パックを剥いてランダムな五枚が手に入る。他人が売ったカードをショップを介してバラで購入する。友人とカードをトレードする。
なら、求めている一枚のカードを手に入れるためにはどうするか。
偶然買ったパックから目的のカードを手に入れる。とても運命的だ。
ふらっと寄ったカードショップに有るストレージボックスの中の大量のカード。そこから適当に掴んだ一束に偶然紛れ込んでいる。これも運命的だ。
自分の友人が偶然欲しいカードを持っており、その友人はそのカードを必要としていないためにトレードに応じてもらえる。やはり素晴らしく運命的だ。
つまり、決闘者がカードを手に入れるという事は偶然から生まれる一種の運命だとも言える。
……え? 検索ボックスに「カード名 販売」と入力して検索する? それは運命的じゃないなぁ……。別に絶対の否定はしないけどね。
部室で部長とデュエルモンスターズについて話しているうちにやって来た他の部員たち。その中にはもちろん島も居た。
久しぶりに部活に顔を出した俺を見つけた彼は挨拶もそこそこに話しかけて来た。
「なあ、世良。お前が集めてるカードって
「
「おうよ!」
「ほんとか!」
『……グリバブのマスター、やるじゃん……』
『ウホッ♡』
どうやら島はこの間言っていたようにティアラメンツカードを探してくれていたみたいだ。
実を言うとそこまで期待はしていなかったのだが、まさか島が本当に見つけてくれるとは。やはり持つべきものは友達だね。
「で、どこのカードショップだ?」
「……いやー、それがなぁ。散歩中に適当に入った店だからどこの店だったかと聞かれると……忘れた!」
「……」
『……ダメじゃん、グリバブのマスター……』
『ウホン……』
……まあ、島だしな。仕方ない。
少なくともこいつの行動範囲のどっかのショップにある事は判明したのだ。まあそれで良しとするか……って思ったけど、カードショップなんてコンビニの数ほどあるから特定はほぼ不可能だな。
うん、やっぱダメだわ。
シェイレーンはともかく、メイルゥからも微妙な視線を向けられている事に気が付けない島はある意味幸せ者だな。
「ねぇ世良君。もしかして、これもそうじゃないかしら?」
「! 財前さん、それっ」
『あー! ペルレイノのカードじゃない』
『何だか随分久しぶりに私達のカードを見つけられましたね』
財前さんはこのむさ苦しいデュエル部の紅一点。アニメでも主要キャラとして描かれているブルーエンジェルその人だ。
今を時めくアイドル系カリスマデュエリストが実はクラスメイトだったとか、普通だったらそれだけで物語が始まりそうなのに主人公である藤木遊作とリアルでそこまで関りが無いのがVRAINSというアニメの凄い所だよな、ホント。
なんで財前さんがこの部活に入ったのか、アニメを見ていた時はずっと謎だったけど、彼女も部長とよくデュエルの戦術について話している姿をよく見かけるので、きっと細田部長の凄さに惹かれて入部を決めたのだろう。多分な。知らんけど。
「家のカードを整理してた時に見つけたのよ。世良君がこのテーマのカードを集めてるっていう話を島君から聞いてたから持って来ていたの」
なんと。遠回しに島が役に立っているじゃないか。
あいつの軽い口もこういう時には役に立ってくれるな。まあ、大抵は変な内容に変質した噂話が周囲に拡散するだけの事が多いのだが。
「それトレードしてくれないかな?」
「私は構わないけど、もうこのカードは既に持ってるんじゃないの?」
財前さんは俺が広げているカード群の中にペルレイノがある事に気が付いたようだ。
「いや、ペルレイノは出来れば三枚欲しいんだ」
ペルレイノはフィールド魔法だ。
フィールド魔法は処理されるまで場に残り続けて永続的に些細な効果を発揮し続けるものなので、複数枚採用する必要性は薄いと考えるだろう。
昔のデュエルモンスターズだったなら、な。
