俺とマスカレーナを乗せたシャドール・ドラゴンは影に紛れて……では無く、闇夜に紛れながら先へと進む。ナイト・チェイサーが襲ってきた位置からは大分離れることが出来た。
マスカレーナの案内により、俺達は彼女が有する拠点があるという場所にやって来た。そこはこのサイバース精霊界に竹林の竹の如く生えているビルの一つであり、シャドール・ドラゴンをそのビルの屋上に降り立たせる。
「よっと……ふぅ……やっと地面か……サンキューな」
俺が一言礼をシャドール・ドラゴンに言うと、それを聞いたからかシャドール・ドラゴンはその姿を消してしまう。俺達の上にまだ居るであろうミドラーシュに手でも振ろうかと思い、空を見上げるが、そこには彼女の影も形もありはしなかった。シャドール・ドラゴンが消えると同時に自分の場所に戻ったのだろうか。
「あいたっ! もー……ドラゴンさんを消すなら先にそう言って下さいよぉ」
「あ、すまん」
マスカレーナはシャドール・ドラゴンから降りる途中だったが、変なタイミングでシャドール・ドラゴンが消えてしまったために尻もちをついてしまっていた。爆風に吹き飛ばされても空中で体勢を立て直すことが出来るマスカレーナとは言え、流石に中途半端な高さで突然放り出されたらそれも難しいらしい。
マスカレーナは「あいててて……」なんて言いながら腰のあたりを摩っているが、普段軽やかに飛び回っているイメージがある彼女から余りにもかけ離れたその姿に俺は思わず笑ってしまいそうになる。
「さ、ここから中に入りますよ」
屋上からビルの中に入るための扉を開き、マスカレーナはビル内へと入っていく。俺もそれに置いていかれない様に急いで彼女の後を追いかける。
階段を下りている時に気が付いたことがあるのだが、どうやらここは一フロアに一室しかない随分高級なマンション、もしくはオフィスビルの様だ。それでいてこのビル自体の広さもかなり大きいため、部屋を借りるとしたら随分金が必要そうだ。
「どうぞ、こちらです」
マスカレーナは扉の横につけられたセキュリティ装置にカードを通した後、暗証番号を入力して扉を開けてくれる。
部屋の中に入ると、そこには大量のモニターが並べられており、明らかにゲームが目的とは思えない高性能そうなパソコンも複数台並べられている。
「こりゃ凄い」
「ここは私の事務所です。さっきの拠点と違って質の良い家具なんかは置いていませんが、外に出られない状況でも生活するくらいは出来ますよ」
メインに使っているであろうモニタールームとは別の部屋にはとりあえず置いたのであろう簡素な椅子とテーブル、そしてベッドがある。ここは彼女が休憩室として使っているのだろうか?
「さてと、ラッセさんとは今後の方針を話そうと思うのですが……おや? 丁度彼女達も来たようです。思ったより早かったですね」
マスカレーナはそう言うと、この部屋にある窓を開け放つ。
「ふぅ……やっと着いたわね。ちょっとマスカレーナ、ここ遠すぎるわよ」
「えぇ……そんな事言われましても」
「お、世良君もちゃんと無事みたいだね」
「キスキル! リィラ!」
窓からするりと入り込んできたのはEvil★Twinの二人だった。どうやらマスカレーナが言った通り、予定通り最初の拠点で俺達の姿が見えなかったからこちらにやって来てくれたのだろう。
「さっきは助かったよ。お陰でサニー団の所から脱出出来た」
「いいのいいの。どうせ私達をギャフンと言わせたいとか言って世良君を拉致ったんでしょ?」
「むしろ私達の厄介事に君を巻き込んでしまったみたいだしね」
二人は「今回は特別にタダにしてあげる」と言ってくれる。
「それに、何やら私のアバターも迷惑を掛けちゃってたみたいだし」
キスキルが小動物を摘まむ様な仕草で持っているのはLive☆Twin キスキルだった。アバターの彼女はコミカルな表現で目を回しており、キスキルにこってり絞られたであろう事が伺えた。
