科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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襲撃

 キトカロスの衣装はシェイレーン、メイルゥ、ハゥフニスの三人の物と比べて装飾が豪華な印象を受ける。

 陸に上がった彼女にイラストで描かれていたような優し気で、儚げな雰囲気は無く、厳しい目つきで三人娘(ティアラメンツ)を見つめていた。

 

「侵入者が居ると思って来てみれば……まさか貴女達だったなんて……この世壊から出たんじゃなかったのですか?」

「キトカロス様、私達はあなたを助けるために……」

「必要はありません」

「でも! キトカロス様だけこのままなんて……」

「私は平気です」

「……せめて、一緒に……」

「くどいです。私の事を気にする必要はありません。今すぐこの世壊から立ち去りなさい。そこの貴女と人の子もです」

 

 三人娘の発言も遮ってマスカレーナと俺にもこの世壊から出るように言ってくる。人間の俺がこの場に居るのが不思議なのか、キトカロスは怪訝な表情を浮かべている。

 彼女が俺も含めて皆の事を心配している事はよく分かる。しかし、ここまで来て何もせずにすごすごと帰る訳にはいかないのだ。

 

 キトカロスに軽く自己紹介として名乗った後、俺は気になる事を聞いてみる事にした。

 

「どうして、そこまで彼女達の思いを無碍にするんだ?」

「人の子には関係の無い話です」

「ああ、そうだな。俺は所詮外野で、これは君と彼女達(ティアラメンツ)の話だ。だからこそ、彼女達にはちゃんと話す必要があるんじゃないのか?」

 

 俺の言葉に思う所があったのか、キトカロスは少しの間何かを考えるそぶりを見せ、その重い口を開き始めた。

 

「……今、あの方はとても苛立っている。そんな状況で私まで居なくなってしまっては、本当に抑えが利かなくなってしまいます」

 

 あの方、か。

 三人娘が言っていた元凶、この世界の王を自称する『レイノハート』という人物の事だろう。そんなことまで知っているとは、もしかしたらキトカロスはレイノハートに近い位置に居る人物なのかもしれないな。

 

「それって……もしかして私達がこの世壊から逃げ出したせいで……」

「いえ、それは違うでしょう。確かにその件に関してもあの方は怒っていたけれど……もっと別の理由……まるで何かに対する恐れを紛らわせる為に苛立ちを見せている様でした」

 

 自分たちが原因となってキトカロスがさらに大変な目に遭ってしまったことを心配する三人娘だが、キトカロスは否定する。

 彼女によると、レイノハートは何かを恐れている様だったという事らしいが、残念ながらそれ以上の情報は得られそうに無かった。

 

「なら、そいつを止めれば良いんだろ? 俺も協力して……」

「黙りなさい、人の子。それは余計なお世話というものです」

「キ、キトカロス様!?」

 

 いつの間に取り出したのか、キトカロスはステンドグラスの様な装飾が施された剣を俺に突き付けて来た。その時に少し頬に触れたのか、切り傷特有のヒリヒリした感覚がある。

 大きな傷では無いが、綺麗な切り口から溢れ出る血液の生温い感じが気持ち悪い。

 垂れる血液を拭い取る。手に付着した自分の血液とこの痛みがこれは確かに現実なのだと訴えかけて来た。

 

 怖いか怖くないかで言えば当然怖い。普通に高校生をしていたらこんなデカい刃物を突き付けられる経験はしないからな。それに、精霊と関わるにあたってこういう状況に陥る可能性だって当然予想出来ていた。だから全てを諦める程怖いかというと、そこまででは無かった。

 

 痛みや恐怖は俺を止める理由にはならない。何故なら、俺はそんな事よりももっと耐え難い事を知っているからだ。

 

「ラッセさん!」

「大丈夫、こんなの大したことないさ……」

 

 マスカレーナが駆け寄って来てキトカロスに対峙する姿勢を見せるが、そんな彼女の肩に手を置き止めさせる。俺の意図に気が付いてくれたのか、彼女は俺とキトカロスの間から少しずれて事の成り行きを見守ってくれるようだ。

