「正に灯台下暗しだな」
『まさか三枚目のペルレイノがアンタがいつも通ってる店にあるなんてね』
Evil★Twinの二人の情報によって『壱世壊=ペルレイノ』がある場所が判明した。そこは俺がいつも放課後に通うカードショップだった。
☆
これは今から一時間前。
そして、サイバース精霊界を訪れた三日後の事。
キスキルに言われた通りに渡されたURLをブラウザで入力すると、画面に映し出されたのは動画投稿サイトのホームページの様だった。
「『Live☆Twinチャンネル』……か?」
楽し気なサムネイルが数多く並んでおり、ついついクリックして動画を再生してみたくなるような工夫が凝らされている。サイト上の文字は精霊世界の言語で書かれているため、やはり俺には読むことは出来ない。だが、ホームページの構成やサムネイルの雰囲気からどんな動画か何となく理解できるのが面白い。
『え……このピンク色のと水色のがあの二人……?』
『そうですよ。二人はサイバース精霊界のトップ配信者でもあるんです』
中の人を直接知っているシェイレーンが驚きの声をあげる。リアルとバーチャルのギャップに戸惑いを隠せない様だ。
この三日間で
『シェイレーンちゃんが会ったって言うキスキルさんとリィラさんの事ですか? いいな~私も会ってみたかったです』
『……ずるい……』
「まあ、あの二人も毎日飲んだくれてる訳じゃないだろうからな」
シェイレーンとLINK VRAINSに行った後、当然のようにメイルゥとハゥフニスもLINK VRAINSに連れて行くようにお願いされたため、順番に彼女達を連れて行ったのが一昨日と昨日の事。
マスカレーナの手伝いもあって再びサイバース精霊界に赴き、色々見て回ったりもしていた。あの店に顔を出してみたが、残念ながらEvil★Twinの二人に再び会うことは出来なかった。
「……ん?」
しばらくホーム画面のまま何も操作をせずに放置していた所、画面の端から『Live☆Twinキスキル』と『Live☆Twinリィラ』が歩いて来るアニメーションが流れ、画面のど真ん中で立ち止まるとこう言った。
『ちょっとちょっと~。折角このページを見に来てくれたんなら再生数くらい増やして行きなよ!』
『……☆もよろしく』
「動画を再生せずにホームのまま放置してると専用のアニメーションが流れるのか? 凝ってるなぁ」
視聴者を逃がさない工夫までされている事に俺は素直に感心していた。
『おーい! ラッセ君? もしかして何か勘違いしてや居ないかい?』
『……私達は今、君に話しかけてるよ』
「……え? もしかして今話してる?」
『あったり前よ~』
記録されたアニメーションが指定されたプログラム通りに再生されたと思っていたキスキルとリィラはリアルタイムで会話をしているようだ。
精霊と科学技術の塊であるパソコンを通して会話を……している?
「精霊が人間界の物に干渉する事なんて……君達はそんなに干渉力が強い精霊なのか?」
『ん~、まあある意味では正解かな』
『……私達サイバース族はネットワークに対する干渉力に優れる種族。LINK VRAINSを介してなら人間界の物にアクセスする事も可能』
サイバース族の生まれ故郷とも言えるLINK VRAINSに対してならサイバース族はある程度の干渉力を有するという事か? だからマスカレーナはデータ化された自分のカードを俺にメールで送るという手法を取ることが出来た訳か。
『まあ、残念ながら君以外の人間には、この画面は真っ白に見えてるんだろうけどね』
『……人間の視聴者を取り込めればもっと再生数が増やせると思うのに……残念』
アニメチックなオーバーリアクションで『残念』という感情を表すキスキルとリィラ。こうしてLive☆Twinの姿を見ていると、実際に会った時と随分印象が違って見える。
どうやら、人間の精霊に対する認識力というものはパソコンの画面を介していたとしても必要らしい。
人間に気が付かれずに精霊達がネットワークと繋がった物に干渉する事が出来るとしたら、この世の原因不明のバグ等の何割かはもしかしたら精霊の仕業だったりするのかもしれないな。
『おっと。本題を忘れるところだったわ』
『……ペルレイノの在処が分かったよ』
「おお!」
流石は精霊世界を股にかける大怪盗だ。
この程度の情報を入手すること位訳ないという事だろうか。
『そこはね……』
☆
そのカードショップの名前を聞いた俺はすぐさま家を飛び出して現在に至る。
『今まで何度もこの店には来ていましたけど……全然見つからなかったですよね?』
『……見過ごした? ……』
「まあ、その可能性は無いとは言えない。小さい店だけどストレージボックスのカードの枚数は尋常じゃないからな。それに、表に出ていないだけで倉庫にある場合もある。もしそうだったら店員に聞くしかないな」
ショーケースの中のカードの入れ替わりはそこまで激しいものではなく、また数も少ないため確認は容易だ。
しかし、一山いくらで売られるようなストレージの中のカードを全て検めるには中々の根気が求められる。また、そう言ったカードは頻繁に補充が行われ、日々その内容は入れ替わっている事だろう。それに、そんなカードの内容や倉庫に眠っているであろうストレージ候補のカードを店員が詳細に覚えているとも思えない……。
だが、先にも言ったようにここは俺の行きつけのショップである。
そのストレージを漁った回数は親の顔よりなんとやらである。そんな俺でも『壱世壊=ペルレイノ』というカードを見つけたのは初回の一度だけ。
やはり、表に出ているストレージでペルレイノのカードを取りこぼしたというのは考えにくいと言わざるを得ない。
「Evil★Twinの情報だと、この店に買い取られたペルレイノのカードはまだ残っているという話だったが……」
『それじゃあ、ショーケースでもストレージでもなく、別の所に分けられてるって事ですか?』
「て言う事は……」
ショーケースの中でもなく、ストレージの中でもない。
ショップで中古のカードが売られる場所で考えられるもう一つの場所。
「オリパか……」
正式にはショップオリジナルのパック。
基本的に売値以上の内容のカードがランダムで封入されており、購入者が金額的な意味で損をすると言う事は無い福袋の様なものだ。しかし、そんなパックに入れられるカードと言うのは得てして大当たりカード以外は売れ残りであり、それらを売りさばくための体のいい言い訳に過ぎない……って言うのは少し言い過ぎだが、購入者が満足出来るカードを手に入れる事はほとんど無い。
精々運試し程度に買うくらいが丁度いいものである。決して欲しい一枚のカードを手に入れるために手を出すものではない。
だが、この状況……、まるで……
一枚目は偶然カードショップのストレージの底で見つけた。
二枚目は友人からトレードで貰った。
そして、最後の三枚目はおみくじ程度の感覚で購入したカードショップのオリジナルパックから手に入れた。
まるで、ミドラーシュの時と同じだ。
「よし。決めた」
真の
部長もそう言っていた。
あれ? 違ったかな? 部長は運次第って言っていたような気もする……。でも運命に導かれるの方がカッコいいからそう言う事にしておこう。
だとしたら、今俺がやるべきことは一つだけだろう。
「
後ろに控えるシェイレーン、メイルゥ、ハゥフニス、マスカレーナに向き直り、彼女達にもパックを選ぶようにそう告げた。
そして最終章へ