科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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モンスターを操るデュエル戦士。自律型精霊シャドール「ミドラーシュ」を駆り、セキュリティ・フォースに強襲を仕掛ける。その姿は、正に悠々自適の如し。

 S-Force Eden City本部、ブリッジヘッド。

 その建物はEden Cityの中心部に位置しており、周りのビル群と比較しても一際大きなビル、と言うよりもタワーと言った様相を呈していた。小夜丸の話によると、ブリッジヘッドとは活動している世界での橋頭保として建造された本部拠点であり、ここがS-Forceの総本部という訳では無いとの事。こんな建物を世界ごとに建造しているS-Forceと言う組織は本当にとんでもない力を持った組織らしい。

 

 S-Forceのエージェント達は各々が標的と定めた人物を捕まえるのが主な仕事なのだが、この精霊界の治安維持も兼ねているらしく、有名なエージェント達以外の職員はこの世界の平和を守るために働く精霊も多いとの事。

 

 ていうか、そんな組織から名指しで狙われているマスカレーナは何をやらかしたというのだろうか。まあ、サイバース族の創造主に近い精霊に狙われていると思われる俺が言えた話ではないのだが……。

 

「さて、建物の前まで来たのは良いが、どうやって入る?」

 

 そんな大規模な治安維持組織という事もあって当然正門裏口問わず警備員が入り口を守っている。

 駐在所の様な場所であれば揉め事の仲裁を依頼したり様々な相談をしたりするために一般人が立ち入る事も出来るらしいが、この本部に入る事が出来るのは原則S-Force職員のみらしい。

 当然、すでにナイト・チェイサーによって造反を報告された小夜丸も例外ではない。むしろ積極的に狙われるだろう。

 

「ふむ。ここは私たちの出番みたいだね」

「何するつもりだ……?」

「ちょっと派手に驚かしてあげるだけよ」

 

 入り口を観察していたリィラが立ち上がり、俺の若干不安気な(何をするのか分からないという意味で)質問にちょっとなのか派手なのか結局どっちなのか分からない答えをしたのはキスキルだった。

 

「マスカレーナ、これちょっと貰うわよ?」

「あ! キスキルさん! 勝手に持ち出さないでくださいよ!」

「え? ダメだったの?」

「のわー! リィラさん! 何個持って来たんですか! それも一応タダじゃないんですよ!」

 

 キスキルの手の上に置かれているのはマスカレーナ謹製のグレニャードであった。どうやら先ほどまで滞在していたマスカレーナの事務所に置いて有ったものを知らないうちにくすねて来た様だ。

 なお、リィラはグレニャードが詰まっていると思われる布袋をサンタクロースが如く肩に担いでいる。

 

「ほんじゃま、ゲームスタートのホイッスルを盛大にぶちかましますか!」

 

 良い笑顔をしたキスキルは綺麗な投球ホームから繰り出される豪速ストレートでグレニャードをブリッジヘッドの入り口を守る警備員達に向けて投げつけた。

 警備員達は何かが投げ込まれたという事には気が付けたようだが、それに対する対処をするまでには至らなかった。

 

「「おぎゃあああああああああ!!!!!!」」

「うわぁ……俺はあんなのを間近でくらったのか……」

 

 今はマスカレーナがどこからか取り出した犬耳がついた仮面を貸してもらっているので閃光を見ても目が潰れることは無い。マスカレーナはトレードマークでもある自前の猫耳が付いた仮面を付けている。

 Evil★Twinの二人も今の衣装は俺が良く知る怪盗衣装であるため、サングラスを付けているのでこちらも問題は無さそうだ。

 

「おああああああああああ!!!!」

「何でこの子はニンジャなのに閃光弾に対する備えがないんですか……」

「おっちょこちょいか?」

 

 何が起こるのかとソワソワしながらブリッジヘッドの入り口を凝視していた小夜丸も向こうに居る哀れな警備員と同じように目が潰れていた。何してるんだこの子は。

 

