科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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……の塔

 トロイメア・マーメイドと出会ってから一週間。

 変わらぬ日常、変わらぬ学校生活、変わらぬデュエル漬けの日々。念のためガラテアに何か変化が無いかと注意を向けていたが、やはりそれも杞憂だったようでこの一週間何もなかった。

 

 そうしてやって来た次の休みの日。

 今日は島と朝から街で遊ぶ約束をしている。

 目を覚まし、歯を磨き、朝飯を食い、服を着替えてデュエルディスクを身に着ける。

 

 いつもと変わらぬ朝支度。

 何だか今日は心なしか静かだなと思いながら俺は街へ出かける。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 カードショップやアパレルショップなど適当な店を巡って各々目的の物を回収した後、小腹も空いてきたという事で適当なバーガー屋で軽食を摂る事にした。

 薬にも毒にもならないバカ話をしながら飲み物を啜り、ポテトを摘まむ。俺は俺で島に不審がられない様に気を付けながら時々ポテトをミドラーシュに渡しながら過ごしていると、タブレット端末を弄っていた島が突然騒ぎ出す。

 

「ん!? おい世良! これ観て見ろよ! 今LINK VRAINSで大変なことが起こってるぞ!」

「どうした?」

 

 島がこちらに寄越したタブレットに映っているのはどこかの報道屋が中継しているLINK VRAINSの映像だった。

 それは現在行われているPlaymakerとハノイの騎士の幹部であるスペクターとのデュエルだ。だが、その舞台は普段のLINK VRAINSでは無く、ビルは崩れ、道路はひび割れ、暗雲が垂れ込めた空模様。

 そして、一番異様な存在として目立っているのがハノイの塔だろう。LINK VRAINSに存在する膨大なデーターを吸い上げ、一気に放出する事でLINK VRAINSは勿論、それ以外のネットワークを崩壊させ最終的にはスタンドアローン状態のすべてのコンピューターをも破壊する事を目的とした電脳空間上の建造物、ハノイの塔。

 

「ハノイの騎士がまた何か悪さをしているのか」

「ああ、多分な。でも! Playmakerが必ずハノイの騎士に正義の鉄槌を食らわせてくれるはずだぜ! 頑張れー! Playmaker!」

 

 その通りだ。

 島が言っているのは子供っぽい理想の様に聞こえるが、この世界では何も間違っていない。未来を知っている俺がわざわざ出張って何かを手伝うまでも無く、この世界の主人公が解決してくれる。

 だから、俺はここで島と一緒に手に汗握りながらPlaymakerのデュエルを観戦し、応援していれば良い。

 

 だが、この違和感は何だ? 

 何かが間違っている気がする。

 

 完成しつつあるハノイの塔を背景にPlaymakerとハノイの騎士の幹部スペクターとの緊張感のあるデュエルは今もまだ決着が着かずに行われている。

 

「!!」

『ラッセさん! 大変です! 今すぐLINK VRAINSに来てください!』

 

 マスカレーナが血相を変えてデュエルディスクから飛び出て来たのと、違和感に気が付いた俺が勢いよく席から立ち上がったのはほぼ同時だった。

 

「すまん、島! 用事を思い出したから俺はもう帰る!」

「ええ! 突然どうしたんだよ!? 一緒にこの世紀の大事件の顛末を……って行っちまった」

 

 島の言葉を振り切り、俺は大急ぎで店から出て家へと向かう。

 

 

 

 崩壊していくLINK VRAINS。

 Playmakerとスペクターとのデュエル。

 完成しつつあるハノイの塔。

 

 そう、ハノイの塔だ。俺が感じた違和感の正体。

 ハノイの塔は全部で六段からなる輪っかがすべて完成した時、つまり、必要な量のデータを吸い上げ終わった時に溜め込んだデータを放出してLINK VRAINSを崩壊させる。

 Playmakerとスペクターのデュエルをしている時、ハノイの塔は二段目まで完成し、三段目を形成している段階のはずだった。本来ならば。

 しかし、俺が見た映像のハノイの塔は既に三段目が完成しており、四段目の形成の段階に入っていた。

 

 これでは、Playmakerが物語通りに進めたとしたらハノイの塔完成までに間に合わない! 

