科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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光属性サイバース族

 マスカレーナが操る大型バイクの後部座席で風になった俺は目的地へ到着してバイクが止まっていることにも気が付かない程のグロッキー状態だった。

 バイクから振り落とされないように必死でしがみ付くために彼女のお腹に回した手はそのままの状態だった。

 

「お客さーん、もう終点ですよー。起きてくださーい」

「…………はっ」

 

 遊園地に行ったら決して絶叫マシーンには乗らないと決めている俺なのだが、今日一日だけで紐無しバンジーと安全バー無しのジェットコースターを体験した様なものなので本当に辛い。

 キスキルに抱え上げられた時はまだ彼女の手の柔らかさを認識するくらいの余裕はあったのに、それ以降はもうまじで「無」である。口の中が何となく酸っぱい気がするのは知らない間に胃液が少し逆流して来たからだろう。彼女たちの傍でゲロらなかった自分を盛大に褒めてやりたいところだ。

 ただでさえ囚われの姫のようなシチュエーションで救出されたというのにその上ゲロイン属性まで要らないのである。

 ん? 男の場合はヒーローだからゲーロー? それは最早ただのゲロなんよ。

 

「ありがとう……でももうマスカレーナの運転するバイクに乗るのは遠慮しておくよ……」

「えー! なんでですか! 今日走ったコースなんてまだまだ序の口ですよ! 私が本気を出したら飛んだり跳ねたりローリングしたりとそれはもう凄いんです!」

「うっ……想像しただけで吐きそう」

「ひ弱ですねぇ~」

 

 バイクから降りてようやく地面に足をつける事が出来た俺はその安定感に深い感動を覚えていた。

 かなりのスピードを出したバイクを操縦しながらデュエルを行うライディングデュエルは憧れの対象ではあるが、俺には出来そうにないな。

 LINK VRAINSなら自分の身体ではなくアバターを使う事が出来るのでスピードデュエルなら出来るだろうか? だけど、こういうのは本人の意識の問題も大きそうだ。どちらにしてもDボードの上でバランスを取りながらデュエルをするのは滅茶苦茶大変なのは間違いないだろう。

 

「それで、ここは一体どこなんだ?」

「ここは私が使ってる拠点の一つです。テレビとソファとベッドと中身が詰まってる冷蔵庫とお風呂くらいしかありませんがゆっくりしていって下さいね?」

「うん、何の不自由も無く暮らせるな」

 

 エンジンを切ったバイクを手で押すマスカレーナはガレージの中に入ると、そこから建物の中に入れるドアを開けて案内してくれる。

 マスカレーナの趣味が出てそうな小物は全くないが、彼女の言う通り生活するのに必要なものは一通り揃った部屋の様だ。

 

「キスキル達にはいつもの場所と言っていたからてっきり例のバーにでも行くものかと思ってたけど?」

「あれはただの符丁ですよ。以前ラッセさんを連れて行ったバーで私達がちょくちょく顔を合わせている事は知っている人は知っていますからね。どこで誰が聞いて居るかも分からない状況でしたのでああ言いましたが集合場所はあらかじめ決めておいたのです」

「ほー。そういう所は流石お尋ね者だな。抜かりが無い」

「まあ、今はラッセさんの方がよっぽどお尋ね者ですけどねぇ」

 

 そう言えばそうだった……。

 折角忘れていたのに……いやまあ、俺が忘れた所でこの世界で俺が賞金首扱いされていると言う事実は変わらないのでただの現実逃避でしかないのだが。

 

「一体何をやらかしたんですか?」

「何もやらかしていないが? そうだな、怪しい所はサイバース族が俺の確保に動員されて、いる……って事……」

「? どうしたんですか、ラッセさん?」

 

 そう言えばマスカレーナもサイバース族だな。

 

「お前は俺の事を捕まえようとしないのか?」

「え? 私がですか? そりゃラッセさんが指名手配されているという情報は知っていますが、私がそれに従う理由は無いですね。もしかして、私を疑っているんですか?」

「疑いたくは無いな」

「私がラッセさんを捕まえるんだったらバイクの後ろでへばってる内にお持ち帰りしちゃいますね~」

「まあそうなるよな」

 

 チャンスは幾らでもあった。キスキル、リィラやマスカレーナがその気だったのならもうとっくに俺を捕まえようとしている連中の元へ連れて行かれているだろう。

 ……そのうえで騙されていたとしたらもう俺は精霊を信じられなくなっちまうよ。

 

「じゃあさ、俺を必死になって捕まえようとしてる奴にどんな奴が居るか知らないか?」

「うーんと、そうですねぇ。有名どころだとS-Forceの司令官さんとか。やけに張り切っていると噂ですよ」

「S-Forceの司令官……ジャスティファイだな。となると、S-Forceは全員敵に回ってしまっていると考えた方が良さそうか」

 

 ジャスティファイ、つまり『S-Force ジャスティファイ』は小夜丸が所属しているS-Forceの司令官を務める人物。リンクモンスター。サイバース族。光属性……ん? 

