科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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S・F

 見渡す限り立ち並ぶ高層ビル。

 そこに掲げられる様々な煌びやかな広告は街に不慣れな若者たちの注目を集めて止まないだろう。

 

 街の光が明るすぎて気が付かなかったが、空を見上げてみれば今は夜らしい。現実世界の時間とはずれがあるようだ……それとも、この世界は一日中夜の世界なのかもしれない。街の光にかき消されて微かにしか見えない星の光は奇しくも科学技術が発達した俺達の世界と同じだった。

 

「ささ、ラッセさんにこの街の案内をしてあげますよ~」

「何と言うか……見慣れた風景とよく似ているのに、明確に違うって分かるもんなんだなぁ」

「そうですか? ならラッセさんがここに住むことになっても問題ありませんね!」

「いや、問題あるだろ。そんな事にはならないと思うけど……」

 

 マスカレーナに繋がれた手を引かれながら街を巡る。

 俺は見知らぬ世界の光景に人並みの好奇心がうずいていた。

 確かに街並みという意味では人間界とよく似たものかもしれない。空中に浮かぶディスプレイだってLINK VRAINSだったら見慣れたものだ。

 だが、この街を歩く人は人間ではなく、全員精霊だ。カードのイラストで見たことがあるような奴らもチラチラ見受けられる。

 

「あ、そうそう。ここならシェイレーンさんも精霊体ではなく、実体を持つことが出来ると思いますよ?」

(あ、確かにそうね。私からすればLINK VRAINSもここも大して違いが無かったから、あんまり精霊界って気がしなくて気付かなかったわ)

 

 彼女がそう言うと、俺の中から何かが抜けるような奇妙な感覚がした。

 

「ん~~~~ふぅ……。こうして実体を持つのは久しぶりね」

「おー」

 

 俺から出て来たシェイレーンはいつも見慣れた半透明な精霊状態ではなく、髪に、服に、装飾品に、そして身体に確かな重みを感じる物だった。

 

「へー、いつも触れることが出来なかった精霊にこうして触れる事が出来るって言うのは何だか新鮮だなぁ」

「ちょ、ちょっと……あんまり触らないでよ……くすぐったいじゃない……」

「ああ、ごめんごめん」

 

 物珍しさからうっかりシェイレーンの手を取ってその感触を確かめるように握りしめてしまっていた。慌てて手を離したが、彼女に少し距離を取られてしまった……。

 

「おーい、ラッセさーん? 私はー?」

「あ、そうだった。もう精霊のマスカレーナに触れてたんだったな」

 

 シェイレーンに触れるために無意識に離したマスカレーナの手。その手が再び俺の手を取り触れ合うことが出来るという事をアピールしていた。

 二人とも人間の少女の様に柔らかい肌の感触と確かな熱を感じる物だった。

 

「……」

「あれ? もしかしてラッセさん、照れてますか?」

「……まあ、少しだけ……」

 

 最初は彼女達はデュエルモンスターズの精霊という意識が先行していたため特に思う所は無かったが、こうして確かに触れ合う事で女の子な部分を認識してしまうと……少々恥ずかしいものだ。

 

「……イヤらしい……」

「……何も言えぬ……」

 

 俺も男の子です故……。

 

「ね~、ラッセさんはえっちですね~」

「あなたにも言ってるんだけど! さっきこいつが目を瞑っている時の触り方は完っ全に変態のそれだったわよ!」

「い、いったいどんな触られ方をしていたんだ、俺は……」

「それは秘密ですね~」

 

 目を瞑っていた時、俺はマスカレーナに一体どんな事をされていたんだ!? 

