科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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伏線っぽいのは回収する予定はないので気にしないで下さい()


兄の愛はAIより遭いし

 影の中から弾きだされた『影依の原核(シャドールーツ)』はひらひらと舞いながら俺の手の中へと納まる。カードの見た目はさっきと何も変わらないはずなのに、何となく触った感じがしっとりしている気がするのは気のせいだろうか? 気のせいだと思う。

 

「……これいる?」

『……』

 

 ユニコーンは何も言わない。でも、多分あの顔は「要らない」と言っている。影の中で何が起こったのかは分からないが、既にユニコーンは『影依の原核(シャドールーツ)』への興味が無くなっている。きっとミドラーシュが何らかの手段で『影依の原核(シャドールーツ)』の持つカードの力を吸い取ってしまった……んだと思う。

 

 そもそも手持ちの『影依の原核(シャドールーツ)』にそんな力があった事すら知らなかったのだが……。

 

「ところで、他にも何か方法が……あれ?」

 

 手元の『影依の原核(シャドールーツ)』に落としていた視線をユニコーンへと向けると、既にそこにユニコーンの姿は無い。あるのは床に落ちた二枚の『トロイメア・ユニコーン』のカードだけだった。

 

「どこに行ったんだ? それにガラテアはこのまま置いて行っちゃったけど……」

 

 ユニコーンが置いて行ったガラテアは今も変わらず俺のベッドに横たわっている。ここまで色々試してきたが、やはり彼女が動き出すような気配は全くない。

 

「……とりあえず、この二枚は貰っておこう」

 

 文字通り降って湧いた6000え……二枚の『トロイメア・ユニコーン』はカードホルダーにしっかり保管して置くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 別に現実から目をそらしていた訳では無いが、ユニコーンとの遭遇の後、ガラテアの事は一旦置いておく事にし、飯を食って風呂に入ってさあ寝るぞとなった時、改めて自分のベッドは今ガラテアが占拠している事を思い出したのである。

 

「どこに寝れば良いんだ……」

 

 ガラテアはカードの精霊。彼女に俺は触ることが出来ないため、ベッドから退かす事も出来なければ横にずらすことすら出来ない。

 俺が床に寝れば良いというのはまあ、それはそうであるのだが……。今後もずっとガラテアが目覚めなければ床で寝る羽目になってしまう。出来れば何らかの解決策は持っておきたい。

 

 ……よく考えれば、カードの精霊は人間界では物に触れない。ユニコーンだって家の壁をすり抜けてこの部屋に入ってきたしな。ならガラテアはベッドに横たわっている様に見えるだけで実際は宙に浮いているのだろうか? 

 見ればベッドがガラテアの重みで沈み込んでいる様子は見られない。これだったら別にベッドの上でなくとも、彼女を置く場所はどこでもよかったのではないだろうか。

 あれ? もしかしてユニコーンは雰囲気のためだけにガラテアをベッドの上に置いて行ったのか? 

 

「何だか考えるのに疲れて来たな……」

 

 今になって思えば触れないガラテアが居るだけなら物理的にベッドで寝られない訳じゃないし、もうこのままガラテアと文字通り重なって寝れば良いのでは? 

 夜も更けて、良い感じに眠くなってきたせいで色々とどうでも良くなってきたのは否めないが、それで何か問題があるかと聞かれれば別に何も問題は無い訳で。

 

「それじゃあちょっと失礼して……」

 

 ご丁寧にユニコーンはガラテアの頭の位置がしっかり枕に乗る様に置いて行ったため、それはもうほぼ完全に俺の身体とガラテアの身体が重なる。

 なんだか幽体離脱してるみたいで変な感じだ。

 

 別にガラテアと重なってる事で動けないだとか、呼吸がしにくいだとか、そう言った不都合は現状生じていない。とりあえずこれなら今まで通り普通に眠ることが出来そうだ。

 

「おやすみ」

 

 聞こえているとは思っていないが、俺はガラテアに声を掛けてから夢の世界へと旅立つことにした。

 

