科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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イラストストーリー

「さてと、そろそろ出かけるとするか」

『あら、どこかに行くのかしら?』

『私達もついて行きます~』

『……丁度暇してたところなの……』

 

 すっかりティアラメンツ達の溜り場となってしまった巨大水槽から顔を出す3人娘。朝目を覚ますと視界に入る水槽の中に少女たちが浮いている光景は何度見ても異様としか言えないが、人間とは慣れる生き物である。いつの間にかそれが自然になってしまった事のなんと恐ろしい事か。

 久しぶりに水を満たしたアクアリウム。俺から見たらそんな光景であるが、俺以外から見ると何もいない水たまりである。俺の部屋に入って来た親父に「……ミジンコでも飼ってるのか?」と言われた時はなんて答えるか悩んだ物だ。

 

 ミジンコ呼ばわりされてティアラメンツ達が怒っていたが、親父には見えて居ないのだから許してあげて欲しいものである。

 

 果たして、水槽に少女を飼っている(ように見える)人間と水槽に砂も水草も水生生物も飼わずに水だけ容れている人間、どちらの方がヤバイのかと言う話は永遠に忘れるようにしよう。

 

「知り合いの情報によると少し遠くのショップにお目当ての物が有るんだと」

『ふーん。なら早く確かめに行きましょ!』

 

 ふわりと舞い上がって水槽から飛び出すと、俺の横に並ぶようにして浮かぶシェイレーン。メイルゥとハゥフニスもそれに続く。

 

「とりあえず、最寄りの駅まで行くことにしますか」

 

 精霊三人を引き連れてマスカレーナの情報の真偽を確かめることにした。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「えーっと……ここで良いのか?」

『随分寂れた店ね』

『趣があっていい店だと思いますよ?』

『……ボロ……』

 

 西に二駅行った場所の駅前のカードショップ。それは築何十年みたいなビルの一室に入っている小さなカードショップだった。ビルの外壁もボロボロだったが、中もまともに手入れがされているとは思えない。

 

 最寄駅から西の方向に行く電車が二本あったからどっちか分からず適当に選んだが、もしかして間違ったか? しかし、実際に駅前にカードショップはあった訳だし……いやでも、この世界にカードショップなんてコンビニの数ほどある。この店が正解かどうかもわからん。

 

「まあ、折角ここまで来たんだ。入らないって選択肢はないだろ」

『ちょ、ちょっと不気味ね』

『シェイレーンは昔から怖い話や場所が苦手でしたね』

『こ、怖くなんてないわ……』

『……』

 

 そう言いながらもすでに涙目なのだが、かわいそうだから指摘するのはやめておこう。ハゥフニスの無言のジト目がシェイレーンに突き刺さっているが、本人が怖くないというのだから怖くないんだろう。

 

 シェイレーンの覚悟も決まったようなので俺はショップの扉を開けて中に入る事にした。

 意外、と言っては失礼な話だが、扉の向こうはいたって普通のカードショップだ。

 各種新品のパックが並べられたレジ周り。スリーブ、デッキケース、デュエルディスク等のサプライ品。目玉の高額カードが並んだショーケース。100円から1000円位の値段が付いたカードがまとめられた棚。そして無造作にカードが箱に詰め込まれた30円ストレージ。

 

 建物のボロさに少々ビビリはしたが入ってみればなんて事はない。

 

「お~かなり種類が豊富だな」

 

 だが、気になるのは客が俺達(実際は俺だけ)しか居ないのと店員の姿が見えない事だ。

 これだけ品ぞろえが豊富な店なら客入りも良さそうなものだが? 

 

『きっと私達のカードはあの辺りね!』

 

 そう言ってシェイレーンは高額カードが並ぶショーケースの方へと飛んでいく。いやぁ……言いにくいけどそこには無いんじゃないかなぁ……。

 

『……無かったわ……』

「ま、まあ、ああいうのは限定品とか希少価値が高いカードが中心だからな。仕方がないさ。ほら、そっちの値段が付いてる棚のどこかにあるんじゃないか? みんなも探すの手伝ってくれよ」

『うん……』

『わかりました』

『……任せて……』

 

 という訳で、しっかり一枚一枚カードが展示されているフロアの捜索は彼女たちに任せて俺はストレージボックス漁りでもしますかね。

 

 適当に一束掴んでサッサッとカードを捲って流し見をしていく。

 通常モンスター、通常モンスター、古代のバーンカード、古代のライフ回復カード……。

 まあ、ストレージボックスなんてこんなものである。

 

 VRAINSの世界は攻撃力至上主義みたいなところがあるGXとは違い、攻撃力が低かろうと効果が有能であれば高い評価が与えられ、攻撃力がいくら高かろうが使いにくければロマンカードの評価を与えられる世界である。伊達に手札発動泡影マルチフェイカーがその辺を歩いている世界ではない。

 だが、このあたりの考え方は前世と同じなため、結構馴染み深いものだったりする。

 

「……『テラ・フォーミング』、『おろかな埋葬』か。もう持ってるけどこんなん何枚あっても困らないから買いだな」

 

 多くのデュエリストが使うような汎用有能カードと言うのは再録も多くされる。そうすると市場で流通する数も自然と多くなる。つまり、お手頃価格で購入することが出来るという訳だ。

