科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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※微シリアス


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 謎のカードショップ店員から受け取った『ティアラメンツ・キトカロス』のカードを家に帰ってから三人娘(ティアラメンツ)に見せていた時の事だ。

 

『キトカロス様だわ……』

『……キトカロス様……』

『キトカロス様は……大丈夫でしょうか……』

「どういうことだ?」

 

 三人のキトカロスのカードを見る表情は久しぶりに同郷の友人に会えた時の喜びでもなければ懐かしさのようなものでもなかった。むしろ、心配や恐れのようなものだった。

 

『私達があの世壊から逃げて来られたのはキトカロス様のおかげなのよ』

『世壊を出ようとしていた私達を見逃してくれたんです……』

『……私達は今こうしていられる……』

「みんなの恩人なんだな」

『ええ……』

 

 俺は彼女達の世壊の事はよく知らない。

 知っているのは今まで手に入れたカードのイラストの情報だけ。彼女達の世壊がペルレイノと呼ばれている事。彼女達はいずれストーリーの主人公であるヴィサス=スタフロストと出会うという事。

 たったこれだけだ。

 

 ティアラメンツカードを集めて行けばいずれ彼女達のストーリーも把握することが出来るだろう。いや、わざわざそんなことしなくとも、彼女達自身から話を聞けば良いだけだ。

 

 だが、俺は過去の失敗から彼女達の世壊の話を聞くことを躊躇してしまっていた。今思い返してみても苦い思い出だ。

 あの時と今では状況が違うのは確かだ。それは、俺が『あの子』の背景ストーリーをよく知っていたという事。だからこそ対応を誤った。

 それが原因だったんだろう。あの子は居なくなってしまった。彼女が何を思って俺の前から姿を消してしまったのか、今ではもう知ることは出来ない。

 

 それ以来、俺は精霊たちの過去と未来(ストーリー)について触れないようにして来たんだ。

 

 俺には彼女達の問題を解決できるような能力は無い。俺にある力は所詮精霊達を視ることが出来る、という事だけ。俺から精霊たちに触れることも出来なければ、サイコデュエリストのように実体化させることも出来やしない。

 やってあげられる事と言えば、せめて今この瞬間を穏やかに過ごさせてあげるくらいだろう。

 

『『『……』』』

 

 沈黙が部屋の中を包みこむ。

 彼女達が涙を真珠へと変えながら泣くことはいつもの事だ。しかし、今日の涙はいつもよりも重い気がした。

 

 確かに彼女達はこの世界に来て少しは安らぎを得たかもしれない。

 確かに彼女達は俺と過ごす短い時間の中で少しは楽しみを見出してくれたのかもしれない。

 それでも、彼女達がこの世界にやって来た理由は興味や好奇心ではなく、特別な事情によるものと言うのもまた確かだ。

 

 だから……

 

「みんなは……どうしたいんだ」

 

 聞いてしまう。

 

『私達は……』

『キトカロス様を……』

『……助けたい……』

「……」

 

 俺は何も言わず、彼女達の言葉を聞く。

 こうしてティアラメンツの事情に踏み込んだ後だというのに、情けない事に怖くて怖くて仕方がない。不安だ。一体自分に何が出来るというのだろう。分からない。

 そもそも俺が何もしなくてもストーリーの主人公である『ヴィサス=スタフロスト』が全部解決してくれるのではないだろうか? いやでも、遊戯王のストーリーって大抵ろくでもない事になる場合が多いから全く油断は出来ない。そして、そんなストーリーに俺なんかの介入で果たしてどうにかなる物なのだろうか? 

 

『でも、私達だけではあいつには太刀打ちできない……悔しいけど……』

『あの人の力はとても強大で、恐ろしいです……』

『……あの世壊では誰も逆らえなかった……』

 

 だとしても、だ。

 

『『『だからッ……お願い! 私達を……助けて!!』』』

 

 精霊達に願われて、無碍に断るなんて事は……出来ない。

 

「分かった」

 

 精一杯の虚勢。「俺に任せろ」と言う事が出来ない自分の不甲斐なさに嫌気がさすが、彼女達のお願いを引き受けたという事実は変わらない。

 

 

 

「……だが待てよ……大きな問題が一つある」

『問題って?』

 

 しかし、彼女達に協力するにあたって避けられない問題がある。この問題を解決しない限り手伝いすら出来ない大問題。

 

「どうやってペルレイノに行けばいいんだ?」

『『『……』』』

 

 あのぉ……啖呵を切った手前三人同時にそんな目で見られるととても恥ずかしいのですが……。

 だ、だってさ? 俺は精霊じゃなくて人間だし? 精霊界への行き方なんて授業で習わなければネットにも書かれてないんだぜ? 知ってる訳無いんですわ。

 それに、彼女達がアニメで出て来たユベルみたいに尋常じゃない力を持っていて、人間を精霊界に引きずり込むような力業が出来るようには見えない。

 

『はぁ……アンタはホント……』

『ま、まあ……あの人もキトカロス様を殺すような事はしないはずです』

『……時間は多くはないけれど、無いわけじゃない……』

「焦っても仕方がない。ペルレイノへの行き方を何とかして探そう」

 

 決意を新たに、俺達は目標を定めた。

 

 

 

 彼女達を虐げ、ペルレイノの王を自称する『レイノハート』を討つ!

 

 

 

 

「そろそろデッキを完成させないといけないな」

 

 万全を期すために、俺はあの失敗以来使う事を避けていたカード達を手に取った。

 

 




あとの話とちょっと整合性取れてないことに気が付いたのでちょっと修正しています。

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