この店で売っているオリパのバリエーションは大きく分けて三つ。
300円で売っているローリスクローリターンのパック。このパックは一パック十数枚で販売されているが、よっぽど上振れない限りは普通にストレージのカードを十枚選んで300円支払った方が良い。
1000円、3000円、5000円の一番バランスが取れていて、意外と面白いカードが当たったりする松竹梅の竹的存在のパック。この価格帯のオリパは実戦級のカードが結構手に入るため、買ってみる価値はある。しかし、結局数千円払うのならシングルで買った方が良い事も多い。悪くは無いがおみくじ感覚なのは変わらない。
そして、最後は20000円のハイリスクハイリターンのパック。このパックで出るようなものは実戦で使えるカードと言うよりはプロモカードや美術品としての価値の方が高そうな昔の美品レアカードだったり、ビジュアル的に人気のあるカード等だ。このパックの大目玉はこの店での販売価格が50000円以上もする様な超レアカードと言えるような物ばかりだ。例えそれらが外れたとしてもプリズマシークレットというデュエルモンスターズで最高レアリティ仕様のカードがその値段に見合う程度に入っている。まあ、プリシクのシングル価格はピンキリだから一概には言えないのだが……。
「みんなには好きなパックを一つ選んでもらう」
だが、今回狙うカードは価値のあるカードでもなく、実戦で役に立つカードではない。『壱世壊=ペルレイノ』というこの世界ではあまり評価されていないカードだ。
それだったら一番下のグレードのパックをひたすら買いまくるのが良いかとも思ったが、場合によってはオリパの中身が見えないようにするための目隠しにされていたり、嵩増しのために高額パックに混ぜられている可能性がある。
俺だったら絶対に買わないようなパックにペルレイノが入っていたとしても、ティアラメンツの彼女達なら何らかの繋がりから察知してピンポイントで選べるかもしれないという我ながら浅はかな考えだ。
そして、マスカレーナには別テーマの精霊としてまた違う結果が出るかもしれないという事を期待している。
「どれがいいと思う?」
『『『『これ』』』』
「……」
嘘だろ……? 絶対一番高い奴の中身を見てみたいだけだろ。
四人が指を差したのは20000円オリパだった。高額オリパは普通の高額カードと同じようにショーケースの中にしまわれており、在庫のパックが綺麗に陳列されていた。その中の四パックを彼女達は誰一人被らずにそれぞれ指差している。
流石に合わせて80000円の出費は俺の貯金が持たない。
「……その中で一番自信があるやつだけを買おう」
とは言え、彼女達の意見を無碍にするのも悪いので、妥協案として一つだけ買う事にする。
『じゃあ、私が選んだこれって事で良いわね』
俺の言葉を聞いた四人は話し合いの末、シェイレーンが選んだパックにする事に決めたようだ。
ていうか、じゃんけんで決めていたけど、本当にそれで良いのか? そのパックの中に本当にペルレイノ入ってると思ってる???
