科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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チャレンジ成功ッ!

 俺は思い出す。それはある日の昼下がりの事だった。

 

『良いですか、ミドラーシュさん? ラッセさんは何かと抜けている所があるので、もし私達が居ない時にラッセさんが危険な目にあった時はあなたが助けてあげるんですよ!』

「お前は俺のオカンか?」

 

 部屋でネットサーフィンをしていると、その日人間界に来ていたマスカレーナが俺の影の中に居るミドラーシュへと語りかけていた。

 彼女もマスカレーナの発言に同意しているのか、俺の影が首を縦に振って肯定を示している。

 大丈夫だから心配するなよと、確信を持って言えない辺り我が事ながら情けない。

 

『もちろん、ミドラーシュさんだけに負担はかけませんよ! えーっと……』

 

 そういうとマスカレーナは何かを探すようにポケットを漁りだす。

 

『てっててー! この秘密兵器をミドラーシュさんにさしあげます!』

「おい、今それどこから出した?」

 

 マスカレーナの服はピッチりとしたスパッツの様なスーツであり、今彼女が取り出したものの体積を考えると取り出す前はその部分がもっこりしていたはずだ。

 

『ラッセさん……余り女の子の秘密を探るようなことをしてはモテませんよ?』

「え? それって女の子の秘密なのか?」

 

 マスカレーナは呆れた表情をしながら俺を見て言う。

 女の子の秘密のカバー範囲広すぎるだろ。本当にそうなら俺は一生モテない気がする。

 

『もしラッセさんが危険な状況に陥った時は、ミドラーシュさんの判断でこれを使って下さい! 使い方はここにあるピンを抜いてから投げるだけですから、簡単ですよ!』

 

 マスカレーナは手に持った秘密兵器とやらの使い方をミドラーシュにレクチャーした後、それを俺の影の中へと落とした。

 

「おいおい、あんまり変な物入れるなよ」

『あの二人が使っているSOLtiSの保管場所にしているラッセさんに言われたくはありませんが?』

「痛い所を突くね、君」

 

 それは何の変哲もない日常の一幕。俺と精霊のいつものよくある光景。

 そう言えばマスカレーナはあの時秘密兵器の名前を言っていたな。確か……そうそう、あれは……

 

『この子の名前はグレニャード! かわいがってあげてくださいね?』

 

 

 ☆

 

 

 カッ!! 

 

 その瞬間、この部屋を明るく照らすライト以上の光が周囲を覆った。

 

「「「「「ぎゃあああああああああああ!!!!」」」」」

 

 そして、この部屋に居た全員の目が潰れた。

 

「目、目がぁ……」

 

 想定外の閃光攻撃。

 グレニャードが爆発した事による光はサニー団の面々だけではなく、すぐ近くに居た俺にも当然被害を与えていた。

 強烈な閃光によって視覚情報が何も得られなくなった中、唯一得られる音という情報で周囲の様子を伺ってみる。

 

「う、うごごご……」

「何も……見えん……」

「ルーナ……どこぉ?」

「ふふふ……私はこっちですよ?」

「え? こっち?」

「違いますよサニー様、こちらです」

「え!? さっきと違う方向じゃない!?」

「なんてことだ! ファインダーを覗いているはずなのに何も見えん!」

「くっ! サニー様とルーナ様の尊みがヤバ過ぎてカメラが壊れたか!」

 

 見えてはいないけど、恐らくこれは地獄絵図だな。

 ていうか、ルーナは実はこの状況で一人だけ見えてるんじゃないか? サニーが頭にひっかけているサングラスをあの一瞬で確保して一人だけ対閃光防御を施していたとしても俺は驚かないぞ。

 

「えーっと、何かしらこの状況?」

「何これ地獄?」

「ん? この声は……」

「しーっ! 静かに、助けに来てあげたわよ、ラッセ君? いや、今は世良君と呼ぶべきかしら?」

「君は本当に厄介ごとに巻き込まれるね」

 

 今まで聞かなかった新しい二人の人物の声。

 その声はここ最近よく聞くようになったため聞き間違えることは無い。

 キスキルとリィラだ。

 

「二人とも、助かる。ちょっと今まじで何も見えなくて歩く事すら覚束ないんだ」

 

 目が見えなくても歩くことは出来るだろって? 

 バカを言うな。何も見えない状況でよく知らない場所を歩こうものなら何かに足を引っかけて転ぶだろう。そうでなくとも、目を瞑った状態で歩くという行為は想像するよりもずっと恐怖感がある。

 この部屋は比較的広くて物が多いという訳では無かったが、周囲にはサニー団のオタク達が転がっているだろうし、サニーが立っていた場所の様な微妙な段差もいくつかあった。適当に歩けばそれはもう無様に転がりまわる事になるだろう。

 

「全く、仕方ないわね……よっと!」

「うわっ」

 

 尻を付いて座っている俺の背中と膝の裏を誰かの手が触れると、突然浮遊感を感じる。

 

「今日だけ特別よ」

「特等席、今日だけは貸してあげる」

「えーっと……それは……ありがとう?」

「ふふっ、何それ?」

 

 今の状況を推測するに、俺は所謂お姫様抱っこの状態でキスキルに抱えられているのだろうか? 

