科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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導入にすらなっていない雑デュエル
別に深い意味は無い


バード・ストライク

 ハノイの騎士による襲撃事件から数日が経った。

 思った通り、奴らは現実世界でこちらにアクションを仕掛けて来る事は無かった。そもそも俺の情報を全部掴み切れていないために接触して来ないだけと言う可能性も考えられるが、恐らくLINK VRAINSに行かなければさして問題も無いだろう。

 となれば、俺から何かする必要はない。ハノイの騎士も、その後のトラブルも遊作が何とかしてくれるはずだ。何とかしろ! 

 

 そうしていつも通りの日常を送る俺は、相も変わらずデュエル部の部室で島を相手にデュエルをしている。

 

 

 

 

「がーはっはっは!! 見ろ! これが俺の最強バブーン陣形だ!」

 

 世良  VS  島

 

 LP4000    LP3000

 

「おー。後攻1ターン目でグリーン・バブーンを三枚並べるとはやるねぇ」

 

『森の番人グリーン・バブーン』

 

 レベル7 ATK2600 地 

 

 こちらの先攻ターンはモンスターを一枚セットだけして終了。返しのターンで島はフェイバリットカードである『森の番人グリーン・バブーン』を三体展開して来た所だ。

 グリーン・バブーン達は島の期待に応えるようにそれぞれが戦意を示す咆哮をあげている。

 

 おっ、真ん中のグリーン・バブーンは俺が譲った精霊付きのあいつだな。そいつだけがデュエルディスクに搭載されたAIの行動パターンよりも感情的な動きをしている。

 

「ふっふっふ……グリーン・バブーン達も俺の勝利を確信している様だな」

「さぁ、それはどうかな?」

「一体目のグリーン・バブーンで世良のセットモンスターを攻撃だ!」

「あれ?」

 

 てっきり揃えたグリーン・バブーンを素材に強力なランク7エクシーズモンスターや素材に縛りがある強力なリンクモンスターなりを出してくると思ったが、どうやらグリーン・バブーンはそのまま運用するらしい。

 

 俺から見て左のグリーン・バブーンがこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 グリーン・バブーンが持つ巨大な棍棒によってセットされたモンスター、『ガスタ・ガルド』は無残にも潰されてしまう。ガルドの悲痛な叫び声も合わさってグリーン・バブーンの狂暴性が際立つ。

 

『ガスタ・ガルド』

 

 レベル3 DEF500 風 

 

「墓地へ送られた『ガスタ・ガルド』の効果を発動! デッキからレベル2以下の「ガスタ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。俺は『ガスタの巫女 ウィンダ』を守備表示で特殊召喚!」

 

『ガスタの巫女 ウィンダ』

 

 レベル2 DEF400 風 

 

 現れたのはミドラーシュの生前の姿。

 このカードには特に精霊が宿っているという訳ではないため、フィールド上に現れた彼女は機械的な動きで防御姿勢を取っている。初めはウィンダのカードを使う事で俺の影に住んでいるミドラーシュが何か反応をするかとも思っていたが、特段そんなことは無かった。

 過去にある程度区切りを付けたのか、そもそも自分と同一視している訳では無いのかは分からないが、いつの間にかデッキが組めるくらいに集まっていたガスタを気兼ねなく使えるのはありがたい。

 

「何だ? この間の融合デッキじゃないのか? 関係ねぇや! そんな弱いモンスターじゃ俺のバブーン達は止められないぜ!」

『……イヤな、人』

「気持ちは分かるけど抑えて、な?」

 

 俺のデュエルディスクから小さく聞こえてくるガラテアの声。彼女はいつもと同じ様に上半身だけデュエルディスクのソリッドビジョンシステムによって表示された状態でこのデュエルを観戦している。

 どこから取り出したのか、彼女は大鎌を持ち出してブンブンと音が鳴りそうな勢いで振り回している。まあ、今の状態ならデカイ爪楊枝みたいなものだが、ちょっと危ない。

 

「お前のサポートAIなんか物騒だな……」

 

 以前の悲しき事件があってからデュエルディスクのスピーカーの音量を最小にしたため、デュエル中である程度距離が離れた場所に居る島にガラテアの声は聞こえていない。そのため、あいつにはガラテアが突然大鎌をブンブン振り出したように見えている事だろう。

