怪しいオタクたちにホイホイとついて行った俺であるが、何も考えなしに行動している訳ではない。
俺を連れて行こうとしていた男の一人が言った「サニー様の計画」という言葉。それが正しいのであれば俺がこのサイバース世界に連れてこられたのもサニー様とやらの計画の一環だと思われる。であるならば、サニーに会って話をする事が出来れば逆に人間界に帰る方法が分かるかるかもしれないのだ。
決して、隊長と呼ばれた男がくれたブロマイドに映った少女がかわいくて気になったからついて行く事にした訳ではない。これは本当である。
それはそれとして「一目くらいは見ておくか」と、思ったこともまた嘘ではないと言っておく。
それに、万が一危険な目にあった時は恥も外聞も無くミドラーシュに泣きつく覚悟が出来ているので心配する事は何も無いのである。
「ここだ。ついて来い」
「へいへい」
連れてこられたのは何の変哲もないビル。周囲を見渡しても似たようなビルばかりなので、俺だけでもう一度ここへ来いと言われても恐らく無理だろう。
目的地は上層階らしくエレベーターに乗り込む事になるのだが、一般的なオフィスビルのエレベーターくらいの広さしかないのに謎のオタク十人くらいと一緒に乗るのはいろんな意味できつい。
出来れば今後二度と経験したくない事ランキングのトップ10入りを果たしたな……なんて事を考えていると、目的地の階層へと到着した。
エレベーターを出て、薄暗い通路をまっすぐ歩いていくと、一転して沢山のライトで光源が確保された大きな部屋へと辿り着く。
「ここは……?」
「はーっはっはー! よく来たわね、人間! ようこそ、サニー団本部へ!」
部屋の奥にあるステージの様に一段高くなったお立ち台の上で胸を張ってこちらに声を掛けてくる少女が居た。それは先ほど渡されたブロマイドに写っていた金髪ドリルツインテールの少女、オタク集団がサニー様と呼ぶその人だ。
サニーの横には長身で褐色肌の女性が側仕えの様に控えているが、もしかして彼女もこのオタク達と同じようなサニー様万歳な人なのだろうか?
鋭めの眼差しはここに居る全員(サニー様含め)と比べて知性を感じるが、人は見かけによらないという事だろう……。
「早速だけど、アンタにはEvil★Twinのアホ共をギャフンを言わせるための人質になって貰うわ!」
「Evil★Twinに対する人質? 俺が?」
サニーは俺をここに連れて来た理由らしい事を話しているが、余りにも内容が抽象的過ぎて具体的にどうしたいのかがいまいち分からない。彼女たちに何か恨みでもあるのだろうか? まあ、キスキルとリィラは怪盗をやっている訳だし、色んな奴らから恨みを買っていそうではあるな。
「ええ、あなたがあの二人と親しい関係にある事は調べが付いています」
俺の質問に答えたのは長身褐色の女性だった。手元のタブレット端末に目を向けながら話している事から察するに、俺の情報でも載っているのだろうか?
「えーっと……」
「ルーナ様だ。彼女はサニー様のお目付け役を務めていらっしゃる」
しかし、俺は彼女の名前を知らなかったので返答に困っていると、オタク集団の隊長が音もなく近づいてきてそう耳打ちで補足してくれた。
お前……仕事が出来るってよく言われるだろ?
と、まあそんな事は今はどうでもよくて、あの女性の名前はルーナと言うらしい。しかし、サニーのお目付け役という事は、彼女は普段から色々と迷惑なことをやらかしているのだろうか?
