それはあのデュエルの後、何故か俺の机の上に落ちていたリースのカード。幸い精霊の方はギルスか世界しか救えない男が引き取ってくれたのか、今このカードは精霊抜けのただのカードでしかない。
……ないはずなのだが、俺は不安なのでスクリューダウンに入れたうえで隙間をホットボンドで埋めて封印している。ちなみに、ヴィサスに押し付けられたレイノハートも同様の処置をして絶対安心の場所(ミドラーシュの住処)に保管していた。
「もう察しているだろうけど、俺はカードの精霊が見える。あ、ちなみにこっちの二人もカードの精霊ね」
「いえーい」
「ぶい」
「「!?」」
さっきまで話に入ってこないでSNSにアップする用の写真を撮っていたEvil★Twinの二人が話を振られた事に気が付くとしっかり反応してくれた。
本当なら二人のカードを見せれば証拠の提示に成るのだが、俺は『Evil★Twin キスキル』のカードも『Evil★Twin リィラ』のカードも持っていない。ていうか、俺の知っている二人の衣装はもっと怪盗っぽい暗めの衣装だったはずだが、今二人が来ているパンクちっくなデザインを知らないので余計に説明がしにくい。俺が知らないうちにイラスト違いでも出ていたのだろうか?
「い、いやでも、カードの精霊って言うのはこう……幽霊? みたいに普通は見えないものじゃないのか?」
「まあ、それは草薙さんの言う通りなんですが、この二人はちょっと出所の言えない凄いアイテムで実質的な実体化をしているというか……まあ、そのせいで物を食べたり飲んだりすることは出来ない訳ですね」
「そんな非科学的な事があるのか?」
「そういう反応になるよなぁ」
遊作が言う通り、俺が今話している内容は荒唐無稽な夢物語と言われても全く否定のしようがない。
何というか、思い出すな~。
おかんにカードの精霊について話した時もこんな感じの反応をされたものだ。カードの精霊が見える俺の両親という事でもしかしたら親父とおかんもカードの精霊が見えるのではないかと考えた俺がチラッと話をした時もこんな感じの反応をされたものだ。
「あ、すまない。決して疑っている訳ではないんだが」
「いや、良いんだ。だって俺が一番非科学的だと思ってるから」
「ええー! ひどーい」
「ある意味科学的な存在な私達よりよっぽど意味不明なことをしている世良君には言われたくないんだけど?」
SOLtiSという最先端科学技術を使っている最先端非科学的存在のキスキルとリィラにオカルト扱いされる俺と言う存在は一体何なのかと思わないでもないのだが……。
「まあ、今回の話では二人は関係ないのでとりあえず置いておくとして」
いかんいかん、つい話が逸れてしまったが、今はハノイの塔とサイバース精霊界で起こった事件の関連性を伝える場だったな。
「んで、このリースなんだが、こいつがハノイの塔の計画を利用して悪さをしようとしていたから、それを止めるために俺はこいつとデュエルをしていたって訳」
俺は机の上に置いたリースのカードを爪でトントンと叩きながら話を続ける。
「精霊がLINKVRAINS上のデータを使って何かする事が出来るのか?」
「藤木はこの『星杯の妖精リース』がどういった背景のストーリーを持っているモンスターか知っているか?」
「いや」
「ならそこからだな。掻い摘んで話すと、こいつはこのカードの中ではまるでこれまで一般人として過ごしてきた少女に魔法少女となる力を授けるマスコットの様な見た目をしているが、本当は自分が神の力を手に入れようとしている黒幕なんだ」
「?」
「……ここは前提知識と言うか、余談だからそんなに気にしなくていいや」
聖遺物世界の盛大なネタバラシをする俺だが、どうやら話の展開が急すぎて遊作は付いていけていない様子。
「まるで最近流行りの鬱系魔法少女物みたいな展開だな」
「草薙さん!?」
草薙さん!?
