(何をしていたんだったかな……)
頭がぼんやりとしていて上手く思考が出来ない。
夏の暑さをやり過ごす木陰の様に涼しく、冬の寒さを耐え忍ぶかまくらの中の様に温かいこの空間は眠るのに丁度いい暗さだ。暗いが、それは完全に真っ暗な闇という訳では無く、光があるからこそ出来る薄暗さ。まるで影の中に居る様でここはとても心地が良かった。
(このままここに居るのも良いかもしれない……)
ゆっくりと瞼を閉じ、もう寝てしまおう。
そう思った時、どこからか声が聞こえてくる。
『まだ駄目だよ。彼女達を悲しませてしまうから』
彼女達? ……ああ、そうだ。
まだ、俺は眠る訳にはいかない。
世良 VS レイノハート
LP900 LP3000
「ぐ……うぅ……ま、まだ……終わって、ないぞ……」
『やった! 起きたわ!』
『うう……もうダメなのかと思いましたぁ……』
『……全部終わったら、一杯褒めてあげる……』
『良かった……』
「心配……かけたな……」
「その様でよく言うものだ。カードを一枚伏せて、私はターンエンド。さっさとしろ」
全身が痛む。
デッキからカードを一枚引くだけの動作すらもいつもの様に満足に行えない。
「俺の……くっ……」
痛みで腕が持ち上がらない。
これではカードを引く事すら出来ない。このままアクションを起こせなければタイムアウトで自動的に敗北してしまうだろう。
「……え?」
何とか腕を持ち上げてカードをドローしようとしていた時、ある瞬間を境に突然身体が思うように動くようになった。
いや、少し違うな。まるで何か糸の様な物で腕が吊り上げられている感覚だ。不思議とさっきまで感じていた痛みも和らいだ気がする。
だが、今は細かい事はどうでも良い。これでデュエルを続行することが出来る!
「俺の、ターン!」
引いたカードは『シャドール・ハウンド』。
リバースすると墓地のシャドールカードを一枚手札に加える効果を持つ。持ってくるカード次第では逆転の切っ掛けになり得るか……?
墓地に『超電磁タートル』もあるとはいえ、守りがそれだけというのは少し心もとない。もう一度『影依融合』を使ってさらに守りを固めた方が無難かもしれない。
「俺は……」
手札の『影依融合』に手を掛けた時、頭の中に直接響く声が聞こえる。その声は三人娘でもマスカレーナでもない、男の声だ。
(勝負を焦るな)
「だ、誰だ!?」
『どうしたの?』
精霊体のまま傍に立ってくれているシェイレーンが突然の俺の発言に驚いているところを見るに、彼女には謎の男の声は聞こえて居なかったらしい。
(焦るな。機を待て)
(お前は誰なんだ?)
(今そんな事を気にする必要はない。勝ちたいのなら自分を信じろ。仲間を信じろ。デッキを信じろ。世壊は君の味方だ)
それ以降男の声は聞こえなくなった。
男が一体何者なのか。それは分からなかったが……世壊が俺の味方とは一体……。
考える。
ここで下手にカードを使用して、防御を固めるとする。守備を固めたとしても『超電磁タートル』の効果が何らかの方法で使え無くされたらどちらにしろ負ける。そのターンは凌げたとしても次の俺のターンもジリ貧になる可能性が高い。
だが、少ない手札消費で奴のターンを凌ぎ、次の俺のターンが回って来た時、『影依融合』があるか無いかで取れる手段も大きく変わって来る。
『え! 何でシャドールの融合を使わなかったの!』
『モンスター一体だけじゃ……』
『……何か考えが? ……』
「ふっ、とうとう苦し紛れに壁を立てるしかなくなったか。私のターン、ドロー……。バトルだ」
「相手のバトルフェイズ中に墓地の『超電磁タートル』を除外して、発動! そのバトルフェイズを終了する」
「悪あがきだな。どうせ次の貴様のターンで全てが終わる。精々次のドローに賭けるのだな。ターンエンド」
ターンが回って来た! まだ希望はある!
「俺のターン……ドロー!」
これがラストターンだろう。俺は今引いたカードに目をやり、まだやれることを確信する。
「魔法カード、『貪欲な壺』を発動! 墓地のミドラーシュ、マスカレーナ、アプカローネ、ビースト、トロイメア・ユニコーンをデッキに戻し、二枚ドロー!」
ドローカードは『超融合』と『ティアラメンツ・シェイレーン』。
このまま相手の妨害を全部踏み越える!