結構苦労してそうである。
「そりゃまあ、二人は友達だけど……俺を人質にして二人を呼び出したとして、その後どうやってキスキルとリィラの二人をギャフンと言わせるつもりなんだ? あの二人は結構な曲者だぞ?」
「え? それは、その~……」
「少年」
「世良だ」
俺の問いに対して明らかに目が泳ぎまくってるサニーを庇う為か、ルーナが話に割り込んでくる。名前までは調べていなかったのかは知らないが、人間やら少年やらと呼ばれるのは嫌なので名前を伝えておくことにする。
「世良少年、あまりサニー様をなめるのはやめなさい。サニー様には私達では思いもつかない様な、海よりも深いお考えがあるのです」
「そ、そうよ!」
「で、サニー様。それは具体的にはどのようなお考えなのですか?」
「……」
あれ? あのルーナって姉ちゃん、意外と愉快な性格をしているのかもしれない。
味方だと思っていたルーナに突然裏切られ、サニーの(多分何も考えていない)考えを聞かれて愕然とした表情をしている。
そんなサニーの様子をオタク集団たちは見逃すはずもなく、各々どこからか取り出したカメラでシャッターを鳴らさずに撮りまくっている。
「ん-、まあこの際キスキルとリィラをどうしたいのかはいい。お前たちはどこで俺の情報を知ったんだ?」
「ああ、その事? アンタ、このEden Cityで一部の連中から賞金首扱いされてるわよ」
「は?」
は?
え?
いや、まったく心当たりがないんだが。
第一俺はこのサイバース精霊界、別名Eden Cityでは精々観光程度しかしておらず、何かをやらかす暇も無かった。
そりゃサイバース精霊界での友人たちは宝石なんかのカワイイ物を盗む怪盗コンビとか様々なデータを盗み届ける「運び屋」を営んでいる奴とか、悪そうな奴は大体友達~みたいなノリだが俺は何もやってないんだが!?
あ、いや、この世界で警察みたいな役回りをしてそうな小夜丸をほんのちょっぴりだまくらかしはしたな。
「ま! 私はあいつらの依頼を聞くような義理は無いから話だけ聞いてアンタの情報だけ貰ったのだけど、聞いてビックリ! あのEvil★Twinの二人と繋がりがあるって話じゃない!」
「その情報を元に、ルーナ様は世良少年を人質にしてEvil★Twinを誘き出す作戦を立てたのです」
なるほどね……。
一体どこの誰が俺を狙っているのかは分からないが、二人に俺の事を伝えた奴が居るという事は分かった。
……ていうか……
「なあ、俺は裏社会とかそういうのには余り詳しくないんだが、そういう依頼があった時に、その依頼の情報を得たうえで依頼を無視するのってマズイじゃないの? 知らんけど」
「え? いやいやいや。そんな訳ないじゃない。ねえ、ルーナ?」
「……」
「えっ! 嘘! もしかして私やばい事しちゃった!?」
「ふふっ。大丈夫ですよ、サニー様。私たちはサイバース族ではありませんからあの依頼を強制される謂れはありません。知らんけど」
「知らんけど!? 今あなた知らんけどって言った!! ねぇ! 本当に大丈夫なんでしょうね!」
涙目になりながらルーナに縋り付いているサニーだが、ルーナの方は明らかに笑いをこらえている表情をしているのでわざとやっているのだと分かる。
そして、当然そんなシャッターチャンスを逃すはずもないオタク集団たちは再びカメラを構えている。
なんだこの空間?
「しかし、サイバース族が動員されている……か」
なんだか嫌な予感がする。
サイバース族はイグニスが作り出した新しい種族だ。そんな種族の精霊達を強制で動員できる存在……イグニスが直接精霊界に関与しに来ているとは考えにくいが、あいつらに近しい精霊の誰かが関わっているというのはあり得る……のか?
だとしても俺を狙う理由が分からん。
「そうよ! Evil★Twinの二人を誘き出して目的を達成した後にあいつらに引き渡しちゃえば良いのよ! 私ったら天才ね!」
「結局あいつらの言う事を聞くんですか、サニー様?」
「うぐ……」
さも名案を思い付いたかの様子でドヤ顔でそう言うサニーだが、ルーナの発言によってそれでは意気揚々と依頼を無視すると言い放ったさっきの言葉と矛盾してしまう事に気が付いたのか、そのドヤ顔は一瞬でぐぬぬ顔へと移行する。
当然このダブルシャッターチャンスを逃すわけがないオタク集団達はカメラのシャッターを高速で切りまくっている。
もう帰ってもいいかな?
