LINK VRAINSが閉鎖されたことは確かに社会問題レベルの一大事だが、それが原因で学校が休校になる訳ではない。LINK VRAINSの救世主であるPlaymakerだって(廊下ですれ違ったが挨拶はしていない)、LINK VRAINSのアイドルであるブルーエンジェルだって(部活で挨拶はしたがそれ以降の会話はデュエル中に必要な言葉のみ)しっかり毎日学校に通っているのだから俺だって普段通りに学校に行かなければならない。
今日も今日とて真面目に部活動に励んだ自分へのご褒美にカードショップにでも寄って帰ろうかなどと考えながら校門を通り抜けようとした時、誰かに声をかけられた。
「おーい、世ー良くーん」
「私達と遊ぼうぜー?」
「リィラとキスキルじゃん。こんなところまで来てどうしたんだ?」
それはSOLtiSを使って実質的な実体化を果たしたキスキルとリィラだった。
彼女達の恰好は俺の家に来た時と同じ格好であり、その姿は下校途中のハイスクール生の視線を一身に受けている。
そして、そんな奇抜な服装をした彼女達に声をかけられた俺の方にも注目を向けてくる奴が出てくる始末。
「ちょっと街歩きに付き合って欲しいのよ!」
「ふーん、珍しいね」
「世良君の手伝いが欲しいんだよね」
彼女達が家に押し掛けて来てからもう一週間ほど経ったのだが、基本的に彼女達は二人だけで行動している事が多い。俺を人間界の拠点として色々としているようだが、何をしているのかは詳しくは知らない。
精霊界に戻る時は俺にSOLtiSを預けに来るので、その時にその日あった面白い話や楽しかった話を少しするくらいで実はそこまで一緒に居る訳では無い。
「おおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!! 世良ああああああああああああああああああああ!!!!!!」
と、校門の傍で二人と話していたせいでうるさい奴に見つかったみたいだ。
「島、うるさいぞ」
「おま、お前!! こんな美人でキレイなお姉さん達と一体どこで知り合ったんだ!?」
学校にまだ用事があるとかで部室で別れた島だが、どうやらその用事も済ませて帰ろうとしていた所に校門で油を売っていた俺と遭遇したようだ。
「E……den Cityだけど?」
危ねぇ。素でサイバース精霊界の街の名前を答えるところだった。
「え!? Den City!? くっそーなんでお前と街で遊ぶことが多いのに俺には出会いが無いんだ!」
「知らんがな」
良かった。島は特に気にする事は無かったようだ。
「どうやって知り合ったんだ!」
「……デュエルモンスターズかな」
嘘は言っていない。
「やっぱりデュエルか!? デュエルなのか!! 俺もお前くらいカドショに通い詰めれば良いのか!!!!」
お前にはグリーン・バブーンがついてるんだから文句言うなよ。な? グリバブ。
『ウホホ……』
カードの精霊であるグリーン・バブーンはどうやらキスキルとリィラの正体に見当がついているらしい。
「世良君のお友達?」
「ごめんねー? 今日は世良君、私達が借りるね?」
リィラは島に少し近寄って声をかけ、キスキルはウィンクを飛ばしながら両手を合わせて「ごめん」のポーズを取っている。
「! どうぞどうぞ! お好きなだけ使ってやって下さい! それじゃあ自分はこれで!」
島は二人にそう言うが、俺は知っている。
キスキルとリィラの視線は島……ではなく、その後ろに居るグリバブに向けられているという事を。
でもまあ、それでも島は嬉しそうにしてるからわざわざ真実を伝える必要もないと思うので、何も言わないでおこう。言っても仕方がないけどな。
島はそれだけ言い残して凄い勢いで走り去って行ってしまった。行先はカードショップだろうか?
「さて、それじゃあ行きましょうか」
「れっつごー」
そう言ってキスキルとリィラの二人は俺の腕を掴んで引きずるようにDen Cityのメインストリートへと連れ出された。
一人でカードショップ冷やかしに行くのはまた今度だなぁ。
☆
しばらく歩き、メインストリートに面する好立地に構える店まで連れてこられた。店の前は行列が出来ており、学校帰りの高校生、大学生くらいの女性が多く見られる。
「まずはここでタピオカミルクティーを飲むわ!」
「え? でも二人とも……」
キスキルはそう言うが、二人とも人間界ではSOLtiS、つまり機械の身体だ。そんな身体で飲み食いなんて出来るのだろうか?
「大丈夫。本命はこっちだから」
「ああ」
リィラはそう言いながらポケットからスマホを取り出す。所謂「映える写真」を撮る。つまりはそう言う事だろう。
流行と言うのは不思議なもので、流行には繰り返しの周期がある。タピオカとナタデココはその代表格みたいなものだろう。今このDen Cityではn度目のタピオカブームが来ているのだ。
そうなると、今回俺がわざわざ連れて来られた理由は……
「写真を撮ってポイなんて駄目だからね~」
「私達の代わりに飲んで欲しいの」
「あ、お金は気にしなくていいよ! ちゃんと私達が出すから!」
「え? 二人ともここの金なんて持ってるの?」
二人は人間界で普通の人間の様に振る舞っているが正体はカードの精霊だ。そんな彼女達が人間界の通貨を持っている?
