「なあ、世良はアザナーって知ってるか?」
「痣ナー? 5000年毎に戦ってる奴らの事か?」
「はあ? お前は何の話をしてるんだ?」
いつもの日常、学校でのデュエル部の活動中に島が突然そんな事を言いだした。島は間違えてアザナーと記憶しているが、正確にはアナザーだ。これまた想像の通り、ハノイの騎士が悪さをして一般人がLINK VRAINSに意識だけ取り込まれるという事件が起こる。
目的はPlaymakerを探すためだと言うが、意識を抜かれた身体が植物状態になって集中治療室送りというよく考えなくても滅茶苦茶悪い事をしているよな?
「冗談だよ。あれだろ、LINK VRAINSに魂を囚われるって」
「そうそう! 最近学校で急に来なくなった奴が何人か居るだろ? あいつらもきっとアザナーになっちまったんだよ……」
「そうなのか?」
「そうだよ! ……多分な……」
アナザー事件が起こり始めたという事は、そろそろPlaymakerとハノイの騎士の戦いに決着が着く頃なのだろう。それなら、LINK VRAINSにログインするのを止めるのはもう少しで終わりだな。
「うーむ、俺のデュエルディスクも呪われてそのうちアザナーになっちまうと思うと少し怖いぜ」
「何で島が心配してるんだ?」
「だってよぉ、アザナーにされちまった人間はみんな将来有望なデュエリストだったって話だぜ? それなら俺もアザナーにされる危険があるって事だろ!!」
「え、あ、うん。そうだね」
島が将来有望なデュエリストかどうかは置いておいて、確かアザナー……じゃなくて、アナザーにされた人間は決闘者力が高くて、カード収納型の旧型デュエルディスクを使っていて、そのうえハッカーの人間が狙われていたはずだ。
まあ、この情報は今の所俺しか知らないはずだから、取り合えず話を合わせて置くことにする。
「お前も気を付けろよ? 世良だって俺に次ぐくらいには将来有望なデュエリストなんだからな。午前0時になる前にはデュエルディスクは離れた場所に置いておいた方が良いぜ~」
「え? 俺? 大丈夫だろ」
だってハッカーじゃないし。
「それに、お前って確か小学生くらいの時に大会で優勝しまくりで結構有名だったって話じゃん。むしろ最近は全く大会に出てないのが不思議な位だぜ」
「まあ、昔の話だし」
小学生の頃はなぁ……。
お小遣いが少なくて中々カードが集められなかったから近場のカードショップのデュエル大会小学生の部に出場して優勝賞品のレアカードを換金していた時期がある。
これでも前世では最新環境の二歩遅れくらいに遊戯王を追い続けていた人間だ。そんな人間がいくらカードが揃いきっていなかったとは言え小学生だけの大会に出て居れば……今思えば当時の対戦相手の子供たちには申し訳ない事をしたと思っている。
仮に小学生の時の成績を加味されたとして、個人的な主義で使ってる旧型デュエルディスクを合わせてツーアウトって所だ。Playmakerとして一番大事な要素であるハッカーと言う部分が抜けているからハノイの騎士に狙われる恐れはない。
島とそんな事を話しながら、チラっと壁に掛かっている時計を見てみれば、もう夕方の五時になろうとしていた。
「と、もうこんな時間か。俺はもう帰るわ」
「ん? まだそんな遅い時間じゃないだろ。用事でもあるのか?」
「まあ、ちょっとね」
「何だ? ……ッ! まさか彼女が出来たのか!?」
「ちげーよ」
「だよなぁ~お前には愛しの妹が居るからな」
「うるせぇ、俺は帰るぞ。じゃあな」
「またなー」
いつもなら部長に戦術の質問をぶつけてみたり、部員の誰かとデュエルするような時間だが、いつもよりも早く部活を切り上げて俺は帰宅の途に就くのだった。
☆
「さてと……始めるか」
家に帰り、少し早めの晩飯を食べた後、風呂も入ってもう後やる事は寝るだけの状態となった俺は自室のパソコンに向き直る。
『遊ぶ?』
「ごめんな、今日は遊べないんだ」
『……』
ワクワクした表情だったガラテアは俺のその一言によって「しょんぼり」といった雰囲気を漂わせながら少し離れた位置で大鎌をバトンの様にクルクル回して一人遊びをし始めた。
くっ……すまない、ガラテア。確かにいつもなら寝る前にトランプ遊び(神経衰弱の様なガラテアがカードを持つ必要が無いゲーム)をして遊んでいるが、今日は駄目なんだ……。
大好きな部活を早く切り上げたり、断腸の思いでガラテアの誘いを断った理由。それは……。
「今から仕事の時間だ」
バイトである。
本来俺が通う高校ではバイトは禁止されているのだが、正直言ってそんな校則を馬鹿正直に守っている奴はそんなに居ない。少し遠い場所の店でバイトしているやつも居れば、ネットワーク上でバイトをして居る奴もいる。
