「ッ………………? …………あれ?」
マスカレーナへと向かって投げられた襲撃者の苦無は彼女には当たる事無く地面に転がっていた。
マスカレーナを庇う形で襲撃者に対峙している人物は右手に小太刀を構えている。先ほど響いた金属音は小太刀で苦無を迎撃した時に発生した音の様だ。
「あいつは……」
マスカレーナを守ってくれた人物はフード付きの外套を纏っており、顔は良く見えない。
「彼女は……やらせません!」
「何をしているのですか? 乱破小夜丸。この行為は重大な命令違反であり、貴女には厳罰が処される可能性があります。任務遂行の邪魔をするのは止めなさい」
「小夜丸!?」
「え! なんであなたが?」
正体を看破されたからか、小夜丸と呼ばれた人物は外套を脱ぎ去る。そこに居たのは確かに俺も良く知る『S-Force 小夜丸』その
彼女はS-Forceの一員としてマスカレーナを追い回していたはずだが、何故か今はこうしてマスカレーナを守るような行動をとっている。それも相手は彼女の仲間であるはずのS-Forceだ。
「どうやら無事だったようですね、マスカレーナ」
「はい、お陰様で、とここは言っておきましょうか」
「減らず口は相変わらずの様で安心しましたよ。そこの人間さんは……あれ? あなたは司令官が言っていた人ですね。マスカレーナの協力者でもあったんですか」
以前小夜丸と遭遇した時はLINK VRAINSのアバターの姿だったからだろうか、彼女は俺に対してまるで初対面であるかのように対応をしてくる。精霊界で人間に出会うという事はそうある事ではないため、印象に残っているはずだが、その時とは姿が違うため彼女は気が付いていないのだろう。
「小夜丸、あの人は一体何なんですか?」
「彼女はナイト・チェイサー。貴女を排除するためにプログラムされた自立型アンドロイドですよ」
「ええ! 私狙い撃ちですか!?」
小夜丸の発言によって俺らを襲ってきた奴の事が少しだけ分かって来た。カード名だと『S-Force ナイト・チェイサー』となるのだろう。大方、マスカレーナの確保に小夜丸が失敗し続けたせいでしびれを切らしたS-Forceの上の人達が確実にマスカレーナを排除するために動き出した、ってところか。
「乱破小夜丸、これは最後の警告です。この行為は重大な命令違反であり、貴女には厳罰が処される可能性があります。任務遂行の邪魔をするのは止めなさい」
「私は……今の司令官の命令に従う事は出来ません! いきなり人間不要論を急進したり、マスカレーナを逮捕ではなく排除の方針を打ち出したり……。こんな事はS-Forceの理念に反するはずです!」
彼女が言う司令官、つまりジャスティファイの事だ。やはり彼もライトニングの思想の影響を受けているのだろう。
どうやら、小夜丸はそんなジャスティファイの急な方針転換に付いていけなくなってこの様な行動に出たらしい。いや、もしかしたらマスカレーナを助けたのは彼女を逮捕するのは自分の役目だという自負もあるのかもしれないな。
「乱破小夜丸の造反を確認。本部に対象者の処理を申請……受領、確認しました。乱破小夜丸、これより貴女を排除対象に加えます」
「くっ! ……ここは私が受け持ちます! お二人は今のうちに逃げて下さい!」
ナイト・チェイサーがこちらには聞こえない音量で独り言をつぶやいたと思うと、その次の瞬間には小夜丸との距離を詰めて右手の指の間で挟むように持った四本の苦無で襲い掛かっていた。だが、小夜丸もその攻撃にやや遅れながらも対応しており、手に持った小太刀で受け止めている。
苦無と小太刀が一度ぶつかり合った後も、二人は自身の武器を操り一進一退の攻防を繰り広げている。まかり間違ってもリアルファイト初心者の俺が介入出来そうな空気では無い。
小夜丸がナイト・チェイサーの相手をしてくれている間に俺はマスカレーナの方に近づいていく。
「大丈夫か、マスカレーナ?」
「はい。まさか小夜丸に助けられることになるとは思いませんでしたが……。でも、今は彼女の言う通り早くここから離れた方が良さそうです」