もしかしたら彼女達に選ばせるのはあんまり意味は無かったかもしれないな……。まあいいけどさ。
『私はこれの後ろから三番目です!』
『……じゃあこれ……』
『う~ん……では、私はこれにしましょう』
メイルゥは1000円パック、ハゥフニスは5000円パック、マスカレーナは3000円パックの中から一つを選ぶ。俺は彼女達が選んだオリパを手に取り、確保しておく。
「俺はこれで良いか……」
300円オリパが適当に投げ込まれた段ボールの中から一つを手に取る。彼女達四人が選んだものだけで既に29000円の出費……。それに加えて俺も高額オリパを買う勇気は出なかった。
駄目で元々のこの企画。最初からこれでペルレイノが当たるとは思っていないし、この後30円ストレージを隅から隅まで探しまくる予定だ。
無間地獄みたいな後の事を考えれば景気づけに丁度いい。
俺は選んだパックをレジに持って行き、ついでに20000円オリパをショーケースから出してもらうように店員に告げる。
久々のデカイ買い物に財布の中身がさみしくなることを実感しつつ店内に設置されている休憩スペースの一角に座り込む。
「開けていくか……」
最初はメイルゥが選んだ1000円パック。
厚みから五枚位のカードが入っているだろうか。
「お、『超融合』か。これは良いカードだ」
『良いカードが当たりましたか? それなら良かったです』
『超融合』は相手のフィールド上のモンスターも融合素材にすることが出来る速攻魔法の融合系カードだ。
OCGでこのカードが初めて出た時は融合モンスターのバリエーションも少なく、手札コストが必要なこともあってあまり評価されたカードでは無かったが、時代が進み、融合素材に緩い条件を持つ融合モンスターが多数登場する事で厄介な敵モンスターを除去する札として活躍するようになる。
そして、何よりの強みはこのカードの発動に対して相手はモンスター・魔法・罠カードを発動する事が出来ない事だ。この効果によって『超融合』は融合テーマにおける万能除去札として使うことも出来る。
「何だかんだまだ持ってなかったから丁度いいや。サンキューな、メイルゥ」
『えへへ』
アニメ遊戯王GXではこのカードを巡って大変なことが起こったが、この世界では普通にカード化されている。
……精霊界で使ったら大変なことになるとかは無いよね? 無いと信じよう。
「次はマスカレーナのパックを開けるか」
『何が出るかワクワクしますね~』
今度のパックは先ほどよりもやや薄い。二~三枚程度だろうか?
オリパというのは基本的に入っているカードの枚数が少ない方がシングルでの価値が高いカードの事が多い。大当たりカードの場合はそれだけしか入っていない事もざらにある。
これは少し期待できるかもしれないな。
「ん! 『トロイメア・ユニコーン』か! こいつはラッキーだ!」
『トロイメア・ユニコーン』
リンク3のモンスターであり、手札を一枚捨てる事で相手フィールドのカードを一枚デッキへ戻すことが出来る。
このカードなら破壊耐性を持ったカードに対する有効手段となるし、手札では無く、デッキに戻すことによってそのカードの再利用を遅らせることが出来る優秀なカードだ。
何より、マスカレーナの相手ターンにリンク召喚する効果と組み合わせる事によって相手ターンに一妨害することが出来る有名なコンボカードでもある。
優秀な効果と、何故かこの世界でも再販が未だにされていない事もあり、シングルで買うと3000円以上する高額カードだ。欲しい一枚ではあるが、こんな機会でもないと中々買う事を躊躇ってしまうカードの代表格と言っても良いだろう。
『あれ? このカード……』
『……精霊の気配……』
『確かに弱いながらも感じますね』
「え? 本当に?」
『え? そうかしら?』
『トロイメア・ユニコーン』のカードを見たメイルゥ、ハゥフニス、マスカレーナの三人はこのカードに精霊の気配がすると言う。そして、相変わらずそう言った気配には疎いのか、シェイレーンはピンと来ていない。
俺も精霊の気配を感じ取ることは出来ないためよく分からないが、精霊抜けのカードを見抜ける彼女達が言うのならそうなのだろう。
「精霊抜けのカードか。このカードの前の持ち主は何を思って売りに出したんだろうな」
ユニコーンの精霊が野良精霊だったのか、決闘者に憑いた精霊だったのかは分からないが、最終的に持ち主の手を離れたこのカードに精霊が宿っていない事に一抹の寂しさを感じてしまう。
「……まあ、考えたって仕方ない。次はハゥフニスの選んだやつを開けるぞ」
『……おー……』