 特に今組もうとしているティアラメンツにも使えるこれらのカードは必要だろう。すでに持っている物は他のデッキに採用しているし、デッキを変える度に抜き取って入れ替えるのは手間なのだ。……まあ、1枚2000円くらいするような高額汎用カードは中々そうもいかないのだけどね。

 その点はデータ化したほうがデッキの管理は楽だったりするのだが……魂にまで染み付いた癖は中々抜けないものである。

 

 購入候補のカードを抜きとりながら箱の中のストレージを次々と確認していく。この作業もすっかり慣れたものだ。

 

「……ん?」

 

 そしてずっと流し見していたことで頭がぼーっとして来た頃、カード名に「壱世壊」の文字が見えた。壱世壊はティアラメンツカードを指定するフィールド魔法、『壱世壊=ペルレイノ』と同じ冠名だ。という事は、ティアラメンツカテゴリーのカードの可能性が高い。

 

「『壱世壊に軋む爪音(ティアラメンツ・メタノイズ)』……。ふむ、やっぱりティアラメンツカードだ」

 

 ティアラメンツの罠カード。

 イラストには三人娘(ティアラメンツ達)と謎の男キャラとSDキャラが描かれている。

 

「どれどれ……なるほど、相手モンスターを裏側にする……って事はリンクやシンクロ、エクシーズ召喚を妨害することが出来る……ほんで、デッキからティアラメンツを墓地に送る……そうか、これで彼女達の効果を発動させる訳だ」

 

 妨害と展開を同時にこなすことが出来るのは優秀だな。罠カードと言うのは今の時代でもすでにやや遅い印象を受けるが……しっかり引き込めれば強力なカードだ。

 

「また『ヴィサス=スタフロスト』か……。ティアラメンツカテゴリーでも無さそうなのにこのカードでも指定されている……そうか、イラストストーリーの主人公か」

 

 デュエルモンスターズ、いや敢えて遊戯王カードと呼ぼう。遊戯王カードのイラストにはストーリー仕立てになっているものがいくつか存在している。

 ガスタ、リチュア、シャドール、星遺物、そして烙印等々。どのストーリーもその……なんだ……非常に趣深い話な訳なのだが……まあそれは今は置いておこう。

 その中でも烙印世界の主人公『アルバスの落胤』は世界観を共通する複数カテゴリーで指定されていた。

 つまり、この壱世壊に軋む爪音に描かれている『ヴィサス=スタフロスト』もまたそう言う存在なのだろう。

 

「イラストストーリーか……」

 

 ティアラメンツカードを集めて行けば彼女達の事情というものもいずれ分かってくるかもしれないな。

 

『……何の成果も得られなかったなんて……うぅ……』

『大丈夫ですよ、シェイレーンちゃん。きっとあの人がしっかり探してくれますから』

『……残念ね……』

 

 そんな事を考えているうちにみんなも一通りカードを探し終えたようだ。まあ結果は……お察しだな。

 

「お疲れさん」

『うぅ……ごめんなさい……』

「そう気にするな。こっちでまた一枚見つけた」

 

 俺が見つけたティアラメンツ罠カードを三人に見せる。

 

『また安い箱の中……ぐすん……』

『あはは……やっぱり私達って……ぐすん……』

『……しょんぼり……』

 

 そしてさめざめと泣きだす三人。

 カードの精霊にとって関連カードが高額で取引されることは大事なことなのだろうか? 人間の俺にはよく分からない感覚だが、とりあえず慰めておくことにしよう。

 

「お前らが高額カードに負けないくらい強いって事は俺が知ってるから心配するなって。んじゃ、ちょっくら清算してくるから」

『……もう一回あっちの棚を見直してくるわ』

『私も念のため……』

『……私も……』

「あ、うん。じゃあちょっと待っててな」

 

 涙目になりながら値段が付いたカードが並んだ棚を舐めるように見直している三人は置いてレジへと向かう。

 

「これ、お願いします」

「……」

 

 いつの間にかレジに立っていた黒髪のバイトっぽい兄ちゃん。俺がストレージ漁りに熱中しているうちに出て来ていたのだろうか? その店員にストレージから掘り出してきたカードを渡す。

 

「90円です」

「はい」

 

 小銭で丁度90円。

 それと引き換えにしてレシートと4枚のカードを受け取る。

 

 ……あれ? 俺が買ったのは3枚のはずだ。30円ストレージのカードが3枚で90円。値段もそう言っている。

 あ、そっかどれかのカードに引っ付いちゃってたんだ。古い中古のカードにはよくある事だ。

 

「あの、このカード……」

 

 間違えて持って来てしまいました、と言おうとした俺の言葉を遮るように店員は言う。

 

「そのカードを、君に託す」

「え?」

 

 どういう意味だ。

 頭の上にハテナを浮かばせながらも俺に託すと言われたそのカードに目を落とす。そのカードの名前は、

 

『ティアラメンツ・キトカロス』

 

 間違いなくティアラメンツテーマのエースモンスターだ。

 

「あの! これって……居ない?」

 

 店員から目を離したのは一瞬だった。その一瞬の内にその男は消えてしまっていた。

 

「これは一体……」

 

 訳の分からない事が起きている。

 だが、一つ確かなことはこのキトカロスのカードには精霊が宿っていないという事だ。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「行くぞ」

「ホントにあんなガキに任せて大丈夫なのか?」

「彼なら上手くやるだろう」

「ふーん、そうかよ。お前が何を考えてるのか俺には解らねーよ。なあ、ヴィサスよぉ?」

 

 

 

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