科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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またね


ありがとう、さようなら

 

 ヴィサスにあげようとしたらやんわりと断られたレイノハートのカードをポケットに仕舞いながら、俺はキトカロスと三人娘に声をかけた。

 

「これで問題解決、かな?」

「……そうね。アイツはもう居なくなったから」

「あなたのお陰で私達も安心して暮らしていくことが出来ます」

「……お疲れ様。よしよし……」

 

 背伸びをしたハゥフニスが俺の頭を撫でて来る。もしかしてどこかのタイミングで言っていた沢山褒めるとはこのことだったのだろうか? 

 

「セラ殿。今回の事、本当にありがとうございました。それに、大変な目にも遭わせてしまいました……。あの方の暴走を止められなかった不甲斐ない私を許してください」

「良いって良いって。俺がやりたくてやった事だし。それに、俺も上手くキトカロスを使ってやれなくて……その、すまない」

 

 沈痛な面持ちでそんな事言うキトカロス。もしかしたら俺がデュエル中に受けたダメージに責任を感じているのかもしれないが、俺も勝利のために彼女に相打ちを強要させた身である。

 正直な所お互い様といった感じだ。お互い様? それはなんかちょっと違うか。

 

「私は気にしておりません。それでどうか、皆を代表してお礼を差し上げたいのですが……」

 

 キトカロスはこう言っているが、彼女達に何かを望むと物というのも特には思いつかな……あっ。

 

「えーっとだな、それだったら人間界に帰る方法とか教えてもらえると嬉しいかなーなんて」

「アンタ……」

「もしかして……何も考えてなかったんですか!?」

「……おバカ……」

「壱世壊に行く方法を考えるだけで精一杯だったから……」

 

 三人娘からヒシヒシと感じる呆れの視線。

 背伸びをして頭を撫でるのに疲れたハゥフニスはさっきまで俺の背中によじ登って頭を撫でてくれていたのに今ではペシペシと叩いて来ている。

 

 一度サイバース精霊界から簡単に帰還出来た事から心の中で精霊界からの帰りは簡単だと何となく思っていたのかもしれないな。

 よく考えたらサイバース精霊界はLINK VRAINSの延長線上みたいなものだったが、壱世壊はガチ異世界である。もう一度転生するくらいの何かが必要だったりするのだろうか!? 

 

「もしかして……一生、人間界に戻れない……?」

「ええ!? じゃあもしかして私もですか!?」

「セラ殿とマスカレーナ殿がそう望むのであれば私達は歓迎しますが、そういう訳ではないのでしょう?」

「まあ、それは」

「私も色々と仕事があるので」

「そうですか。私個人としては少し残念ですが、お二人が戻られる方法ならお任せください」

 

 キトカロスによって帰る手立てがあると知らされた俺とマスカレーナは安堵のため息を吐く。

 水で満たされたこの世壊はとても美しく、また来てみたいと思えるものだが、一人の人間として人の社会に帰りたくなくなるほどまだ絶望はしていないし失望もしていない。

 家族も友人も学校もある。帰れるのならば帰る方が良い。

 

「あの方の力を受け継いだ今の私なら……」

 

 そう言ってキトカロスがナイフを構える。すると、今までナイフと呼べるくらいの長さの刃物は長剣へと変化する。ドレスの意匠も少し変わり、三人娘と共通の錠前のアクセサリーが消えてなくなる。

 その姿はまさに、『ティアラメンツ・ルルカロス』そのものだった。

 

「おお……」

「壱世壊と人間界に繋がる道を開きます。そこを通ればあなた自身が行き先の道標となって家へ帰る事が出来るでしょう」

「そっか、これで一安心だな」

 

 帰る手段も保障された。

 もうやり残したことは無い。強いて言えばこの世壊の飯でも食べて見たかったところだが、あまり長居し過ぎると浦島太郎の様になってしまいそうだ。

 

「じゃあ、俺達は帰るか」

「そうですね。中々得難い経験もしたことですし、私も満足です」

 

