遊作と草薙さんとのお茶会から早数日。
彼らとの関係が深まったからと言って俺の生活にはこれと言った変化は特には無い。強いて言えば遊作と廊下ですれ違ったときに「よっ」「おう」くらいの挨拶を交わすようになったり、今でも時々ホットドッグを買いに行くCafé Nagiでホットドッグを受け取るときに草薙さんが声を掛けてくれるようになったくらいだろうか。
LINKVRAINSはまだ閉鎖中のため、放課後の暇を潰す選択肢がカードショップを冷やかしに行くくらいしか無いのが最近の悩みである。
という訳で、今日も今日とて行きつけのカードショップでほぼ毎日カードの内容が変わっているような気がするストレージボックスを漁っているのである。
「うーん……ん? お、『神騎セイントレア』か。エクシーズ素材を使ってバトルした相手モンスターを手札に戻す効果。しかも、セイントレア自身はエクシーズ素材を持っていれば戦闘破壊されないから相手だけを処理できる良いカードだ」
俺が使うデッキでランク2が立つ、つまり、レベル2モンスターを中心とした物はないのだが、こういう汎用モンスターはいずれ役に立つもんだ。
それに、このカードは戦闘破壊されないという事でレベル2モンスターが主体となったデッキで『
「なんでストレージに入ってるんだ? 確かちゃんと値段が付くカードだったと思うんだけど……こりゃ買いだな。これだからストレージ漁りはやめられない」
アーゼウス……良いよなぁ……後攻の捲り札として超強いし。
まあ、俺アーゼウス持ってないんですけどね。
『トロイメア・ユニコーン』もそうだけど、一枚3000円は高ぇわ……。
そりゃ買えなくはないけども学生がおいそれと手を出せる値段ではない。こちとら学生なので、カードを買う以外にもお金は必要なのだ。友人と遊んだり……遊んだり? あれ? 言うほど友人とどっか行ったりしてないな? もしかして俺って友達少ない……? いやいや、ジャンクフードだって食いたいし、ドラメ喫茶にも行きたいし……って、あれれ? なんか飯ばっかりだな? あれれれれれ???
「……まあいいや。アーゼウスの事を考えると『ダウナード・マジシャン』も欲しい所だが、これも確か結構良い値段してたはずなんだよなぁ」
ダウナードもアーゼウス関連で使えるカードという事で結構良い値段をする。ショーケースで飾られててもおかしくない位の値段だったはずである。
まあ、アーゼウス持ってないから結局俺には関係ないんですけどね。
「ん?」
そんな感じで時間を忘れてカードを漁っていると、ポケットに入れていたスマホが震えだす。誰だろうか?
そう思いながらスマホを取り出して通知を見てみると、知らないメアドからのメールだった。
「んー?」
ネットリテラシー100点満点だと自覚している俺は通常だったら見知らぬメアドからのメールを開くなんて事はしない。だが、通知欄から見えたメールの概要は凄く見覚えのある物だった。
Title:
新しい動画が投稿されました
From:
Live☆Twinチャンネル
本文:
URL→ttps://www.db.yugioh-card.com/yugiohdb/card_search.action?ope=2&cid=16251
「お、新着動画か」
それはキスキルとリィラが精霊界でバーチャル配信者として投稿している新着動画の通知だ。以前もこんな感じで知らないメアドからメールが来ていた。
また、最近彼女たちは人間界の動画投稿サイトでも活動しており、そっちのチャンネルもしっかり通知をオンにして登録しているので新着動画が出ればメールで通知が来るようになっている。そっちのチャンネルで動画が投稿されれば俺も知っているメアドで通知が来るはずなので、今回の新着動画通知メールは精霊界の方のチャンネルだという事が分かる。
それにしても、精霊界の方のチャンネルの更新は久しぶりではないだろうか? 彼女達はずっと人間界に居る訳では無いとはいえ、こっちの世界で何やら色々と楽しんでいる様子なので、凝った編集を入れて動画を投稿する時間は中々捻出出来なさそうだった。
「今回はなんだろうな。案外人間界の旅行記動画みたいな感じだったりするかも。精霊から見た人間界の話か……面白そうだ」
少し気になるのは前回は投稿された動画の説明文が一緒に載せられていたはずだが、今回はURLしか記入されていない様だ。
どちらにしても今は出先だ。家に帰ってから楽しませてもらう事にしよう。
☆
カードショップで清算を済ませた後、何事も無く家に着き、夕飯を食べて、風呂に入ったらさぁ勉強……とはならない。
今日はLive☆Twinの新着動画を観るのだ。動画一本分だけなら対して時間は取られないが、動画を一本観たらオススメ欄に表示されている別の動画に手が伸びてしまうのは自明の理というやつではないだろうか。
精霊界の動画チャンネルで動画を投稿しているのは彼女達だけではない。他にも沢山の精霊界のクリエイター達が鎬を削っている場なのである。
「あ~時間がいくらあっても足りねぇなぁ~」
これから始まる世界一楽しい時間の無駄遣いの事を考えながら慣れた手つきで隠しリンクをコピーしてから手打ちで修正しながらブラウザに入力する。
「!?」
エンターキーを押した瞬間、パソコンのモニターから異様な光が発せられ、部屋一面を照らし出す。