「手札から『影依融合』を発動! デッキから『
現れるのは霊獣使いの女の子が影に落とされた姿。
「かつてその力を恐れられた鬼才の少女。影に落ちようとその本質は守りの力。融合召喚、『エルシャドール・ウェンディゴ』!」
『エルシャドール・ウェンディゴ』
レベル6 DEF2800 風
「さらに、墓地に送られた『
ビーストの効果でデッキから引いたカードは……『
俺の知らないティアラメンツカードであり、当然デッキに入れた覚えもない。そんな物が今デッキから現れたという事は、考えられる原因はさっきの謎の声によるものだろう。
(世壊が味方、か……ははっ、そう言う事か)
カードイラストはある種世界の未来と言える。このカードに記された未来は立っている『
どういう経緯でこうなったのかは分からないが、この光景は一筋の光だ。
(やはり、諦めるにはまだ早い!)
レイノハートの伏せカードはおそらく先のターンでキトカロスの効果で手札に加えた『
しかし、このカードを使うタイミングは今ではない。
「俺は『シャドール・ハウンド』を反転召喚! リバース効果により、墓地から『
「ふん、愚かな。1ターンに一度、効果で墓地へ送られたカレイドハートは墓地から特殊召喚する。そして、デッキからティアラメンツカードを墓地へ送る」
『ティアラメンツ・カレイドハート』
レベル9 ATK3000 闇
「自己蘇生効果!?」
破壊したカレイドハートは再び墓地から復活する。しかも、一度破壊されて改めて特殊召喚されたことで、アプカローネの効果無効の影響も無くされてしまう。
「墓地へ送ったレイノハートを効果により自身を特殊召喚し、手札から『ティアラメンツ・シェイレーン』を墓地に送る。さらに、特殊召喚されたカレイドハートの効果により、貴様の『エルシャドール・ウェンディゴ』をデッキに戻す」
『ティアラメンツ・レイノハート』
レベル4 DEF2100 水
カレイドハートの効果によってウェンディゴはデッキへ戻されてしまった。理想を言えばウェンディゴが墓地へ行った時に発動する効果を使いたかったところだが、仕方がない。
しかし、これで妨害を一つ使わせることが出来たうえ、俺のEXモンスターゾーンは空いた。
「レイノハートが特殊召喚されたことで、デッキから『ティアラメンツ・ハゥフニス』を墓地へ送る。墓地へ送られたハゥフニスの効果! 墓地のハゥフニスとレイノハートをデッキの下に戻し、二体目の『ティアラメンツ・キトカロス』を融合召喚! キトカロスの効果によってデッキから『
相手のフィールドには上級モンスターが三体と下級が一体。対してこちらは下級シャドールが二体だけ。
圧倒的不利な状況だが、俺にはまだ手札が残されている。
「現れろ! 想いを繋げるサーキット! 召喚条件はリンクモンスター以外のモンスター二体! ハウンドとリザードをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 再び現れろ、リンク2、『I:Pマスカレーナ』!」
『I:Pマスカレーナ』
リンク2 ATK800 闇 リンクマーカー:左下、右下
マスカレーナのリンクマーカーによって後二体のモンスターをEXデッキから召喚できるようになる。
「なんだ……デッキが光って……」
『ラッセさん。私が運ぶみんなの想い。繋げて下さいね』
「……ッ。ああ!」
シェイレーンもハゥフニスもメイルゥも。
みんな俺の勝利を信じている。
三人娘も、キトカロスも、これから悲哀の真珠は作らせはしない。
「速攻魔法『超融合』!」
「『超融合』だと!」
「手札を一枚捨てて自分・相手フィールドから融合素材となるモンスターを墓地に送り、融合召喚する!」
「だが、カレイドハートは融合素材には出来ないぞ!」
「俺が素材に指定するのはお前の場のキトカロスと、レイノハート!」
「何!?」
素材の条件としてはティアラメンツモンスターであるレイノハートと水族モンスターであるキトカロスによって俺のデッキに居る『ティアラメンツ・キトカロス』を呼び出すことが出来る。
だが、今から俺が召喚するモンスターはキトカロスではない。
これから示すのは壱世壊の未来だ。
「虐げられし水底の姫は戦う決意を胸に世壊の力を受け継ぐ女王となる。現れ出でよ! 『ティアラメンツ・ルルカロス』!!」
『ティアラメンツ・ルルカロス』
レベル8 ATK3000 水
その姿はキトカロスとよく似ているが、持っていたナイフは長剣へと変わり、物憂げだった表情は決意に満ちた物へと変わっている。
「何だそいつ……キトカロス……なのか……」
雰囲気がキトカロスの時と随分変わったからか、レイノハートはその変化に戸惑いを露わにしている。
