科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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おい、デュエルしろよ。


夜の追跡者

「まずい!」

 

 俺が反射的に声を上げると同時に、足元に伸びる自分の影から何かが飛び出し、テレビに直撃した。

 

「あああああああ! 私の最新型50インチテレビが!」

「あれは……」

 

 テレビの画面を突き破るようにして刺さっていたのは『オルフェゴール・ガラテア』がイラストで手にしている大鎌だった。

 蒼穹のジャックナイツのコアを宿していた部分は紅蓮の輝きを灯している。それは以前見た事がある状態だ。俺がハノイの強制ログインプログラムによって強制的にLINK VRAINSにログインさせられそうになった時にそれを防いだのがこの状態の大鎌を持ったガラテアだった。

 

 ガラテアの大鎌がウイルスやトラップを破壊する効果があると思われる紅蓮のコア状態である事を考えると、今現在光属性サイバース族に起こっている変化はウイルスに汚染された状態に近いものなのだろうか。

 

「ガラテア……助けてくれたんだな」

 

 大鎌が突然光り輝くと、その姿を彼女が残してくれたガラテアのカードへと変化させていった。

 俺の影からこいつが飛び出してきたということは、こちらの世界に来る直前にミドラーシュが机の上に置いていたガラテアのカードを確保してくれたのだ。

 出来ればあの偽メールの時点で助けて欲しかった……なんて考えてしまったが、本来このカードにはもう何の力も無いはずだった。それがこうして各トロイメアの効果を模していると思われる能力を有したガラテアの大鎌に変化したと言う事は、精霊界に来た事で少しだけ力が使えるようになったのだろう。

 

「ありがとう……。ミドラーシュもよく持ってきてくれたな」

 

 俺の言葉を聞いてミドラーシュはグッドのハンドサインを出している。

 カードの形へと戻ったことで床に落ちてしまったガラテアのカードを拾い上ると、カードはその姿を再びガラテアの大鎌へと変化させた。

 ちょいと物騒だが、これで敵対する精霊に対して少しは俺も抵抗できるな。まあでも、俺は大鎌を扱う心得なんてものは無いのでどこまで役に立つかどうか……。決闘者としてはデュエルで解決するべきなのだろうが、トロイメアの効果を内包した大鎌があれば色々と手っ取り早く済む。

 俺はデュエリストでありたいと思っているリアリストなんでな。

 

「うう……私のテレビが……」

「悪かったって。今度何かで埋め合わせするから許してくれ」

「え? 本当に本当ですか? やったー! じゃあ今から楽しみにしておきますね!」

 

 あれ? もしかして嵌められた? 

 さっきまで瞳を潤ませて泣きそうな勢いだったのに今ではそんな様子は見る影もなくはしゃぎ回っていた。

 

「そんな事よりこの場所が敵にばれたかもしれない。移動した方が良いぞ」

「さっきのはキスキルさんですよね? まさか彼女が裏切り者だって言うんですか?」

「いや、キスキル自身はそんな事はしないだろう。問題なのは彼女のアバターだ」

「アバターって、Live☆Twinの動画で出てくるあのミニキャラ状態のキスキルさんの事ですか?」

「ああ」

 

 Evil★Twinのキスキルがアバターを使っていない時、Live☆Twinのキスキルがどういう状態なのかは分からないが、大方敵にハックされて使われている、と言った所だろうか。

 

「どうしてラッセさんはそう思うんですか?」

「マスカレーナは『S-Force ジャスティファイ』、『斬機シグマ』、『Live☆Twin キスキル』のカードの属性が何か知ってるか?」

「えーっと……あれ? 確か三人とも光属性ですね」

「そう。そして、今回の騒動の首謀者は光属性サイバース族の創造主……に近い精霊だと俺は睨んでる」

「ええ!? ラッセさん、そんなヤバそうな存在に目を付けられてるんですか! 本当に何をしたんです……」

「それは俺が聞きたいところだな」

「でも、なるほど……確かにそれなら色々と合点がいきます」

 

 マスカレーナに手早く俺の考えを説明しながら彼女のバイクが置いてあるガレージへと向かう。マスカレーナは慣れた手つきでエンジンを始動させ、俺はその間にガレージのシャッターを開けておく。

 

「ラッセさん、良いですよ!」

「分かった!」

 