 

「キトカロス、余計なお世話だって言うのは俺だって重々承知の上だ。それでも俺はここに来ている」

「何故、そこまで……」

「友達の為だ」

「友達……ですか……」

 

 誰の事を言っているのか察しが付いているのか、キトカロスは三人娘の方に視線をずらしている。

 

 その時、キトカロスの鼻がピクリと動いたような気がした。

 

「……血に混じるこの匂い……彼に施したのはシェイレーンですか」

「え!? えーと……そのぉ……はぃ……」

「そう、あのシェイレーンがですか……。随分と変わりましたね」

 

 彼女は何かの匂いに気が付いたのか、シェイレーンにそう語る。

 俺には何の事を言っているのか分からないが、彼女達だけに伝わる何かがあるのだろう。

 

「貴女達はそこまで彼の事を信用しているのですね……」

 

 突き付けていた剣を降ろし、表情から険が取れたキトカロスは一つため息をつく。

 

「貴方達の決意が揺るがない事は分かりました。であるならば、せめてこの世壊にいる間は危険な目に遭わないよう、私も……きゃっ!」

「ああ! キトカロス様!」

「何だ!?」

 

 キトカロスが言葉を言い終える前に、水の中から穂先の付いた鞭の様な物が彼女を捕らえ、水中へと引きずり込んで行った。

 さらに水中から同じような鞭が複数現れるが、不意を突かれる事の無かった三人娘は各々の武器で撃退していく。

 マスカレーナは持ち前の身軽さでひょいひょいと襲い掛かる攻撃を避けている。

 

「シェイレーンちゃん! この攻撃は……」

「あいつね……」

「……間違いない……」

「あいつ? ……まさか!」

 

 この攻撃はレイノハートによるものか! 

 

「あ」

 

 精霊達は自分達の力で迎撃する能力を持ち合わせているが、残念ながら俺にそんな能力は無い。あっけなく腕を鞭で掴まれた俺はキトカロスと同じように水中へと引きずり込まれる。

 

「ちょ、このバカ!」

 

 そんな俺を見かねてシェイレーンがすぐさま追いかけて来てくれているのが見えた。

 咄嗟に息を止め、水を飲み込まない様に集中している俺は今の状況を頭で上手く整理する事が出来ない。

 

(くっ……もう……無理……)

「せい!」

 

 腕に絡まる鞭を陸上と同じ動きで振るわれたシェイレーンの剣が切り裂く事で、底へ底へと引き込まれて行く感覚は無くなった。

 

「落ち着いて。大丈夫。今のアンタなら水の中でも生きる事が出来るから」

「ぶはぁ! ……あ、あれ?」

 

 息を止める我慢の限界がとうとう訪れ、口から漏れた空気が泡となって水面へと昇っていく。肺に水が満たされる感覚というのだろうか、本来ならあり得ない不思議な感覚だ。

 それに、水の中だというのにシェイレーンの声がやけにはっきりと聞こえた。

 

「どうして……」

「さっき言ったじゃない。今のアンタは水の中でも息が出来なくて死ぬことは無いわ」

 

 どうやら陸上での一連の行動で本当に水の中でも平気なようだ。どういった原理かは全く不明だが、これなら何とかなりそうだ。

 

「大丈夫ですかー!」

「……安心した……」

「ラッセさんラッセさん! これ凄いですね!」

 

 後から追いかけて来たのか、メイルゥ、ハゥフニス、マスカレーナもこちらへ来ていた。

 マスカレーナは水中で自由に活動できるという新しい感覚に興味津々の様だ。こんな状況も楽しめるマスカレーナは大物だな。

 

「見えて来たわ」

 

 未だ襲い掛かる鞭を三人娘が処理しながら、しばらく水底へと降りて行くと、大きな城の様な建物が見えて来た。

 先ほど俺達を襲った鞭もその建物の傍から伸びて来ていたことが確認できる。

 という事は、この鞭を操っていた人物もすぐそこに居るという訳だ。




次は絶対デュエル入ります。

追記

デュエル作成中にしばらくお待ちを

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