 

「まあ、いいか! 二体目のグリーン・バブーンで攻撃!」

 

 今度は右側に控えていたグリーン・バブーンが動き出す。

 単体では攻撃力も守備力も大した事が無いウィンダにその攻撃を防ぐ手立てがあるはずもなく、大きく振り抜かれた棍棒によって吹き飛ばされてしまう。

 

「風の結束を舐めると痛い目を見るぞ。相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られたウィンダの効果発動! デッキから「ガスタ」と名のついたチューナー1体を特殊召喚する。俺は『ガスタ・イグル』を守備表示で特殊召喚!」

 

『ガスタ・イグル』

 

 レベル1 DEF400 風 

 

 ウィンダが倒されるや否や、今度はガルドとは別の緑色の鳥がフィールドに現れる。

 

「あん? また壁モンスターか? まあいい、最後のグリーン・バブーンでそいつも攻撃だ!」

「戦闘によって破壊され墓地へ送られたイグルの効果を発動! デッキからチューナー以外のレベル4以下の「ガスタ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚出来る。俺は『ガスタの神裔 ピリカ』を守備表示で召喚だ!」

 

『ガスタの神裔 ピリカ』

 

 レベル3 DEF1500 風

 

「さらに、特殊召喚されたピリカの効果を発動! 自分の墓地から風属性のチューナー1体を選択して表側守備表示で特殊召喚する。戻ってこい、『ガスタ・ガルド』!」

 

 イグルの導きによってデッキから特殊召喚されたピリカは持っている杖を一振りして墓地に眠っているガスタの鳥獣を復活させる。

 

「な、なにぃ!? 俺のバブーン軍団が全員で攻撃したのに何で世良のフィールドのモンスターは逆に増えてるんだよ!」

「仲間の危機にはすぐさま駆けつける。それがガスタの特徴だ。面白いだろ?」

「うぎぎ……ターンエンド」

 

 グリーン・バブーンを三体並べるために島は全ての手札を使い切っているため、伏せカードを使ってくる心配はない。メインフェイズ2でグリーン・バブーンを素材にEXデッキからモンスターを召喚する手もあっただろうが、どうやらグリーン・バブーンを三体フィールドに維持する方が良いと考えたようだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 先攻1ターン目はガルドを伏せただけなのでドローも合わせて手札は五枚。これだけあればある程度の妨害があったとしても乗り越えられただろうが、その必要も無いな。

 

「俺はレベル3『ガスタの神裔 ピリカ』にレベル3『ガスタ・ガルド』をチューニング! シンクロ召喚! 現れろ! ガスタの守護者、『ダイガスタ・スフィアード』!!」

「シンクロ召喚!?」

 

『ダイガスタ・スフィアード』

 

 レベル6 ATK2000 風

 

 現れたのはガスタを守護する戦士の家系の少女がヴァイロンを装備した姿。設定的にはシンクロ素材とするべきカードとしてピリカとガルドではおかしいのだが、そんな事を気にしていたらデュエル何て出来ないので気にしない気にしない。

 それに、ピリカを絡めたレベル3+レベル3の組み合わせの方が圧倒的に使い勝手がいいのもある。

 

「スフィアードの効果発動! このカードがシンクロ召喚に成功した時、自分の墓地の「ガスタ」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。俺は墓地の『ガスタ・イグル』を手札に加え、そのままイグルを攻撃表示で召喚!」

 

『ガスタ・イグル』

 

 レベル1 ATK200 風 

 

「攻撃力200のモンスターを攻撃表示で召喚? 世良~、ミスったかぁ?」

「これで良いのさ。バトルフェイズ!」

「グリーン・バブーンの攻撃力は2600。対してお前のシンクロモンスターの攻撃力は2000じゃないか! 無駄だぞ!」

「無駄かどうかはすぐに分かる。スフィアードでグリーン・バブーンに攻撃!」

 

 スフィアードは俺の指示に従い、攻撃力が自身よりも高いグリーン・バブーンへと戦いを挑む。本来であれば敵の反撃に遭い、破壊されたうえでこちらがダメージを受けるだけだが……

 