オリパの割には今の所良いカードばかり引けているが、今回の目的はペルレイノだ。
このあたりの価格帯のパックにペルレイノが入れられている可能性は低いと思うが、緩衝材代わりにされている可能性も無くはない……。三人娘にはこんな事言えないけどな。
「枚数は五枚程度……高額パックにしては多いな」
普通なら残念がるところだが、今回の俺の目的だとこれは逆に熱い可能性がある。
「プリシク五枚セットか……」
どうやら比較的安価なプリズマシークレットレアのカードのセットだったらしい。レアリティとしてはどれも最高のものだが、残念ながら現状俺がデュエルで使うような物は無かった。
『……使えるカード? ……』
「まあ、正直俺のデッキに採用するカードはないな」
『……がっくし……』
「けど、プリシクは持ってるだけで満たされるからな」
カードはデュエルに使うだけでなく、コレクションとしてローダーに入れて飾ったり、友人とのトレードの弾とする事も出来る。
それがトレーディングカードゲームというものだ。
「さて……最後は問題のパックだな……」
『早く開けなさいよ。気になるじゃない』
……こんな超高額オリパを開けた経験は無いから少し緊張してしまう。
しかも、パックを手に持った感じ、中に入っているのは一枚じゃないか、これ? 普通に考えたら激熱確定演出みたいなものだが、既にペルレイノチャレンジは終わった気がする。
「あ、開けるぞ」
『ごくり……』
ショップオリジナルのスリーブに納められたカードをゆっくりと、傷がつかない様に慎重に取り出す。
最初に見えたのは通常モンスターを表すクリーム色のカードの枠。
「は?」
『通常モンスターですか?』
次に目に飛び込んできたのはカード名より目立った水属性を示す青色のマーク。
「……は?」
『……弱そう……』
一件カード名がダイヤモンドカット箔のためシークレットレアのように見えるが、よく見るとイラスト部分には格子状の加工は無く、ホイル加工がされている。
「…………は?」
『ラッセさん……これって……』
現行のカードよりも文字サイズが大きく書かれた攻撃力と守備力はそれぞれ1200と2000。今の環境を考えれば通常モンスターでこれだとお世辞にも強いと言えるステータスではない。
『ねえ、アンタ何でそんな遠くを見るような目をしてるのよ?』
「…………」
『ちょ、ちょっともしかして、そんなに酷いカードだったの!? ……お金無駄に使わせちゃったの!? ご、こ゛め゛ん゛……』
シェイレーンが今までにないくらい大声を上げながらわんわんと泣き出したことで正気に戻った俺は、震える手を何とか抑えながら今引いたカードを改めて見る。
「……ヒュ……」
『うわ! ラッセさんが凄い声出してます! 気を確かに』
カード名『アクア・マドール』。
少しばかり守備力が高い以外は何てことないバニラモンスターだ。このカードが出たばかりの時なら攻撃力が高い『岩石の巨兵』として運用できる良カードだったろうが、今となってはデッキに採用する決闘者はほとんどいないだろう。だが、問題はこのカードの特殊なレアリティだ。
ウルトラシークレットレアと呼ばれるそのレアリティはシークレットレアと同じカード名のダイヤモンドカット箔とスーパーレアやウルトラレアと同じようなイラストのホイル加工の二つのレアリティの特徴を併せ持つ特殊なレアリティであるという事。
このレアリティはイベントなどで配布されたプロモカードであることを示す。それもはるか昔に行われたイベントだ。
それらのカードの美品は今となっては非常に貴重であり、市場では数十万で取引されている。
この一枚だけで今日の出費を取り返せるだけでは無く、収支を一気にプラスに持って行くとんでもない一枚だった。
「……シェイレーン」
『ひう……ご、ごめんなさい……』
「お前凄いな……本当に凄い……次も一緒にパック買いに行こうな」
『え?』
物欲センサーとか、ビギナーズラックとか、そう言う事なんだろうけど、是非ともその豪運にはあやかりたいものだ。
「はー……良い物見たわ……何だか今日はもう満足しちまったな……あ、そう言えば俺も買ってたんだった」
完全に存在を忘れていた俺が買った300円パック。
正直もう今日はストレージを漁ってペルレイノを探すような気分でなくなってしまったのだが、折角買ったのだからこれも開けておこう。
『『『『「あっ」』』』』
ストレージのカードを適当に十五枚程突っ込んだであろうそのパック。
三枚目の『壱世壊=ペルレイノ』。
俺達は目的のカードを手に入れた。
普通2万オリパからそんなカードは出ないとか突っ込んでは駄目。いいね