「こんな所にマスカレーナの拠点があったんですね。何故今まで気が付けなかったのでしょうか……」
「え!? その子も連れて来ちゃったんですか」
キスキルとリィラが部屋に入ってきた後、窓の外で上からロープが垂れ下がって来たと思ったらそれを使って部屋にするりと入って来たのは先ほど別れた小夜丸だった。
しかし、彼女の姿は先ほど別れた時と違い、刃物で切られたような傷がいくつか見受けられた。
「まあね~。話を聞くと、君たちを逃がすのに協力してくれたって話じゃない? そのまま放置は流石に可哀そうでしょ」
「ここに来る途中で小夜丸と初めて見たS-Forceの奴が戦っているのを見てね。その傍にはマスカレーナのバイクが転がってるし、これは何かあるなと思って加勢したの」
そうか、俺達が残した壊れたバイクを見たからEvil★Twinの二人からすれば敵対してそうな小夜丸に声を掛けようと思った訳か。
「小夜丸と戦っていたナイト・チェイサーはどうしたんだ?」
「ナイト・チェイサー? ああ、あいつね。私達がこの子の側に立ったと見るや否や撤退して行ったわよ」
キスキルの話によると、どうやら二人が小夜丸と合流してから戦闘は起こらなかったようだ。ナイト・チェイサーの実力がどんなもんなのかは分からないが、キスキルとリィラが二人合わされば攻撃力は4400にも到達する(カードの話だが)。これは戦闘ではほとんどのモンスターが敵わない攻撃力であり、流石にナイト・チェイサーも危険と判断したのだろう。
「なあ、小夜丸……さん」
小夜丸がこの部屋に入ってくるために使っていた鉤付きロープを手に巻き付けて回収していた所に声を掛けた。
「はい? 何でしょうか、人間さん?」
小夜丸と俺は自己紹介すらもしていない関係である。心の中では小夜丸と呼び捨てで呼んでいるが、流石にそんな仲で呼び捨ては良くないかと思い「さん」と付けたが、かえって取って付けたみたいになってしまった。
「俺の名前は世良だ」
「では世良さん、と。私の事は知っているようですね。好きに呼んでもらって構いませんよ」
俺のさん付けに違和感があったのは小夜丸も気が付いていたようで、好きに呼べと言ってくれる。
「さっきは助かった。ありがとう」
「え? ああいや! そんな、良いんですよ!」
俺はさっき小夜丸と別れた時に言えなかった事を改めて頭を下げながら言う。
まさか、頭を下げられるとは思っていなかったのか、小夜丸は少し慌てた様子で返してくれる。
「だが、良いのか? 小夜丸はS-Forceなんだろ?」
「そうですが……。世良さんはさっき聞いておられたと思いますが、今のS-Force……と言うよりは司令官は何かおかしいのです。私は里長の言いつけでS-Forceに籍を置かせて頂いた身ではありますが、その活動内容や理念を確かに尊敬していました」
彼女は自分の額に巻き付けていた額当てを取り、それを見つめている。その額当てにはS-Forceのシンボルマークが刻まれている。
「だけど、今行われている人間に対する方針や、マスカレーナを逮捕ではなく排除すると言うのは私が尊敬するS-Forceの理念とは余りにかけ離れ過ぎています」
「俺達と居ると恐らくS-Forceと敵対する事になるが良いのか?」
「……構いません。私は、私の信じる正義を貫きます」
彼女はそう言うと、S-Forceのマークが刻まれた額当てを懐に仕舞うと、黒色の帯を額に巻き付ける。そこにはS-Forceのマークは描かれていなかった。
「え? 本当ですか? 小夜丸はS-Force抜けるんですか? 良かったー! 小夜丸にバレたこの事務所も放棄しなきゃと思っていたのでラッキー!」
「……それはそれとして、マスカレーナはいずれ必ず逮捕します。私の正義に殉じて!」
「ぐへー」
:v
小夜丸による必ずを捕まえる発言を聞いたマスカレーナは不服そうな表情をしているが、俺からするとどこぞの大怪盗と国際警察の関係みたいでこれはこれで良いコンビなのではないかと思える。
