これから始まるのは蛇の絵に追加で描かれた足の話。
VRAINS2部の話……ではなく、時間軸的には1.5部です。
完結ステータスはもう戻さないので、今後はキリの良い所まで書けたらまとめて投稿していきます。
Eメール
LINK VRAINSが閉鎖してから一週間。
それはつまり、ハノイの塔事件が終結してから一週間が経ったという事でもある。
普段から頻繁にLINK VRAINSにログインすることは無い俺はLINK VRAINSが閉鎖されたとしても生活に大きな変化は無かったが、最近LINK VRAINSへ行く決心がついてエンジョイしていた島なんかはとても残念がっていた。
だが、それも少しの辛抱だ。崩壊したLINK VRAINSの代わりに新たに作り出す新生LINK VRAINSがSOLテクノロジーから発表されている。三か月後にはこれまでと同じ様に、いや、これまで以上に便利なLINK VRAINSを体験できるだろう。
……まあ、未来に起こるであろう出来事を知っている俺からすると、出来るだけ近付きたくない場所であることは変わらないのだけどね。
「……はぁ」
イスの背もたれにもたれ掛かり、溜息を一つ。
何となしの手慰みにUVカット仕様のスクリューダウンに入れられた『ガラテア』のカードを手に持ち、眺める。
「…………はぁ……」
そうすると、改めて寂しさと言うものがこみ上げてくるような気がした。
彼女とはまたいつか会うことが出来る。そう信じている。だが、それはそれとして、今まで傍に居た人物が突然居なくなると寂しく感じる物だ。
彼女はシェイレーン、メイルゥ、ハゥフニスと比べれば口数は少なく、賑やかと言う訳では無かったが、何かあれば『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と声をかけてくれていた。それがある日突然無くれば調子も崩れるというものである。
しかし、今回はガラテアと別れてから何事も無く時が過ぎて早一週間。
俺は、また広くなった自室で休日を過ごしていた。
これまでも精霊付きのカードを手に入れては、カードの精霊と親交を深め、あまり馬が合わなかった奴も居れば、自意識過剰でなければ結構仲良くなれた奴も居た。
それでも、そのどちらも共通して最終的には俺の元から離れて行ってしまった。それが少し嫌で最近は積極的に精霊付きのカードを集めなくなったという事を久しぶりに思い出す。
マスカレーナ? 彼女は猫みたいに自由気ままだからなぁ。
彼女は精霊界と人間界を行ったり来たりして俺の所に連日居る事もあればしばらく全く顔を出さない事もある。そして今日は彼女が顔を出さなくなって三日目である。
三人娘のために用意した空の水槽は未だに水が腐らない様に循環装置の電源は切っていない。水を循環させるモーターの音だけが鳴り響いているのも虚しいので熱帯魚でも飼おうかなんて考えていたのだが、彼女達がまた来てくれた時に熱帯魚と喧嘩したら困るなと思い、その決断もし切れていなかった。
「食うか?」
俺の問いかけに対し、俺の影が首を縦に振って応える。
机の上に置いてるスナック菓子を適当に摘まんで紙皿に移し、それを自分の影の上に置くと、菓子を乗せた紙皿はズブズブと影の中へと沈んでいく。
虚空に語り掛ける俺の姿をオカンが見たらまた頭を抱えてしまうだろうか。
だが、この部屋には俺ともう一人が住んでいる。
それは勿論『エルシャドール・ミドラーシュ』だ。
かつて精霊達と別れた時と違う所と言えば、彼女が常に俺の傍に居てくれているという事を知っている事だろう。
彼女が居てくれるからこそ、俺はガラテアと別れても寂しさを感じるだけで済んでいる。もし、ミドラーシュが居なかったら一人寂しく泣いていたかもな。冗談だけど。
「美味いか?」
影の右手が親指を立ててグッドのハンドサインを向けて来る。
「それは良かった」
相変わらずミドラーシュは無口な奴だ。
彼女の声を聞いたのは結局数えられる程なのだから。出来ればもっとお話したいのだが、それが彼女のスタンスだというのなら、無理強いする事も無いだろう。
部屋に響く水槽の循環装置のモーター音。
開けた窓から聞こえるのは鳩や雀と近所の声のデカイおばさんの囀り。
一日中電源付けっぱなしのパソコンから聞こえる新着メールが届いたことを知らせる通知音。
「ん、メールか」
このご時世、あらゆるサイトの会員登録にメールアドレスの入力を要求される。その結果、届くのはほとんどが興味もない広告メールばかり。
俺はそう言ったどうでも良いメールは通知音を鳴らさない設定の専用メールアドレスを使っている。通知音が鳴ったという事は個人的な知り合いや見逃せない重要な情報を得るために使用しているメールアドレス宛にメールが届いたことを示している。
メールアプリを起動し、新着メールを確認する。
「? なんだこりゃ」
新着メールが届いています。
Title:
新しい動画が投稿されました
From:
Live☆Twinチャンネル
本文:
動画タイトル『【サイバース精霊界】激突!? 神様達も大喧嘩? 人間は必要? 不要? あなたはどっち派? 私は味噌派! 【割れる】』
概要『なんだか最近みんなピリピリしてるね。雰囲気最悪って感じ。さっさと仲直りしてもらって、元のサイバース精霊界に戻って欲しいよ。私達は喧嘩なんてしないもんね!』『……ラーメンは醤油派』『は?』『……は?』
URL→ttps://www.db.yugioh-card.com/yugiohdb/card_search.action?ope=2&cid=15631
差出人は……『Live☆Twinチャンネル』?