「全く……その子が居ないと建物内の案内は誰がするのよ……まあ、いいわ。このまま私達はあいつらの気を引き続けるから、その間に急いで中に入っちゃいなさい」

「二人は大丈夫か?」

「私達を嘗めて貰っては困るよ世良君? これでも裏社会のワールドエージェントランカーなんだよ? 適当なところで引き揚げて姿を眩ませるからだいじょーぶ」

「ま、本当にヤバそうならしばらく人間界でほとぼりが冷めるまで大人しくするだけよ」

 

 キスキルとリィラはそう言うと、リィラが持っていたグレニャードが詰め込まれている袋から次の弾を補給すると、今度は空に飛びあがりながら建物の窓ガラスを突き破って中へと投げ込んでいく。

 何だか凄い楽しそうなのは気のせいだろうか? もしかしなくても日ごろの鬱憤をこれ幸いにと晴らしている様な気もしないでもない。

 

 S-Forceに襲撃を仕掛ける下手人が居ると分かったからか、建物の中から沢山の職員が出てくる。

 

「おや? あの顔は見た事があります。確か、オリフィスとエッジ・レイザーですよ」

「何だか随分世界観が違う二人だな」

 

 一人は西部劇に出て来そうなガンマン風な男。もう一人は一言で言ってしまうとサイバー侍。流石様々な種族が集うS-Forceと言った所か。

 この二人の名前は小夜丸から聞いた名前の中にあった事を思い出す。という事はS-Forceの中でもやり手のエージェントという事だ。確かにあんな見た目のモンスターが居たような気もする。効果は全然知らないのだが。

 

「あ! 二人がキスキルさんとリィラさんを追い始めましたね」

「よし! 主力の二人を引き剥がせたのは大きいぞ。建物から出てくる人も居なくなったし、今の内に中に入るか」

「うう……ちょっと待って下さい……」

「……」

「……」

 

 未だに完全に視覚が元に戻っていないのであろう小夜丸が呻き声を挙げている。

 

「仕方ない。俺が背負っていくか」

 

 これでも俺は決闘者(デュエリスト)の端くれ。こんな事もあろうかと腹筋と腕立て伏せを三十回毎日続けているのだ。

 という訳で、俺はもはや蹲った状態の小夜丸の前に立ち、いつ観たかも覚えていない楽な人の運び方動画を思い出しながら彼女を担ぎ上げる。

 

「えーっと……確か、まず相手をこう正面から抱えて……」

「え? わひゃ!? え? え? ちょっと!? 何ですか!?」

「腋の下に首を差し入れてから……おりゃ!!」

「うひぃ!? 脇腹がくすぐったいです!」

「こ、これは! ファイヤーマンズキャリー!」

 

 マスカレーナが言ってくれたのは意識不明の人を一人で運べ、かつ片手を自由にする事が出来る消防士なんかが負傷者を運ぶときに使う人の運び方だ。

 動画サイトでちらっと観ただけだったが、意外と出来るもんだな。

 加えて、小夜丸が驚くほど軽かったお陰もあり、感じる負担はあまりない。

 

 なに? 男なら女の子はお姫様抱っこだろぉ? だと? あれは持ち上げる時の腰への負担がヤバいし、抱かれる側も協力してくれないと大変なんだよ。しかも両手が塞がってしまう。この状況でそんな余裕は俺には無い! 

 俺の救出時にキスキルがお姫様抱っこで俺を抱えてくれたのは彼女達が凄いからだ。俺は凄くないのだ。

 

 空いている右手で胸ポケットからガラテアのカードを取り出し、その姿を彼女の大鎌へと変化させて構える。これで準備は完了だ。

 

 なにぃ!? 決闘者たるもの右手には手札と言う剣を携えよだって??? バカ言っちゃいけない。左手に携える盾たる決闘盤(デュエルディスク)は小夜丸を担いでいるため使えないのだ。そうなっては剣たる手札はただの手札なのである。ん? どういう意味? 