「さてと」
俺は気持ちを切り替える。
ここには先ほどまでと違ってキスキルにリィラ、それと元S-Forceの小夜丸が居る。マスカレーナとはまた違った人脈を持つ彼女達なら人間界に戻れる方法を知っているかもしれない。
「マスカレーナにはさっき聞いたんだが、ここから人間界に帰る方法を俺は知りたいんだ」
「精霊界から人間界に人間を送る方法ねぇ……リィラは知ってる?」
「知らない。少し時間をくれれば調べる事も出来るかもしれないけど」
「そうか……あのサニー団のルーナって奴が俺をこっちの世界に引き込んだみたいなんだが、彼女になんとか力を貸してもらう事は出来ないかな?」
「うーん……サニー攫っちゃう?」
「ああ! いいわね!」
「どうして皆さん、そんな物騒な考え方しか出来ないんですか……」
リィラとキスキルの結論が俺と同じという事にマスカレーナは辟易とした様子。とはいえ、サニー団と関りが深い二人もその結論に至るという事はこの考え方はあながち間違いではなかった様だ。
「でも彼女にそんな力がある印象はあんまり無いわね」
「どこかの組織からそういう技術を奪ったのかも? もしかしたら人間界から精霊界への一方通行かもしれないね」
「あ、そうか。そういう可能性もあるのか」
確かにルーナは人間界から精霊界に俺を引き込んだ実績はあるが、その逆も出来るかは分からない。
「あの、良いですか?」
俺が頭を悩ませていると、発言したのは小夜丸だった。
「S-Forceの本部に行けば何とかなるかもしれません」
「S-Forceの本部?」
「はい。ブリッジヘッドにはS-Forceの隊員たちが様々な次元で起こる事件に対処するためのワープゲートが設置されているのです。それを使えば世良さんは人間界に帰れるかもしれません」
「なるほど……」
ブリッジヘッド。それは聞き覚えがある名前だ。確かS-Forceのフィールド魔法がそんな名前だった様な気がする。
確かに、人間界を別次元と定義すればその装置で戻る事が出来るかもしれない。
「しかし、本部か……突入するには骨が折れそうだ」
「ええ。一般職員は兎も角、事件解決に直接動くエージェント達は強力です。今このEden Cityに居るのはジャスティファイ司令官、エッジ・レイザーさん、オリフィスさん、そしてさっき遭遇したナイト・チェイサーだけですが、皆さん強者揃いです。これは非常に危険な賭けになります」
「だが、今はその賭けに乗るしかない」
ルーナが確実に俺を人間界に返せるか不明な現状、ブリッジヘッドにあるという装置を使う方法が一番確実だ。
「皆は……協力してくれるか?」
俺を狙っている組織の中枢に突撃をかます。そんな事は俺一人の力だけでこなせるはずがない。ここで皆の協力が得られなければ俺は一生サイバース精霊界で過ごす事になるだろう。
「ここまで来て何言ってるのよ」
「最後まで付き合う」
キスキルとリィラは承諾してくれた。
「ラッセさんだけじゃそんな装置動かせないですよね? 勿論私も手伝ってあげますよ!」
マスカレーナもそう言ってくれる。
「私は世良さんとの付き合いは短いですが、そういう事であれば協力は惜しみません。それに、私も司令官に話を聞きたいと思っていますので」
小夜丸も付き合ってくれる様だ。
これで皆の協力が得られた。百人力じゃないか。
「みんな……ありがとう」
こうして俺達の行動方針が決まった。後は実行に移すだけだ。
「あ、ミドラーシュさん。グレニャードを補充しておきますね!」
「あれを量産しているのか……」
「とりあえず99個くらいあれば足りますかね?」
「そんなRPGの消費アイテムの限界個数みたいな数容れるのやめろよ……おい!そんな危なっかしいもんを箱から流し込むように入れるな!」
。。°°。。ヾ(;´Д`)ノぁゎゎ。。°°。。←流し込まれるグレニャード