最近のカードには「このカードの発動時の効果処理として」という文言が使われることがある。主に永続カードやフィールド魔法で見られるものであり、昔と比べて永続系のカードがデッキによく採用されるようになった理由の一つと言えるだろう。
この発動時効果があるおかげで永続系のカードを通常の魔法・罠カードの様に複数枚投入する意義が生まれたのである。
そして、ペルレイノにも発動時効果がある。ティアラメンツモンスターをサーチすると言う余りにも重要な効果だ。また、ペルレイノがフィールド魔法であるという事も良い点である。
例えば永続魔法の場合、発動時効果を使うために発動すれば魔法・罠ゾーンに残り続ける。もう一枚使えば当然その分魔法・罠ゾーンの枠は圧迫される。
しかし、フィールド魔法は自分のフィールド魔法ゾーンに一枚しか置くことが出来ない。二枚目を発動すれば先に発動していたものを墓地に送って張り替える事になる。これならば魔法・罠ゾーンを圧迫することなく発動時効果を心置きなく使う事が出来るという訳だ。
最近のフィールド魔法は昔の『森』とか『山』とかの時代を考えるとあり得ないくらい強くなったものだが、それを差し引いても強力な発動時効果が優秀であり、そっちを主目的としてデッキに採用するまである。
「何か欲しいのはある?」
「……じゃあ、これを」
そう言って財前さんが指を差したのは偶然普段から持ち運んでいるストレージに偶然紛れ込んでいた『悪夢の拷問部屋』だった。普段持ち歩いているデッキ調整用のストレージはシナジーのある可能性がありそうなカードしか居れていないのだが……バーンデッキを組んでいた時に入れてから抜き忘れてたのかな?
「あっ……ふーん」
『この娘、顔に似合わず怖いカードを欲しがるのね』
『人は見かけによらないんですねぇ……』
『……もしかして、そういう趣味が……?』
まあ、三人娘が言いたいこともよく分かるが、彼女がLINK VRAINSで使っているカードを考えると、何も不自然ではない。
トリックスターデッキと悪夢の拷問部屋による無限チクチクバーンをライフ4000のこの世界でやられたら大変なことになってしまう。
「何?」
「いや、別に。じゃ、トレード成立だ」
「うん、ありがとう。かなり古いカードだったから探すのに苦労していたのよ」
俺が持つ『悪夢の拷問部屋』は財前さんへ、財前さんが持つ『壱世壊=ペルレイノ』は俺へと渡される。
LINK VRAINSに持ち込んでいるようなカードだったらアカウントとカードデータの紐付けの解除だったりと面倒な手間が増えるが、今回のトレード対象となったカードはそういったことは無いのでお互いがカードを渡し合うだけでトレードが成立する事になる。
よし、これで二枚目のペルレイノを手に入れることが出来た。
そう思いながら財前さんから『壱世壊=ペルレイノ』を受け取った瞬間、俺が見る景色はいつもの部室から非現実的な世界に変わった。
『ッ……ここは……』
一面に広がるのは水。
少ないながら陸もあるようだが、この世界を構成する物質のほとんどが水らしい。よく見てみると、水の中には水の煌めき以外の何かがキラキラと光っている様子も伺える。
そして、水中から天へと一直線に伸びる樹。その樹には水の傘が広げられているよう……とでも言えばいいのだろうか。言語化するのは非常に難しいが、この景色を端的に説明するなら、そう……
『ペルレイノだ……』
カードのイラストと全く同じ世界が広がっている。
「世良君? どうかしたの?」
「えっ……」
財前さんの声を認識した瞬間、水で満たされた世界の景色は切り替わり、再び部室へと戻っていた。
「……今、何か見えなかったか?」
「? 別におかしなことは無かったわよ? 急に放心してた様だけど、何かあった?」
「……いや、気のせいだったみたいだ」
財前さんのこの反応。十六年間生きて来て何度か似たような反応を貰ったことがある。それは、俺が精霊関連の話題を精霊と気が付かずに出してしまった時の反応だ。
だとするとやはりあの光景は……精霊界。