「痛!? どうしてこっちがダメージを受けてるんだ!?」

「スフィアードのもう一つの効果。このカードは戦闘では破壊されず、さらに、自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける」

「げえ!? そんな効果もあったのか!」

 

 島

 

 LP3000→LP2400

 

 どちらのモンスターも破壊されず、それなのに相手だけがダメージを受けるという奇妙な戦闘。だが、ガスタはこれだけでは止まらない。

 

「そして、イグル!グリーン・バブーンに突撃だ!」

「!? そんな事したって意味無いだろ!」

「詳しく説明しようか。スフィアードが場に居る限り、「ガスタ」と名のついたモンスターの戦闘ダメージは全て相手が受けるんだよ!」

「はぁ!? そんなのありかよ!」

「すまんイグル! 勝利のために死んでくれ! ガスタの意地を見せろ!!」

「ぐわああああ!!」

 

 島

 

 LP2400→LP0

 

 俺は無茶な攻撃を指示したイグルに手を合わせて謝りながらそう言った。心なしか、凄い嫌そうな表情でイグルがこちらを見ていたような気がしたのは気のせいだと思いたい。仮にガスタのカード達に精霊が宿っていたらこんな戦法は出来ないな。

 

 ただ、デュエルディスクから試合を見ていたガラテアが酷いものを見たかの様な表情でデュエル終了時からずーーーっとこっちを見つめて来ているのは気のせいではない。

 うん。そんな表情で見つめられると流石に心に来るものがあるので止めて欲しいんだけど……ガスタデッキで勝つためにはこれが最善なのであって…………ダメかなぁ。

 

『鳥さん……』

 

 やめて!そんな悲壮な感じでボソッと言わないで!

 

「かーっ! また負けた!!」

「そりゃ攻撃力が高いモンスターを並べるだけじゃな。もっと妨害を意識しろって部長からいつも言われてるだろ」

「うむぅ……」

 

 感想戦をしながら俺は島にアドバイスを送る。決してガラテアの物言いたげな視線から逃れるためではない。

 

「それはそれとして、世良は今日暇か?」

「ん? まあ、用事があるとしたらカードショップを冷やかしに行くくらいだが?」

「それはつまり暇って事だな」

 

 入学してそこそこ付き合いがある島は俺がカードショップを冷やかしに行っている時は暇つぶしをしているという事を分かっている様だ。

 

「良いものが手に入ったからさ、ココに行ってみようぜ?」

 

 そう言って島はポケットから取り出したクシャクシャの紙をこちらに見せて来る。

 

「ドラゴンメイド喫茶?」

「そうそう。最近出来たらしくてさ、割引券配ってたんだよ」

 

 割引券が付いたチラシには人気テーマである「ドラゴンメイド」……のコスプレをした女性たちが写っていた。提供している一部の料理や飲み物の写真は旨そうだが、意外と良い値段をしている。

 割引券でもなければ学生が気軽に行けるようなものではなさそうだ。

 

「ふーん。こんなん出来てたのか」

「出不精でカドショと学校の往復しかしない世良は知らないだろうな」

「うっせ。家には帰るわ」

 

 だが、そう言われると寝る時間を含めても平日は家にいる時間よりも学校とカードショップに居る時間の方が長いかもしれない。

 

「お前、こういうのも好きだろ?」

「何でそう思った?」

「そりゃーだってよぉ? 好きだろ???」

「風評被害だ」

 

 こいつの中で俺は「妹萌のオタクだからメイドも好きだろ」見たいな単純な思考だろう。

 

 

 

 まあ、嫌いじゃないですけど。

 

 

 

「だからさ、行こうぜ!」

「どうせ一人でこういう店に行く勇気が無いだけじゃないのか?」

「ギクッ……べ、別にそんな事ねーし! お前が行きたくないって言うんなら来なくていいよ!」

「いやいや、別に行かないなんて言ってないだろ」

 

 島が仕舞おうとするチラシを破れないギリギリの力加減で掴んで止める。

 

「俺もついて行っていいか?」

「「え?」」

 

 島とのやり取りとの外側。

 思いもよらぬ人物の声。

 

 それは、開いた部室のドアの前に居た藤木遊作の物だった。





『……( ˘ω˘)スヤァ』

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