 

 何かが起こっている。

 俺の知らない何かによってハノイの塔の形成スピードが上がっているのだ。そして、その何かとは、まさにマスカレーナが血相を変えていた理由だと思われる。

 

「何が起こってるんだ?」

『それが……突然サイバース精霊界の精霊達が何者かの手によって……私は何とか人間界に逃げる事で免れることが出来たのですが、人間界にパイプの無い精霊達はみんな……みんなッ…………。LINK VRAINSに避難した精霊達もダメだったみたいです……』

「……」

 

 ハノイの騎士が精霊に対処できる技術を手に入れた? いや、それは考えにくいだろう。

 精霊の存在を感知できるようになったスペクターが向こうに居るとは言え、そこからさらに精霊をどうこう出来るようになるとは思えない。何より、そんな技術を開発する時間は無いだろう。

 であるならば相手は精霊、と考えた方が良い。

 

 家に着くなり、手も洗わずに自分の部屋へと駆け込む。幸い今日も両親は出かけているため、小言を言われることもない。

 意識を失った身体が倒れない様にイスに座り、俺は久方ぶりにLINK VRAINSへのログインキーワードを口にする。

 

「In to the VRAINS!!」

 

 遮断される外界の音。

 暗くなる視界。

 遠のく意識。

 

 遠のく意識の中で俺は思う。

 

 

 そう言えば、今日ガラテアを見ていないな、と。

 

 

 

 ☆

 

 

 失われた五感が戻って来て、意識がはっきりとする。どうやらLINK VRAINSへのログインは無事成功したようだ。

 しかし、いつも賑やかなLINK VRAINSには人の気配がほとんどなく、変わり果てた姿を晒している。

 

『ラッセさん! あちらから皆の気配を感じます!』

「あっちだな」

 

 そう言ってマスカレーナが指さした方向にはハノイの塔がある。マスカレーナを引き連れ、俺は彼女が示した方向へと走る。

 走る。走る。走る。

 道はガタガタにひび割れており、走るのには苦労したが、幸い突き進む俺を邪魔するような人間は誰も居ない。

 

 俺のログイン地点がハノイの塔からそこまで離れていなかったこともあり、少しの間走っただけで俺はハノイの塔の根元までたどり着くことが出来た。

 リボルバーもGo鬼塚も見当たらないのを見るに、彼らがデュエルをする反対側にでも辿り着いたのだろう。

 

 そこで俺は、昨日ぶりの少女と出会う。

 

「ガラテア……」

『あれ? ガラテアちゃん? どうしてラッセさんと別れてこんな所に?』

 

 ハノイの塔を眺めていたガラテアは俺達の声に気が付いたのか、こちらに振り向いてこう言った。

 

『あ、来ちゃったんだ。お・に・い・ちゃ・ん?』

 

 ガラテアの姿で、ガラテアの声で……。

 ガラテアとは全く違う、嫌に耳に付く口調で彼女は喋る。

 

『もうちょっと待ってくれたらぜーんぶ終わったのに』

『……あなた、誰ですか?』

 

 いつもと違うガラテアの雰囲気にマスカレーナも何かがおかしいと感じたみたいだ。

 

「……リースだな」

『あれ? お兄ちゃんったら、私の事まで知ってるんだ! 意外と侮れないじゃない?』

 

 星遺物世界の黒幕。全ての元凶。救いようのないクズ。何か悲しい過去や神にならなければならない理由があると思ったら特に無いただのゲス。羽虫。

 

 星遺物世界のストーリーを知った決闘者(デュエリスト)は彼女の事を言葉のあらん限りを尽くして似たように称する事だろう。

 

 『星杯の妖精リース』

 それがガラテアの中に潜んでいるデュエルモンスターの精霊の名前だ。

 

