科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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サイバース精霊界

 唐突だけど意識データって何? ってそもそもみんな思わないだろうか。

 この世界ではどうやってかは不明だが、AIが現実世界に実体化して人間の意識データを直接ぶっこ抜くとかいう事件が起きたりする。AIが実体化というだけでも意味不明だが、人間から直接引き抜くことが出来る意識データというものは一体何なのか。

 この世界に来てからSOLテクノロジー社が発表しているLINK VRAINSの公式説明なんかも一読してみたのだが結果は……

 

 俺にはよく分からん。

 

 という訳なのだけど、流石にそれだとちょっとアレなので、自分なりに考えてみたことがある。

 

 意識、というものは結局のところその人物の経験から形成された物だと思う。つまりそれは記憶と言い換えても良いものなのではなかろうか。自分が考える自分自身。所属、特技、好きな物、嫌いな物から歩き方や言葉、技術等々……。そういったものをこねこねして一塊にしたものが意識だと思うんだよね。

 もし、意識というものが魂に刻まれるような物だったらこの世界の技術でもそれを機械で読み取ってどうこうするなんてことは出来ないはずだ。まあ、脳に記録されているそれらを読み取ってどうこうする事が出来るというのもかなりおかしな話だとは思うけどな……。

 

 だから意識、つまり記憶を取られた人間は眠ったような状態になる。所謂意識を失うという状態だ。

 逆に呼吸の仕方や心臓の動かし方といったことは生まれたての赤ん坊ですら出来る事であり、これは経験によって獲得したものではなく、生物としての人間が初めから所持しているものである。そのため意識を失ってもこれらが止まることは無い。

 

 さて、ここで何で突然俺がこんな事を考えているのかという話になる。

 

(ふーん、ここがそのLINK VRAINSって場所なの。変な格好の奴らが一杯居るわね)

「それは思っても言っては駄目な奴なんだぜ」

 

 それは、精霊(シェイレーン)をLINK VRAINSに連れてくることに成功したからである。

 

 三人娘(ティアラメンツ)の潜水融合状態というのは言わば俺の意識に彼女らの意識が混ざり合ったような状態だ。別にこの状態の俺が彼女達の記憶を有している訳では無いし、彼女達の様に人魚の如く水中を泳ぐことは出来ない。

 だから正確には俺自身が「自分に今ティアラメンツが融合していると認識している」という状態である。

 それにより、融合状態の俺の意識を読み取った機械が俺を介してLINK VRAINS上に精霊の意識を構築して再現している……のだと思う。

 

 だからこの場所で彼女は精霊として姿を現すことが出来ず、常に俺の中から声が聞こえてくる状態だ。もう一人の僕みたいなもんだな。

 ちなみに、彼女の声がマスカレーナの様にLINK VRAINS上に存在している精霊に声が聞こえるかは……まだ試していないので謎である。

 

「それにしても酷い争いもあったもんだな……」

(何よ? 私達の勝負に文句でもある訳?)

「いや……」

 

 俺が融合できるティアラメンツは一人まで。つまり、それはLINK VRAINSに来ることが出来るのは一人までという事を意味していた。それを知った三人娘はそれはもう争った。流石に武器までは持ち出していなかったが、一生キャットファイトが続くかと思ったものだ。

 女の子って本当にああいう風に喧嘩するんだなぁ……。

 

(それで、誰に会うんだったかしら?)

「LINK VRAINS在住のマスカレーナさんだ」

(いや、誰よ)

 

 誰と言われてもそれ以外に説明する事なんて無いんだけどなぁ……

 

「まあすぐに分かるさ。きっとその辺に……あ、いたいた」

 

 俺がLINK VRAINSにログインすると決まって数分後くらいに彼女は自慢のローラースケートを転がしながら俺の前にやって来る。

 もしかしなくても俺のログイン情報とか監視されてたりしないよね? ちょっと怖くなってくるな。

 

『やあやあラッセさん! ご無沙汰ですね!』

「おっすおっす。突然なんだけど、今日はマスカレーナに聞きたいことがあるんだ」

『はいな。ラッセさんは今ティアラメンツというカードを探しているんですよね』

「何で知ってるん???」

 

 流石に怖くなってくるぞ。

 