 未だに背中に張り付いていたハゥフニスを降ろし、ルルカロスが開いてくれた道に向き直る。

 

「三人ともお別れかな」

「……え……」

「あっ……」

「それは……」

 

 三人が人間界に来た理由も壱世壊に戻らない理由も無くなった今、彼女達が人間界に戻る理由もない。それは俺と彼女達との別れを意味していた。

 

「それともついて来るか?」

「「「……」」」

 

 少し意地悪な質問をしてしまっただろうか。

 自惚れでなければ、俺は彼女達と良好な関係を築いてきたと思っている。勿論俺も彼女達と別れるのは寂しい。しかし、彼女達にも成すべきことがあるはずだ。

 今まで出会って来た精霊達だって、自分の中にある何かに従っていたように思える。それは彼女達も例外ではないだろう。

 

「いいえ、私はここに残るわ」

「私も、ルルカロス様のお手伝いをしたいと思います」

「……同じく……」

「……そうだよな」

 

 彼女達の意思を聞き、「やっぱり」という気持ちと「残念」という気持ちが湧き上がる。だけど、それで良いんだという事は分かっている。

 それが彼女達(精霊)の決断だから。

 

「だけど! アンタと私達の絆は消えないから! アンタが私達のカードを持っている限りね!」

「きっとまた会えます。いつかまた」

「……また会う日まで……」

「……そうだな」

 

 彼女達との最初の出会いは偶然だった。

 だけど、今度は彼女達と育んだ絆が道標となってくれるだろう。

 色々落ち着いたころにティアラメンツのカードを通してまたひょっこりと顔を出してくれるはずだ。その日を信じて楽しみに待つ。

 それもまた悪くない。

 

「じゃあな、今日まで楽しかったよ。またいつか会えるその日を楽しみにしてる」

「みなさん! お元気でー!」

 

 マスカレーナと共に帰り道に歩みを進める。

 

「待って!!」

 

 人間界に繋がるであろう次元の裂け目の手前、あと一歩で世界を越えようという所でシェイレーンに声を掛けられた。

 何か言い残した事でもあったのだろうか? そう思った俺は振り返ると、目前まで迫って来た三人娘が目に入る。結構な勢いで走ってきたのだろう。その勢いのまま三人は俺に抱き着くような格好になり、もう少しで後ろに倒れ込んでしまう所だった。

 

「ど、どうしたんだ?」

「……」

「え?」

 

 いつものシェイレーンらしくないびっくりするほど小さな声を聞きとることが出来なかった。

 だが、それもすぐに何て言ったのか理解した。

 

「い、今まで……あ゛り゛か゛と゛う゛ぅ~~~~~~!!!」

「ありがとうございましたあああぁぁぁ」

「……あ、ありが、とう……」

 

 涙と共に溢れる感謝の言葉。

 彼女達の涙はポロポロと真珠へと形を変え、ゆっくりと地面へ落ちて行く。

 

「ひゅ~。ラッセさんはモテ男ですね~」

 

 マスカレーナのそんな茶化す声を聞きながら、三人娘(ティアラメンツ)の精霊達とお別れしたんだ。

 

 

 

 

 

 

「行ってしまいましたね。これで良かったのですか、シェイレーン?」

「ぐすん……良いんです。きっと私にはここでやらなきゃいけない事があるんです」

「でも、貴女は彼と『キス』をしたのでしょう?」

「へ!? キ、キキキキキキキス!? してませんしてません!!」

「おや? でも彼に施したのは貴女だと……。我々(ティアラメンツ)が陸に住む生き物と共に過ごすために……」

「違います! あれはですね……」

「ルルカロス様。シェイレーンちゃんはですね……ゴニョゴニョ……」

「何ですか? メイルゥ? ……ふむふむ、えっ、そんな直接的な? ……それは寧ろキスよりも凄い事をしているのでは?」

「ちょっ! 何言ってるのメイルゥ! そ、それだったら、ハゥフニスはどうなるのよ!」

「……マスカレーナは盟友だからおっけー……」

「んも──ー!! 違うんだからあああああああああ!!」

 