 カードの『Evil★Twins キスキル・リィラ』のイラストではキスキルがリィラをお姫様抱っこをしている様子が描かれていた。リィラが特等席と言っていた事を考えると、つまりはそういう事だろう。

 この状況は男としては恥ずかしい限りだが、SOLtiSの人工皮膚の感触とは違う実体のキスキルの手の感触はとても柔らかく、こんな時にもかかわらず俺はマスカレーナに手を引かれてサイバース精霊界を訪れた時の事を思い出していた。

 

「ああ! その声は! キスキルとリィラね! そこに居るんでしょ! 隠れるのはやめて出てきなさい!」

「サニー様? それはサニー様が見えていないだけで二人は普通にそこに居ますよ」

 

 やっぱりルーナ見えてるだろ? 

 しかし、この状況でEvil★Twinの二人を捕らえることを優先するのではなく、サニーをからかっているのを考えるに、彼女の『お目付け役』と言う役職は文字通りの物なのだろう。

 サニーの部下? 相棒? としてサニーの手伝いはするが、一線を超えない様に、コントロール不可能な状況になる前にサニーをそれとなく留める。

 ルーナにとって、本当の所はキスキルもリィラも俺もどうでも良いのかもしれない。それなら人間界へ送ってもらうように頼む難易度も幾らか下がる。

 

 だが、とりあえず今は態勢を整えるために一度この場から脱出するべきだろう。

 当初の目的だった知り合いとの合流を果たせたのだ。もしかしたら彼女達経由で人間界に戻る事が出来るかもしれないしな。

 

「さて、こんな所からはさっさとオサラバするわよ。下でマスカレーナも待機してるから」

「マスカレーナも来てくれたのか」

 

 キスキルから伝えられた朗報。

 どうやら彼女も俺の異変を悟って一緒に来てくれたらしい。

 

「それじゃ、ちょっと飛ぶからしっかり掴まってなさい!」

「え? 飛ぶって」

 

 この部屋に来るまで俺は結構長い間エレベーターの中に居た。それはつまり、この天を衝く程高いビルのかなり上の階に居るという訳だ。

 ここから脱出するために悠長にエレベーターを使って下るとは考えていなかったが……まさか……。

 

 あ、こんな時に視界が少し戻って来やがった……。

 

「えーい!」

「じゃーねー」

「うわあああああああああ!!」

 

 思わずキスキルの首に手を回すようにして彼女にしがみつく。

 高層ビルからの飛び降り。そこには安全ベルトも無ければバンジーの紐も無いし、飛込競技の様に下に水が有るわけでもない。まあ、この高さだと下に水が有ったとしても無事では済まないだろうが。

 

「ほらほら、こんな綺麗な景色は中々見れないわよ」

「絶景だね」

 

 俺を抱えたキスキルと一人で飛ぶリィラは彼女達が持つ腰から生えた羽を大きく広げて摩天楼の夜空をゆっくりと滑空していく。その飛行には全くブレが無く、落ちてしまうんじゃないかと言う心配は全く必要なさそうだ。

 

「お、おう……」

 

 だが、それはそれとして俺に周りの景色を楽しむ余裕は全くなかった。

 お恥ずかしながら高層ビルから飛び降りる経験は無いもので。

 

「あ、ほら。あそこにマスカレーナが居るよ」

 

 ゆっくりと滑空しながら下降する事で地表がはっきりと見えるようになって来た。そこには大型のバイクにまたがってこちらに向かって手を振っているマスカレーナの姿があった。だが、その姿はいつもの恰好ではなく、ライダースーツとしての機能を優先した服装をしている。

 トレードマークのローラースケートはバイクの運転に邪魔になるからだろうか、今はブーツを履いている。

 

「おーい! ラッセさーん! ご無事ですかー!」

「ああ、何とかね。二人に助けて貰わなかったら今頃地獄みたいな空間でオタク達と一緒に芋虫みたいに這いつくばってるところだったよ」

「? どういう状況ですかそれ?」

「あーね」

「あーね」

「何で二人は今の発言で納得してるんですか!?」

 

 キスキルが地表に降り立つと、抱えていた俺をそのままマスカレーナが跨る大型のバイクの後部座席へと座らせた。

 

「それじゃ、後は頼んだわよ?」

「面倒な奴らは私たちがあしらっておくから」

「はい! 集合場所はいつもの所で良いですよね?」

「おーきー」

「どーきー」

 

 マスカレーナの発言を聞いたキスキルとリィラは気軽に返事をしながら先ほど俺達が居たビルの方へと再び飛んで行く。おそらくサニー団の連中を足止めしてくれるのだろう。

 

「それじゃあラッセさん、これから最高速で行くんでしっかり掴まっててくださいよ?」

「おう。でも出来れば安全運転でお願いしたいんだが?」

「あ、そう言えばグレニャードは役に立ちましたか?」

「あれ? 話を逸らされた? うーん、まあ役に立ったと言えば立った……のか? あれのせいでえらい目に遭ったんだが?」

「そうですか? それなら良かったです! 威力は十分な程に詰め込みましたからね!」

「いや、十二分過ぎるくらいだったが? あんな威力護身用として必要ないだろう?」

「さあ、ラッセさん! 行きますよー!」

「おい、都合の悪い部分で話を逸ら……うわああああああ!!!!」

 

 俺はその日、二度目の絶叫マシンを体験する羽目になったのは言うまでも無い事だろう。

 

 何はともあれ、俺はサニー団とかいうめんどくさそうな連中から逃げおおせる事が出来たのだった。




以上、第三部第一章トラブル・サニー編でした。
囚われの姫は主人公だったのさ!

第二章が書き終わったらまたまとめて投稿します。
構想完成度は……つきたての餅で餅カエルの下の段のカエルの足を形成している位ですのでお察し。




『ぎょわあああああ!!!!⊂⌒~⊃>Д<)⊃』←グレニャード爆発後
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