要するに、バレなきゃ良いんだ。
それに、このご時世ネットワーク上で働くなら身分証明はLINK VRAINSのアバター情報でも通る。学校も生徒の個人的なアカウントまでは把握していないだろう。
突然バイトを始めた理由? それはドラゴンメイド喫茶に……金はいくらあっても困らないからな。
そんな事は良いとして、俺が始めたバイトはあの超有名企業、SOLテクノロジーが運営するLINK VRAINSのサーバー管理業務! ……の、下請けの下請けの下請けが募集していた物だ。
時給800円とちとしょっぱいが、高校生のバイトならこんなものだろう。それに、業務内容も家のパソコンからよく分からんファイルを開いて閉じてを繰り返すという「これ何の意味があるの?」みたいな単純作業であり、深い知識も必要ない。
体力を使わずに金を稼げるのだからこれほどいい話は無いだろう。
「よーし、やるぞー!」
……
「ぼえー……」
こ、これは想像以上に辛い作業だ……。体力は使わないが精神力が削られて行く。
ファイルを開いて、閉じる。ただそれだけの作業だ。だが、終わりが無い。いや、実際の所バイトの契約書には俺の操作から労働時間を算出して給料が払われるようになっているからいつでも止めていいのだ。だが、こういう作業は一度始めると止めるタイミングと言うものを失うもので、やめるタイミングを失えばズルズルと続ける訳で……。
「もう12時か……。確か7時前くらいから始めたから5時間。5時間の虚無作業で4000円か……ふっ……労働って大変だな……」
この作業が一体どういう風にLINK VRAINSの役立つのかは不明だが、SOLテクノロジーの下請けの下請けの下請けにまで仕事が回される理由がよく分かる。こんな作業誰もやりたくないわな。お得意のAIはどうしたんだよ。こういう仕事こそ機械に作業をさせるべきなのでは無いだろうか?
それとも、どこまで行っても人間の手が必要と言う事を知らしめるためにSOLテクノロジーが敢えてやらせているのだろうか? 嫌がらせかな?
『遊ぶ?』
「……遊ぼうかな」
『やったー』
俺の作業の手が止まったことに目ざとく気が付いたガラテアがここぞとばかりに声をかけて来る。元々の予定では明日は休日だから寝落ちするまでバイト業務に勤しむ予定であったが、ちょっとこれは厳しそうだ。
もうバイトの仕事はこの辺で切り上げてガラテアと一緒に夜更かしして遊ぶのも良いかもしれない。
そう思い、いつもガラテアと遊んでいるトランプなどが仕舞ってある棚に手を掛けようとした時、左腕に装着しているデュエルディスクが突然輝き出す。
「なっ! これってLINK VRAINSへのログイン演出!!」
当然、このログイン操作は俺の意図してやっている物ではない。なのに、こうして今俺はLINK VRAINSへログインしようとしている。それが示している事は、今日島と話していたアナザー事件の次の標的として俺が狙われているという事!?
だが何故? 俺はハッカーではない。そりゃ、こんな世界で生きて来て一般人並みの知識はあるが、ハッキングも出来なければプログラミングだって授業でやる程度の知識しかないし、ネットワークのシステムに至っては授業で聞いたけどチンプンカンプンだった。そんな俺がどうしてハッカー認定を……ん?
目に入るのはモニターに映し出された
もしかして、この作業をしていたからハッカー認定されたのか!? ハノイの騎士のハッカー認定適当過ぎだろ!?
「まずっ」
ログイン処理が完了するまさにその瞬間。
『……えい』
俺の後ろで「今日やるゲームは何かな何かな?」といった様子で覗き込んでいたガラテアがその手に持つ大鎌の先を俺のデュエルディスクにコツンとぶつける。
それが原因だったのだろうか。直前まで不正な操作によって行われていた強制ログイン処理は中止され、ログイン演出である身体を包み込む光が消えてなくなる。
『遊ぼ?』
「……ああ、そうだね。遊ぼうか」
『やったー』
ガラテアは喜びを身体全体で表現するかのように両手を挙げる。その手の中に未だある大鎌にはめ込まれているコアは紅蓮の輝きを放っていた。
「紅蓮のコア……トロイメア・フェニックス……」
フェニックスのモンスター効果は相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象としてそのカードを破壊するというもの。いつの間にか俺のデュエルディスクに仕込まれた
そんな一つの考察が俺の中に生まれたのだった。