 ここに送ってもらった時と同じようにバイクの後部座席に跨り、左手でマスカレーナの腹に手を回して落ちない様にしっかり身体を固定する。右手にはガラテアの大鎌を持っているためそちらの手でマスカレーナに掴まっていられないのは不安で仕方ないが、この大鎌がカードの姿へ戻らないという事はそのままの姿であった方が良いという事なのだろう。

 こうして俺とマスカレーナを乗せたバイクは夜のサイバース精霊界を疾走する。彼女の拠点があった裏路地から大通りへと抜ける事でさらにその速度を上げていく。

 

「どこか行く候補地はあるのか!」

「はい! さっきの拠点より居心地は良くないですが、隠れるには十分な場所です!」

 

 ハイウェイと思われる道に入ると、周りの車両を次々と追い抜いていきながらさらにスピードを上げていく。

 バイクのエンジン音に負けない様に俺達は叫ぶようにして会話をする。

 

「キスキルとリィラはどうする!!」

「あの拠点に私達が居なかった時はそこに来るように指示してあります!!」

「そうか!!」

 

 緊急時の事も予め想定しているとは流石だと言いたいが、流石だぁ。

 それはそれとして、マスカレーナは全くの手加減なしにスピードを上げていくものだからそろそろ俺は怖くなって来たんだが……? 

 

(ん?)

 

 下道のカーブが多い道では重心移動が怖すぎて周りを見る余裕がなかったが、直線が多く、カーブがあっても緩いハイウェイで安定した走行に入った事で俺は少しだけ周りを見る余裕が出来た。

 

(さっきまで居たはずの俺達以外の車両が見当たらない?)

 

 周りを見る余裕が無かったのにどうして車両が走っている事が分かったのかって? それはマスカレーナが曲芸走行の如く車両と車両の間に出来る細い隙間を通り抜けるなんて無茶な真似をしたからだな! 超怖かったんだが!? ていうか、右手に持ってた大鎌ですれ違った車両をちょっと擦っちゃったんだけど大丈夫かな!? 

 

「ッ! ラッセさん!! 身体を左に!!」

「お、おう!!」

 

 マスカレーナの指示に従って体重を左に傾けることによってバイクの走行進路が左へとずれる。

 

「どうしたんだ!!」

「私達、狙われています!!」

「なんだって!? おわ!」

 

 突然俺の右腕が動かしてもいないのに持ち上がり、大鎌の広い刃を盾にするように持ち直す。自分の腕をよく見てみるとそこには影糸が結びついており、ミドラーシュがやっていると分かった。

 その直後、手に伝わって来る衝撃。それは大鎌の刃に何かがぶつかった事を示している。

 

「助かった! ミドラーシュ!」

「あ、これはちょっとマズイかも……」

「え?」

 

 マスカレーナが何かを呟いたと思ったら地面が爆発し、その爆風に煽られて俺とマスカレーナはバイクごと吹き飛ばされる。

 

「うわああああああああああ……あ、あれ?」

 

 そのまま地面に激突して死ぬ事を覚悟した。

 思わず瞑ってしまった目を開けてみると、目の前には俺をもみじ下ろしにする寸前だった地面が見えていた。そして、俺はそのままゆっくりと着地する。

 何が起こったのかと不思議に思ったが、全身に影糸が絡まっていた事に気が付いた。さっき俺の右腕を操作した時とは違い、雑な絡まり方をしているあたり、ミドラーシュも相当焦っていたと思われる。

 

「本当にありがとうな……ミドラーシュ……本当に……って、マスカレーナは!?」

「ほっ!」

 

 振り返って後ろを確認すると、そこには空中で体勢を立て直した後に一回転して地面に着地する彼女の姿が見えた。本当に猫みたいな奴だな。

 

「バイクは……ダメみたいですね……」

 

 マスカレーナは横転した彼女のバイクを横目に見るが、さっきの爆発に巻き込まれた影響でガソリンが漏れ出してしまっている。

 

「標的を捕捉。任務を遂行します」

「「!?」」

 

 その声は俺でもマスカレーナでも、ましてやミドラーシュの物でもない。爆炎の向こう側から現れた人影。その人物は黒いスーツを身に纏い、黒いフードを被っている。素肌は全く晒していないが身体のシルエットから女性だという事が分かる。

 手には苦無を持っている事から先ほど大鎌で受けた衝撃はあれだったのだろう。

 

「誰だ……って、うお!?」

 

