科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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住所特定

 

 

 家を訪ねて来た女性とやらに心当たりが全くない。

 勿論、俺だって学校に通っているのだから交友がある女子くらいは居るが、家に訪ねてくるほど仲が良いかと言うと、そんな事は全くないだろう。学校で一番話す女子生徒と言えば、部活で一緒に活動している財前さんだが……もっと無いと思う。あの人大体の人間に塩対応だし。

 学校を病欠したらその日に配られたプリントを頼まれれば持って来てくれる位はしてくれるかもしれないが、そもそも俺は学校を休んだりしていないので、そう言う特別な事情があるわけでもない。

 

 なら、学校外の知り合い? 学校外の知り合いなんて、精々カードショップで一回デュエルをした仲とか、そんな薄い繋がりばかりだ。家の場所どころか、俺の名前すら知らないだろう。

 

「ちょっとちょっと! あんな綺麗な子達とどこで知り合ったのよ! もしかして、詐欺とかじゃないの? 大丈夫? 絵とか買わされてない?」

 

 階段を下りた先に居たオカンに呼び止められたと思ったら何とも失礼なことを言い出した。

 俺がそんな美人なだけで騙される人間に見えるのだろうか? 

 

「そんなん買ってないよ。ていうか、誰が来たんだ?」

「さー? 「世良君居ますかー」って言われただけだから」

 

 結局オカンからは新しい情報は得られなかった。けどまあ、ドアを開けて、来訪者の顔を確認すれば良いだけの話だ。

 

「どちら様ですかー」

 

 声をかけながらドアを開け、家を訪ねて来たという人物に目を向ける。

 

「やっほー! 久しぶり!」

「遊びに来たよ」

「……えー……っと……どちら様?」

 

 目の前に立っているのは二人組の女性。

 

 一人は淡い赤色の髪を持つ女性。

 胸元が大きく開かれた水着みたいなトップスとショートパンツの組み合わせのせいでヘソが丸だしだ。左脚だけ履いたストッキングはお洒落なのかダメージを受けている。そんな恥ずかしい恰好を全部覆えるほどの大きなジャンパーを羽織っているが、前は全く止められておらず、全て曝け出されている。痴女かな? 

 

 もう一人は深い青色の髪を持つ女性。

 白いレオタードの様な衣服を身に着け、ズボンは……ズボン? 透明なズボンの様な物を履いているが、透明なせいで色々とスケている。そのうえ、横は大きく穴が開いており、その太腿は惜しげも無く晒されている。彼女もそんな恰好を隠すことが出来るジャンパーを着ているが、やはり前は全て開けている。痴女では? 

 

 LINK VRAINSでないと許され無さそうな衝撃的な格好の女性二人を目の前に対面してもなお、俺は彼女達の事が誰なのか分からなかった。

 

「え? あれ? もしかして冗談で言ってる?」

「そんな事を言うなんて、世良君は酷いなぁ、シクシク」

 

 赤髪の女性は少し焦ったように、青髪の女性は泣き真似をしながらからかうようにそう言う。

 

「私はキスキル!」

「私はリィラだよ」

 

 そして、ここに至ってもなお彼女達の事が分からない俺に呆れたのか、二人は溜息をつきながら自己紹介をしてくれる。

 

「キスキル? リィラ? あー……。と、自分の事を思ってる一般人の方ですか?」

「「ちがーう!!」」

「えぇ?」

 

 そりゃ確かにキスキルもリィラも知り合いだが、彼女達はデュエルモンスターズの精霊だ。

 ここは俺の家の前。つまり、人間界。それに、オカンも二人の事を認識する事が出来ていた。当然、オカンはカードの精霊を認識することは出来ない。出来て居たら今頃オカンは俺の事で頭を抱えるような事は無かっただろう。

 そんな二人がカードの精霊だと言われても、俄かに信じがたいというもの。

 精霊が人間界に実体化するのは、デュエルディスクと一体化してその機能の一部を使い、ソリッドビジョンとして実質的な実体化をしていたガラテアくらいしか知らない。強力な力を持った精霊として認知されているミドラーシュですらやっていない。俺が知らないだけで本当は出来るのかもしれないが……。

 