「……」
この世界の戦闘はデュエルモンスターズの様に攻撃力の数値だけで全てが決まる訳ではないが、『S-Force 乱破小夜丸』の攻撃力は800と少し心許ない。マスカレーナと比べれば見た目からも分かる通り戦闘も出来そうな精霊ではあるが、ナイト・チェイサーの事を知らない俺は彼女の事が心配だった。
「小夜丸が心配ですか? ですが、ここは彼女を信じるしかないでしょう。それに、私達が危機的状況なのは変わっていませんよ」
マスカレーナは壊れたバイクを見る。
確かに、俺と彼女の移動手段であるバイクが破壊されたことによってこの場所から急いで離脱する手段が無くなっていた。このままでは敵の増援に追い付かれるのも時間の問題だろう。
だが、これに関しては俺に少し考えがあった。
「移動の足が必要なんだよな」
「そうですね」
「なら……」
俺の手にはナイト・チェイサーに決闘を挑むためにドローした手札がそのまま残っていた。その中の一枚を手に取り、
「『シャドール・ドラゴン』を攻撃表示で召喚!」
『シャドール・ドラゴン』
レベル4 ATK1900 闇
対戦相手が居ないにもかかわらず、決闘盤によって読み取られたシャドール・ドラゴンが実体化する。
アニメでは精霊界が舞台となった時に
そして、ここも精霊界。であるならば、俺にも同じことが出来るはずだと考えた。
だが、このシャドール・ドラゴンが何かしらの理由によって破壊された時、文字通り俺のライフを支払う事になるのだろうが、今はそんな事を言っていられる状況ではない。
影糸によって操られたシャドール・ドラゴンは生きたドラゴンとは違ってその動きは作り物の様にややぎこちないが、ドラゴンとしての性質はそのまま持っている様で、ちゃんと飛行する事も出来そうだ。
シャドール・ドラゴンが地面に着地すると、俺の意を汲んでくれたのか身体を伏せてくれる。
「よし、行けそうだ。来い、マスカレーナ!」
「はい!」
シャドール・ドラゴンに先に乗り込んだ俺は上からマスカレーナを引っ張り上げて俺の後ろに座らせる。
丁度、先ほどまでと立場が入れ替わった形だ。マスカレーナは俺の身体に腕を回して振り落とされない様にしっかりと掴まる。
「行ってくれ」
マスカレーナがしっかりと掴まった事を確認した俺がそう声を掛けると、シャドール・ドラゴンは翼を羽ばたかせて宙に浮かび上がり、飛行し始める。
「目的地の方向は?」
「ここから北に向かった所です!」
「だ、そうだ。頼む」
俺の言葉を聞いたシャドール・ドラゴンは了承したと言わんばかりに咆哮する様に頭を持ち上げるが、声は全く聞こえない。
シャドール・ドラゴンの体色は黒よりの紫だから、この夜空に紛れれば地上からはほぼ見えないはず。そう思った俺は少し高度を上げて飛ぶように指示を出す。
速度はマスカレーナが操るバイクに劣るが、隠密性と言う点で見ればこちらの方が優れるかもしれない。
「………………え……、高っ! 怖っ!」
「ラッセさん……さっきまでカッコイイ感じだったのに……」
「そう言われても怖い物は怖いんだよ……」
シャドール・ドラゴンに高高度を飛ぶように指示したことで、今俺達は天を衝く程高いと思っていたビル群よりもさらに高い位置を飛んでいる。そんな状況であると改めて認識してしまうともう駄目だった。
出来るだけ下を見ない様にと考えていると、ふとシャドール・ドラゴンにつながる影糸が目に入る。先がどうなっているのか少し気になった俺は、興味本位で影糸を追っていくように目線を上にあげていく。すると……
「あ」
距離が離れている事と辺りが暗いこともあってちゃんとは見えないのだが、影糸の先にあったシルエットはミドラーシュの物だった。
「そうなってるんだ……」
驚愕……でもない真実を知った俺は、「これならミドラーシュに頼んで彼女といつも一緒に居る『風竜星-ホロウ』のシャドール体と言われている竜に乗せて貰えば良かったな」なんて事を考える余裕が生まれていた。
『∪(´∀`)∪』←影糸操作中