 

 

 その時、ガラテアの身体が淡く輝き出した事に気が付いたのは(マスター)の影の中に居る存在だけだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 真っ暗な世界。

 

 上も下も右も左もあやふやなこの空間で俺はポツンと立っている。

 先ほどベッドに横になって眠りに就いたことは覚えている。そして、朝を知らせる目覚まし時計によって叩き起こされた覚えもない。

 そうなるとここは夢の中だろう。だが、今俺は起きて居る時と同じように思考出来ているし、身体も思った通りに動かすことが出来る。

 

 自分の思う通りに行動できる夢。明晰夢とやつだ。

 俺はこういう夢をよく見るから大して驚きはしない。その度に近くにある太陽と月のレリーフが刻まれたデカい鏡を太陽が上に来るよう無理やり回転させて居たものだ。

 

 そうすると良い夢が見られるからな。

 

「暗いな。それに、何も無い」

 

 流石に例の鏡をグルングルンさせ過ぎてそろそろ夢の支配者に怒られるのだろうか? 夢の支配者はおっかなさそうだからちょっと怖いな……。

 そんな感じで身構えて居た俺に声をかける人物が居た。

 

『少年』

 

 振り返ると、そこには明け方の空のような色をした髪の男がガラテアを横抱きにして立っている。そして、その髪色はガラテアのものとよく似ていた。

 民族衣装を身に纏ったその男はデュエルモンスターズで『星杯に誘われし者』と呼ばれる男だ。

 

 精霊、なのだろうか。彼が俺に接触を試みて来る理由は……心当たりがあるとしたら今日出会った機械の少女。

 

『唐突な話で申し訳ないのだが、君に頼みたいことがある』

「それは?」

『この子、ガラテアについてだ』

 

 思った通り、彼の目的はガラテアだった。

 しかし、それには一つ不可解な点がある。確かに彼とガラテアには大きな縁があるとも言える。だが、『星杯に誘われし者』としての彼とガラテアに直接的な関係は無い事だ。

 

「どうして、あー……アンタがガラテアの事を気にしているんだ」

『私の事は好きに呼ぶと良い。今のこの姿に意味は無いからな』

 

『星杯に誘われし者』としか呼ばれていなかったために彼の事を何と呼ぶか迷った俺を見かねてそう告げる。さらにその姿を『星杯戦士ニンギルス』、『オルフェゴール・ロンギルス』、『宵星の騎士(ジャックナイツ・オルフェゴール)ギルス』へと変化させると最終的に元の『星杯に誘われし者』の姿へと変わった。

 恐らく、彼は全てを経験した後の彼なのだろう。であるならば、彼がガラテアの事を気に掛けるのも頷ける。

 

「それじゃあ、ギルスは俺に何をして欲しいんだ?」

『この子にこの子だけの未来を見せてあげて欲しい』

「未来? それは……」

 

 星遺物世界のストーリーを俺に語れと言うのだろうか? それは余りにも……。

 

『いや、少年が思っているような事ではない。この子自身が世界を見て、聞いて、知って、感じて……そうして綴っていくこの子だけの未来だ』

「でも、最終的にガラテアは妖精になってギルスと共にあったんじゃないのか?」

『そうだな。だが、何の因果かガラテアはあの時のままこうしてここに居る。器として作られたあの時のまま……』

「……」

『私には出来なかった事だ。そして、今の私にも……。だから、恥を忍んで頼む。兄として、もう一人の妹の幸せのために』

 

 ロンギルスは死んだ妹、イヴを蘇らせるためにその器としてガラテアを創造した。ガラテアという機械人形はイヴという少女を模倣して作られたものだ。

 

 それは正にシリンダーに備え付けられたピンがメロディーを正確に奏でるオルゴールの様。オルゴールは正確にメロディーを再現するが、それはシリンダーが一周すれば始めに戻る。

 つまり、ある地点(イヴの死)より(未来)を持っていないとも言える。

 