「なあ、もう帰っていいか?」
「良い分け無いでしょ! アンタは人質なんだから!」
どうやらダメらしい。
ていうか、帰ると言っても帰り方が分からないのだが……って、あ。
「そう言えば、俺をこの世界に呼んだのはサニー……様達なのか?」
俺がサニーを呼び捨てにしそうになった瞬間後ろに控えたオタク集団から殺意を感じたので急いで取り繕う。
「ん? そうよ! ルーナの手に掛かれば人間一人を精霊界に連れ込む事なんてよゆーなんだから!」
「あんなに分かりやすい怪しいメールのURLを疑いも無くクリックする単純な人でしたのでよゆーでした」
「うぐぅ……」
ルーナの発言に思わず俺もぐぬぬ顔をしてしまう。
やはりあのLive☆Twinの新着動画通知のメールはこいつらが送り付けて来た偽物だったか。しかし、マスカレーナでさえLINKVRAINSという中間地点を通してでしか人間を精霊界に連れ込むことが出来ないというのに、あの彼女は人間を直接精霊界に連れ込む力を持っているのか……。ここから見る二人はギャグをやっているおもしろコンビにしか見えないが、デュエルモンスターズのモンスターとして見ればぺルレイノから人間界に俺を送り届けてくれたルルカロス並みの力を持つというのか。
攻撃力3000くらいありそうだな。え? まじで? 自分で言っておいてなんだけどまじで?
……だが、これで人間界に帰る方法も分かった。なんとかしてルーナに俺を人間界に送り返してもらえばいい。
……どうやって? 推定攻撃力3000ありそうなルーナを攻略して言う事を聞かせる? うん、俺一人で出来るとは到底思えない。ミドラーシュに頼ろうにも彼女の攻撃力は2200なので推定攻撃力3000の彼女に仕掛けるのは危険だ。それに、ミドラーシュは効果破壊耐性こそ持っているが戦闘破壊耐性は持っていないのでそこも懸念点である。
そうなると攻略のカギは……
「ぷーくすくす……あの二人が慌てふためく顔が見られると思うと、今から楽しくなっちゃうわね!」
「で、どうやってギャフンと言わせるんですか?」
「……」
サニーだな。
分からないけど、サニーの攻撃力は300くらいしかなさそうだし、彼女を人質に取れればルーナに言う事を聞かせることも出来そうだ。
ルーナはサニーをからかって面白がるような様子を見せているが、ああいう人物は人間・精霊問わず意外とちゃんと相手の事を気に掛けているものだ。
よし、推定攻撃力300のサニーならミドラーシュが対応しれくれれば何とかなるはず。
そうと決まれば話は早い。
電光石火、疾風迅雷、紫電一閃。
ミドラーシュと息を合わせて一気にサニーを制圧する!
「行くぞ! ミドラーシュ!」
「ッ!」
「え!? 何!?」
俺は彼女とタイミングを合わせるために声を掛ける。
少しでも変な動きを見せれば即バレるこの状況。で、あるならばこちらの士気を高めて少しでも相手をビビらせられれば儲けものと言う思いで敢えて大声を挙げた。
サニーに近づくために力強く踏み込んだ一歩目。
「ん?」
「え?」
「おや?」
その時、俺の足元、正確にはこの部屋を満遍なく照らし出すライトによって作られた俺の影の上に丸くて、金属で、紫っぽくて、猫耳っぽい何かが付いてて、俺の良く知るどこかの誰かが人を小バカにする時にするのと同じような表情をくっつけた何かが転がった。
カッ!!
その瞬間、この部屋を明るく照らすライト以上の光が周囲を覆った。
『え!?えーっと、えーっと、これはつまり、そういうタイミングって事だよねっ!(っ'-')╮=͟͟͞͞ブォン』