科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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壱世壊

 この世界、と言うよりもこの頃の遊戯王では融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラムの既存の特殊な召喚方法を使うテーマは人気が低かった。

 それは何故か? 俗にリンクショックと呼ばれるルール改定によってリンクモンスターを前提として既存のエクストラデッキのカードは展開しないといけなくなったからだ。

 エクストラデッキから召喚したモンスターは六番目のモンスターゾーンであるエクストラモンスターゾーンとリンクモンスターのリンクマーカーの先にしか召喚することが出来ないと言う縛りがある。そうなると既存テーマはリンクモンスターを採用しなければエースであるエクストラデッキのモンスターを展開出来なくなるという訳である。

 

 多くのデュエリスト達はミラフォなんかよりもよっぽどこのルール改定によって底知れぬ絶望の淵へ沈められたものだ。

 

 製作者の意図としては高速化し過ぎたデュエルの低速化とか、新しく作ったリンクモンスターを既存プレイヤーに売るためとか、まあ理由は分からないでもない。結局そのルールは不評過ぎて後に変更されるわけだが、今俺が生きているこの世界でそんな事が起こる可能性は低い。

 

 とまあ、何でこんなことをつらつら説明しているかと言うとだ、つまり、現環境においてシンクロ、エクシーズ、ペンデュラムは勿論、ティアラメンツが属する融合テーマは人気が低いという事だ。(儀式? ドライトロンと組んでなさい)

 

「人気が低いという事は、関連カードも安くて助かるな」

『私達を安い女とでも言いたい訳!』

「そこまで言ってないが?」

 

 シェイレーン、メイルゥ、ハゥフニスを使ってデッキを組むと決めた俺はすぐにカードショップを梯子して関連カードを探し求めた。そしてようやく見つけた一枚が『壱世壊=ペルレイノ』。

 ティアラメンツモンスターカードをサーチする発動時効果、特定カードの攻撃力をアップさせる永続効果、そして条件を満たせばフィールドのカードを一枚破壊できる起動効果の三つの効果を兼ね備えた中々優秀、いやかなり優秀なカードだ。効果だけを見れば決して30円ストレージに眠っていて良いカードではないが、やはり融合テーマのパーツなうえ、汎用性が無いと言う事であまり売れないのだろう。

 

『私達は……私達はぁ……安くない、ってぇ……』

「いや言ってないが?」

『泣かないで下さい、シェイレーン』

『よしよし……酷い人ね……』

「だから言ってないが?」

 

 涙を真珠に変えながらボロボロと泣き出すシェイレーン。普段は気の強い性格のようだが、ふとした瞬間に今みたいに突然泣き出してしまう。困ったものだが、彼女達が未だに話してくれない身の上を考えると仕方がないのだろうか? 

 

「なあ。ところで、この『ヴィサス=スタフロスト』って……」

『うえ~ん……』

『……ぐすん……』

『………………スン』

「……はぁ、またか」

 

 そして気が付くと三人揃って泣き出すものだから俺の周りはいつも彼女達の涙で出来た真珠で埋め尽くされてしまう。

 どうやらまだまだメンタルケアが必要なようだ。

 

「おう、世良(せら)! 何一人でブツブツ言ってんだ? ……って、なんだ? また紙のカード広げながらデッキ組んでんのかよ」

「島か」

 

 精霊達のメンタルケアについて頭を悩ませていた俺に声を掛けて来たのは部活動仲間の同級生、島直樹だった。あ、世良って言うのは俺の苗字な。

 

「世良はまーたデッキを組み直してるのかぁ?」

「まあな。色々あってね」

『誰? この無神経そうな男』

『悪い人じゃ無さそうですけど』

『……単純そうね』

 

 島が声を掛けて来た瞬間に泣くのを止めて俺の後ろに回って姿を隠す三人娘(ティアラメンツ)。精霊の姿は島には見えていないからその行動は無駄だと思う。そしてそっと俺の影から顔を出して見た三人の島への評価はメイルゥ以外は結構酷いものだった。

 悪い奴じゃないんだよ? うん、悪い奴ではない。

 

「ダメダメ、そんなんじゃ全然ダメェ! デュエリストたるもの、己の信じたテーマを貫き通すべきだぜ!」

 

 おっと、その発言はこの世界の主要キャラクターの何人かにぶっ刺さるからそれ以上はいけない。

 

「そういう人も居るよな」

「だろぉ? 俺なんか長い事探し続けた三枚目のグリーン・バブーンをお前から貰ってから初手でグリーン・バブーンを引く回数が確率以上に増えた! ……気がするんだぜ! これはきっとカードを愛し続けた俺に応えてデッキに精霊が宿っているに違いない!!」

「ははは、そうかもな」

『あら? この男、やっぱり気が付いているのかしら?』

『うーん……でも、私達に気付いた様子はありませんでしたよ?』

『……グリバブもしょんぼりしてる』

 

 そう、俺が島に渡した森の番人グリーン・バブーンは精霊付きだ。

 まだ俺が精霊付きを探し回っていた時に見つけた一枚なのだが、彼も俺に使われる事に何かしっくり来なかったみたいで新しい決闘者(マスター)を探すように相談(ボディーランゲージで)された。そして、彼のお眼鏡にかなったのがデッキに投入する三枚目のグリーン・バブーンを探していた島と言う訳だ。

 残念ながら島には精霊を認識する能力は無いが、グリーン・バブーンも島の事は気に入っているのか今の環境に十分満足しているらしい。

 

「ふーん、モンスターの効果で融合召喚が出来るんだな。面白い効果だと思うけど、このテーマのエースカードは持ってんのか?」

『気安く触らないでよ』

 

 シェイレーンのカードを掴んで効果を流し読みしていた島が俺に聞いて来る。ていうか、シェイレーンの島に対する当たりが強くて笑える。

 

「いや? 持ってないけど」

「はぁ!? ダメじゃん!」

 

 そう、俺が買えたティアラメンツカードはシェイレーン、メイルゥ、ハゥフニスの下級モンスターとフィールド魔法の4種類。純デッキを組むなんてまだまだ遠い夢だ。

 

「別に急ぐ必要もないからゆっくり集めるさ」

「たはー! お前は本当に暢気だなぁ。ネットショップでサクッと買えよ」

「バカお前。それは礼儀に反するだろ」

「いや、何の礼儀だよ。意味分かんねーよ」

 

 ネットで検索すればテーマカードまとめて買えるだろうって? まあ、それはそうなんだが、それじゃあ味がないというか、面白くないというか……分からないかなこの気持ち。

 ネットワークで何でもできるこの時代を生きる者として非合理的なのは理解しているがね。

 

「ったく、めんどくさい奴だな~。なら俺もショップでそれっぽいの見つけたら教えてやるよ」

「おう。助かる」

 

 無神経で単純な男だが、島と言う男は悪い人間ではないのだ。

 

『ひっぐ……変な男に無神経に触られたぁ……』

『シェイレーンちゃん……』

『かわいそう……』

 

 

 ……その反応は流石にあんまりだと思うな、俺は。




原作主人公よりも先に登場する男が居るらしい。

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