 そんな彼女に自分だけの未来を……か。

 これはまた大きな願いを託されたものだ。

 

 だが、彼の願いを断る気にはならなかった。

 ここ最近の三人娘やミドラーシュとの経験があったからだろう。

 

「分かった。彼女に色んなものを見せて、経験させて、そして彼女だけの未来を創る手伝いをしよう」

『……ありがとう』

 

 ギルスは目を伏せて感謝の言葉を伝えて来る。ギルスの事をストーリー上でしか知らない俺は初めて彼の柔らかい表情を見た気がする。

 

『なら少年、今から君もこの子のお兄ちゃんだ』

「ん?」

 

 ん? 

 

『そして、後ろに居る夢幻の魔物』

「え? うわっ、お前いつの間に!」

 

 さっまで一切気配を感じなかったが、ギルスが言うように俺の後ろにはユニコーンが居た。

 

『お前には因縁があるが……今までガラテアを守り、少年の元まで導いたのも事実。ジャックナイツのコアとの繋がりを感じたか? まあ理由は何でも構わない。だが、お前にその意思があるのなら……』

『……』

 

 ユニコーンは俺の後ろから一歩前へ出ると、その身体を星型の黄色い結晶へと変化させた。

 

 それは黄色いジャックナイツのコア。

 コアとなったユニコーンはギルスの前へと飛んでいく。

 

『……ガラテアのためにその身を捧げるか……』

 

 ギルスはガラテアを片手で抱き直し、空いた右手をコアへと姿を変えたユニコーンへと向ける。

 すると、黄華のコアはガラテアの中へゆっくりと入っていく。

 

『かつてはいくら憎んでも足りない程の相手だったが、ガラテアのためのその行動は、お前もこの子のお兄ちゃんと呼ぶに値する』

「ん?」

 

 黄華のコアを取り込んだガラテアはギルスの腕の中からふわりと離れると、光となって俺の腕に装着されているデュエルディスクへと消えて行く。

 

『ジャックナイツのコアのエネルギーを得たガラテアはすぐに目を覚ますだろう。くれぐれも、ガラテアの事は頼んだぞ』

「ああ」

『誕生と死、そして転生。輪廻を経験した君は双星神(あいつ)の祝福を受けている。これからの人生に幸多からんことを』

「!? 何でその事を!」

 

 ギルスは誰も知らない俺だけの秘密(転生)を口にした。今までどんな人間にも精霊にもその事については知られたことは無かった。

 そして、気になる事も言っていた。双星神とはきっと『双星神 a-vida』の事だろう。俺が転生したのにはa-vidaが関わっているのか? 

 

『だが忘れるな。その子の一番のお兄ちゃんは……私であるという事を!!!!』

「ん?」

 

 新たに生まれた疑問。

 その事について詳しい話を聞こうと思っていたが、ギルスが最後に残した言葉のせいで全部吹き飛んでしまった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

『……ゃん』

 

 眠りから覚める直前の微睡の瞬間。

 この時に二度寝を決めるのが最高なのだ。

 

『……いちゃん』

 

 だが、確か今日は平日。

 このまま寝続ける訳にはいかない。俺を起こそうとする音がしているという事は設定した時間に目覚まし時計が鳴っているという事を意味している。

 

『お兄ちゃん』

「ん?」

 

 ん? 

 

 確かに聞こえた『お兄ちゃん』と言う声。

 少なくとも俺はそんな単語を目覚まし時計の音声として設定した覚えはない。なら、その言葉を発している主は一体誰なのか? 

 

 その正体を確かめるため、重たい目蓋を開き周囲を確認する。

 

『お兄ちゃん』

「……えあ?」

 

 そこには昨日まで全く動く様子を見せなかった『オルフェゴール・ガラテア』の姿があった。

 

 だが、まあ。何はともあれこれだけは言わないといけないだろう。

 

「おはよう」

 





『グエー眩しいー(≧◇≦)』←立ち位置の関係上、真上で発光されている

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