『ラッセさん……お久しぶりですね……。彼女達は本当にキスキルさんとリィラさんですよ』

「あれ? マスカレーナ?」

 

 マスカレーナが二人の後ろから現れる。三日ぶりに見た彼女の顔は何故かとても疲れているように見える。

 

「なんでそんな疲れたような顔を? というか、マスカレーナがそう言うって事は、二人は本当にあのキスキルとリィラなのか?」

「最初からそう言ってるじゃん!」

「マスカレーナが言う事なら信じるんだね」

 

 リィラがジト目をこちらに向けて来る。

 

「あー……とりあえず、家あがってく?」

 

 そんな視線に耐えられなかったという訳では無いが、いつまでも玄関前で話し込む必要はないので、二人を俺の部屋へあげる事にした。

 

 

 ☆

 

 

 

 謎の美少女来訪者こと、人間界に実体化しているキスキルとリィラを家に招き入れ、自分の部屋へと案内する。その時、リビングからこっそりこちらの様子を伺っていたオカンがびっくりしていたのを確認している。

 これは後で質問攻めだろうなぁ……と、未来の面倒事を考えないようにしつつ、二人には色々と聞かなければいけない事がある。

 

「適当にベッドにでも座っていいよ」

 

 普段、男友達か精霊くらいしか招かない自室。そんな部屋に女の子を座らせることが出来るソファなんてものは無いし、イスもパソコンデスク用の物一つしかない。

 精霊だったらそもそも物理的に座る必要もないし、男友達なら適当に床に座らせれば良いが、今回は流石にそう言う訳にもいかないだろう。そうなると、腰かけられるような場所はベッドくらいしかない。申し訳ないけど二人にはそこに座ってもらう事にした。

 ちなみに俺は自分のイスに座っている。

 

「ところで、リースがサイバース精霊界の精霊を襲った時、二人は大丈夫だったか?」

「ああ、あれね。私達は安全な場所に避難していたから平気だったわ」

「良かった。そんな場所があったんだな」

 

 どうやら二人はリースによってハノイの塔を作るデータの一部にされることは避けられたらしい。あの時聞いたマスカレーナの話では、サイバース精霊界に居る精霊全員がデータ化されてしまったと思ったが、そう言う訳では無かった様だ。

 

「うん。そこにあるパソコン」

「え?」

 

 リィラが俺のデスクトップパソコンを指差しながらそんな事を言いだした。

 

「この前、君が私達のページにアクセスしたでしょ? そのアクセス履歴からそのパソコンのアドレスを逆探知して嵐が過ぎるのを待たせてもらったのよ」

「私達が知ってる人間界との繋がりはそこだけだったから。LINK VRAINSはサイバース精霊界に近すぎて避難しても巻き込まれていたかもしれないしね」

 

 まさか、リースが騒ぎを起こしている間、二人が俺のパソコンの中に居たとは全く気が付かなかった。確かに、あの日は出先で事件の様子を見て居たし、家に帰って即LINK VRAINSへ赴いたためにパソコンは見て居なかったな。

 あれ? でも、人間界の電子機器に干渉することが出来るのはサイバース族精霊の特性だ。それで彼女達の意識とLive☆Twinの精霊体の安全を確保する事は出来たとして、中の人こと、悪魔族のEvil★Twinとしての精霊体はどうなっていたのだろうか? もしかして、俺がリースに負けていたら二人とも一生サイバース族として生きる事になって居た……とか? 

 

 ……

 

 まあ、結果的には全員解放されたのだからそんな事は別に良いと言えば良いのだけどね。

 

「あ、そうだ。二人が送って来たあのメールは何だったんだ?」

 

 俺は直前までパスワードチャレンジをしていたメールについても聞くことにした。結局正しいパスワードを入れても動画は観られなかったし、何の意味があったのだろうか? 

 

「ああ、あれね。それは君の家の位置座標を調べるための物よ」

「私達は人間界に不慣れだし、君の家がどこにあるのかも勿論知らない。精霊界と人間界をよく行き来しているマスカレーナがさっさと教えてくれれば話は早かったのだけど?」

『……いくら貴女達とは言え、友人の個人情報をそうホイホイとは渡しませんよ』

 

 もしかしたらここ最近マスカレーナが姿を見せなかったのはEvil★Twinの二人に絡まれていたせいで人間界に来られなかったのかもしれないな。

 

『……はぁ……ラッセさん!』

「えっ。な、何?」

 

 あれ? この流れは前にもあったような……? 