 

「よし、行くぞ! 小夜丸は目が見えるようになったらそのまま道を教えてくれ!」

「えーっと……目が見えるようになったら降ろして欲しいのですが……恥ずかしいので……」

「ん? それもそうか」

 

 小夜丸の視覚が回復したのなら俺が抱え続ける必要は無いな。俺だってわざわざ敵地で重しを背負って行動はしたくない。

 小夜丸をファイヤーマンズキャリーで担いだ俺とマスカレーナは隙だらけとなったブリッジヘッドへと突入する。

 

 

 ☆

 

 

 まだ視覚が回復していない小夜丸が言うには、ワープゲートはこの建物の最上階にあるらしい。

 彼女の案内がまだ使えないので俺達は階段とエスカレーター、エレベーターを駆使してとりあえず上へ上へと駆け上がる。

 このクソデカい建物を階段だけで駆け上がるのは流石に骨が折れるので途中でエレベーターを使うのだが、セキュリティのためか直通で一番上まで行くことが出来るエレベーターが無い。

 

 そんな面倒な構造をしている建物を徘徊していると当然建物内に残っている職員達に見つかる事もある。

 のだが……。

 

「「「「あばあああああああああ!!!!!!」」」」

「ご愁傷様だな」

 

 俺達を追いかけてくる職員達には俺の影から転がり出るグレニャードの餌食になって貰っている。俺の影にはマスカレーナが無駄に入れたお陰で在庫過剰になっているグレニャードが満載なので、そこそこの数の敵に追いかけられ始めたらミドラーシュが適当にポイポイ投げている様子。

 ちなみに、小夜丸にはマスカレーナが持っていたウサ耳が付いた仮面を渡しているので今度は閃光弾対策もバッチリだ。

 

「あ、段々見えるようになって来ましたよ……ッ! 止まってください!!」

「!」

 

 小夜丸の鬼気迫る言葉に俺とマスカレーナはつんのめりながらもなんとか足を止めることが出来た。

 

「そこの通路にワイヤーが張られています」

「うおっ! 本当だ。よく気が付いたな」

「流石はニンジャという訳ですね」

「え? そうですか? えへへ……」

 

 小夜丸が言う通り、足元にあたる低い位置にワイヤーが張られている。幸いピアノ線の様な肌が切れそうな素材ではない様だが、これに思いきり足を引っかけていたら小夜丸を担いでいる俺なんかは洒落にならない転び方をしていただろう。

 

「このやり口は……ッ! そこです!」

 

 俺に担がれたままの小夜丸はただの壁にめがけて手裏剣を投げつける。だが、その手裏剣は壁にぶつかる前に金属音を鳴らして撃ち落される。

 

「ナイト・チェイサー!」

「乱破小夜丸。無様な姿を晒してはいますが、腐っても乱破という事ですか」

「な!? こ、これは違ってですね! ていうか、もう大丈夫ですから降ろして下さい!」

「あ、そう?」

 

 小夜丸が俺の肩の上で暴れ始めたので彼女をゆっくりと降ろしてやる。

 どうやら足元に仕掛けられたワイヤートラップはナイト・チェイサーによる物だった様だ。

 

「世良さん、マスカレーナ。ここは私に任せて先に行って下さい」

「えぇ? 本当に大丈夫ですか? 今の発言で一気に心配になったのですが?」

 

 フラグのお手本のような発言をする小夜丸に俺とマスカレーナは非常に不安になるが、その表情は前回ナイト・チェイサーと相対した時とは違う余裕を感じる。何か対策でもあるのだろう。

 

「いざっ!」

「排除する」

 

 小夜丸が持つ小太刀とナイト・チェイサーの苦無がぶつかり合う。それはまるでハイウェイで行われた戦闘の2ラウンド目が始まったかの様だ。

 

「先を急ぎましょう、ラッセさん。目的地へのルートは彼女からメモを貰いましたから」

「いつの間に。流石忍者。抜かりが無い」

 

 ナイト・チェイサーと激しい戦闘を繰り広げる小夜丸を尻目に俺とマスカレーナはワープゲートがある目的の部屋へと突き進む。

 

 ゴールはもう間もなくだ。

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