 

 壱世壊に嫋々たる漣歌姫の笑い声が満ちる。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 自分の部屋はこんなに広くて静かだっただろうか。

 

 ベッドに寝転がりながら頭を傾けて見るのは再び住人が居なくなってしまった巨大水槽。その循環器の音だけが部屋に響いている。

 

 まるで遊びに来た友達が自分の家に帰って行った時の様な寂寥感。

 

 部屋に吹き込む風がふわりとカーテンを揺らし、陽の光がチラチラと顔に差し掛かる。

 

「もう三日も経ったのか……」

 

 彼女達と別れた日のことを思い出す。

 人間界に戻ってすぐにマスカレーナも「なんだかLINK VRAINSが騒がしいようなのでちょっくら様子を見て来ます;-)」とか何とか言って行ってしまった。

 まあ、彼女とはLINK VRAINSに行けばまたすぐに会う事が出来るだろう。

 

「よっと」

 

 ベッドから起き上がり、机の上に置いてある精霊抜けしたカードが仕舞われている()箱を開ける。

 今までその箱の中にはカードしか入っていなかったが、今では別の物も入っている。俺はそれを取り出すと、はためくカーテンを開け放ち、窓から見える太陽にそれを翳す。

 

 あの日着ていたシャツの胸ポケットにいつの間にか転がり込んでいた三つの真珠。

 それはいつも哀しみで涙を流していた彼女達が、初めて哀しみ以外の理由で流した涙の真珠。

 

「また、いつか会えると良いな」

 

 それは太陽の光を受けて様々な色に輝いていた。

 

 

 

 


 

 

 

「ん?」

 

 ティアラメンツの真珠を少しずらすと、太陽の方向に何かが空を飛んでいるのが見えた。いや、空を駆けていた。

 最初は米粒ほどの大きさだったそれは段々と大きくなっていく。つまり、その何かはこちらに近付いて来ている?

 

「んんん???」

 

 馬の様なフォルムに黄色のカラーリング。

 頭部に一本の角が生えたその生き物は明らかに現実に存在するものではない。

 

 ていうか、『トロイメア・ユニコーン』だった。

 

「うお!何だ!?」

 

 ユニコーンは俺の部屋の窓の前まで来ると、頭を大きく揺らして口に咥えた一枚のカードを投げて渡してきた。

 色々ありすぎて俺の感覚も麻痺してきているが、何故こいつも当たり前の様に物を触れるのか……。

 

「『オルフェゴール・ガラテア』?……あ」

 

 そのカードの名前を確認してからもう一度ユニコーンを見てみると、その背中にはぐったりとして動かないガラテアの姿があった。

 

「……あぁ」

 

 

 科学技術全盛時代にも精霊は意外と居るもんなんだなぁ……。

 

 

 




これにて終了。皆さんお付き合いくださいましてありがとうございました!
途中デュエルでクッソぐだってちょっと心折れかけましたが、何とか終わりまで漕ぎつけました。

書きたかった事は全部書けたのでこの作品は完結ステータスにしておきます。

……が、この続きも外伝的なノリで気が向いたら書こうと思います。

↓以下、やりたい事メモ↓

『お兄ちゃん?』
「お兄ちゃんじゃないよ?こんな所ニンギルスに見られた大変な事になりそうだ……」



「つまり、機界騎士(ジャックナイツ)の技術が混じったガラテアは機界騎士(ジャックナイツ)のコアから生み出されたユニコーンの遠縁みたいなものって事か……」



『俺はお兄ちゃんだが、お前もお兄ちゃんだ』
(何言ってんだこいつ)



「新たなサイバースとその所持者が見つかった。カード名は『I:Pマスカレーナ』。データの出どころは不明だが、ダウンロードされたPCのIPアドレスは判明した」
「おや?彼は……」



「謂わばそいつは精霊界産の意思を持ったAIとも呼べる存在」
「ガラテアが……?」



『わーバベルだー』
「うーん……多分あれはハノイの塔……あ、こら!登っちゃいけません!」
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