 

『良く知らないURLは簡単に開いてはいけませんよ!』

「いやまあ、それはそうだが、サイバース精霊界について触れられてたからLive☆Twinからのメールだって事は確信してたし……」

『それでもです! 幸い二人に悪意は無かったから良かったものの、それが原因でEvil★Twin(この人達)はあなたの住所を手に入れているんですから!』

「……はい、俺が迂闊でした……」

 

 以前ハノイの騎士の罠に嵌まった時と同じ様にマスカレーナにネットリテラシーについての説教を受ける事になってしまった。マスカレーナが顔を見せた時、最初疲れたような顔をしていたのも俺に呆れていたからだろうか。

 自分では一応大丈夫と駄目の基準を設けてインターネットと付き合っているつもりなのだが……もしかして、俺の基準って……ガバガバ? 

 

「まあ、それは横に置いておくとして、結局あのサイトは何だったんだ? 普通に動画観たかったんだが?」

「あれ? もしかして世良君も私達のファンになっちゃった? やったね、リィラ! ファンが増えたわ!」

「人間界進出の第一歩だね、キスキル」

「動画は……」

 

 何故か知らないが、キスキルとリィラは人間界住む俺をファンとして取り込めたことに二人は手を取り合いながらとても喜んでいる。それは良いのだが、結局件の動画は観られないのか……? 

 

「あのメールに書いた動画なら、前教えた方のサイトで観られるわよ」

「まじで?」

 

 じゃあ、さっきまで俺は意味も無くパスワードを入れては煽られを繰り返していたのか? キスキルがそう言うのなら、動画はこの後観させて貰おう。

 

「ちなみに、今日君がアクセスしたサイトは私達に依頼を出す時に使うページ。当然、Evil★Twinとしての依頼をね」

 

 リィラがキスキルの話を補足するように説明してくれる。

 

「私達に依頼をしてくるような奴らは大抵裏があるようなのばかりだから、依頼人の裏取りを兼ねて情報収集が出来るようにあのページ自体に仕掛けがしてあるの」

「それって、本来精霊界で使ってたシステムだよな? それが人間界の位置情報にも適用出来るって……」

 

 本当に精霊達の出来る事と言うのは想像の範疇を越えて来るものである。

 

「……って、あれ!? 世良君パスワード突破してるじゃん!」

「え? うわ、本当だ」

 

 ベッドに腰かけながら俺の部屋を見回していたキスキルが画面をそのままにしていたパソコンに気が付いたらしい。リィラもその言葉を聞いてパソコンの画面を見ている。

 

「パスワードは毎回サイトの存在を教えた相手ごとに変えていて、確かに今回は適当に設定したけど……」

「なんで世良君は私達の、Evil★Twin結成の日付を知っているのかしら?」

 

 ああ、そう言う扱いなんだ。

 俺が入力したパスワードは「0912」。つまり、Live☆TwinとEvil★Twinのカードが収録されたパックが発売した日付である。偶々覚えていただけだったが、まさか正解だとは思わなかったね。

 

「それはほら? 俺が君達のファンだからと言う事で」

「ふーん……?」

 

 リィラにストーカーを見るような目で見られて居る気がするが、「前世から知っていました」なんて説明した方が胡散臭い目で見られると思うので……まあ、百歩譲ってこれで良しとしよう。説明するのも大変だし。

 

「なんにせよ、世良君はノーヒントで私達が設定したパスワードを当てられたので、ご褒美に一回だけ私達に無料で依頼出来る権利を進呈しまーす! パチパチパチ」

 

 キスキルはこちらに向かって拍手をしてくれる。それに合わせてリィラも

「ドンドン、パフパフー」と煽っているが、果たして俺が怪盗の彼女達に再び依頼をする日は来るのだろうか? 

 また、精霊絡みで情報が欲しくなった時があれば使わせてもらう事にしようかね。

 

 

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