「ま、まあ、ストーリー上このリースと言う存在はとんでもなく悪い奴って事」
あまりにも理解が早い草薙さんに思わず動揺してしまったが、俺はなんとか話を続ける事にする。
「大事なのはこの妖精リースの前世というか、正体が科学技術が発達した世界で情報工学の権威だったという事だ」
「ほー、デュエルモンスターズのカードにはそんな背景があるのか」
「ええ、思いもよらないカードと意外な繋がりがあったりして調べてみると面白いですよ」
草薙さんの疑問に雑談で返すものの、この世界では公式の設定資料集とも言えるザ・ヴァリュアブル・ブックを見た事がないからもしかすると調べるのは結構大変かもしれないな。
まあ、色んな人がいるからネットで調べれば物好きが考察サイトでも出している事だろう。
しかし、カードの精霊の性格は背景ストーリーに囚われないとばかり思っていたが、リースは知っている通りというか、思った通りの精霊だったなぁ。
「情報工学の権威……という事はハッキングなどの知識に精通しているという事か」
遊作が正解を答える。
「そう。精霊の中にはそのストーリー上の役割や技能を通して俺達が住む人間界に干渉することが出来る奴がいる。リースもその一人で、奴はその知識と技術でハノイの塔のプログラムに介入して自身の目的を果たそうとしていた」
「じゃあ、あそこの二人もその自前の技術とやらでこの世界に居ることが出来てるっていうのか?」
「そうですね」
俺の話から横に置かれたからか今度はCafé Nagi本体の写真を撮るためにいつの間にか席から離れていたEvil★Twinの二人に草薙さんは目をやる。
二人は持ち前のスキル(怪盗)で大企業からサイバース族に(本人達は悪魔族だが)親和性のあるAIアンドロイドの筐体をかっぱらって来た訳だから間違いではない。うん。
「リースは何が目的だったんだ?」
「これは奴自身が語った事だが、文字通りLINKVRAINSという世界を一つ壊すほどのハノイの塔のエネルギーを奪おうとしていた。まあ、そのエネルギーを使って何をするつもりだったのかは今となっては分からないけど、世界の役に立つことだったとは思えないね」
思い返してみれば、リースはハノイの塔のエネルギーの莫大さしか話していなかったな。だが、何をどう考えても良くないことに使おうとしていただろうけど。
「そして二つ目の質問。あのサイバース族のモンスターに関してだが、あれは言ってしまえば諸悪の根源たるリースを倒すため、世界を救うために神になった主人公かな」
「それもデュエルモンスターズのストーリーか?」
「そういう事。その神様が俺を手伝ってくれた理由は相手がリースだったからと言うのもあるんだろうけど、一番の理由は精霊界が脅かされていたからだろうね」
「精霊界?」
おっと、つい当たり前の様に精霊界という言葉を使ってしまったが、この世界ではカードの精霊に対する認識が薄いから知らないか。
「大事にされたカードにはカードの精霊が宿るっていうのは子供でも知ってる御伽噺だけど、デュエリストの前に現れる前の精霊が何処に居ると思う?」
「それが精霊界か」
「そうそう。それでまあ、サイバース族を含めた科学技術に親和性があるいくつかのモンスターが集まったサイバース精霊界って場所があるんだけど……」
「まるで見て来たかのようだな」
「まあ、実際に見て来ましたから」
「もう何でもありだな……実は君もカードの精霊なんじゃないか?」
そうかな……そうかも……(錯乱)
草薙さんは冗談のつもりで言ったんだろうけど我ながらそうとしか思えない様な話しかしていないので否定もしづらい。
「こほん。リースはその精霊界に住む精霊を片っ端からデータ化してハノイの塔のデータの一部にしてたんだ」
「! そういえば、ある瞬間にハノイの塔の完成度が一気に進んだ時があった」
「ああ、多分その時だ。リースが精霊たちをデータ化してハノイの塔の一部にしやがったのは」
俺はネットのライブ配信でハノイの塔事件を見ているだけだったからその瞬間を見ることが出来ずに後から違和感として気が付いたが、事件の初期からLINKVRAINSにログインしていた遊作はその瞬間も認識していたらしい。
「そうか、だとすれば納得がいくことがある。あの巨大なサイバース族のモンスターが現れた後、ハノイの塔の完成度が巻き戻されていたのは……」
「俺がリースとのデュエルに勝って、精霊達をハノイの塔から解放したから、だな」
「そうだったのか……」
疑問が一つ解消したからか、遊作の表情は幾分かすっきりしたものとなっている。
「あの神様、『双星神 a-vida』はストーリー上の宿敵との対戦、精霊界の危機という理由があったから俺のデッキに現れたんだろう、と今では分かるよ。あれ以来俺のデッキにa-vidaは居なくなったからね」