 知らない相手だったため思わず声を掛けてしまったが、その隙を突いて襲撃者は俺に苦無を投げつけてくる。だが、俺は隙を突かれたとはいえ、そんな状況をミドラーシュが見逃すはずも無く、再び影糸で俺の右腕を操作し、大鎌を盾の様して攻撃を防ぐ。

 

「甘いです」

「ラッセさん! 避けて!」

 

 大鎌で正面を防ぐようにしたため、一時的に視界から襲撃者を外してしまう。その一瞬のうちに相手は俺の背後に回っていたらしい。

 

「こなくそっ!」

 

 ミドラーシュによる動きの補助を貰いながら、俺は身体を回転させて大鎌を横薙ぎにする。

 相手は精霊であるため、『トロイメア・ユニコーン』の効果であるデッキバウンスを発動するため、黄華のコアをガラテアの大鎌に発現させる。最初はケルベロスの破壊効果を使おうとも考えたが、気が引けて使えなかった。

 

「なっ! 消えた!」

「ふむ、存外面倒ですね。その大鎌、厄介な気配を感じます」

「あのマークは……ラッセさん、気を付けてください! そいつはS-Force(セキュリティ・フォース)の一員です!」

「S-Force?」

 

 マスカレーナは襲撃者が被っているフードに描かれたマークに見覚えがあったようだ。

 俺もそのマークを観察してみる。「S」をモチーフにしたと思われるそのマークは俺も見覚えがあった。どこで見たんだったか……えーっと……小夜丸? あ! そうだ! 確か小夜丸が来ていた上着の袖と額当てに同じマークが描かれていたな!

 

 正直俺はS-Forceと言うテーマについて詳しいわけではない。効果まで覚えているのは精々ジャスティファイと小夜丸くらいであり、後知っているのは『S-Force チェイス』と言う罠カードが強力らしいという事だけだ。

 だが、カードイラストとして全く見覚えが無いカードと言うのは無いと思う。環境で多く使われていたテーマでこそなかったが、比較的良く知られたテーマではあったため、どのカードも一度くらいは見た事があるはずだ。

 という事は……

 

「新規って事か」

 

 俺は前世の影響で確かに多くのカード知識がある。しかし、それは俺が生きていた時までの話であり、遊戯王カードはそれ以降もどんどん新しいカードが作られているはずだ。

 ティアラメンツだってそうだと思っている。そして、今対面している襲撃者もそうなのだろう。

 

 俺の横薙ぎを回避したのはあいつの効果によるものか? S-Forceは除外も活用して展開していくテーマだったはず。となると、考えられるのはフリーチェーンで自身を除外ゾーンに飛ばす、みたいな効果か? まあ、純粋な精霊フィジカルで解決しましたと言われたらそれまでなのだが。

 

「なあ、どうする? この状況」

「どうすると言われましても……ラッセさんはどうなんですか?」

 

 俺はマスカレーナと合流してこの状況を打破するための作戦を考える。

 襲撃者に決闘(デュエル)を挑むのもありなんだろうが、果たしてあいつは受けてくれるだろうか? 

 そしてなにより、俺は精霊相手にデュエルを挑むことの危険性を身に染みるほど知っている。出来ればとりたくない手段であるが、最後はこれしかないとも思っている。

 

 マスカレーナは戦闘が得意なモンスターではない。対して襲撃者は明らかに戦闘に特化していそうな見た目をしている。

 キスキルとリィラが追い付いて来てくれる可能性もあるが、いつ来るかも分からないこの状況では俺が何とかするしかない。

 

「仕方ない……。おい! お前に決闘を申し込む!」

 

 俺は決闘盤を展開し、デッキからカードを五枚引く。

 だが……

 

「決闘……ですか。ですが、わざわざ敵の土俵に上がる必要はありませんので」

「しまっ……!」

「え?」

 

 襲撃者は決闘を申し込んだ俺をスルーし、横に立っていたマスカレーナに向けて、彼女の得物である苦無を放つ。

 決闘が始まる事を予期してその余波を受けない様に少し離れた位置にマスカレーナは移動していたため、俺が彼女の援護に向かおうにも飛んでくる苦無の方が早かった。

 

「マスカレーナ!」

 

 車両が全く通らず、異様な静けさを呈していたハイウェイに金属同士がぶつかり合う高音が鳴り響いた。




この話を書き終えた二日後くらいに夜の追跡者さんの新規設定が出て頭を悩ませた作者であった。
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