『結論から申し上げますと、今の所それに関する情報は持ち合わせていません』

(役に立たないわね)

「……こら」

『おやおや、随分失礼な人魚さんですね』

「え? マスカレーナにはシェイレーンの声が聞こえているのか?」

『まあこれでも同類(精霊)ですから。一体そこの人魚さんがラッセさんとナニをして、今そんな事になっているのか、私は追求はしませんよ』

「別にやましい事はしてないが……」

『;-)』

 

 マスカレーナは意味深にウインクしながらそう言うが、本当に変なことはしてないぞ。そんなチラチラしたって特別面白い話なんて無いぞ。

 

(???)

 

 シェイレーン、君は何も知らないままの君で居てくれ。うん。

 

『で、話を戻しますね。私は情報屋ではなく、運び屋です。仕事柄色々な話を聞くことはありますけど、情報収集が専門ではないのです』

「あれ? そうだったんだ」

 

 てっきり彼女は情報屋みたいなものだと思っていた。

 

『ですけど、私には知り合いが沢山居るのです』

「なるほど。つまり、知ってそうな人を紹介してくれるって事か」

『そう言う事です』

 

 よし。

 少し遠回りになりそうだが、少しずつ目的に迫っている感覚があるぞ。

 

「そういえば、君はどうやって人間界の情報を集めているんだ?」

『それは企業秘密です』

「あ、はい」

『ですが、彼女達に会わせてあげるのには条件があります』

「それは?」

『私をラッセさんのデッキに入れて下さい!』

 

 ふむ、やはりその条件を付けて来たか。

 彼女をデッキに入れて運用するにあたって問題になるのは、彼女がサイバース族であるという事だ。今、この世界でサイバース族を使おうものなら、どこからともなくサイバース絶対殺すマン(ハノイの騎士)がやって来て因縁を付けられるに決まっている。そうしたら面倒な事件に巻き込まれるのは確定的だろう。

 

 この世界で使えば、であるが。

 

 ペルレイノのカードを集め、向こうの世壊に行った時、俺は三人娘を虐げて居る者と対峙する事になるだろう。そして、その世壊でならハノイの騎士に察知されるような事もないはずだ。

 

 そうなると、マスカレーナの力は貴重だ。

 自分のエースリンクモンスターに耐性を付けるもよし、相手ターンにリンク召喚をして一妨害を構えるもよしの彼女の効果はとても強力である。ペルレイノでの大仕事を手伝って貰えれば幸いと言える。

 その後の事は……後で考えればいいか! 

 

「いいよ」

『まあ、ラッセさんなら断ると思って……え? 本当に?』

「ああ。ただ、LINK VRAINSでは君の事を使う事は出来ない。少なくとも今はな。それと、今後訪れる精霊界で起こるであろう戦いで力を貸して欲しい。身勝手なことを言っているのは理解している。それでも、出来れば手伝って欲しい。逆に俺がお願いする立場だ。頼む」

 

 マスカレーナに頭を下げる。

 彼女が俺とどういった関係を望んでいるのかいまいち掴めないところがある。彼女がここで決闘者と一緒にデュエルで活躍する事を望んでいるのならきっと断られてしまうだろう。

 だから俺に出来る事はこうして頭を下げてお願いする事しかない。

 

『ふーむ……なるほど。その戦いとやらはそこの人魚さんに関わる事なんでしょうね』

(その人魚さんって呼び方は止めなさい。私はシェイレーンよ)

『では、シェイレーンさん、と』

「どうだろうか?」

『良いですよ』

「本当か!」

 

 いつの間にか俺と彼女の立場が逆転したみたいだな。

 

『ええ。すぐにデュエルで使ってくれないのは少し寂しいですが、私は人間界というものに興味があるので、ラッセさんについて行ければとりあえずはそれで満足です。それに、私の知る精霊界とは別の世界というのも中々面白そうですし』

「……そうか……。ありがとうな」

『いえいえ。これはお互いにメリットのあるお話、と言うやつです』

 

 マスカレーナが居れば出来る戦術も増える。

 これは俺にとっても非常に心強い。

 

『さて、そうと決まれば一緒に行きましょうか。彼女達に話を通しておく必要もありますしね』

「行くって……どこに?」

 

 マスカレーナが言う情報に詳しい人物が誰の事を示しているのかは分からないが、ここからどこかに行く必要があるらしい。しかし、精霊である彼女の知り合いならその人物もまた精霊という事になりそうだが……? 