リンクモンスターが幅を利かせているこの世界ならa-vidaは強力なメタカードとして非常に有用だと思う遊戯王プレイヤーとしての俺と、どう考えてもヤバイパワーを持っているカードを使うのは怖いと考えるこの世界に住む俺のせめぎ合いが無かったわけではないが、今も手元に居てくれないというのは多少なりとも関りがあったカードと言う事で少し寂しく思ってしまうな。
「これが二つ目の質問の答え。俺がサイバース族のモンスターを使っていた理由だな」
「「……」」
沢山話をして乾いた喉を草薙さんが淹れてくれたコーヒーで潤す。
聞きたかった話とは全く違う方面で意味不明な情報を投げつけられた遊作と草薙さんは呆気を取られていたようだが、すぐに再起動する。
「話してくれてありがとう。知りたかった情報ではなかったが、分かった事もあった。裏で世良が戦ってくれたおかげで俺達は知らないうちに助けられていたんだな」
「ハノイの塔の事? まあ、それに関しては……礼は要らないかな」
ギルスがしっかり全部説明してくれていたならミドラーシュの力を借りてさっさとリースに対処する事が出来たのだが、その事に気が付かず遊作とLINKVRAINSを危機に陥れていたのだから少し気まずい。
「これで俺が話せることは全部話したな」
そう言ってから机の上に置いていたスクリューダウンに封印されたリースのカードを手に取り、話しているうちにいつの間に陽が傾いてきたために最初の位置から少し横にずれていた俺の影に落としてミドラーシュに受け取ってもらう。
「!!」
「!? そう言えばそれ! それは一体どういう仕組みなんだ! 手品か何かか!?」
「え? ああ、そうだった」
普段だったら人に見られない様にしていた所だが、精霊に関して暴露した後だからつい何も考えずに適当にミドラーシュに渡してしまった。
「ここに居るのはミドラーシュ。俺の相棒さ」
腰のデッキケースのエクストラデッキから『エルシャドール・ミドラーシュ』のカードを取り出して二人に見せる。それに合わせてか、椅子に座っている俺を映した影が、俺自身は動いていないにも関わらず独でに立ち上がりお辞儀をしている。
どうやら二人に挨拶をしているらしい。
「か、影がッ!?」
「これも精霊の力なのか」
「そうだね。正確にはちょっと違うんだけど、シャドールモンスターは影に由来する様なモンスターだからこうやって俺の影を通して人間界に干渉できるんだ」
めっちゃビビり散らかしている草薙さんに対して遊作は冷静に見ている。
そんな時、ふと俺はEvil★Twinの為に出してもらったコーヒーがそのまま残されていることを思い出したのでそのうちの一つを手に持って自分の影の上に置く。
するとカップはそのまま俺の影に飲み込まれるようにして沈んでいく。
「え、えぇ……」
「最早驚く事にも疲れたな」
今まで見た事がない遊作の呆れた表情も見ることが出来たし、そろそろお暇させて貰おうかな。
『苦……甘……』
「あら? ブラックは苦手だったのか?」
「? 誰と話しているんだ?」
「ああいや、どうもブラックコーヒーは少し苦手だった様で」
俺の影を通したミドラーシュの動きは遊作と草薙さんにも見ることが出来るが、精霊であるミドラーシュそのものの声はやはり二人には聞こえていない。
返却されたカップの中身は空であり、何だかんだ言いながらもしっかり完食してくれるあたり良い子である。
最後のコーヒーを俺が飲み干した後、必要な写真を撮り終わって本気で暇をし始めたキスキルとリィラを呼び戻してから家に帰る事にした。
playmakerの正体については誰にも話さないことを告げてからCafé Nagiを離れる。
少しだけ、この世界の主人公たる遊作とその相棒である草薙さんとのつながりが増えたわけだが、この先起こるであろう事件で俺が関わるようなことにはならないだろう。
何故かって?
この世界はカードの精霊に関する事件が全く起きない科学技術全盛の世界だからだ。俺みたいなオカルト人間はお呼びではないのである。
「何だか突拍子のない話だったな、遊作」
「ああ。あの事件で気になっていた疑問の一つがこれで解けた。だが、あのサイバース族のモンスターはリボルバーにも見えていたはずだ。もしかしたら、世良もハノイの騎士に狙われるかもしれない」
「そうだな。でも大丈夫だろう。彼には何だかよく分からないが心強い味方が沢山居るみたいだし」
「……ふっ。そうかもしれないな」
ドドドドドドドド
「「?」」
「あった! Café Nagiだ! ここにさっきまでLive☆Twinの二人が居たはずだ!」
「すみません! 少し前に二人組の女の子がこの店に来たと思うんですけど、同じものを下さい!」
「俺にも!」
「僕にも!」
「拙者にも!」
「な、なんだ? 一体何が起きているんだ?」
「Live☆Twin…………草薙さん、おそらくこれのせいだな」←会話内容からLive☆TwinのSNSアカウントの万バズ投稿を探し出して草薙さんに見せる遊作
「な、なんだこりゃ!?」
『「苦」いけど……(-"-)』
『「甘」い物とすごく合いそう!(*'▽')』