 

「なあ、『斬機シグマ』って知ってるか?」

「シグマさんですか? ええ、知っていますよ。計算機オタク集団の一人ですね。……って、ああ! そう言えばあの人も狂ったように「人間を捕まえるんだー!」って騒ぎだしてファイナルシグマ隊長にぶん殴られて元に戻ったって言う話を聞きましたよ」

「計算機オタク集団って……この世界にはオタクしかいないのか? まあ、それはいいか。ふーむ……」

 

『斬機シグマ』。効果モンスター、サイバース族、そして、光属性……か。

 まだ数例しか確認はしていないが段々と共通点が見えて来た。

 

 出来れば正解であって欲しくなかったが、これはライトニングこと光のイグニスと関連していると考えても良さそうだ。

 となると、キスキル自身はともかく、Live☆Twin体の方に何か細工をされている可能性を考えておいた方が良い。二人と合流したら最初に確認する事にしよう。

 

「何か分かったんですか?」

「ああ、大ボスの輪郭が見えて来たぞ」

「ええっ!? これだけの情報でですか! 私ですらまだ今回の件の全容を把握しきれていないのに! 本当にラッセさんにはどういう情報網があるんですか……」

「ま、そこは数少ない男の秘密だな」

「むぅ……男の子も中々奥が深いですね」

 

 俺が敵の大ボスに見当が付いたと聞いてマスカレーナはうんうんと唸りながらそれが誰なのか考えている。まあ、精霊の立場でイグニスの存在を割り出すという事は難しいだろう。

 そう言えば、以前Live☆Twinチャンネルで投稿された動画で最近のサイバース精霊界は人間必要・不要論、つまり共存するか否かと言う問題で世論が割れていると紹介されていた。

 これはおそらくサイバース族の生みの親であるイグニスの考えが反映されているのだろう。

 

 あ、そうなると風属性のサイバース族も今は敵対的かもしれないな。地属性は中立と言った所か。後は水、炎、そして闇属性のサイバース族は今の所敵に回さなくても良さそうだ。

 いや、S-Forceの様にリーダーの指示によって俺を狙ってくる奴らも居るだろうから属性だけで敵味方を判断するのは危険か。

 

 ……ん? あ! そう言えばa-vidaやアストラムも光属性サイバース族じゃないか! うーん……あのあたりに本気で敵対されるとヤバイぞ。

 だが、創造主と一世界の神に等しい存在だとどちらの方が格が上なんだ? もしかすると、ライトニングの意向に逆らってこちらに協力してくれるかもしれない。一緒にリースをボコった仲だから味方になってくれると嬉しいが……。

 

 まあ、その辺の事はここでいくら考えても仕方がないだろう。

 光属性のサイバース族が中心になって俺を狙っているのは精霊界に入り込んだ人間を排除するのが目的、という事だろうか? うーん、まあ無いとは言えないか。現状そうであると仮定して行動した方が良いだろう。

 

「ところで、マスカレーナの力で俺を人間界に戻せたりはしないか?」

「それは無理ですね。私はLINK VRAINSと言う中間地点を経由する事でしか人間を精霊界に連れてくることは出来ませんので。それに、生身の肉体ではなくアバターのみです」

「じゃあ出来そうな知り合いは?」

「うーん……すみません、私の周りにそう言った芸当が出来そうな人に心当たりはありませんね」

「いや、良いんだ。出来たらラッキーくらいの気持ちだったから」

 

 こうなると、本気でサニー誘拐計画を立案する必要がありそうだな。Evil★Twinの二人に一回無料で依頼が出来る権利があったからそれを使って手伝ってもらうか。

 ん? ちょっと待てよ。もしかしてこの権利って今回サニー団から脱出するために使われちゃったかな? まあ、その場合は何か報酬を渡して正式に依頼すれば良いか。

 

「やっぱあのルーナって女はかなり異質だな。俺をこの世界に引き込んだのはあいつらしいぞ」

「ああ、彼女ですか。サニー団はその名の通りサニーのファンクラブみたいなものなのですが、実質組織の運営をしているのはあのルーナと言う人なんですよね」

「だろうな」

 

 サニーとルーナと話したのはあの時の短い時間だけだったが、それでも色々と察することが出来た。そのうえ人間をそのまま精霊界に引き込める程精霊としての力も強い、と。

 

「なあ、サニーを誘拐して人質にとればルーナに言う事を聞かせる事は出来ないかな?」

「ラッセさん!? 結構エグイ事考えてますね!? 本当にお尋ね者に成っちゃいますよ!」

 

 とはいえ、手段を選んでいられるほど余裕のある状況でも無いんだよねぇ。

 

「まあ何にしても、キスキルとリィラが戻って来てからこれからの事を考えよう」

「はい、それが良いですね」

 

 話が一段落した事で、マスカレーナは冷蔵庫に保管していた飲み物を注いでくれる。俺は「ありがとう」と一言答えてからソファに座ってコップに口をつける。

 中身は炭酸飲料だ。味は人間世界で最も人気のある炭酸飲料とよく似た味がする。飲み慣れた物で少しだけ安心感を覚える。

 ここで初めて気が付いたが、どうやら俺は結構疲れていたらしい。いきなりサイバース精霊界に拉致されたと思ったら絶叫系アトラクションの様な事を二連続でやらされたらそりゃ疲れも出る。今までアドレナリンが出まくっていたお陰で疲れを忘れていたんだな。

 

 その時、突然部屋の中心に置かれていたテレビの電源が入る。マスカレーナが電源を入れたのだろう。

 

「あれ? なんでテレビが?」

「え? マスカレーナが点けたんじゃないのか? ……ッ!」

 

 画面を見て、俺は跳ね上がるようにしてソファから立ち上がった。

 

 そのテレビの画面に写っていたのは俺も良く知るこの世界の人気者。Live☆Twinキスキルだ。

 画面に映ったキスキルと俺の視線が交わると、そいつは人を馬鹿にするような笑みを浮かべた。

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