い出した。

「「あ!」」

「翔太郎くんが手を握ろうとしたとき!」

「でかした亜樹子。おい、フィリップ。ついでにこれについても調べておいてくれ。」

「分かった。そちらについても調べておこう。」

 そして俺はいつもの帽子を手に取ると、本日二度目の宣言をする。

「そんじゃ、今度こそ行ってくるわ。頼んだぜ、相棒。」

「私も行ってくるねー」

 

 こうして、俺たちの長い戦いは始まった。

 

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