悪戯メールかとも思ったが、このメールアドレスは本当に一部でしか使っていない。メールアドレスが流出したと言うのは完全には否定できないが、可能性としては低いだろう。
何より、サイバース精霊界の話題に触れている事を考えると、このメールの差出人はやはり
「URL……って、何も無いじゃないか」
Live☆Twinチャンネルに新しく投稿されたらしい動画のタイトルと概要は書かれているのに、肝心のアドレスが入力されていない。これでは、折角の宣伝メールなのに動画への導線になって居ない。
「ん、いや待てよ。もしかして……」
俺はふと思いついたことを試してみる事にした。
マウスカーソルを適当な所に置き、クリックを押したままドラッグし、文章を選択する。
「やっぱり反転表示か」
選択されたテキストを示すためにその部分の背景だけが青色に変化する事で、今まで何も表示されていなかったURLの横に文字が浮かび上がる。
ご丁寧に、マウスカーソルがあった時にリンクがある事を悟られない様に頭文字の『h』が消されている。
消されていた一文字を手入力し、送られてきたURLをブラウザで入力してみると、表示されたページは真っ黒の背景にテキストを入力する入力欄と精霊界の文字が書かれた赤いボタンのみ。そう言えばEvil★Twinテーマのカードにこの状況とよく似た『シークレット・パスフレーズ』と言うカードがあったな。
精霊界の文字は俺には読めない。だが、恐らく「エンター」とか「ログイン」とか、そう言った意味合いの文字だろう。
そうなると、この入力欄はパスワードでも入れれば良いのか?
「うーん? パスワードって言ったって、俺は何も聞いていないぞ? ミドラーシュは知ってるか?」
ダメ元でそうミドラーシュに問いかけてみるが、返ってきた答えは横に振られた首だけだった。まあ、当然か。
とりあえず、適当に文字を入力してみると、20文字まで入力出来る事は分かった。
「えーっと、そうだな。じゃあ、「Evil★Twin」、と」
安直だが、特に思いつかなかったので彼女達のテーマ名を入力して赤いボタンを押してみる。
「え、うざ」
すると、どうやらそれは間違いだったようで、ポップアップで出て来たウィンドウに、デフォルメされているが死ぬほど人を馬鹿にしたような顔で描かれたLive☆Twinの二人が表示される。そこには何か精霊界の文字で書かれており、意味は分からないが恐らくこちらを馬鹿にしてくるような内容だろう。
その後も、当てずっぽうに「Live☆Twin」だとか、「イージーゲーム」等、彼女達に関りがありそうな単語をいくつか組み合わせたりしながら色々試してみたが、どれも正解では無かった。
ちなみに、間違えるごとにポップアップされるウィンドウの数が一つずつ増えて行くので、挑戦するたびに次のパスワード入力が手間になっていく。しかも、新しくウィンドウが出る度に描かれているLive☆Twinの顔は全部違っていて何気に芸が細かい。
「う────ん……うーん???」
やはり何を試してみても結果は変わらず、入力画面から先へ進むことは叶わない。そもそも、怪盗と言う他人に明かせない秘密を持つ彼女達がこんな安易に想像が可能なパスワードを設定しているというのは考えにくい。入力上限である20文字を全部使う必要があるパスワードなら俺にそれを突破する術はない。
彼女達が俺にこのメールを送って来た真意も気になるが、パスワードの入力に挑戦していたのは単純に彼女達の動画が気になったからだ。前回、彼女達から教えてもらったURLを入力して観られたLive☆Twinチャンネルでは別にこんなパスワードの入力を求められなかった。しかし、今回はパスワードが必要と言う事は、この動画は普通に公開されている動画では無く、所謂コミュニティ限定動画の様に視聴者を限定する類のものだと思われる。
そんなの気になるに決まっている。
あれからLive☆Twinチャンネルに投稿されていた動画は全て試聴済みであり、すっかり彼女達のファンになってしまったのだからな。
ただまあ、言ってしまえばそれだけなら別に意固地になる必要もないのもまた事実。
今度マスカレーナが来た時にでも聞けばこのパスワードも教えてくれるだろう。
「あ、最後にこれも試してみるか」
もはやブラクラみたいになって来た数十個ものウィンドウを一つずつ消し、パスワード入力画面にもう一度触れられるようにする。
「えーっと、確かあれは……」
俺は何とか思い出した四つの数字だけを入力して、赤いボタンをクリック。すると……
「お?」
今までモニターを陣取っていたパスワード入力画面は消失し、ブラクラ擬きの邪魔くさいウィンドウ群は出て来る事は無かった。これはもしかすると、もしかするかもしれない。
ここに来てパスワード入力成功とは、我ながら良くやったものだ。しかし、正解がたった四つの数字とは……。逆に想像出来なかったな。
「さてと、どんな動画なのかなー、っと……?」
画面が暗くなり、動画が再生されるのを待とうとしたその時、一階から俺を呼ぶオカンの声が聞こえて来た。
「あんたにお客さんだってー! 綺麗な女の子よー!」
「え? 女の子?」
俺は思い当たる人物が思い浮かばないまま、俺を訪ねて来たという人を迎えるために部屋を出たのだった。
E(vil★Twin)メール