そう言えば、先ほどもリィラがしれっとスマホを取り出したが、それもいつ調達したのだろうか? 当然俺は彼女にスマホを渡した覚えは無いし、俺が使っているスマホとも違ったので俺のをいつの間にパクられたという訳でもない。
「ふふん……抜かりは無いわ。ほら!」
「うわぁ……なぁにこれ……」
キスキルがチラっと見せてくれた財布の中には万札がちょっとした束になるくらいに納められていた。なんで俺より金持ってるんだ?
「まさか、他人の口座からちょろまかしたりなんて……」
「そんな事してないわよー」
「酷いなー」
え、冗談で言ったつもりなのに本当にそんな事を? 流石にそれはマズイって! でも二人は怪盗がモチーフのモンスターだし、やれない事もないだろうし、絶対にやらないとも微妙に言い切れない……。
「ウソウソ。本当はこれで稼いでるの」
そう言ってリィラこちらに向けて来るスマホの画面には人間世界の大手動画投稿サイト上のLive☆Twinチャンネルが表示されていた。
サムネに映っている彼女達は勿論Evil★Twinの姿では無く、Live☆Twinの姿である。
「い゛っ!? 登録者100万人!?」
動画自体は俺が観た物と同じで動画に表示される字幕は精霊界の文字だが、話す言葉は日本語である。逆にその字幕が独特な世界観を演出しているという事で最近界隈で人気らしい。
「しーっ! あんまり大きな声出したら私達だってバレちゃうじゃない!」
「ああ、ごめん」
彼女達が人間界にやって来て一週間。たった一週間だ。初日にチャンネルを立ち上げていたとしても、そんな少ない時間でこれだけの登録者を集めたというのは驚きである。
しかし、最近の動画投稿サイトは結果さえ出せばこんな短期間で報酬を渡してくれるのだな。そっちも驚きだよ。
優れた作品は国を越えて評価される物だが、文字通り世界を越えてもその理論は通用するものなのだな……。
そんな事をしみじみ考えていると、長かった列は順調に消化されて行き、キスキルとリィラの番まで来ている。二人とも慣れたもんだと言わんばかりに呪文なような注文をこなしているが、もしかしてタピオカミルクティーは精霊界にも有ったのだろうか?
「ほら、キスキル」
「ん! オッケー!」
リィラが持っているカップを店の看板が写り込む位置で掲げると、それに合わせるようにキスキルも頼んだ飲み物のカップを合わせる。
「まるで普通の女子高生みたいだな……」
我ながら現役の男子高校生の言葉としてどうなんだろうかとも思うが、俺はこういう事はやらないから仕方ない。
自分のスマホで適当に「Live☆Twin」と検索を書けたところ、彼女達が運営しているSNSアカウントはすぐに見つけることが出来た。そのアカウントでまさに今投稿された写真付きの一言に凄い勢いで「いいね」が付いていっているのを見るに、本当に人気があるのだと分かる。
あ、ついでにフォローもしておこう。
「それじゃあ、はい」
「お姉さんたちからのプレゼントだよ~」
「こりゃどうも」
写真に撮られるという一仕事を終えたタピオカミルクティーは二人から俺へと渡される。
甘いものは嫌いでは無いが、流石に二杯も飲むのは厳しいものがある。
「ん?」
少し考えていると、俺の服の裾が軽く引っ張られる感覚があった。下から。
「はいはい、最初からそうしようと思ってたよ」
受け取ったカップの片方を自分の影の上に置いて、ミドラーシュへと渡す。こちらも二人だったから食品を無駄にすることが無くて助かった。
「前から思ってたけど、世良君ってすごく自然に凄い事してるわよね」
「非科学的~」
リィラとキスキルはそう言うが、自分達も非科学的存在だという事を理解しているのだろうか?
「さて! それじゃあ次の目的地に……」
キスキルが次の目的地を高らかに宣言すると思ったら、突然変な方向を向いて言葉を止めた。
「行く前に、彼のお話でも聞いてあげましょうか」
「さっきからチラチラと目に入って気になるもんね」
「どうした?」
俺が声を掛ける間もなく二人は路地の方へと駆け出していく。
突然の行動に俺は動き出せずに結局そのまま路地の方をずっと見ている事しかできなかったのだが、何やら「ヤメ……」とか「離せ……」とかそんな感じの声が聞こえる気がする。
そのまま少しの間待って居ると、有名な宇宙人の写真の様にキスキルとリィラが両端に立って誰かの腕をひっ掴みながら路地から出てきた。
「えぇ……」
その人物はそう、藤木遊作その人だった。
この状況を写真に撮ってSNSにアップしたらいい感じにバズるかもしれないな。
俺はそんなどうでも良い事を考える事しかできなかった。
『あっみゃい!(゜レ゜)』