科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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最後のトロイメア

「はぁ……飯食いに行っただけなのに異様に疲れたな……」

『そうですか? 私はとても良い収穫があったので非常に満足度高かったです! また今度も行きましょうね! にゅふふ……』

「勘弁してくれよ……」

 

 マスカレーナはドリュアトランティエからパクって来た果実に頬ずりしながら怪しい笑い声をあげる。「この果実一つでどれだけの……ジュルリ……」なんて彼女は言っているが、とても悪い顔をしているね。うん。

 

 家に戻ってくると、未だに両親が使う車が車庫になかったため、まだ帰って来てない事が伺える。これは帰りを家で待って居たら本格的に空腹に耐えられなかったかもしれないな。

 

「ただいま~っと」

 

 ドアの鍵を開け家の中に入ると、当然誰も居ないため物音一つしない。

 サッと手を洗い、自分の部屋がある二階へと向かう。

 

「……ん?」

『部屋の中から何やら聞こえてきますね?』

 

 部屋のドアノブに手を掛けようとした時、部屋の中から何かが聞こえて来た。そっとドアに耳を近づけてみると、微かに聞こえた音は人の声だという事が分かる。

 

『うっ……うぅ……』

『シクシク……』

『………………グスン……』

 

 ドアの向こうと言う事でくぐもって聞こえるが女の泣き声……? 最初は泥棒か何かかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 しかし、これはこれで幽霊の可能性が出て来て非常に怖いのだが? 

 

『中に入らないんですか?』

「いやぁ、ちょっと心の準備が……」

 

 しかし、このままずっとこうしている訳にはいかない。何かあってもすぐにデュエルディスクが構えられるように左手はフリーにし、意を決して右手でドアノブを捻る。

 そして、一気にドアを開け放つと、そこには三人の人影があった。

 

「あ」

『ア、アンタ今までどこに行ってたのよ~~~!!』

『うわ~ん、会えて良かったですぅ~~~』

『……何かあったのかと心配した……』

 

 俺の部屋から聞こえて来たすすり泣く女の声はなんとシェイレーン、メイルゥ、ハゥフニスの三人だった。

 

「おー、三人とも久しぶりだな! 元気にしてたか?」

『「元気にしてたか?」じゃないわよ! もう! アンタどうして家に居ないのよ!』

『家中を探してもアナタは居ないし、ご両親の姿も見えませんでしたし……』

『……もうこの家には居ないのかと思った……』

「ああ……それで……」

 

 三人娘(ティアラメンツ)は折角人間界にやって来たのにそこに俺が居なくて不安になってしまった様だ。しかも、いつもならシャドール・ティアラメンツデッキをデュエルディスクに入れているから本来だったら俺の傍に現れるはずだった。だが、最近は気分を変えるためにガスタデッキを使っていたために、ティアラメンツのカードは家に置きっぱなしだったのである。

 申し訳ない事をしたとも思うが、何とも間の悪い娘達だ。

 マスカレーナも久しぶりに再会したティアラメンツの皆と挨拶を交わしている。

 

 そんな中、彼女達と面識がないガラテアは知らない精霊が三人もいたからか頭に疑問符を浮かべながらこちらに問いかけて来る。

 

『お兄ちゃん、あの人達、誰?』

「ああ、彼女達は俺の友達。シェイレーン、メイルゥ、ハゥフニスだ。仲良くするんだぞ」

 

 手で指し示しながら彼女達の名前を紹介していく。

 

『あら? 知らない子が居るわね。シェイレーンよ。よろしく』

『メイルゥです。新しいお友達ですか?』

『……ハゥフニス……相変わらずの精霊誑し……』

「お、おいおい。ハゥフニスさんよ、それは人聞きが悪いぜ……」

『ガラテア、です』

 

 ハゥフニスの思わぬ俺の評価に思わず表情が引き攣ってしったが、お互いの自己紹介は無事に終わる。

 

『ところで、この子さっきアンタの事お兄ちゃんって呼んでなかった?』

「ああ、それは……」

『ガラテアちゃんはラッセさんの妹なんですよ!』

 

 俺がガラテアを預かる様になった経緯を彼女達に説明しようとすると、すかさずマスカレーナが横から遮って端折りに端折った端的な言葉だけで済ませてしまう。

 

『アンタ精霊の妹が居たの? 教えてくれても良かったのに』

『まあ、そうだったんですね』

『……びっくり……』

 

 そして、当然そんな言葉不足の説明だけでは伝わる訳も無く……って、なんでティアラメンツの皆さんは「人間の俺に精霊の妹が居る」という状況に対して全く疑問を持っていないんですかねぇ。おかしいでしょ? 常識的に考えて。

 その後、マスカレーナに説明した時の様に三人娘と別れてから起こった出来事を彼女達に説明した所、しっかり理解してくれた。

 

「それにしても、今日は突然どうしたんだ?」

『色々と一段落付いたから久しぶりに顔でも見せようかと思ったのよ』

『シェイレーンちゃんったら、凄い会いたそうにしてたんですよ』

『ちょ、ちょっと! メイルゥ!』

『……溜息ばかりついてた……』

『ハゥフニスまで!』

 

 メイルゥとハゥフニスに暴露されて慌てて二人の口を塞ぎにかかるシェイレーン。何だかこういう感じは久しぶりだな。

 

「そうか。シェイレーンはそんなに寂しかったんだなぁ」

『ち、違うわよ!』

「違うのか?」

『え、えぅ……』

 

 顔を伏せてモゴモゴし始めたシェイレーンを見て満足したので、彼女を弄るのはこれくらいにしておこう。話が進まないのでな。

 