 

「それと、シェイレーンさんに注意点が一つ。ラッセさんは人間界に戻る時はLINK VRAINSからログアウトする時と同じ方法で戻る事が出来ますけど、シェイレーンさんはその時ラッセさんの中に居ないと置いて行かれちゃうと思うので気を付けてくださいね」

「ひぇっ……」

 

 ここに取り残された時の事を想像してしまったのか、俺から少し距離を取っていたのから一転、今度はピタッと身体がくっつきそうになるくらい近づいてきた。

 そして、思わずと言った感じに目元から一粒の涙が零れる。彼女の顔から離れた涙の雫はいつもの様に真珠へと変化する。

 

「んしょっと……いつもはいつの間にか消えてた真珠もこの世界ではそのまま残るし、やっぱり触れるんだな」

「おー! 綺麗ですね~」

 

 地面に落ちたシェイレーンの涙の真珠を拾い上げ、掌で転がしてみる。

 その真珠は夜の街のネオンの光を反射していつも以上にキラキラと輝いているように見えた。真珠の白に様々な光が映り込み、虹色の様に輝くそれは、マスカレーナが言うようにとても綺麗だった。

 

「記念に貰っておくか。まあ、持ち帰れるとは思えないけど」

「……恥ずかしいから捨てて欲しいんだけど……」

 

 えー、折角綺麗な物なのだし、流石にそれは勿体ない。

 

「さて、それでは目的の人物がよく居るバーにでも……あ、マズイ」

 

 目的地に案内してくれようとしていたマスカレーナが何かに気が付いたのか、渋い顔をしながらそう呟いた。

 

「何かあったか?」

「お二人とも! ほんの少しだけ私はこの場から離れます! すぐに戻って来ますのであまりここから動かないで居て下さいね!」

「え、ちょっと……行っちゃったな」

「何をあんなに慌てていたのかしらね?」

 

 早口でそれだけ告げたマスカレーナは自慢のローラースケートを全速力で転がしながらこの場から離れていく。あっという間にその姿が見えなくなったのと同時に、俺達は誰かに声をかけられた。

 

「そこのお二人さん! 今ここに、この娘が居ませんでしたか!?」

(『S-Force(セキュリティ・フォース)乱破小夜丸』!)

 

 それは俺が前世で知っていたカードテーマ、セキュリティ・フォースのカードの精霊だった。

 彼女達のカードイラストの中で小夜丸とマスカレーナは追う者と追われる者の関係だったはずだ。今も彼女はマスカレーナの人を小ばかにしたような「あっかんべぇ顔」の写真を俺達に見せて確認を取って来ている事からも間違いではないだろう。

 

「あっちらへんに行ったよ」

 

 俺はマスカレーナが逃げて行った方向から微妙にずれた方向を指差しながらそう答えた。

 

「あっちですね! ご協力感謝致します、精霊さんと人間さん! …………人間さん!? どうしてこんな所に人間さんが!?」

 

 やはり、精霊界で人間は珍しいのか、小夜丸は目を大きく見開いて驚愕の表情をしている。身体全体でリアクションを取っているあたり、随分愉快な娘なようだ。

 しかし、この世界の治安組織と思われるセキュリティ・フォースに目を付けられるのは面倒事を招く可能性がある。ここは不自然でない理由を答えるべきだ。

 

「観光ですよ」

「なるほど、観光ですか」

 

 外国の入国審査は大抵これで何とかなるって英語の教科書で学んだが、何とかなるもんだな。

 

「ぜひ、このEden Cityを楽しんで行って下さいね! それでは、私はこれで失礼します!」

「Eden City?」

 

 俺の疑問に答えることなく小夜丸はマスカレーナ追跡のために走り出して行ってしまった。

 

「アンタ、今平然と嘘ついたわよね」

「人聞きが悪いじゃないか、シェイレーン。確かに彼女はあっちらへんに逃げて行ったさ」

 

 まあ、そのまま真っすぐ追いかけて行っても追いつくことは出来ないと思うけどな。

 

「いや~、セキュリティ・フォースをだまくらかすなんて、ラッセさんも中々のワルですねぇ~」

「うわっ、びっくりした。どこから出て来てるんだよ……」

「すぐに戻るって言ったじゃないですか」

 

 俺に話しかけて来たのは足元のマンホールから頭を出して周囲を確認するマスカレーナだった。

 追手が居ない事を確認すると、怪しまれないうちに素早く地下から飛び出て来る。

 

「とんだ邪魔が入りましたが、今度こそ行きましょう!」

 

 追跡者を振り切り、気を取り直して前を歩きだすマスカレーナ。

 俺とシェイレーンはそんな彼女について行きながら夜の街を歩いて行く。

 

 




乱破小夜丸は戦士族……妙だな……
そこらへんはまた次回(書ききれんかった)

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