科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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ティアラメンツ・アクアリウム


壱世壊の代用世界

「えーっと……何があったんだ?」

 

 LINK VRAINSから戻って来た俺を迎えたのはいつもの如く涙を真珠へと変えながらボロボロと泣き続けるシェイレーン、メイルゥ、ハゥフニスの三人娘だった。

 状況が理解できず真っ白になった頭を何とか働かせて紡ぎ出した言葉が上記の一言である。

 

『……んだかと思った……』

「え? なんて?」

『アンタが死んじゃったんじゃないかと思ったの!!』

『アナタが不思議な機械を頭に付けて不思議な言葉を呟いてから、私達が何を言っても反応しなくなってしまったので……』

『……とても心配した』

 

 あ、あー。

 そう言えば彼女たちに特に何も説明もせずにLINK VRAINSにログインしてしまったんだ。

 LINK VRAINSにログイン中は意識がネットワーク世界に飛ばされる。そうなると基本的にその間自分の身体は動くことは無い。

 しかし、万が一現実世界の方で何かがあった時、それに気が付かずにログインを続けてしまっては危険である。そんな事はSOLテクノロジーも理解しており、現実世界の肉体に対する物理的な接触や呼びかけがあった際はログイン中のアバターからでも分かるように出来ている。ただ、それは物理的な接触や現実に聞こえる声や音に対してのみなのだ。

 

 精霊であるティアラメンツの声がログイン中の俺に聞こえなかったのも納得である。

 そして、彼女たちの声や素振りに全く無反応となった俺は……うん、死んだように見えるな。

 

「ごめんな」

『ふん! 謝ったって許さないんだから!』

 

 そう言ってシェイレーンはそっぽを向いてしまう。

 しかし、後ろを向いていても未だに真珠がコロコロと転がっているのが見える。先ほどちらっと見えた目元は随分と赤く腫れぼったくなっていた。

 随分心配させてしまったのだろう。

 

「ホントにごめん」

『もう大丈夫ですよ。何事も無くて安心しました』

 

 ほにゃっと笑ったメイルゥはそう言ってくれた。

 シスターみたいな見た目のメイルゥにそう言われるとなんだか許されたような気持ちになるが、やはり彼女の目元も赤くなっておりその事が俺の罪悪感をチクチクと刺激する。

 うぅ……本当に申し訳ない……。

 

「心配させてしまったお詫びって言うのもなんだが、俺に出来る事だったら何でもしようじゃないか」

『……本当に?』

 

 最初に食いついてきたのはハゥフニスだった。

 彼女は他の二人に比べると感情がはっきりと表に出るタイプではなく、目元が赤くなっていたりはしないが、今も地面に転がっている真珠の総量を考えるとシェイレーンとメイルゥだけの物とは思えない。

 

 俺の言葉を聞いた三人は顔を突き合わせて何事かを相談している。

 

『それなら私達もアンタが行ってたりんくぶれいんず? って場所に連れて行きなさいよ』

「すまん、その願いは俺の力を超えている」

『なんでダメなのよぉ……』

「泣かないで……」

 

 お願いを拒否されたと思ったのかシェイレーンは再びポロポロと泣き出していまう。

 俺としても彼女のお願いを聞き入れてあげたいのはやまやまなのだが、出来ない事は出来ない。

 

 LINK VRAINSにも精霊は居る。それじゃあ現実世界のカードに宿る精霊がLINK VRAINSに行くことは出来るのか? 

 そんな事はとっくに試したことがある。しかし、結果は駄目だった。

 現実世界の精霊たちが宿っているのはあくまで実体のカード。そして、LINK VRAINSに持ち込んでいるのはカードの情報だけだ。そうすると、俺がLINK VRAINSで使うことが出来るのは情報としてのカードだけでそのデータに精霊が宿ってはいないのである。

 

『えっと……それじゃあ、そのLINK VRAINSに行く時はちゃんと言って下さいね? 心配になってしまうので』

「ああ、それは勿論。だが、そんな事でいいのか?」

『私はそれで充分ですので』

 

 メイルゥのお願いはお願いとも言えないような細やかなものだった。

 しかし、それは俺も次からはそうしようと元々思っていたことだ。これだけで済ましてしまうと言うのは自分の気持ちとしても物足りない。

 

『……なら、あれを私達に頂戴……』

「ん? あれをか?」

 

 ハゥフニスがそう言いながら指をさした物は俺の部屋に置いてある大きな大きな水槽だった。その大きさは半端なものではなく、小柄な人間なら4、5人押し込めてしまいそうな程の大きさである。

 元は趣味で親父が飼っていた熱帯魚を容れていたアクアリウムだが、最後の1匹が死んでしまってからはただのガラスのケースと化していた物だ。しかもそのデカさから親父が「邪魔だからスマンがお前の部屋に置いといてくれ」とか言って押し付けられた物でもある。

 邪魔だがショーケースとしてのポテンシャルは高かったため、今は俺が適当にフィギュアやレアカードの置き場所として使っていた。

 

「良いけど、あれをどうするんだ?」

『……あれに水を容れてくれるともっと嬉しい……』

「……あれ一杯にか?」

『……うん。あれ一杯に』

 

 なるほど……あの巨大水槽を満たす程の水か……。

 とは言え、わざわざバケツを使って手作業でやる必要はない。家のどっかの蛇口にホースを繋げて水を溜めればいい。それにしてもかなり時間がかかりそうだ。

 

「よし、分かった! 何の為かは知らんが、少し待っててくれ」

『……わーい……』

 

 とりあえず、中の物を移動させることから始めるとしよう。

 

 

 ☆

 

 

『ふぅ……やっぱり水の中は落ち着くわね』

『気持ち良いですぅ』

『……ブクブク……』

 

 数時間かけて水が満たされた水槽の中には今、三人娘(ティアラメンツ)が入っていた。

 

「そう言えば君たちは水族だったね」

 

 思い返してみれば彼女達のカードの背景は水中や水の上とかだったな。種族やカードイラストから鑑みるに彼女達の本来の生息域は地上と言うよりは水中の方がメインなのかもしれない。

 

 水槽の縁に手を掛けて上半身を水面から出したシェイレーン。

 逆に頭の先と目くらいしか水面から出ていないハゥフニス。

 水槽の縁に腰かけて足を水に沈めるメイルゥ。

 

 三人は思い思いの方法で楽しんでいる。

 

 ていうか、実体を持たない精霊である彼女達が現実世界の水を感じられるのだろうか? 実際、メイルゥは足をぶらぶらさせているが水面はピクリとも動いていない。きっと精霊の三人は水のエレメント的なサムシングを感じることが出来るんだろう。知らんけど。

 やはり精霊というのは不思議で一杯だ。

 あ、このままだと水が腐ってしまいそうだし、循環装置のスイッチも入れておこう。少しでも水流がある方が彼女達にとっても良いかもしれない。

 

 でもまあ、彼女達が満足しているようで俺も嬉しい。

 

 こうしてアクアリウムとしての役割を再び全うできるようになった水槽に新たな住民が出来たのだった。

 

 




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