「ルルカロスは元気にしてるか?」

『はい。ルルカロス様は壱世壊(ペルレギア)の新しい統治者として毎日頑張っていますよ』

「ペルレギア?」

 

 聞き覚えの無い単語に俺は疑問符を浮かべる。

 

『ほら、ペルレイノってアイツの名前が入ってるじゃない? だから、私達の最初の仕事として壱世壊の新しい名前を考える事にしたの』

「なるほど、それがペルレギアか」

 

 今気が付いたのだが、彼女達の胸元にかつてあった錠前のアクセサリーが無くなっている。それは支配者たるレイノハートが居なくなった事による解放を示している様だった。

 それに伴って壱世壊もレイノハートを王とする世壊であることをやめたという事だろう。

 

『曲がりなりにも頂点に立ってた男が居なくなったから色々混乱もあったけど、最近はようやく落ち着いてきたところよ』

『今度お祝いのお祭りを開く予定なのです!』

『……今日はそのお知らせとお誘い……』

「おー、祭りね。それは楽しみだな」

『私も行っていいですか!』

『勿論です! その時はガラテアちゃんも是非一緒に!』

『……大歓迎……』

 

 精霊界の祭りか。一体どんなことをするのだろうか。それに、前回は経験しそびれたが、壱世壊の美味いものとかも味わえるかもしれない。

 

「皆は祭りで何か出し物でもするのか?」

『私達三人は音楽の奉納をするのよ。私は唄を捧げるわ』

『私は笛を。今は練習中です!』

『……私は竪琴。本番をお楽しみに……』

「唄と演奏か」

 

 メイルゥとハゥフニスは演奏でシェイレーンはボーカルを務めるのだろう。音楽の奉納とは、正しく神事だな。随分祭りとしてしっかりしたものを準備している様だ。

 それにしても、彼女達と共に生活をしていた時は音楽関係の話題は全く出てこなかったから少し意外である。

 

「シェイレーンが唄うんだな」

『何よ、文句でもあるの?』

「いや、別にそう言う訳では無いが」

『シェイレーンちゃんの歌声はとっても綺麗なんですよ。壱世壊では誰もが知ってる歌姫です!』

『……こうご期待……』

『あ、あんまり期待されても困るわよ……?』

 

 シェイレーンは頬を赤く染め、照れ隠しなのか前髪を指先で弄ってクルクルしている。

 

『ま、そう言う事だから、アンタも楽しみにしてなさいよね』

「おう」

 

 二人がそれほどまで称える歌声とは、俄然楽しみになって来た。

 今から祭り当日がとても待ち遠しいな。

 

『ん、伝えなきゃいけない事も伝えたし、私達はそろそろ戻るわね』

「え、もう帰っちゃうのか?」

『一段落付いたとはいえ、まだまだやらなきゃいけない事は沢山あるんだから』

 

 そう言うシェイレーンの表情からは苦労や大変な事ばかりでは無く、未来に希望を抱いている事が伺える。

 かつて、日常の笑顔の中に隠しきれていない陰りが垣間見えた彼女達とは大違いだ。

 

 そんな彼女達の今を知ることが出来て俺は嬉しく思う。

 

「そうか。残念だが、やるべきことがあるなら仕方ない。またいつでも遊びに来てくれよな」

『ええ。アンタこそ、これからは私達のカードは常に肌身離さず持って居なさいよね!』

『それでは、これで失礼します』

『……またねー……』

 

 そう言うと、三人娘は姿を消していった。彼女達の世界、ペルレギアへと帰って行ったのだろう。

 

『楽しみが増えましたね、ラッセさん』

「ああ。その時はガラテアも一緒に……うお!」

 

 後ろで俺たちの会話を静かに聞いていたガラテアの方へ振り向くと、そこにはいつの間にか現れていた『トロイメア・マーメイド』が彼女の横に浮かんでいた。

 既に何度も経験した出来事だが、何度経験したとしても音も無く突然現れられると驚いてしまう。

 

 俺がマーメイドを視認してからしばらくすると、やはりその姿を紺碧のジャックナイツのコアへと変化させていく。

 ガラテアは紺碧のコアを両手で受け止めると、コアは彼女の身体にゆっくりと取り込まれる。

 

「ガラテア……」

『?』

 

 彼女が取り込んだジャックナイツのコアは全部で六つ。黄華、紫宵、紅蓮、翠嵐、燈影、そして紺碧。

 これは全てのトロイメアモンスターと出会った事を意味している。

 

「何か身体に変わった事は無いか? 変な感じはしないか?」

『? 何も、変わらない、よ?』

『ラッセさん? どうしたんですか?』

 

 ガラテアはいつもと同じ口調でそう言い、いつもと同じ様に瞼を閉じ、口元は優しく微笑んでいる。

 

 正直、『トロイメア・フェニックス』に出会ったあたりから今後全てのトロイメアモンスターと出会うのだろうとは予感していた。ただ、もしかしたら……もしかしたら、全てのトロイメアモンスターと出会う事で星遺物世界の黒幕(アイツ)が何かちょっかいをかけてくるのではないか。

 そう言う不安も抱えていた。

 

「……いや、おかしなところが無いなら良いんだ。俺の考え過ぎだろう」

 

 だが、全てのトロイメアモンスターと出会い、その身に全てのジャックナイツのコアを宿してもガラテアが何か変わった様には見えない。

 

 考え過ぎだった。

 そう結論付けて俺は残りの休日を三人で過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アハハハハハ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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