科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

1 / 70
ちょっと書いてみたかっただけシリーズ。

VRAINS原作にした意味はあんまり無いです。
デュエル要素は基本無いです。
あっても島直樹です……


泣き虫人魚姫
野良精霊


 人々の意識がネットワーク空間内で過ごせるようになったのはいつだろうか。

 

 技術は進歩した。

 人間はネットワーク空間内で仕事をし、遊んで、買い物をして、デュエルをするようになった。もちろん、現実世界でも仕事をして遊んで買い物をしてデュエルをすることが無くなったかと言うと、別にそんな事もないのだが、確実にその頻度は少なくなって来ている。

 

『ここから私達を出してくださ~い』

『そこのアンタ! 私達の事見えてるんでしょ!』

『……お願い……』

 

 そんな世界に完全に適応出来ず、未だに紙でデュエルをするために紙のカードを求めて実店舗に足を運んでしまうのは俺が所謂転生者と言うやつだからだろうか。デジタルカードゲームは前世からある分野ではあったが、やはりデュエルモンスターズはどこまで行っても対戦相手と面と向かって紙のカードを握りしめてやるものであるという固定観念に囚われてしまっているのかもしれない。

 

『出してよぉ……』

『なんで、無視するのよ……』

『……ダメ……かな……』

 

 俺は一度こことは違う世界で死んだ。事故だった。はっきりと覚えている。だが、次の瞬間に気が付いたときには遊戯王VRAINSの世界に生まれていた。

 また赤ん坊からやり直しと言うのは少し堪えたが、特別家族に問題があった訳でも無かったし、大きな事件に巻き込まれたなんてことも無かった。平々凡々だけども何も不自由のない二度目の人生を16年ほど過ごしてきた。

 

 時々人に見えないモノが見えてしまうという事を除いて。

 

『うっ……うぅ……』

『なんとか言いなさいよぉ……』

『………………グスン……』

 

 大切にされたカードには精霊が宿る。

 それは前の世界でもこの世界でも多くのデュエリストが何となく知っている事だ。それと同時に前の世界でもこの世界でもそんな事を完全に信じている奴なんて居ないというのは皮肉な共通点だと思う。

 

 だが時として、特に大切にされた訳でも無く、パックから出てすぐの美品状態でショップに売られたようなカードにも精霊が宿っている事がある。

 俺はそいつらの事を野良精霊と呼んでいる。

 詳しい事は分からないが、そう言った精霊は人間界への興味や特別な事情から精霊界から自身の依り代となるカードの一枚に渡って来る事が多いそうだ。

 

 そんなカードの精霊をこんなにもはっきりと視認できてしまうのも、やはり俺が転生者だからなのだろうか。

 泣き出した3人の涙は真珠へと形を変えてボロボロを音を立てながら落ちていく。あんまりにも泣きすぎて真珠がショーケースの中を埋め尽くしそうだ。

 

「……店員さん。こいつら下さい」

「まいど~。ん? このカードなんだっけ。ああ、融合モンスターのパーツか。あんまり人気ないからまとめて買ってくれるならサービスしとくよ」

 

 そうして俺はティアラメンツ・メイルゥ、ティアラメンツ・シェイレーン、ティアラメンツ・ハゥフニスのカードをそれぞれ三枚ずつ合わせて500円ポッキリで買い取ったのだった。

 

 

 ☆

 

 

「さて、これで君達も自由だ。君たちが求める決闘者(マスター)の所にでも行くと良い」

『『『え?』』』

 

 この世界にカードの精霊は少ない。

 オカルトを全面に出していた遊戯王GXでもそうポンポンカードの精霊が居た訳では無いが、VRAINSの世界ではそれ以上にカードの精霊と言うものが少ない。

 今時のデュエルモンスターズのカードはクラウド上にデータ化された物を使ってデュエルするのが基本だ。そうなってくると、デュエリストの血と汗と涙を死ぬほど吸って絆を育むようなカードは少ない。つまり、俺が時々見るようなカードの精霊は野良精霊がほとんどと言う事になる。野良精霊になるような奴らは好奇心旺盛で、すぐに俺のような普通の高校生からは離れて行ってしまうのである。

 

 俺が自分の力に気が付いたときはそれはもう喜んだ。なぜなら一人の遊戯王プレイヤーとして、自分のデッキのカードの精霊とコミュニケーションをとるのは一つの憧れだったから。昔はショップで精霊付きのカードを探し回ったが、上記の理由で俺がショップで見つけて買ったあいつらはみんな俺の所から居なくなってしまった。

 きっと今頃あいつらも楽しくやっているのであろう。別に喧嘩別れした訳ではないから辛くはない。辛くはないが、そんな事があったので俺としても最近は積極的に精霊付きのカードを集めるようなことはしていない。

 

 これは余談だが、どうも精霊が宿ったカードがショップのストレージやショーケースにあった場合はそこから離れることが出来ないらしい。変な所でカードとしての性質を受け継いでいるせいでやたら悲壮感たっぷりに声を掛けてくる精霊達を見過ごせず、買い取ってはこいつらを好きにさせてやっているのだ。

 ……中には野に離すのは拙かったような奴らも居たような気もしないでもないが、大丈夫だと信じたい。

 

『えっと……その……もうしばらくあなたの所に居させては頂けないでしょうか?』

 

 メイルゥが言う。

 

「ん? 君たちは人間界に興味があってこちらの世界にやって来たんじゃないのか?」

 

『違うわ。私達は……あの世壊から逃げて来たのよ』

 

 シェイレーンが言う。

 

『……あそこは……地獄だった……だから、もう戻りたくない……』

 

 ハゥフニスが言う。

 

「……そうか」

 

 どうやら彼女たちは特別な事情故に人間界を訪れたタイプの様だ。そう言った子達も今までいたが、皆同じようにどこかに行ってしまった。

 きっと今回も同じだろう。俺はそう思って彼女達がどこかに行ってしまうまでの間だけでもデッキを組んで使うことを決めたのだった。




レイノハートは(居)ないです。
デッキ構築では欠かせないですけどね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。