眩い光に目が潰されると思い、反射で瞼を閉じる。それに加えて思わず腕を顔の前に出して防御姿勢を取ってしまうが、結局はモニターが光っただけなので衝撃がやって来るとか、そういった事は起こらなかった。
「………………?」
未だモニターが輝き続けていないことを確認しながらゆっくりと瞼を開く。
「な、な……なぁ!?!?!?」
そこで俺の瞳が映し出したものは見慣れた部屋の景色ではなく、天を衝くかのような高いビル群、光り輝くネオンに読めない文字、Live☆Twinの二人が広告塔を務める商品広告。そして、どこかで見た事があったり、見た事も無い姿をした精霊達。
「サイバース……精霊界……?」
まさしくここは何度かマスカレーナに連れて来てもらったデュエルモンスターズの精霊達が住む世界だった。
「なんで……それにこれは……」
サイバース精霊界はLINKVRAINSと表裏一体の世界。ここに来るためにはLINKVRAINSにログインしたうえでマスカレーナに導いてもらう必要があるはずだった。しかし、今の俺はLINKVRAINSで活動するときのアバターの姿ではなく、俺自身の身体であった。
手を握って開いてみたり、顔を触ってみたり、その場で足踏みをしてみたりするものの、アバターの時の小さな違和感が全くない。鏡を見て確かめた訳ではないが、顔も毎朝見るそれと全く同じ事だろう。
「……なあ、ミドラーシュ。一体何が起こったんだ?」
その場でしゃがみ込んだ俺は自分の影に居るはずの彼女に声を掛けてみる。どうやらこの世界はいつ来ても真夜中のようだが、眩いネオンの明かりのお陰でこの場所は昼の様に明るい。
そのため、夜中でも問題なく影が出来ている。
「ミドラーシュでも分からないか……」
ネオンに映し出された俺の影は首を傾げている。
どうやら彼女にも今起こった事の原因は不明らしい。
「じゃあ、お前の力で人間界に帰れないかな?」
今度は首を横に振る。それは出来ないらしい。
ミドラーシュは精霊として大きな力を持っているのは確かなはずだが、流石にサイバース精霊界はお門違いと言う事だろうか?
「さて、どうしたもんかな……」
幸いこの世界には知り合いが三人も居る。マスカレーナ、キスキル、リィラ。彼女たちの誰かに接触出来れば人間界に帰る手掛かりも掴めるはずだ。俺がこの世界に飛ばされた時、三人とも人間界には来ていなかったのでこの世界に居るはずだ。
「とりあえず、最初にキスキルとリィラに出会ったあのバーに行ってみるか?」
マスカレーナに連れて行ってもらった時の事を思い出して何とか一人で行ってみようと思うものの、この街は辺り一面背が高いビルが生えているビルの森とも言える場所である。中々これと言った分かりやすいランドマークが無く、難儀しそうだ。
「うーん……小夜丸がそこら辺を歩いてくれていたら道を聞けそうなものなんだが……」
俺はあの人の好さそうな精霊の少女の事を思い浮かべるが、残念ながらそう都合良く現れるという事は無かった。
「おい」
「ん?」
それは正面から歩いて来た男の声だった。
この世界で男の知り合いは居ないし、その男を見ても俺の記憶には無い顔だった。サイバース精霊界に居るという事はこの男も精霊なのだろう。
人違いならぬ、精霊違いである事も考えたが、目の前の男はどう見ても俺に話しかけている。
「一緒に来てもらおうか」
「はぁ?」
てっきりデュエルでも仕掛けられるかと思ったが、どういう訳か相手は同行を求めて来た。
「お前何を……ッ」
気が付いたら俺は十人くらいの男たちに囲まれていた。
見ると皆顔にデフォルメした稲妻を模したような片眼鏡? を付けている。同じ意匠の装備をしているという事は何らかの組織か団体に属している精霊という事か?
残念ながら俺の頭の中のカードプールにそんなモンスターは存在しない。ティアラメンツの三人娘の様に俺の知らないテーマモンスターか?
「抵抗はしない方が身のためだぞ。すまないが、サニー様の計画の為だ」
「サニー……?」
やはり聞いた事のない名前だ。
「サニー様と言え! サニー様と!」
「貴様! サニー様を呼び捨てにするとは許さんぞ!」
「サニー様!! はい!! リピート、アフター、ミー!!」
「ひえっ」
なんだこいつら……こわぁ……。
どうやらこの男たちはそのサニーとやらに随分心酔している様だ。
でもなんだろうか……怖いんだけど、この男たちから感じる怖さはヤクザに絡まれた時の様なそれではなく、厄介なオタクに囲まれた時のそれの様な……。
「まあ、待て。お前達」
「隊長!」
「隊長!」
「彼はサニー様を知らないのだから仕方がない。それに、価値観の押し付けは良くない」
周りの男達から隊長と呼ばれた男が俺の前に出てくる。
他の男たちと比べて一際存在感がある隊長と呼ばれた男はゆっくりと俺に近づき、肩を組めるくらいの距離まで来る。
「こう言うのはゆっくり、じっくり、確実に、沼に引き込むんだよ。少年、これは君へのプレゼントだ」
そう言って隊長と呼ばれた男は一枚の写真を懐から取り出して俺に渡してくる。
「そ、それは!?」
「貴重なサニー様のお昼寝ブロマイド!?」
「ま、まさか……新規ファン獲得の為に隊長はそこまで!?」
そこに写っていたのは金髪ドリルツインテールの少女がよだれを垂らしながらソファで眠っている様子だった。服がはだけてへそが見えてしまっている。
「な? 良いだろ?」
「あ、はい」
俺は謎のオタク集団に襲撃を受けていた。
『お友達のお友達の仕業でしょ?(’Д・)』←首を傾げている