「チッ……だが、墓地に送られた私のキトカロスの効果によってデッキトップからカードを五枚墓地へ送る。そして、今墓地へ送られたメイルゥの効果を発動!」
「その効果にチェーンしてルルカロスの効果発動! モンスターを特殊召喚する効果を含む効果の発動を無効にし、破壊する!」
「無駄だ! リバースカードオープン! 『
「そうはいかない! 速攻魔法『
「そ、そのカードは……」
このカードのイラストを見たからだろうか、いつも飄々として余裕そうな雰囲気を崩していなかったレイノハートがかつてない程に狼狽している。
「フィールドの魔法・罠カードを一枚デッキに戻す。デッキに戻すのは当然『
「この……」
『
「その後、手札・フィールドのティアラメンツモンスターを一体墓地へ送る。俺はルルカロスを墓地へ送る」
「何? ……いや、まさか!」
「墓地へ送られたルルカロスの効果を発動! このカードを特殊召喚する!」
自己蘇生効果。
それはまさしくレイノハートやカレイドハートが持つ力。ルルカロスはレイノハートの力を受け継いだ後のキトカロスの姿だと言える。
「さらに! 『ティアラメンツ・メイルゥ』を通常召喚! 効果でデッキの上から三枚を墓地へ!」
メイルゥの効果で墓地へ送られた三枚のカードの内の一枚。それはハゥフニス。
「墓地へ送られたハゥフニスの効果を発動! このカードとフィールドのメイルゥをデッキの下に戻し、融合!」
「まさか……まさかこの私に歯向かうというのかあああああああああ!!!!」
「心優しき水底の姫、仲間の危機に今立ち上がれ! 融合召喚! 現れろ、『ティアラメンツ・キトカロス』!!」
『ティアラメンツ・キトカロス』
レベル5 ATK2300 闇
俺のフィールドに現れたキトカロスはイラスト通りの彼女。バイザーを付けて無表情の彼女ではない。
『『『キトカロス様!』』』
『貴女達……心配を掛けてしまいましたね……。人の子、いえ、セラ殿にも』
「気にするな」
『私も覚悟を決めましたから』
戦闘態勢を取るキトカロス。俺もそれに応えるように効果の発動を宣言する。
「キトカロスの効果! デッキから『ティアラメンツ・シェイレーン』を手札に加え、シェイレーンを特殊召喚!」
『ティアラメンツ・シェイレーン』
レベル4 ATK1800 闇
『これで決めるわよ!』
「ああ! そして、手札からモンスターを一体を墓地へ送り、デッキの上から三枚墓地へ送る」
ひっそりと初手で引いてから腐っていた『PSYフレーム・ドライバー』を手札から墓地へ送る。
デッキトップから墓地へ送られたのは『ティアラメンツ・ハゥフニス』、『シャドール・ドラゴン』、『テラ・フォーミング』。
また『シャドール・ドラゴン』が墓地に落ちたが、魔法・罠カードを破壊する効果の為、今回も使えない。
「墓地へ送られたハゥフニスの効果発動! このカードとドラゴンを融合!」
ルルカロスは一度墓地へ送られてから特殊召喚されたため、メインモンスターゾーンにおかれている。そのため、今はマスカレーナのリンク先はまだ一つ空いていた。
「融合召喚!!!! 来いっ『エルシャドール・ミドラーシュ』!!」
『エルシャドール・ミドラーシュ』
レベル5 ATK2200 闇
「馬鹿な……あり得ない……」
「バトルだ! レイノハート!」
全ての準備を終え、バトルフェイズに突入する。
「ルルカロスでカレイドハートを攻撃!」
ルルカロスの長剣がカレイドハートの心臓を穿ち、カレイドハートの鞭がルルカロスを刺し貫く。
攻撃力はお互い3000のためどちらも破壊される。
「キトカロスでレイノハートのキトカロスを攻撃!」
どちらも引けを取らない激しい剣戟。
全く同じ技、同じ威力、同じ武器。その結末はどちらも同じ。お互いの胸にお互いの剣が突き刺さる。
こちらも攻撃力はお互い2300なのでまたしても相打ち。
残ったモンスターは俺のフィールドのマスカレーナ、ミドラーシュ、シェイレーンだけ。相手のフィールドはがら空きのため、ダイレクトアタックが可能となる。
「ミドラーシュでダイレクトアタック!」
「ぐはあっ!」
レイノハート
LP3000 → LP800
「シェイレーンで留めだ!」
『はあああああああああああああああああああ!!』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
レイノハート
LP800 → LP0
シェイレーンが持つ剣がレイノハートを切りつけ、全てのライフポイントを削る事でこのデュエルは終わりを告げた。
Q.なんでサリークでカレイドハートを墓地に送ってさっさと効果を無効を外さなかったの?
A.自分を墓地に送る(犠牲)にするのが癪だから。