 

『ふっふっふー。ところでラッセさん。私達サイバース族の精霊にとってLINK VRAINS(ここ)はどういう場所だと思いますか?』

「え? うーん……ここがサイバース族にとっての精霊界って事じゃないのか?」

 

 サイバース族はAIが作り出した新しいデュエルモンスターズの種族。ネットワーク上で生まれ、ネットワーク上で絆が育まれた彼・彼女達にとってLINK VRAINSが自身の世界という訳ではないのだろうか。

 

『それは間違いなんですねぇ。サイバース族(私達)にとってここは、他の種族のデュエルモンスターズの精霊(サイバース族以外)にとっての人間界みたいなものです』

「ほえー。そうだったのか」

『ところでラッセさん。LINK VRAINS(ここ)はあなたにとってどういう場所ですか?』

「んー?」

 

 何だか哲学的な話みたいだな。

「ここは俺にとって大事な所だ!」的な事をマスカレーナは聞いている訳では無いだろう。原理的な話であれば、ここは俺の意識だけが存在出来る場所……って感じだろうか? 

 

ラッセさん(人間)にとってここは、精霊にとっての人間界のようなもの。この空間において私とラッセさん(人間)は同じような存在なんです』

「えっ、そうなの?」

『そうなんです』

「そうなのか……」

 

 そう……なのか……? 

 ま、まあ、本当の所の話は分からないし、そう言う事にしておこう。

 

『LINK VRAINSは謂わば人間界とサイバース精霊界の中間地点』

「サイバース精霊界……」

『世界を分ける仕切りの部分みたいなものです。普通の人間はこの仕切りの向こう側に行くことは叶いませんが、向こう側の住人の手引きがあればコッソリ飛び越える事が出来るんです!』

「まさか、こんな身近に精霊界の一つがあったとは……」

 

 だが、確かにあり得ない話でも無さそうだ。

 言ってしまえばここはGXのデュエルアカデミアの様に特殊な空間なんだろう。人間界と精霊界の距離が近い空間。だから、少しの後押しだけで人間が精霊界に足を踏み入れることが出来る。

 

「……ん?じゃあマスカレーナはどうやってその仕切りを超えて来たんだ?」

『私はスペシャルなので』

「なるほど……」

 

 教えてはくれないのね。

 

『では、早速出発しましょう! ラッセさんは目を瞑ってください』

「おう」

 

 そう指示を出したマスカレーナ。

 目を瞑った俺には彼女の姿は当然見えないし、精霊の彼女の気配を感じる事は出来ない。

 

(ッ! ちょ、ちょっと! どんな触わり方してるのよ!)

『へへへ……良いではないか良いではないか~』

(く、くすぐったいんだけどおおおお!!)

 

 だが、声は聞こえる。

 右の方から聞こえるマスカレーナの声と俺の中から聞こえるシェイレーンの声。

 シェイレーンによると、どうやらマスカレーナは俺に触れているようだが、当然その感触は俺には無い。ていうか、俺の中のシェイレーンはマスカレーナに触れられる感触が分かるのか……。やはり、精霊同士だからだろうか。

 新発見だな。

 

 

 

 

「ん?」

 

 突然何かに引かれる様にして動く俺の身体。

 そして、気のせいかもしれないが何らかの壁の様なものを超えた気がした。

 それと同時に俺の右手に感じる誰かの手の感触。

 

「もう目を開けても良いですよ」

「な……こ、ここは」

 

 目の前に広がる世界はLINK VRAINSによく似ていた。だが、確実にLINK VRAINSではない。

 その事を如実に示しているのは知らない言語が書かれた看板だろうか。

 ネオンに彩られたビル群は妖しく光り輝いている。

 

「いらっしゃい、ラッセさん。ようこそ、サイバース精霊界へ」

 

 そして、そこに居たのは透けて向こう側が見える精霊状態ではなく、実体を持ったマスカレーナだった。




書きたかった話パート2、です。
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