「目的は何だ? まだ神になろうとでもしてるのか?」

『質問ばっかりね。まあいいわ。今私はとても気分が良いから答えてあげる。ようやくこの子(ガラテア)の身体の主導権を握れたと思ったらそこは私の知らない世界。しかも、科学技術が発達した機械文明の世界。その後に少し調べてみたら何やら面白い事をしようとしてる集団が居るじゃない? だから、少しお手伝いして私も一枚噛ませて貰おうって思った訳』

 

 ペラペラと良く回る舌でしゃべり始めたリースは続ける。

 

『こうして集まった膨大なデータは謂わばエネルギーよ。まさにネットワーク世界と言う一つの世界を破滅させることが出来るほどの莫大なエネルギー。それをただぶっ放すだけに使うなんてもったいないじゃない? だからね、貰っちゃう事にしたの。私が』

 

 まるで自分の手柄かの様にハノイの塔を指し示すリース。

 ハノイの塔はあれからもどんどん出来上がりつつあり、とうとう四段目も完成した。

 

「サイバース精霊界の精霊達はどうしたんだ?」

『ああ、あいつら? 本来の予定だとあの塔の完成に随分時間が掛かりそうだったから私がデータに変えて塔に捧げてやったわよ』

『な、なんて事を!』

 

 なるほど、本来の物語よりもハノイの塔の出来上がるスピードが速かったのはリースが精霊までもデータ化してハノイの塔を形成するデータ群に追加していたからだったのか。

 

「……今すぐ精霊達を解放して、ガラテアの身体を返せ」

『イヤ』

 

 一応リースに提案してみたが、予想通りそれは拒否された。

 彼女が俺の知っているリースであるならば、当然そうなるだろうという事は予想出来ていたがな。

 

『神の器となるべくして作られたこの子の身体は特別製よ? あの膨大なエネルギーを受け入れる為にはこの子の身体は必要なの』

 

 リースは自分で自分を抱きしめるようにしながらガラテアの身体の必要性を語る。愛おしいモノを抱きしめる様に、大切なモノを抱きしめる様にリースは自身の身体を抱く。

 

「だったら俺とデュエルしろ! お前が負けたらデータ化した精霊達とガラテアを解放してもらう!」

『デュエル? 私が? アンタと? それになんの意味があるのかしら?』

 

 くっ……乗ってこないか……。

 確かに賭けるものを片方しか提示しない戦いなんて、リアリストでもなくとも普通は受けない。何故なら受ける価値がないからだ。

 だが、そんな相手を勝負の舞台にあげるためにはこちらも価値を示せばいい。

 

「……なら俺が負けた時は(転生者)の魂とおまけにお前が知らない知識もくれてやる。これでどうだ、"パラディオンの科学者リース"」

『ラッセさん!?』

『……ふーん、中々面白そうな事を言うじゃない』

 

 これが俺が示せる最大の価値。

 意地汚く魂だけの存在となっても生き続けてきた彼女なら転生という御業は興味の対象となるだろう。まあ、俺自身がどうやってこの世界に転生してきたのかを知らないから説明しろと言われても無理だが。

 そして、何より奴は科学者だ。得てして科学者という生き物は知らない事を明かしたがる。

 

『……良いわよ。その勝負受けてあげる』

 

 俺の提案に興味があるのか、少し間を開けてから返答が返ってくる。俺が対価を示したことでリースはデュエルに乗ってきた。

 

『どうせここで待つしかやることがなかったから丁度いい時間潰しになるわ。遊んであげる。お兄ちゃん?』

 

 ガラテアでは無いのに俺のことを「お兄ちゃん」と呼びこちらを挑発してきやがる。

 リースはガラテアの大鎌を上空へと放り投げる。すると空中に浮かんだ大鎌はデュエルディスクへと変形し、彼女の左腕へと装着される。

 

「今まで黙っていたが……お前にお兄ちゃんと呼ばれる筋合いは無いわ!!!! 行くぞ!!」

 

 俺の方もデュエルディスクを起動させ、デュエルモードへと移行する。

 

「『デュエル!!』」

 

 

 




追記

一度デュエルパートを投稿したんですけどちょっとダメそうだったんで練り直します。はい……

追記
なんとか手直しだけでやろうとしたんですけど無理です
もう0からやり直すよ……

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